過霊なる日常

momono

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階段の幽霊編

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 翌日 

 昨日と同様に、私は屋上階段で昼食を食べていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「今日こそは絶対に友達になってみせますからね」

 この聞き覚えのある甲高い声は、昨日何度も聞かされた音無さんの声で間違いなさそうだ。一度聞いただけで覚えてしまうほどの特徴的な声は、ある意味羨ましいものだ。

「やめろ音無っ、ここは立入禁止だっ」

 そして、昨日同様野太い声の真田先生も一緒の様だ。

「ちょっと先生やめてくださいってば、今日こそゆうれいさんと仲良くなるんですから」

「何を言ってるんだ音無、ちょっと職員室まで来いっ」

 そうして、騒がしい声が徐々に離れていき、私は鉄柵扉の方を確認してみるとそこには誰もいなくなっていた。しかし、二人が立ち去った頃合いを見計らったかの様に、男子生徒の二人組が笑いながらやってきた。

「ハハハ、まじでありえないわあいつ」

「何が幽霊さんだよ、まだ入学したばっかなのにあのキャラは痛すぎだろ」

「いや、だからいっつも一人で弁当食ってんだろ、友達くらい早く作れってんだよな」

「だな、マンガじゃないんだからリアルにあのキャラはマジ勘弁だわ」

「あぁ・・・・・・でも顔は可愛いんだよなぁ」

「いやいや、中身がやばいのはマジで無理だって」

「やっぱりそう?」

「そうだよ、あんな女にかまってたら俺らもいじめられちまうぞ」

「「ガハハハハッ」」

 汚い言葉を吐きながらゲラゲラとうるさく音を立てるのは、制服を着崩しだらしのない男子生徒二人だった。

 それにしても『音無マリア』か、決して悪い人間ではなさそうだが個人的にはあまり関わりたくない。もしも、これからも彼女が私のもとに来るというのであれば、それは何としてでも避けたい。

 しかし、具体的にはどうすればいいだろう?

 彼女に「幽霊なんてものはいないっ」と、言ってこの場所から遠ざけるべきだろうか。それとも彼女の変な執着心が消えるのを期待するしかないのか?いや、こういう時はちゃんと行動して斬るべき縁は切っておくに限る、彼女に会って早急に解決に努めよう。
 そう思い、私は重い腰を上げて職員室に向かうことにした。職員室の扉の前で待っていると、ぶつくさと文句を言いながら音無さんが職員室から出てきた。
 一体何が行われていたのかは分からないけど、彼女の身体にはテーピングや絆創膏がたくさんはられていた。

「何ですか、私を変人扱いしちゃって、まったくまったく、まったクタクタで疲れてしまいましたよ」

 奇妙な事を言いながら帰って行く音無さんに、私は勇気を振り絞って声をかけた。

「お、音無さん」

 私が話しかけると、音無さんは左足を軸にまるでコンパスの様に無機質に回ってみせると、私の方に体を向けてきた。そして、私の顔を見るなりプルプルと震えながら私のもとに近寄ってきた。その姿はまるでゾンビのような姿で、私はやっぱりこんな変人に話しかけなければよかったと後悔した。

「あ、あなたはゆうれいさん、どうしてここに?」

 私を目の前にしてなお、幽霊と言い続ける彼女の態度に呆れた。そこまでして幽霊というものをこの世に存在させたいのだろうか?

「どうしたもこうしたもないから、私は幽霊じゃなくて普通の人間、だから今後一切あの場所に立ち寄らないで、じゃあ」

 そう言って、私も彼女のように左足を軸にしてクルリと回ってその場から立ち去ろうとしたのだが、背後から伝わる衝撃と腰に巻きつく腕によって立ち去ることが出来なくなってしまった。

「ちょ、ちょっとっ、なにしてんのっ」

「ゆうれいさん、お友達になって下さいっ」

 わけのわからない言葉に困惑したが、いつまでも「幽霊さん」という呼称をしてくるこの女に私は無性に腹が立ってきた。そして、私に抱き着ける時点で幽霊じゃないとかそういう判断には至らないのだろうか?

「とりあえず離して」

「離しませんっ、友だちになってくれるまで離しませーん」

 そりゃまだ入学して間もないから友達作りというものに必死になるのは間違ってはないだろう。しかし、どうして幽霊なんだ?
 どうにもその言葉が私の頭に引っかかってうっとおしい、幽霊を信じているか、信じていないか、と言ったら後者になってしまう位だ。
 だけど、よくテレビの特番で放送される心霊番組を見逃したことがない私にとって少しだけ興味をそそられる話でもあった。

 そうだ、この際その幽霊というのは何か聞いてみようか。

「ねぇ、話してくれない?」

「離しませーん、離しませんよー」

「あの、だからさ」

「離しませんよ絶対にー」

「あのさどうして私が幽霊なのか話してくれないって聞いてんの」

「離さないったら、離しませんからねぇ・・・・・・えっ?」

 日本語の不思議、同じ言葉でも意味が違うというのはよくあることだ。そしてそれにようやく気付いた音無さんは、私に抱き着く力を緩めてくれた。

「だから、私が幽霊なのか話してくれないかっていってるんだけど」

「自覚がないっ、それこそがあなたが成仏できない理由なんですね」

 ハキハキとうるさいくらいの声で、とぼけたことを言う彼女にイライラゲージがてっぺんまで上り詰めそうだった。

「もういい」

 私は抱き着いてきている音無さんの二の腕を思い切りつねってやった。すると音無さんはネズミのような甲高い叫び声を上げて、ようやく私の腰から腕を離した。

「い、いたいですよ零さんっ」

「自業じと・・・・・・」

 あれ、私の名前を何で知っているのだろう?

 困惑する頭を必死に落ち着かせながら彼女とクラスメートだったのだろうかと思い悩んでいると、彼女はニコニコと笑いながら私との距離を詰めてきていた。

「ねぇ、なんで私の名前知ってるの?」

「知ってますよ、友沢 零《ともざわ れい》さん、略してゆうれいさん、ちなみに書くときはひらがなですね」

「略すのに意味あるの?」

 私は決して本気で怒っているわけではないが、彼女を威圧するように問いただすと、彼女は頭をポリポリとかきながらヘラヘラと笑っていた。

「初対面の人の名前を勝手に略して馴れなれしく言う事に一体どんな意味があるの?」

「その、ほら、ゆうれいさんのほうが可愛いじゃないですか、それにみんなも言ってるし」

 なるほど、ゆうれいと呼ぶほうが可愛いか・・・・・・確かに字体は悪くないし語呂もいい、友沢とか零とか言い切られるより、ゆうれいと呼ばれる方が親しみやすいのかもしれない。

 冷静になって考えてみたが、私には立派な零という名前があるし友沢という苗字もある、何より冷静になって考えれば考えるほどそんな呼び名があまり好ましくないように思えてきた。

「いや、やっぱりゆうれいは却下」

「えー、どうしてですか?」

 不思議そうな顔で疑問をぶつけてくる彼女は、入学したてのはずなのに先生や生徒から早速厄介者扱いをされているいわゆる変人だ。
 しかし、容姿が可愛らしいせいかそれなりに可愛がられているというのは、よく耳にしていたりする。

 確かに、目元はぱっちりしていて男ウケの良さそうな可愛らしい雰囲気を漂わせている。あと個人的な意見を付け加えるなら彼女は全体的にフワフワしてる。

 もしかしたら実際に彼女は浮いているんじゃないかと思えるくらいフワフワしてるし、しかも、なんだかよくわからないぼんぼりみたいな物をポケットからたくさんはみ出させていて、それが気になってしょうがない。

 魂とかそういう何かを意識しているのだろうか?とにかく、そんな彼女は噂通りの変人ぶりを発揮しながら相変わらず私にべったりとくっついてきている。

「とりあえず、私は幽霊でもなんでもないから、これからはあの場所には来ないでほしいんだけど」

「あの場所、あぁ、屋上へと続く階段のことですね」

「そう」

「でも、幽霊さんがいるから私はきっとまた行っちゃうと思いますよ」

 まるで少女のような純粋無垢な笑顔をさらす彼女は、本当に見た目だけはよかった。

「あのさ、幽霊って呼ばないでよ、私にはちゃんと友沢零っていう名前があるから」

「ち、違いますよ、零さんのことじゃなくて本当に幽霊が出るんです」

 どうやら今度はちゃんとオカルティックな事らしい。

「なにそれ、ややこしいなぁ」

「聞いたことないですか?学校中を徘徊している自殺した生徒の霊が出るという噂」

 確かに聞いたことはあるけど、音無さんは本当にその噂を確かめようと思っているのだろうか?
 それに、私はそんな幽霊をあの場所で見た覚えはないし、ポルターガイストのような怪奇現象も起こったことがない。
 私に霊感がないだけなのだろうか、それともただの噂でしかないものを音無さんが信じているだけか・・・・・・?

「私はいつもあそこにいるがそんな幽霊は見たことがない」

「嘘ですっ、目撃談はたしかにありますし、被害にあっている生徒も多数、私はそんな話信じられません」

「いや、でも私はいつもあそこにいるけどそんなものは一度も見た覚えはな
い・・・・・・まぁ、ヘビなら見たことあるけど」

「ヘビッ?」

 私がヘビという単語を口にすると音無さんは突然顔をひきつらせた。

「でも、別に何もするわけではないしほっといてるけど」

「放っておいちゃダメですよヘビに噛まれたら危ないじゃないですか」

「それはそうだけど何もしてこないし、っていうか幽霊探しなんていいからあそこにはもう来ないでほしいんだけど」

「でも、気になりますし」

「そもそも、そんな空想上の存在を探して一体何の意味があるの、もしかして霊感とかがあるの?」

「ないです」

「じゃあ、無理なんじゃない?」

「でも、気になりますし」

 さっきから気になる気になるばっかりで、いまいち彼女の本心が見えてこない。それに、いつまでもこうして立ち話をするのもなんだかめんどくさくなってきたので、俯いて爪をカリカリといじっている彼女の隙をついてその場から立ち去ることにした。
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