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階段の幽霊編
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立ち去った後、職員室の方から私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは間違いなく音無さんの声だったが、遠くからでも聞こえてくる大きな声を張り上げた彼女は、すぐに飛び出してきた真田先生にこっぴどく叱られていた。
そんな、騒がしい時間を過ごした日の放課後、私は鉄柵扉を乗り越えて階段の前に立ち、カバンに入っているローファーを取り出して履き替えた。
一呼吸置き階段を一つ登るとコツンという気持ちのよい音が廊下に響き渡り、しばしその音に酔いしれた後はゆっくりと、またはリズムに乗って階段を登る。
上靴では感じることの出来ないメロディと体全体に突き抜けていく衝撃はとても心地よかった。私はこれを味わうためにローファーを買った甲斐があったものだ。そんな至福のひとときに先ほどのうるさいやりとりは記憶から消えたはずだった。
「あー、零さんさすが早いですねっ」
その声は忘れるはずだった記憶がまるで自我を持って再び私の脳内に戻ってきたかのような感覚だった。そんな不快感にうんざりしながら声のする方へ眼を向けると、そこには音無さんがいた。
私は眉に力が入れて明らかに不機嫌な態度を彼女に示すと、音無さんは満面の笑顔をカウンターしてきた。まるで、太陽の化身であるかの様にまぶしい笑顔。その、あまりに強い光属性攻撃に私はたまらずため息をついた。
「邪魔しないで」
「あれ、機嫌悪いですか?」
「そう、機嫌悪いから帰って」
「そんな事言わずに、邪魔はしませんから少しだけ現場検証をさせて下さい」
現場検証、彼女は警察か何かのつもりだろうか?。そして、そんな人の気も知らずに音無はぎこちなく鉄柵扉を登り私のもとによってきた。
その様子は非常に危なっかしく、たまらず鉄柵に駆け寄り介助しようとしていると、音無さんはぎこちなく私側にやってきた。
「ふぅ、なかなか手ごわい鉄柵ですねぇ」
「危なっかしくて見てられないよ、もう少し簡単に上ってきて」
「すみません」
「まったく・・・・・・じゃなくてっ」
そうだ、全然まったくなんかじゃない、私は今すぐにでもこの音無さんにどこかへ行ってほしかったはずだった。
「お、音無さん鉄柵遊びは楽しかったでしょ、だから早く帰ったら?」
「そうはいきませんよ、私をアスレチックで喜ぶ幼女か何かと勘違いしてませんか?私はこう見えても女子高校生なんですよっ」
腰に手を当てながら頬を膨らませ、偉そうにふんぞり返る姿は幼女そのものであり、思わず口元が緩んだ。
「いや、そんなことどうでもいいし、ここに幽霊なんていないから」
「でも、そういう噂を聞いたんです、そして調べてないのは、もうここだけなんです」
ここで急に真剣な顔になる音無さん、よほど幽霊というものに興味があるようだ。
ならば、今こうして帰れと口論するよりさっさとその現場検証とやらを済ませて帰らしたほうが懸命なのだろうか、どうせ何にもいないしだろうし。
「わかった、ただし、何もいないってわかったらもう二度とここに来ない事を約束して」
まるで、この場所が自分のものであるかのようなあさましい縄張り意識をひけらかしてみると、音無さんは少し驚いた様子で私をみつめてきた。
「え?」
「ほら、幽霊がいないならここに来る必要もないでしょ?」
「それは、そうですけど」
何やら気の抜けた顔をして立ちすくむ音無さん。本当にこんなことさえしなければ男子にチヤホヤされて友達もたくさんできそうなのに、全くもったいないことをしている人だ。
「ほら、現場検証とやらをするんでしょ?」
「そういえばそうでした、じゃあ早速失礼して」
何やら突然乗り気じゃない様子を見せた音無は静かに現場検証を始めた。
階段や屋上へと繋がる扉、そして掃除用具箱の中まで隅々に調べていた。そもそも幽霊相手にそんな調べ方でいいのだろうか、もっと呪文を唱えるとか、なんかしらの条件で出てくるものじゃないんだろうか?そんなことを思いながらやけに大きなお尻をプリプリと動かす彼女はふと、私の方を振り返った。
「そうだ、所で零さん、学校の幽霊の事は知っていますか?」
「ん、まぁ、ちょっとは」
「どこまで知ってますか?」
「どこまでって」
いきなり話しかけてきたかと思えばそんなしょうもない事を。まさか私を幽霊だいすきクラブにでも勧誘するつもりだったりしないだろうか?
「まぁ、聞いた話だと何やら学校中を徘徊してる幽霊を生徒が目撃したとか位かな、音無さんは詳しいの?」
「勿論です、噂によれば幽霊には特徴があって、放課後の校舎、それも階段で遭遇する人が多いらしいです」
「階段?」
「はい、なんでもその生徒は階段で亡くなったみたいなんです、だから必ず階段のある所に現れるそうです」
「階段のある所なら何処にでも現れるってこと?」
「はい、階段のあるところなら何処へでも」
階段のある所に現れる幽霊か、なんだか気の合いそうな幽霊だ、私も死んだらそうなるのだろうか。
「ちなみに、どうしてその生徒は階段で死んだの?」
「あれ、気になりますか零さん?」
音無さんはなんだか嬉しそうな顔をして私に聞いてきた、私も何故こんな質問をしたのか分からなかったが、無意識のうちに口が動いていた。
「暇つぶし程度に聞いておこうかと思って」
「いいですよ、実はその生徒、学校ではあんまり目立つ子ではなかったそうで、いつもひとりぼっちだったそうです。だからいつも学校中の階段を登ったり降りたりしては時間を潰していたようなんです」
「えっ」
音無さんが語った話はは私の日常に組み込まれたルーティーンの一つだった。そんなところまで似ているというのはなんだか気味が悪くなってきた。
「どうかしました?」
「い、いやなんでもない、続けて」
「ある時、その生徒はお気に入りの場所を見つけて彼は暇があればそこにいるようになったそうです。でも、そんなある日、俗にいうヤンキーと呼ばれる集団にお気に入りの場所に目を付けられてしまって、その生徒はお気に入りの場所を追い出されそうになったんです」
「なんで?」
「それはきっとヤンキーという生き物は気性が荒くて縄張り意識が強いですから、良いと思った場所は手に入れたかったんでしょう」
「そういうものなのか」
「はい、しかし、お気に入りの場所を奪われる訳にはいかない生徒はそのヤンキーたちの仕打ちに毎日に耐えながらその場所を死守していたそうなんです。
そして、その生徒にとって悪夢のような続いたある日、ヤンキー達はすでに場所のことなんかよりも、その生徒をいじめることに快感を覚えていて、それを目的にその場所へと向かうようになっていたようです」
「・・・・・・最悪だ」
「最悪なのはここからですよ、ある日、生徒は大切な場所を守るためにある手段に出ます」
「その手段というのは?」
「彼は、どうすればヤンキー達からこの場所を守れるか、そんな事をひたすら考えた挙句、彼はこの場所で人が死ねば、気味が悪くて誰も近寄らないだろうと、そう考えついたのです」
「は?」
「生徒はいつも自分をいじめてきたヤンキー達の目の前でカッターナイフを使って自殺をしたそうです」
「え、人が死ねばって、自分が死んだの?」
「聞いた話によると死に際に「僕はまたすぐにここに戻ってくる」なんて気味の悪いことを言い残したそうです。話だけを聞けば相当クレイジーな話ですけど、よほどその場所に愛着を持っていたんだと思います。そして、それ以来この学校では階段がある場所でその生徒の幽霊を見かけるようになったみたいです」
場所を守りたいがために自分が死んで近づけないようにする、相当の覚悟を持ってその場所を守りたかったのかは知らないが、そんな話をどうしてここにいる音無さんを含め、生徒たちは信じているのだろう。
「ねぇ、その話は一体誰から聞いたの?」
「保健室の先生からです」
「ふーん、で、もしもその幽霊に出会ったらどうなるの?」
「不幸が訪れます」
「不幸って、随分と大雑把な感じだけど、具体的には?」
「階段が好きな幽霊ですので、階段で雑談してたり、居座ったりしている人を突き落とすらしいです、私達一年生の中ではまだその被害はでていませんが、先輩方の中には幽霊を目撃した後に階段から転げ落ちて怪我をしている方がたくさんいるそうです」
「たくさんって、それは本当にあったことなの?」
「勿論です、それから被害にあった生徒達が階段から落ちる前に必ずある姿を見ているんですが、全員口をそろえて『学ランを着た丸メガネの男が笑いながらつきおとしてきた』っていうんです」
そう言い終わると、音無さんはドヤ顔をしながら立派な胸を自慢するかのように突き出してきた。その姿はまるで満足のいく怪談話をできたとでも言いたげな様子だった。
だが、怪談を話すときはもう少し怖い雰囲気を醸し出して話すべきなのではないだろうか、いや、そもそも彼女の可愛らしい顔と高い声で怪談を話している時点で、あまり怖くないというものだ。
それにしても学ランに丸メガネか、うちの男子の制服は学ランではなくブレザーだから確かに幽霊といってもおかしくない話だと思うけど、幽霊の仕業で人が階段から落ちるなんて、そんな変な話がありえるのだろうか?
「あのさ、そんな事件は警察沙汰になると思うんだけど」
「なりましたよ」
「え、じゃあ」
「犯人なんて見つからないんですよ、学校では全生徒の顔と特徴を被害者に見せて確認したり、警察による捜査もしましたが犯人は見つからなかったそうです、つまり犯人は幽霊なんですよっ」
そう言って私に向けて指を差してくる音無さん、そんな彼女の人差し指は、私に向けられておりそんな指に嫌悪感をいだいた。
「ちょっと、指差されるの嫌いだから止めて」
そう言って音無の指をぐいっと折れない程度に曲げた、すると音無さんはまるで指が折れたかのように叫んでいた。それにしても犯人見つからない、まさか本当に幽霊の仕業だとでも言うのか?
「まぁいいや、早く終わらせて帰ってくれないかな、音無さん?」
「しっかし、何も起こらないですし見つかりませんねぇ」
「じゃあ帰ろっか」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、そもそもここは学校なんですから私が何処にいてもいいと思うんです、だからしばらくはここに張り込みをして確実に幽霊を確かめなければなりませんっ、そうだ、せっかくですし零さんも一緒に探しませんか?」
まったくの正論だけど、それでも私はこの居場所を何とか繋ぎ止めたくて仕方なかった。
「やめて」
「へ?」
「この場所は私のもの、誰かと共有しようなんて微塵も思わないから早く帰って」
私は往生際の悪い音無さんに対してつい熱くなってしまった、すると音無さんは怯えた様子で私の顔を見ていた。
「あ、あわわ」
「なにどうしたの、泡でも吹くの?」
「そう、まるで蟹のようにアワアワ、ってそうじゃなくてっ」
「何?」
「ひゃー」
「?」
何やら音無は変な叫び声を上げながら突然鉄柵扉を登ってどこかに逃げていってしまった、そんな、わけのわからないやつの背中を見つつ、私は最終下校のチャイムが鳴り響く中、名残惜しげに屋上階段を後にした。
そんな、騒がしい時間を過ごした日の放課後、私は鉄柵扉を乗り越えて階段の前に立ち、カバンに入っているローファーを取り出して履き替えた。
一呼吸置き階段を一つ登るとコツンという気持ちのよい音が廊下に響き渡り、しばしその音に酔いしれた後はゆっくりと、またはリズムに乗って階段を登る。
上靴では感じることの出来ないメロディと体全体に突き抜けていく衝撃はとても心地よかった。私はこれを味わうためにローファーを買った甲斐があったものだ。そんな至福のひとときに先ほどのうるさいやりとりは記憶から消えたはずだった。
「あー、零さんさすが早いですねっ」
その声は忘れるはずだった記憶がまるで自我を持って再び私の脳内に戻ってきたかのような感覚だった。そんな不快感にうんざりしながら声のする方へ眼を向けると、そこには音無さんがいた。
私は眉に力が入れて明らかに不機嫌な態度を彼女に示すと、音無さんは満面の笑顔をカウンターしてきた。まるで、太陽の化身であるかの様にまぶしい笑顔。その、あまりに強い光属性攻撃に私はたまらずため息をついた。
「邪魔しないで」
「あれ、機嫌悪いですか?」
「そう、機嫌悪いから帰って」
「そんな事言わずに、邪魔はしませんから少しだけ現場検証をさせて下さい」
現場検証、彼女は警察か何かのつもりだろうか?。そして、そんな人の気も知らずに音無はぎこちなく鉄柵扉を登り私のもとによってきた。
その様子は非常に危なっかしく、たまらず鉄柵に駆け寄り介助しようとしていると、音無さんはぎこちなく私側にやってきた。
「ふぅ、なかなか手ごわい鉄柵ですねぇ」
「危なっかしくて見てられないよ、もう少し簡単に上ってきて」
「すみません」
「まったく・・・・・・じゃなくてっ」
そうだ、全然まったくなんかじゃない、私は今すぐにでもこの音無さんにどこかへ行ってほしかったはずだった。
「お、音無さん鉄柵遊びは楽しかったでしょ、だから早く帰ったら?」
「そうはいきませんよ、私をアスレチックで喜ぶ幼女か何かと勘違いしてませんか?私はこう見えても女子高校生なんですよっ」
腰に手を当てながら頬を膨らませ、偉そうにふんぞり返る姿は幼女そのものであり、思わず口元が緩んだ。
「いや、そんなことどうでもいいし、ここに幽霊なんていないから」
「でも、そういう噂を聞いたんです、そして調べてないのは、もうここだけなんです」
ここで急に真剣な顔になる音無さん、よほど幽霊というものに興味があるようだ。
ならば、今こうして帰れと口論するよりさっさとその現場検証とやらを済ませて帰らしたほうが懸命なのだろうか、どうせ何にもいないしだろうし。
「わかった、ただし、何もいないってわかったらもう二度とここに来ない事を約束して」
まるで、この場所が自分のものであるかのようなあさましい縄張り意識をひけらかしてみると、音無さんは少し驚いた様子で私をみつめてきた。
「え?」
「ほら、幽霊がいないならここに来る必要もないでしょ?」
「それは、そうですけど」
何やら気の抜けた顔をして立ちすくむ音無さん。本当にこんなことさえしなければ男子にチヤホヤされて友達もたくさんできそうなのに、全くもったいないことをしている人だ。
「ほら、現場検証とやらをするんでしょ?」
「そういえばそうでした、じゃあ早速失礼して」
何やら突然乗り気じゃない様子を見せた音無は静かに現場検証を始めた。
階段や屋上へと繋がる扉、そして掃除用具箱の中まで隅々に調べていた。そもそも幽霊相手にそんな調べ方でいいのだろうか、もっと呪文を唱えるとか、なんかしらの条件で出てくるものじゃないんだろうか?そんなことを思いながらやけに大きなお尻をプリプリと動かす彼女はふと、私の方を振り返った。
「そうだ、所で零さん、学校の幽霊の事は知っていますか?」
「ん、まぁ、ちょっとは」
「どこまで知ってますか?」
「どこまでって」
いきなり話しかけてきたかと思えばそんなしょうもない事を。まさか私を幽霊だいすきクラブにでも勧誘するつもりだったりしないだろうか?
「まぁ、聞いた話だと何やら学校中を徘徊してる幽霊を生徒が目撃したとか位かな、音無さんは詳しいの?」
「勿論です、噂によれば幽霊には特徴があって、放課後の校舎、それも階段で遭遇する人が多いらしいです」
「階段?」
「はい、なんでもその生徒は階段で亡くなったみたいなんです、だから必ず階段のある所に現れるそうです」
「階段のある所なら何処にでも現れるってこと?」
「はい、階段のあるところなら何処へでも」
階段のある所に現れる幽霊か、なんだか気の合いそうな幽霊だ、私も死んだらそうなるのだろうか。
「ちなみに、どうしてその生徒は階段で死んだの?」
「あれ、気になりますか零さん?」
音無さんはなんだか嬉しそうな顔をして私に聞いてきた、私も何故こんな質問をしたのか分からなかったが、無意識のうちに口が動いていた。
「暇つぶし程度に聞いておこうかと思って」
「いいですよ、実はその生徒、学校ではあんまり目立つ子ではなかったそうで、いつもひとりぼっちだったそうです。だからいつも学校中の階段を登ったり降りたりしては時間を潰していたようなんです」
「えっ」
音無さんが語った話はは私の日常に組み込まれたルーティーンの一つだった。そんなところまで似ているというのはなんだか気味が悪くなってきた。
「どうかしました?」
「い、いやなんでもない、続けて」
「ある時、その生徒はお気に入りの場所を見つけて彼は暇があればそこにいるようになったそうです。でも、そんなある日、俗にいうヤンキーと呼ばれる集団にお気に入りの場所に目を付けられてしまって、その生徒はお気に入りの場所を追い出されそうになったんです」
「なんで?」
「それはきっとヤンキーという生き物は気性が荒くて縄張り意識が強いですから、良いと思った場所は手に入れたかったんでしょう」
「そういうものなのか」
「はい、しかし、お気に入りの場所を奪われる訳にはいかない生徒はそのヤンキーたちの仕打ちに毎日に耐えながらその場所を死守していたそうなんです。
そして、その生徒にとって悪夢のような続いたある日、ヤンキー達はすでに場所のことなんかよりも、その生徒をいじめることに快感を覚えていて、それを目的にその場所へと向かうようになっていたようです」
「・・・・・・最悪だ」
「最悪なのはここからですよ、ある日、生徒は大切な場所を守るためにある手段に出ます」
「その手段というのは?」
「彼は、どうすればヤンキー達からこの場所を守れるか、そんな事をひたすら考えた挙句、彼はこの場所で人が死ねば、気味が悪くて誰も近寄らないだろうと、そう考えついたのです」
「は?」
「生徒はいつも自分をいじめてきたヤンキー達の目の前でカッターナイフを使って自殺をしたそうです」
「え、人が死ねばって、自分が死んだの?」
「聞いた話によると死に際に「僕はまたすぐにここに戻ってくる」なんて気味の悪いことを言い残したそうです。話だけを聞けば相当クレイジーな話ですけど、よほどその場所に愛着を持っていたんだと思います。そして、それ以来この学校では階段がある場所でその生徒の幽霊を見かけるようになったみたいです」
場所を守りたいがために自分が死んで近づけないようにする、相当の覚悟を持ってその場所を守りたかったのかは知らないが、そんな話をどうしてここにいる音無さんを含め、生徒たちは信じているのだろう。
「ねぇ、その話は一体誰から聞いたの?」
「保健室の先生からです」
「ふーん、で、もしもその幽霊に出会ったらどうなるの?」
「不幸が訪れます」
「不幸って、随分と大雑把な感じだけど、具体的には?」
「階段が好きな幽霊ですので、階段で雑談してたり、居座ったりしている人を突き落とすらしいです、私達一年生の中ではまだその被害はでていませんが、先輩方の中には幽霊を目撃した後に階段から転げ落ちて怪我をしている方がたくさんいるそうです」
「たくさんって、それは本当にあったことなの?」
「勿論です、それから被害にあった生徒達が階段から落ちる前に必ずある姿を見ているんですが、全員口をそろえて『学ランを着た丸メガネの男が笑いながらつきおとしてきた』っていうんです」
そう言い終わると、音無さんはドヤ顔をしながら立派な胸を自慢するかのように突き出してきた。その姿はまるで満足のいく怪談話をできたとでも言いたげな様子だった。
だが、怪談を話すときはもう少し怖い雰囲気を醸し出して話すべきなのではないだろうか、いや、そもそも彼女の可愛らしい顔と高い声で怪談を話している時点で、あまり怖くないというものだ。
それにしても学ランに丸メガネか、うちの男子の制服は学ランではなくブレザーだから確かに幽霊といってもおかしくない話だと思うけど、幽霊の仕業で人が階段から落ちるなんて、そんな変な話がありえるのだろうか?
「あのさ、そんな事件は警察沙汰になると思うんだけど」
「なりましたよ」
「え、じゃあ」
「犯人なんて見つからないんですよ、学校では全生徒の顔と特徴を被害者に見せて確認したり、警察による捜査もしましたが犯人は見つからなかったそうです、つまり犯人は幽霊なんですよっ」
そう言って私に向けて指を差してくる音無さん、そんな彼女の人差し指は、私に向けられておりそんな指に嫌悪感をいだいた。
「ちょっと、指差されるの嫌いだから止めて」
そう言って音無の指をぐいっと折れない程度に曲げた、すると音無さんはまるで指が折れたかのように叫んでいた。それにしても犯人見つからない、まさか本当に幽霊の仕業だとでも言うのか?
「まぁいいや、早く終わらせて帰ってくれないかな、音無さん?」
「しっかし、何も起こらないですし見つかりませんねぇ」
「じゃあ帰ろっか」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、そもそもここは学校なんですから私が何処にいてもいいと思うんです、だからしばらくはここに張り込みをして確実に幽霊を確かめなければなりませんっ、そうだ、せっかくですし零さんも一緒に探しませんか?」
まったくの正論だけど、それでも私はこの居場所を何とか繋ぎ止めたくて仕方なかった。
「やめて」
「へ?」
「この場所は私のもの、誰かと共有しようなんて微塵も思わないから早く帰って」
私は往生際の悪い音無さんに対してつい熱くなってしまった、すると音無さんは怯えた様子で私の顔を見ていた。
「あ、あわわ」
「なにどうしたの、泡でも吹くの?」
「そう、まるで蟹のようにアワアワ、ってそうじゃなくてっ」
「何?」
「ひゃー」
「?」
何やら音無は変な叫び声を上げながら突然鉄柵扉を登ってどこかに逃げていってしまった、そんな、わけのわからないやつの背中を見つつ、私は最終下校のチャイムが鳴り響く中、名残惜しげに屋上階段を後にした。
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