乙女ゲームの世界は大変です。

あみにあ

文字の大きさ
155 / 169
乙女ゲームの世界

香水の香り(二条視点)

しおりを挟む
ガチャッと扉が開くと、もうお手伝いさんは帰っているのだろう、部屋に人の気配はない。
歩さんも今日は仕事で出ているはず。

「どうしたの香澄ちゃん、こんばんは。あれ二条も?」

その問いかけに香澄は俺の腕をグイッと引っ張ると、一条の前へと引っ張っていく。
するとふと柑橘系の変わった匂いが鼻孔を掠めた。

「うん一条、何か香水でもつけているのか?」

そう何気なく問いかけてみると、彼女は慌てた様子で後退り苦笑いを浮かべて見せた。

「へぇ!?あー、ちょっとね。それよりも、えーと……二人ともどうしたの?」

目を泳がせる彼女の様子に、明らかに何かを隠しているとわかる。
そんな姿に苛立ちを感じる中、香澄が横から割って入ってくると、一条の体へと鼻を寄せた。

「クンクン、う~ん、これってこの国発祥の香水専業メーカーの香水じゃない?確か藤グループの……」

香澄の言葉に、一条は感心した様子を見せると、ニッコリと笑みを浮かべて見せた。

「香澄ちゃん詳しいのね。匂いだけでどこの香水かわかるなんて!」

「でもこの香水、確かメンズ用だったと思うんだけど。ねぇ~お姉様どういう事?」

香澄はグィッと一条の体に抱きつくと、不貞腐れた様子で頬を膨らませた。

「えっ、あーそうなんだ。えーと、その……」

香澄の追及に一条は口ごもると、気まずげに視線を逸らせる。

「お姉様、私見たのよ。さっきお姉様知らない男一緒に居たでしょ!その時に付いたんじゃないの?こんなに匂いがつくなんて……もうお姉様!」

一条の戸惑う様子に怯むことなく、香澄ははっきりそう口にすると、彼女は困った様子を見せる。

「あー、それは……えーと、あっ、そう、見間違いよ」

「そんなはずないわ。あれは間違いなくお姉様だったわよ!なんで嘘つくのよ~!」

香澄はギュッと一条の体へ抱きつくと、彼女はあやすように香澄の髪を優しく撫でる。
俺には聞こえないようにしているのか、そっと香澄の耳元へ顔を寄せると、コソコソと何かを話し始めた。

「ごめんね香澄ちゃん。でも色々と言えない複雑な事情があるの。だからこれ以上聞かないでくれないかな。後……お兄様にも黙っていてほしいの。もう少しで終わると思うから……。全てが終わったらちゃんと話すわ」

そう話すと、香澄は渋々と言った様子で彼女を見上げた。

「わかった、約束だからね。それよりも今日は別の用事できたの」

香澄は一条から体を離し、俺の方へ顔を向けると、早く言いなさいよ、と目で訴えてくる。
色々な複雑な気持ちが込み上げる中、彼女を他の男に奪われたくない。
そう強く思うと、俺は一条の手をそっと握りしめた。

「一条、クリスマスは空いているか?」

「クリスマス?えぇ、ちょうどよかった私も二条に声をかけようと思っていたの」

優し気な笑みに見惚れる中、俺は瞬きを繰り返すと、深く息を吸い込んだ。

「ならクリスマス俺と過ごさないか。また前みたいに食事でも……」

そう言葉を続けていると、後方が何だか騒がしくなっていく。

「ちょっと~いい雰囲気なんだから邪魔しないで!」

香澄の声に何だと思い振り返ると、そこにはニッコリと笑みを浮かべた歩さんが佇んでいた。
隣には阻止しようとしたのだろう、香澄が必死に歩さんの袖を引っ張り引き戻そうとしている。
歩さんはそんな香澄を冷たく見据えると、パシッと手を振り払った。

「こんばんは、二条。その話、僕も一緒に参加してもいいかな?」

「あら、お兄様おかえりなさい。うん、もちろん!それならみんなを誘いましょう!場所はどこが良いかしらね」

一条は楽しそうな様子で、香澄の元へ向かうと、クリスマスパーティーについて話し始める。
そんな中、俺は歩さんから距離を取るように後退ると、ガシッと肩を強く掴まれた。

「彩華と二人でクリスマスなんて……許さないよ」

「あっ、はい、すみませんでした。それよりも歩さん少しいいですか?」

俺は歩さんを連れて外へ出ると、一条と香澄から離れる様に廊下を進む。
二人の声が聞こえなくなり、辺りに人がいない事を確認すると、ゆっくりと立ち止まる。

「さっき香澄から聞いたんですが……一条が男と一緒に車から出てきたそうっすよ。歩さん何か知ってますか?」

「はぁ……知っているよ。っで男の顔は見たのか?」

歩は今にも人を殺しかねないような殺気を見せると、俺を冷たく睨みつけた。

「知っているなら……あっ、いや……男の顔ははっきりと見てないって言ってました」

「チッ、全く使えない妹だね」

苛立つ歩を前に、辺りの空気が一気に冷たくなっていく。
そんな中、俺は恐る恐るに視線を上げると、窺うように口を開いた。

「知っていたのなら、どうして歩さんは何もしてないんですか?」

そう問いかけてみると、殺気が先ほどよりも強くなる。
ゾクゾクと背筋に悪寒が走ると、彼は冷めた笑みを浮かべていた。

「何とかしたいのはやまやまだよ。可愛い彩華が変な男に引っかかっているんて耐えられないからね。だが相手は僕をとても警戒している。見つからないようありとあらゆる手段で彩華を連れ出しているんだ。どこで情報を得ているのか……彩華が出かけるときは、いつも休めない重要な仕事が入っているときばかり。今日もそうだ、藤グループとの外せない商談があった。出かける彩華に護衛をつけても、彩華を変装させて護衛を巻かれ、彩華に内緒でコッソリGPSをつけてみたが、それもすぐに見破られた。連絡を取り合っているだろうスマホはホームレスから購入したのだろう、身分証で購入されていて、買った本人はわからない。男に結び付く手がかりが何もないのが現状だ。彩華に聞いても教えてはくれなかったしね。はぁ……彩華がどう思っているのかわからないが……次は必ず突き止める」

「俺も協力します!一条に男なんて……あれほど婚約しないと言っていたのに……ッッ」

「当たり前だ、次はいつ会うのか……その時が勝負だ」

力強い歩の言葉に、俺は深く頷くと、ガシッと硬い握手を交わした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...