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ウイスキー
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「じゃあ面接頑張ってね」と一言告げて、彼はすぐに歩きだした。
代々木駅の改札でサヨナラをして、ホームに1人。
ぼやけている電車を5本見送りながら、たった1時間の出来事を振り返る。
今日の彼は、3ヶ月前とはずいぶん別人のようだった。
見慣れない髪型と服装で、ずっと時計を気にしては落ち着かない様子。
私の質問には、淡々と答えながら、片手に持ちつづけてる携帯電話を、時折見つめ、口元を緩ませた。
「カバンを持ち歩くのは嫌いだな」いつかそう言っていたのに。
さほど多くもない量の荷物を、大事そうにカバンの中にしまっている姿を忘れることが出来なかった。
1ヶ月前、「面接の参考にしたいんです」と言って、無理に日程を合わせてもらったが、今日会ったのは間違いだったのかもしれない。
大学院を卒業した彼は、誰もが分かる大企業に勤めていた。
熱心にメモを取りながら、話を聞いていたが、たぶん私はエントリーすらしないだろう。
この1ヶ月間の自分が、なんだか不憫に思えてきた。
ハイボール好きな彼を思い浮かべ、リクルートスーツ姿で、ウイスキーコーナーを周った。
何度もウイスキーの包装をし直しては、あれこれと頭の中で会話をシミュレーションして、前日は結局ほとんど寝られなかった。
もちろん、そんなことは知らない彼。
きっと今夜、甘いチョコレートを別の人から、もらうはずだ。
本当はチョコレート好きじゃないくせに。
コーヒーが飲み終わる前に私たちはカフェを出た。
駅までの帰り道、話してた内容はほとんど思い出せないけれど、下を向く私に、彼が話しかけてくれている。
弾む声にただ相槌を打つのが精一杯。
だけれど、ポケットの袋を大人しくしまっておくことが出来なかった。
もういいや。
半ば投げありな気持ちで、袋を差し出した。
「あの、これ・・・グアム旅行のお土産です」
咄嗟に出てきた言葉。
透明な袋から見える小瓶を見つめた彼は笑顔で「ありがとう」とだけ言って、旅行の思い出については一切触れなかった。
今日は2月14日。
私はグアムがどんな街なのか、いまだに知らない。
夕飯の支度にスーパーに向かうと、昨日まではなかったウイスキーコーナーが出来ていた。1つの小瓶が目に入って、手に取ってみる。
懐かしい。
長年変わらないパッケージの文字に思わず笑ってしまった。
今夜はこれを飲もう。
「ただいまー」
「おかえりー」
優しい声がTVの笑い声に混じりながらリビングから聞こえた。
土曜日の夜は特別だ。
4歳年上の夫とお酒を飲みながら話をするこの時間が私は1番好きだ。
「ねぇ、今日バレンタインだよ」と意地悪そうに顔を覗くと
「あ、そういえば・・・」と満面の笑み。
「しょうがないなぁ、はい」と小瓶を渡し、彼の反応を待つ。
「お、ありがとう、今年はウイスキー」と数秒程、小瓶を見つめる彼が愛おしい。
「ねぇねぇ、これ知ってた?」とパッケージを指差す私に
「うん、まぁ・・・なんとなくね」と彼。
大きな手の中に包まれている小さなウイスキーには、「日本限定販売」という文字が書かれていた。
代々木駅の改札でサヨナラをして、ホームに1人。
ぼやけている電車を5本見送りながら、たった1時間の出来事を振り返る。
今日の彼は、3ヶ月前とはずいぶん別人のようだった。
見慣れない髪型と服装で、ずっと時計を気にしては落ち着かない様子。
私の質問には、淡々と答えながら、片手に持ちつづけてる携帯電話を、時折見つめ、口元を緩ませた。
「カバンを持ち歩くのは嫌いだな」いつかそう言っていたのに。
さほど多くもない量の荷物を、大事そうにカバンの中にしまっている姿を忘れることが出来なかった。
1ヶ月前、「面接の参考にしたいんです」と言って、無理に日程を合わせてもらったが、今日会ったのは間違いだったのかもしれない。
大学院を卒業した彼は、誰もが分かる大企業に勤めていた。
熱心にメモを取りながら、話を聞いていたが、たぶん私はエントリーすらしないだろう。
この1ヶ月間の自分が、なんだか不憫に思えてきた。
ハイボール好きな彼を思い浮かべ、リクルートスーツ姿で、ウイスキーコーナーを周った。
何度もウイスキーの包装をし直しては、あれこれと頭の中で会話をシミュレーションして、前日は結局ほとんど寝られなかった。
もちろん、そんなことは知らない彼。
きっと今夜、甘いチョコレートを別の人から、もらうはずだ。
本当はチョコレート好きじゃないくせに。
コーヒーが飲み終わる前に私たちはカフェを出た。
駅までの帰り道、話してた内容はほとんど思い出せないけれど、下を向く私に、彼が話しかけてくれている。
弾む声にただ相槌を打つのが精一杯。
だけれど、ポケットの袋を大人しくしまっておくことが出来なかった。
もういいや。
半ば投げありな気持ちで、袋を差し出した。
「あの、これ・・・グアム旅行のお土産です」
咄嗟に出てきた言葉。
透明な袋から見える小瓶を見つめた彼は笑顔で「ありがとう」とだけ言って、旅行の思い出については一切触れなかった。
今日は2月14日。
私はグアムがどんな街なのか、いまだに知らない。
夕飯の支度にスーパーに向かうと、昨日まではなかったウイスキーコーナーが出来ていた。1つの小瓶が目に入って、手に取ってみる。
懐かしい。
長年変わらないパッケージの文字に思わず笑ってしまった。
今夜はこれを飲もう。
「ただいまー」
「おかえりー」
優しい声がTVの笑い声に混じりながらリビングから聞こえた。
土曜日の夜は特別だ。
4歳年上の夫とお酒を飲みながら話をするこの時間が私は1番好きだ。
「ねぇ、今日バレンタインだよ」と意地悪そうに顔を覗くと
「あ、そういえば・・・」と満面の笑み。
「しょうがないなぁ、はい」と小瓶を渡し、彼の反応を待つ。
「お、ありがとう、今年はウイスキー」と数秒程、小瓶を見つめる彼が愛おしい。
「ねぇねぇ、これ知ってた?」とパッケージを指差す私に
「うん、まぁ・・・なんとなくね」と彼。
大きな手の中に包まれている小さなウイスキーには、「日本限定販売」という文字が書かれていた。
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