過霊なる日常

風吹しゅう

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階段の幽霊編

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 月曜日、休日明けの学校はどうにもやる気がでない、しかもあんな体験をした後に学校に顔をだすなんて、余計に私の心を憂鬱にさせる。

 だけど、友達のいない私にとって学校というものは非常に楽なもので机の上で寝ていようが落書きしていようが、誰にも邪魔されない。

 先生に注意されるのでは、と思われるかもしれないが、先生というものは基本的に明るくて悪目立ちをする生徒にしか目を向けないようになっている。
 つまり盛り上げて落とす、授業中だからといって生徒たちがずっと静かにしていられるはずがない。

 だから、目立つ人間を注意喚起することに寄ってブレイクタイムを作り出すものだ。
 そして、そのブレイクタイムというのは静かな空間にいる陽気な高校生たちには有効で、その後の授業に集中しやすくなるようだ。

 ようするに緩急、静と動だ。

 だけど、私のような静かなまるで空気のようにつかみ所のない生徒には口を出しにくい、だって、私を注意した所で教室全体が静まり返り異様な空気になるからだ・・・・・・たぶんそうに違いない。

 まぁ、教室全体が騒がしいと先生と生徒の両方がやりづらい空気になってしまうってわけだ。つまり、私みたいな人間が学校では一番の問題児、これをほっとくなんて何たる学校教育だ。

 そう思い、私は授業をそこそこに受けて、いつものように屋上階段で昼食を食べていた。

 今日はまだ音無さんは来ない。

 それならそれでいい、むしろそうしてくれたなら、私の日常が再び戻ってくる。
 そんな事を思っていると、何やら掃除箱の方から物音がした、私はすぐに振り返り、音がする方を睨みつけた。
 まさか音無さんが先に来ていて中に入っているとかはないよな、あるいは学ラン姿の幽霊とか。

 今思えば、私はあんな気持ちの悪い体験をしたというのに普通にまたここにきてるっていうのは、私も大概やばい奴なのかもしれない。

 なんて事を私は恐るおそる掃除箱の周りを確認すると、そこには白くキラキラと光るヘビがじっとコチラを見ながら舌をチロチロとさせていた。

「な、なんだ君か」

 私はすぐにヘビに背を向け、再び階段に座り直した、このヘビともここの階段を見つけてからの長い付き合いになるかもしれない。

 私がこのヘビと初めてであったのは高校入学の時だ。

 たまたま、この屋上階段を見つけた時、このヘビは掃除箱の中でほうきにくるまっていた、初めて見た時は思わず身構えてしまったけど、案外おとなしいヘビで、ここに通うようになってからは毎日いるのでもう気にしなくなった。

 何もしてこないとはいえ、あんまり近づきすぎると噛まれそうなので触ったことはないけど、とても可愛らしい顔をしているので、その内触れれば、なんて淡い期待を胸に抱えている。

 すると、そんな願いが通じたのか、何やら蛇が私のすぐ隣まできていた、私はさながらヘビに睨まれたカエル状態でその場で固まってしまった。
 確か、こういう時はあんまり動かないほうがいいって聞いたことがあるような気がする。

 しかし、そんな私の気持ちもお構いなしに蛇は私のふくらはぎにその身を這わせてくる、私はなんとも言えぬ感触におもわず身を震わせながら、なんとか我慢した。

 その内、ヘビは私のふくらはぎに巻き付くようにするすると這っていった、私はもう為す術がなくただひたすらそのヘビに身を任せていた。

 ヘビは私の下半身を好きなだけ這いまわり、満足したのか、知らん顔で私の元から離れ掃除箱の裏に帰っていった、いったい何がしたかったのだろう。
 そして、そうこうしているうちに昼休み終了のチャイムが鳴り響き私は教室に戻った。

 放課後、私は保健室に向かった、保健室では本当に怪我をしたのかと疑い掛けたくなるほど元気な声を出している男子生徒がわんさか群がっていた。
 そして、私が来たことに気づいた更科先生が男子生徒達にまた今度とセクシーな声で囁くと、男子生徒は皆、だらしない顔で保健室を出て行った。

「いらっしゃい零ちゃん」

「先生は人気者ですね」

「勝手に人が寄ってくるのよ」

 髪をかきあげ、足を組み替える先生、所々に女性らしさを魅せつける先生に、今後、先生の姿を見て、女性として色々と見習わなければならないと心の奥底で思った。

「先生ならこんな所で働いてないで、その美貌で金儲けしたほうが楽に暮らせそうなのに」

「あら、お金だけが人生を楽にしてくれるわけじゃないのよ、零ちゃんならわかってくれそうだけどなぁ」

 何か共感を求める視線を感じるけど、今はそれどころではない。

「所で、今日は先生に話があってきたんですけど」

「話ね、じゃあお布団の中で聞きましょう、さぁいらっしゃい」

 そう言って更科先生は保健室に備えてあるベッドに近づきの布団をポンポンと叩いた、さっきまでいた男子がされたらさぞたまらないだろう。

「あの、真剣な話なんですけど」

「でもぉ、秘密の話っぽいし、布団の中でのほうが楽しいと思うんだけど?」

「そういうのはいりません」

 私は背もたれのないくるくると回る椅子の上に腰を下ろした。

「ふふふ、冗談よ零ちゃん、でもマリーちゃんなら嬉しそうに布団に入ってくるのよぉ」

「音無さんは特別です、それより話っていうのは幽霊のことなんですけど」

 そう言うと更科先生は小さなためいきをついて自らの席へとすわりなおした。

「そうね、私は零ちゃんに謝らないとね」

「え?」

「無理やり危険な目に合わせるようなことをしてごめんなさい」

 そう言って更科先生は深々と頭を下げた。

「い、いえ、そんな頭を下げなくても、それに本当に幽霊がいるとは思っていませんでしたし、階段から落ちたのも私のせいですから」

「零ちゃんが自分で?」

「はい」

 私は学ラン姿の幽霊と出会った時の詳しい内容を更科先生に話した。

 先生は終始真顔で私の話を聞いていて、私もすっかり幽霊のことを信じている音無さんのように、ペラペラと学ラン姿の幽霊に出会った時のことを話した。

「まさか、私が幽霊を信じる側の人間になろうとは思いもしませんでした」

「しょうがないわ、実際に体験したんだから、それにしても零ちゃんったら中々積極的ね」

「何がですか?」

「普通幽霊に触られたら、怯えて何も出来ないなんて話がよくあるのに、自らその手を振り払おうとするなんて」

「それは、普通に気持ち悪かったから」

「ふふ、気持ち悪いとか言われてかわいそうな幽霊さん、慰めてあげたいわ」

「何言ってるんですか、あの時振り払いましたけど幽霊には触れなかったんです、でも幽霊は私の身体を触れることができてたんですよっ」

「うんうん」

「正直な所、私はあの時この幽霊騒ぎを解決しようと思ってたんです。そしたら私はあの場所で気ままに高校生活をおくれると思ったし、音無さんだって幽霊だ幽霊だって馬鹿騒ぎしてたくさん怪我をすることも無くなる、そう思ってたのに、結局はこの有り様で」

「そう、ところで、私があなたをこんなことに巻き込んでおいて、おかしいかもしれないけど、零ちゃんはこれからどうするの?」

 更科先生は少しだけ申し訳無さそうな顔をして私にそう問いかけた。

「解決するに決まってるじゃないですか、ここにきたのは少しでも幽霊に関する情報を得られないかなと思ってきたんです」

「わっ」

 少し驚いた様子の更科先生は切れ長の目を丸くさせていた。その表情は普段の美人から、愛らしい少女の様な印象に切り替わった。この人はなんでもありの様だ。

「でも、実際問題、先生が幽霊の撃退方法を知ってるわけないですよね?」

「うーん・・・・・・知ってるわ」

 頬に手を当てながら自信満々に笑顔で答える更科先生は、最早保健の先生という領域を超えているように思えた。

「え、知ってるんですか?」

「もちろんよ、そのためにあんなことを言ってまで幽霊に会いに行かせたのよ」

「え、それってどういう意味ですか?」

「うふふ、それで幽霊のことについて話したいんだけど、その前に、零ちゃんそのカバンにいるヘビはなぁに、ペット?」

 そう言って更科先生は私のカバンを指さした、私はカバンに目をやると、そこにはチャックから顔だけのぞかせた先ほど階段で見た白ヘビがいた。

「えぇっ」

 私はすぐに背後にカバンを隠した。どうしてあの蛇がこんなところに入っているんだろう?

「んー?」

 更科先生が不思議そうに顎に指を当てて私の顔を見つめてくる、そんな状況にに耐えられなくなった私はカバンを持って保健室を出た。

 そしてすぐさま屋上階段まで走り、かばんの中をぶちまけた、するとカバンのなかに入っていたヘビがボトッと音を立てて現れた。

「何でいつの間にかばんのなかに入ってんの?」

 私は息を切らしながら出てきたヘビを睨んだ、するとヘビもコチラをジッと見ていた。

 私は視線を逸らさずに、落ちたものを拾い集め、カバンに突っ込んだ、そしてヘビを置いて立ち去ろうとした時

「全く、何であんな女に近づいてしもたんや」

 そんな言葉が私の耳に入ってきた。

「・・・・・・え?」

 可愛らしい声色にやたらと色の強い方言、私は恐るおそる振り返るとそこにはズルズルと床を這うヘビの姿、まさかヘビが喋るわけがないよね。
 そう思い、私は辺りを見渡して誰もいないことを確認した。そして、試しにヘビに語りかけてみることにした。

「こ、今度からは勝手にかばんの中には入らないでね」

「わかった」

 元気のいい返事、まるで素直な少女の様だ。

「そっか、それなら安心・・・・・・」

「ん?」

 落ち着け、常識的に考えていまの状況はおかしい、そうだ、ヘビが言葉を喋るなんておかしいんだ。

 そう、私は少し疲れているだけ、たまたま耳が異常動作を起こしただけ、そうだ、もう一度話しかけてみて見よう。普通に考えて、ヘビが返事をするわけがないんだ、言ってもシャーとかだろう。

「えっと、その」

「なにびっくりしてんのや、それよかうちの話聞くべきや?」

 そのヘビは私が質問するまえに話しかけてきた、それにより私の中にあるヘビという生物に日本語を喋る事ができるという項目が付け加えられた。

「・・・・・・モウエエワ」

 私はそんな奇妙な現実を押し付けられ思わずその場から逃げ出してしまった、当たり前だ、幽霊の次は喋るヘビの妖怪?
 勘弁してほしい、もう懲り懲りだこんなの、どうして今まで平和に暮らしていたのにこんなことにならなきゃいけないんだ。

 そんな、最近の不運ぶりを呪っていると、見たことのある包帯だらけの生徒が屋上階段を拒む鉄柵扉で手を振っていた。

「あ、零さーん」

 あぁ、そうか音無さんか、やっぱり彼女が全ての元凶だったってことか。

「音無さん、ちょっと話があるんだけどっ」

「え、何ですか?あっ、もしかして幽霊の話ですか」

「あぁそうそう、とりあえずついて来て」

「あれ、零さんなんだか怒ってるんですか?」

 そうして私は音無さんを連れて保健室へと戻ってきた。

「あら、ヘビがマリーちゃんに変わったのね、すごいマジックだわ」

「マジック?零さんマジックがしたくて私を連れてきたんですか?」

「違うっ、あと先生、とっとと幽霊退治の方法を教えてくださいっ」

「え、どういうことですかサラちゃん?」

 息を切らしながら私は先生にそう問いかけた、そして隣の音無さんは状況がつかめないのか更科先生に近寄り事の真相を確かめようと話していた。

「ちょうどいいわ、二人一緒にお話しましょう」

 更科先生は部屋の隅においてあるパイプ椅子を組み立て私の前においた、そして私はパイプ椅子に音無は回る椅子に座り、先生の話を聞くことにした。

「先生、できれば手短に、そして今日にでも幽霊退治ができるくらいの話を聞かせて下さい」

「ちょっとそれは難しいわね」

「ちょっと待ってください零さん、幽霊退治なんてしたら幽霊さんを見ることができなくなるじゃないですか」

 音無さんはまわる椅子でくるくると回りながらそんな事を言っていた。

「先生、音無さんの事はいいですから何かいい方法を教えてくれませんか?」

「そうねぇ、まずはその学ラン姿の幽霊に会うことは必須よね」

「はい」

「それから、いわゆる成仏ってのをさせてあげることね」

「具体的には?」

「具体的?」

 そう言うと更科先生はまるで「なんのこと?」とでも言いたげに首をかしげた。

「えぇ、ほら呪文、とか御札、とか先生知ってるんですよね?」

「成仏させるのが幽霊退治なんじゃないの?」

「え?」

 不安そうに唇に手を当てる先生は本当に何も知らないようだった。

「いや、もう少し具体的に」

「幽霊って成仏すればおしまいでしょ、ほらよしよしーってしてあげるとヒューって上の方に飛んで行くんじゃないの?」

 更科先生は頬に手を当て差も当然のように私にそう話した。

 なんなんだ、知ってるって言うからここに来たのに全く役に立たない情報を聞かされただけ、しかも隣では成仏はダメだとか言って、ギャーギャー騒がしい音無さんがいるし。

 そんな光明の見えない状況に、私の脳みそはぐつぐつと煮えたぎり、今にも爆発しそうになっている。
 だめだ、ここはクールダウン、冷静になって物事を一から考えていかなければならない、そう思うと私はいてもたってもいられなくなった。

「え、あれ、零さんどこ行くんですか?」

 立ち上がる私に音無さんは私の腰に抱きつき引きとめようとしてきた。

しかし、私はすぐにその手のをつねって引き剥がした。音無さんは悲鳴を上げ、更科先生は私をじっと見つめてきた。

「零ちゃん、私の言ったこと役に立たなかった?」

「そ、そんなことはないですけど決定打に欠けるというか、あのちょっとだけ横にならせてもらってもいいですか?」

 そう言って私は保健室にあるベッドを指さした。

「えぇいいわよ、ゆっくりしていって」

「零さん大丈夫ですか?」

「仕方ないわ、あんなことがあった後だもの少し疲れが出ているのよ」

 あんたらの相手に疲れてんだよ、と、言いたいところではあったけど、そんな気力さえない私は保健室の真っ白なベッドに横たわった。
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