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第1話・無謀すぎる初手レイド

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冒険者手帳を手に入れ、冒険者となった。
ステータスは望み通りだから、ジョブは戦士を選んだ。
新参に配られる初期装備を受け取り、依頼を見る。
ザグ「どれどれ…『スライムの群れを討伐』、『ゴブリンハントタイム!』、『初心者はこれ!薬草採取』…いろいろあるんだな。」
戦闘系だけじゃなく、お手伝いなども依頼としてあるようだ。
しかもまずまずの報酬もある。
最初の依頼はどうするか…そう悩んでいた俺は、少し大きめの依頼書を見つけた。
大きいということは、目立つということ。
目立つということは、重要な依頼だということだろう。
気になった俺は、その依頼を読むことにした。
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『レイド討伐・キングゴブリン』
概要
ここから西の『マーウォ平原』にて、キングゴブリンの出現が確認されました。
十数名で討伐に向かってください。
キングゴブリンの攻撃は非常に強力でありながら、相当な攻撃速度を持ち合わせています。
決して深追いすることなく、ヒット&アウェイを徹底することをお勧めします。

参加条件
なし

参加費
なし

報酬
基本1000G、活躍に応じて追加
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レイドか…
どういうものかは大体知ってるけど、一応聞いておこう。
ザグ「すいません、この『レイド討伐』って何ですか?」
受付嬢「『レイド討伐』というのは、まれに出現する強力な魔物を複数人で討伐するものです。」
ザグ「なるほど…やってみようかな?」
受付嬢「別にいいですけど…大丈夫ですか?」
ザグ「ああ。必然的に複数人集まるなら、他の人がどういう動きをするのかっていう行動を見れるし。」
受付嬢「わかりました。では、登録させていただきます…気を付けてくださいね?」
ザグ「わかりました。」
心配はするものの、止めようとはしないようだ。
正直助かる。
さてと、初めての依頼がレイド討伐だ。
見事成し遂げて注目を浴びるか、普通に即死するのかのどちらか。
さあ、既に一度命を落とした心を胸に、死を恐れず戦おう。

集合時間になり、人が集まってきた。
見たところ、初心者は自分含めて3人だけ。
他は手慣れらしい。
いかに初心者が挑むには無謀なことかがわかる。
受付嬢「それでは出発時刻になりましたので、いってらっしゃいませ!」
受付嬢の声を合図に、全員が討伐に向かいに、ギルドを出発した。
道のりは少し遠く、その道中で雑談が繰り広げられている。
???「ちょっといいかい?」
ザグ「はい?」
声をかけてきたのは、強そうな男戦士だった。
恐らく、この中の上位に入るレベルで強い。
???「君もレイド討伐の一員かい?」
ザグ「はい。あなたは?」
???「私はイラ…イラ・ストルだ。君は?」
ザグ「ザグ・コマニードです。」
イラ「よろしくね…あと、敬語はいらないよ。」
ザグ「なら、お言葉に甘えて。」
あっさりバレた…俺が読みやすいのか?それともイラが読むのが得意なのか?
と、そんなことを考えていると…
???「驚いたね…たしか君、さっき冒険者になったばっかりだよね?」
ザグ「今日の…9時ちょっとくらいだな。」
???「もしかしなくても、初めての依頼か?」
ザグ「ああ。」
???「まったく…最初にレイド討伐依頼を受けるとは、無謀なことをするな…」
ザグ「せっかくの機会だし、学べることも多いと思ってな。」
???「だとしても…命知らずとしか言えないね。」
ザグ「それはそう。」
???「否定しないのか…まったく、奇妙な奴だ。」
ザグ「実際…どれくらいの強さだ?」
???「君みたいな初心者だと、一撃で倒されてもおかしくないね。」
ザグ「だよな…ま、なるべく足手まといにならないよう、精一杯頑張るよ。」
???「そうか、頑張ってくれ。」
そうか…一撃となると、だいぶきつくなるな。
さてと、いったいどうしたものか…
ヒット&アウェイで仕留めるしかないか。
とまあ、そんな適当な戦略を立てていた…

そうして大した戦略もないまま、マーウォ平原についてしまった。
目線の先には、討伐目標の「キングゴブリン」がいる。
こちらに気づいて、味方のゴブリンの士気を上げている…のか?
それっぽいことをしていることしかわからない。
こちらもこちらで、士気は十分に上がっている。
あとはだれが仕掛けるか…だ。
互いに微妙な距離で、仕掛けづらい。
ザグ「…誰から行く?」
そう提案すると、イラが話してきた。
イラ「君が突撃するのはどうだ?」
ザグ「…わかった。カバー頼むぞ?」
イラ「全力を尽くそう。」
ザグ「わかった。」
言われるがまま、俺はゴブリン達に突撃した。
それを見て、ゴブリン達も突撃してくる。
そのまま激突寸前というところで、ザグが仕掛ける。
ザグ「おらぁ!」
勢いに任せた強烈な一閃。
その一撃でゴブリン数体を吹き飛ばす。
しかし、残ったゴブリンがその隙を狙う。
ゴブリン「ギシャ!」
ザグ「うおっ!?」
とっさに後ろに避け、何とか回避した。
そろそろ援軍が来る頃と、後ろを振り返るが…
ザグ「…おいおい。」
誰一人として、援軍にきていない。
すぐにでも行ける姿勢を保ったまま、微動だにしない。
いったい何故か、援軍を注視する。
原因はすぐに分かった。
イラが止めているのだ。
理由はわからない…が、悪意はなさそうだ。
俺なら一人で討伐できるとでも思ったのか?
そうか…なら、やってやろう。
ザグ「おらおらぁ!」
半分ヤケクソで攻め立てると、意外と戦えている。
どうやらゴリ押しに弱いようだ。
なら、方法は簡単。
真正面から圧力をかけまくるだけ。
実際、この方法でゴブリン軍団が壊滅しつつある。
観察したところ、ゴリ押しの圧力でゴブリンが恐怖し、統率が取れないように見える。
なら、援軍もそうすれば一方的に勝つだろう。
…まぁ、今になってもきそうにないけど。
とうとう最後のゴブリンも倒し、残るはキングゴブリンのみ。
今まではゴリ押しでなんとかなったが、ここからはそうはいかない。
相手の動きを見極めて…
ザグ「…そこかっ!」
一瞬の隙をつく。
キングゴブ「グゥ…」
これの繰り返しとなる。
精神力との戦いになるが、多分大丈夫だ。
ザグ「このっ!」
キングゴブ「グァッ!?」
キングゴブリンの動きは予備動作がわかりやすく、明確な隙がある。
これなら勝てる…!
そう確信した。
しかし、確信したと同時に、キングゴブリンが笛を取り出す。
そして力の限り、大きな音色を響かせた。
どうやら援軍を呼ぶつもりらしい。
実際、ゴブリンと戦った疲弊は少しある。
でも、本当に少しだけ。
次は何を呼び出してくるのか、動きを待っていた…その時だった。
ドドドドドド…
大きな地響きが聞こえてきた。
間違いなく、ゴブリンの援軍の足音だろう。
そして、俺は見た。
大量のゴブリンと…
無数のスライムの姿が。
しかも、キングスライムと思われる敵までいた。
その光景を目にした俺は…
(2体目のキングはダメだろ………)
と、内心で愚痴をこぼすことしかできなかった。
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