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不思議な友達編
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学校の不思議、階段に潜むという学ラン姿の幽霊を踏みつぶし消滅させた私は、これにて一件落着となり、再び平穏を取り戻したかに思われた。しかし、そんな楽観的な考えが愚かに思えるほどに、目の前の彼女はにこやかな笑顔を見せている。
厄介事が終わったと思えばこの有り様だ。目の前にいるマリアは、ニコニコ笑顔を私に向けてきている。彼女の眩しい笑顔に顔をそむけると、マリアは私にパタパタと近づいてきた。
よくよく考えれば、悩みというものは解決すればまた新しい悩みが現れるって言うから、その点で言えば仕方ないの事かもしれない、いや、そうとでも思わないと、私は私でいられなくなりそうだ。
その上、マリアがその悩みの種だという事が非常に厄介で腹が立つ。
その怒りを何とか無言で察してもらおうとマリアをにらみつけていると、彼女は突然私の手をとった、そして、笑顔をまま私の身体を引っ張りあげてきた。
「ちょっと、なにすんの?」
「いいから付いて来て下さい」
柔らかい手とぬくもりに妙な安心感を覚えた。その安心感はとても心地が良くしばらくこうしていてもいいような気さえしていた。そんなことを思いながら私は恥ずかしながらもマリアに手を引かれていった。
そうして、私は今1年2組の教室の前に来ている。隣にはマリアがニコニコと私の腕に抱きついている。いつの間にかこんな格好になっていたのだが、これもこれで妙な安心感があるというか幸福感が強いというか。
とにかく私は人肌に飢えていたのかもしれないと今更ながらに気づいてしまった。
「ねぇ、どうして抱き着いてるの?」
「だって、こうしておかないと零さん逃げちゃうじゃないですか、それと私の保身のためでもあるんです」
「保身?」
「はい」
保身という意味が分からないけど、人目の多い場所ではやめてもらいたいところだ。
「で、どうしてこんな所に連れてきたの?」
「実は零さんに紹介したい人がいるんです」
「え、なんで?」
「なんでって、まぁまぁ」
まるで、おせっかいやきのおばさんが隣にいるようで、気分が悪くなってきた。
「ごめんだけど帰るわ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよー」
マリアはより一層私の腕に抱きついてコアラの様にしがみついてきた。
「あのさ、人付き合い苦手だから遠慮しておくよ」
「そんなこと言わずにちょっとだけですから、ほんのちょっとだけですー」
私はマリアの制止を頑なに拒み続けていると、1年2組の扉が開かれた。教室の中からは髪の毛を2つに結い、凛とした表情の女子生徒が私達の様子を無表情で見つめていた。その女子生徒は、全体的に何もかもが小さくて、まるでお人形のような子だった。
「あぁ、すみません夕ちゃん、待たせてしまいまして」
私はマリアに抱き着かれている姿を見られていると思うと、急に恥ずかしくなってマリアを引き剥がした。だがマリアは私を離すものかとぎゅっと抱き着いてきた。
「ちょっと」
「ふっふっふ、さぁ零さん教室に入りましょう・・・・・・って今度は動かないじゃないですか」
私は直立不動、そして私の腕を引っ張るマリア、ほんと一人でよくそんなに騒げるものだ。
そんな事を思いつつマリアの姿を眺めていると「夕ちゃん」と呼ばれた女子生徒は私の顔をじっと見ていたようで、私と目が合うと慌てて目を逸らしてきた。そうそう、普通の初対面ってこういう感じだよ。なんだか仲良くなれそうな気がする。
ちょっとした気まぐれからか、それとも目の前にいる小さくてかわいらしいおしとやかな夕ちゃんに惚れてしまったのか、私は素直に1年2組の教室に入ることにした。
中には先程の夕ちゃん以外誰一人残っておらず、なんとも寂しいクラスだと感じた。私のクラスなんて机を椅子にしてくっちゃべってる連中がゴロゴロいるっていうのに。
「おぉ、やっと入ってくれましたねぇ、えへへ、零さんったら夕ちゃんが来た途端おとなしくなるんですから」
「なんか、マリアより断然仲良くなれそうな子だったから、つい」
「えっ」
機能停止したロボットのように動かなくなるマリア、そんな彼女の頬を突っつくと、心持ち低くなったテンションで私を夕ちゃんの正面に私を座らせた。
「あのさ、正面ってきつくない?」
「嫌なんですか?」
「嫌じゃないけど、気まずいっていうか、なんというか」
私の正面にいる夕ちゃんは伏し目がちに座っている。そら見ろ、初対面で対面したらこうなるのが普通なんだ。なんだか私の思い描く人そのもの過ぎて逆に怪しく感じてしまう。
「夕ちゃん、大丈夫ですか?」
夕ちゃんはマリアの呼びかけに応じ顔を上げた、どうやらマリアとは仲がいいみたいだ。
「あのね、知ってると思いますけど、この人友沢 零さんです」
私は紹介されるがまま軽く会釈すると、夕ちゃんに目をそらされた。そうそう、人間関係なんてこんなもんだよ、これくらいからゆっくりじっくり始めていくのがいいのさ・・・・・・しかし、この感じは人というよりは野良猫とかとのやり取りに似てる気がしなくもないな。
「すみません零さん、夕ちゃんって少し人見知りなんです」
「そうだね、わかるわかる」
「あれ、なんだか嬉しそうですね零さん」
「そう?」
嬉しいというよりはかわいいの方が強いのだろう。今もほら、私の方をチラッと見て直ぐに目を逸らして、顔はきりっとしてるのに、まるで赤ちゃんみたいにマリアの袖を掴んじゃったりして。
「友沢零です、よろしく」
夕ちゃんの可愛さに惚れた私は、柄にもなく自己紹介をした。
「零さん、それは私が言いましたよ」
「べつにいいでしょ」
そう言うとマリアは萎縮した。すると、その代わりと言っていいのか、夕ちゃんがマリアを守るように抱きかかえ、少し怒ったような顔で見つめてきた。
「あ、あー、別にいじめてるわけじゃなくて」
「そうですよ夕ちゃん、零さんはこう見えてすごく優しい人なんですから」
「・・・・・・」
夕ちゃんは、マリアの言葉に従い身を引いた。
「零さん、この人は千野 夕《ちの ゆう》さんです」
夕ちゃんは小さくお辞儀をした。それにしても夕ちゃん可愛いなぁ、なんか家に連れて帰ってご飯とか食べさせてあげたりしたいなぁ。たぶん、ペットってこんな感じで飼おうって思うんだろうなぁ。
「千野さん宜しくね」
「急になんですか零さん、さっきまで私は人付き合いが苦手とか言ってたのに」
「音無さん、私、千野さんと話してるからちょっと待ってね」
「え、零さんなんで急に苗字になるんですか」
そうしていると、千野さんが口を動かした。
「え、何?」
夕ちゃんは何かを話そうとしているのか口をパクパクとさせているが声は聞こえない。私は必死に彼女の生声を聞き出そうと耳をすませていると、彼女は突然机の中からスケッチブックを取り出し、何かを書き始めた。
そして書き終わったかと思うと私にそのスケッチブックを見せてきた。
『千野夕です、よろしくお願いします、友沢さんのことは以前からよく知っています、よろしくお願いします』
という文字が書かれており、私はそれを見て「よろしく」の一言くらい簡単に言えないのだろうかとも思ったけど。
まるでスケッチブックを盾にしてこちらを見つめる千野さんの姿があまりにもかわいすぎたため、簡単に心を許すことを決めた。
「あれ、夕ちゃんやっぱり喋るの苦手ですか?」
「なに、どういうこと?」
「夕ちゃん、喋るのが苦手でよく筆談を持ちかけてくるんですよ」
「持ち掛けてくるって、普段からこんな感じなの?」
「そうですね、基本的には私ばっかり喋って申し訳ないとは思ってますけど」
「そっか、千野さんも大変そうだね」
私がそう言うと彼女は首を横に振って否定した。と、ここで私はふと、マリアに対して一つの疑問が浮かび上がってきた。彼女は言わずと知れた一年生ながらにして、この学校の要注意人物として名をはせている。
おまけに単独行動で、どちらかと言うと教師や学生から敬遠されているような人間、その人間にどうしてこんな可愛い友達がいるのだろう?
「ねぇ、それよりも、マリアに友達がいたことに驚きだよ」
内心ぼっち仲間だと思っていたマリアに、よもや、こんな可愛らしい友達がいたことに私はびっくりしていた。
「いますよ、といっても最近知り合ったばかりなんですけど」
「へぇ、どっちから・・・・・・って、マリアが話しかけたんだよね」
「いえ、夕ちゃんからですよ」
「えっ、なんていって声かけてきたの?」
「えへへ、私見ての通り怪我ばっかりしてますから、その姿に興味を持ってもらえたみたいで初めて声をかけられた時、すごい目をキラキラさせて、友だちになってくださいって言われました、勿論筆談で」
いや、それだと声をかけたことにならないから。
「そうなんだ」
「それで、私はいいですよって言って右手で握手しようとしたら骨のヒビが更に深くなっちゃって」
「おバカ」
そういうと千野さんはまたもマリアをかばうように抱きついた。その目は少しうるんでいるようだった。
厄介事が終わったと思えばこの有り様だ。目の前にいるマリアは、ニコニコ笑顔を私に向けてきている。彼女の眩しい笑顔に顔をそむけると、マリアは私にパタパタと近づいてきた。
よくよく考えれば、悩みというものは解決すればまた新しい悩みが現れるって言うから、その点で言えば仕方ないの事かもしれない、いや、そうとでも思わないと、私は私でいられなくなりそうだ。
その上、マリアがその悩みの種だという事が非常に厄介で腹が立つ。
その怒りを何とか無言で察してもらおうとマリアをにらみつけていると、彼女は突然私の手をとった、そして、笑顔をまま私の身体を引っ張りあげてきた。
「ちょっと、なにすんの?」
「いいから付いて来て下さい」
柔らかい手とぬくもりに妙な安心感を覚えた。その安心感はとても心地が良くしばらくこうしていてもいいような気さえしていた。そんなことを思いながら私は恥ずかしながらもマリアに手を引かれていった。
そうして、私は今1年2組の教室の前に来ている。隣にはマリアがニコニコと私の腕に抱きついている。いつの間にかこんな格好になっていたのだが、これもこれで妙な安心感があるというか幸福感が強いというか。
とにかく私は人肌に飢えていたのかもしれないと今更ながらに気づいてしまった。
「ねぇ、どうして抱き着いてるの?」
「だって、こうしておかないと零さん逃げちゃうじゃないですか、それと私の保身のためでもあるんです」
「保身?」
「はい」
保身という意味が分からないけど、人目の多い場所ではやめてもらいたいところだ。
「で、どうしてこんな所に連れてきたの?」
「実は零さんに紹介したい人がいるんです」
「え、なんで?」
「なんでって、まぁまぁ」
まるで、おせっかいやきのおばさんが隣にいるようで、気分が悪くなってきた。
「ごめんだけど帰るわ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよー」
マリアはより一層私の腕に抱きついてコアラの様にしがみついてきた。
「あのさ、人付き合い苦手だから遠慮しておくよ」
「そんなこと言わずにちょっとだけですから、ほんのちょっとだけですー」
私はマリアの制止を頑なに拒み続けていると、1年2組の扉が開かれた。教室の中からは髪の毛を2つに結い、凛とした表情の女子生徒が私達の様子を無表情で見つめていた。その女子生徒は、全体的に何もかもが小さくて、まるでお人形のような子だった。
「あぁ、すみません夕ちゃん、待たせてしまいまして」
私はマリアに抱き着かれている姿を見られていると思うと、急に恥ずかしくなってマリアを引き剥がした。だがマリアは私を離すものかとぎゅっと抱き着いてきた。
「ちょっと」
「ふっふっふ、さぁ零さん教室に入りましょう・・・・・・って今度は動かないじゃないですか」
私は直立不動、そして私の腕を引っ張るマリア、ほんと一人でよくそんなに騒げるものだ。
そんな事を思いつつマリアの姿を眺めていると「夕ちゃん」と呼ばれた女子生徒は私の顔をじっと見ていたようで、私と目が合うと慌てて目を逸らしてきた。そうそう、普通の初対面ってこういう感じだよ。なんだか仲良くなれそうな気がする。
ちょっとした気まぐれからか、それとも目の前にいる小さくてかわいらしいおしとやかな夕ちゃんに惚れてしまったのか、私は素直に1年2組の教室に入ることにした。
中には先程の夕ちゃん以外誰一人残っておらず、なんとも寂しいクラスだと感じた。私のクラスなんて机を椅子にしてくっちゃべってる連中がゴロゴロいるっていうのに。
「おぉ、やっと入ってくれましたねぇ、えへへ、零さんったら夕ちゃんが来た途端おとなしくなるんですから」
「なんか、マリアより断然仲良くなれそうな子だったから、つい」
「えっ」
機能停止したロボットのように動かなくなるマリア、そんな彼女の頬を突っつくと、心持ち低くなったテンションで私を夕ちゃんの正面に私を座らせた。
「あのさ、正面ってきつくない?」
「嫌なんですか?」
「嫌じゃないけど、気まずいっていうか、なんというか」
私の正面にいる夕ちゃんは伏し目がちに座っている。そら見ろ、初対面で対面したらこうなるのが普通なんだ。なんだか私の思い描く人そのもの過ぎて逆に怪しく感じてしまう。
「夕ちゃん、大丈夫ですか?」
夕ちゃんはマリアの呼びかけに応じ顔を上げた、どうやらマリアとは仲がいいみたいだ。
「あのね、知ってると思いますけど、この人友沢 零さんです」
私は紹介されるがまま軽く会釈すると、夕ちゃんに目をそらされた。そうそう、人間関係なんてこんなもんだよ、これくらいからゆっくりじっくり始めていくのがいいのさ・・・・・・しかし、この感じは人というよりは野良猫とかとのやり取りに似てる気がしなくもないな。
「すみません零さん、夕ちゃんって少し人見知りなんです」
「そうだね、わかるわかる」
「あれ、なんだか嬉しそうですね零さん」
「そう?」
嬉しいというよりはかわいいの方が強いのだろう。今もほら、私の方をチラッと見て直ぐに目を逸らして、顔はきりっとしてるのに、まるで赤ちゃんみたいにマリアの袖を掴んじゃったりして。
「友沢零です、よろしく」
夕ちゃんの可愛さに惚れた私は、柄にもなく自己紹介をした。
「零さん、それは私が言いましたよ」
「べつにいいでしょ」
そう言うとマリアは萎縮した。すると、その代わりと言っていいのか、夕ちゃんがマリアを守るように抱きかかえ、少し怒ったような顔で見つめてきた。
「あ、あー、別にいじめてるわけじゃなくて」
「そうですよ夕ちゃん、零さんはこう見えてすごく優しい人なんですから」
「・・・・・・」
夕ちゃんは、マリアの言葉に従い身を引いた。
「零さん、この人は千野 夕《ちの ゆう》さんです」
夕ちゃんは小さくお辞儀をした。それにしても夕ちゃん可愛いなぁ、なんか家に連れて帰ってご飯とか食べさせてあげたりしたいなぁ。たぶん、ペットってこんな感じで飼おうって思うんだろうなぁ。
「千野さん宜しくね」
「急になんですか零さん、さっきまで私は人付き合いが苦手とか言ってたのに」
「音無さん、私、千野さんと話してるからちょっと待ってね」
「え、零さんなんで急に苗字になるんですか」
そうしていると、千野さんが口を動かした。
「え、何?」
夕ちゃんは何かを話そうとしているのか口をパクパクとさせているが声は聞こえない。私は必死に彼女の生声を聞き出そうと耳をすませていると、彼女は突然机の中からスケッチブックを取り出し、何かを書き始めた。
そして書き終わったかと思うと私にそのスケッチブックを見せてきた。
『千野夕です、よろしくお願いします、友沢さんのことは以前からよく知っています、よろしくお願いします』
という文字が書かれており、私はそれを見て「よろしく」の一言くらい簡単に言えないのだろうかとも思ったけど。
まるでスケッチブックを盾にしてこちらを見つめる千野さんの姿があまりにもかわいすぎたため、簡単に心を許すことを決めた。
「あれ、夕ちゃんやっぱり喋るの苦手ですか?」
「なに、どういうこと?」
「夕ちゃん、喋るのが苦手でよく筆談を持ちかけてくるんですよ」
「持ち掛けてくるって、普段からこんな感じなの?」
「そうですね、基本的には私ばっかり喋って申し訳ないとは思ってますけど」
「そっか、千野さんも大変そうだね」
私がそう言うと彼女は首を横に振って否定した。と、ここで私はふと、マリアに対して一つの疑問が浮かび上がってきた。彼女は言わずと知れた一年生ながらにして、この学校の要注意人物として名をはせている。
おまけに単独行動で、どちらかと言うと教師や学生から敬遠されているような人間、その人間にどうしてこんな可愛い友達がいるのだろう?
「ねぇ、それよりも、マリアに友達がいたことに驚きだよ」
内心ぼっち仲間だと思っていたマリアに、よもや、こんな可愛らしい友達がいたことに私はびっくりしていた。
「いますよ、といっても最近知り合ったばかりなんですけど」
「へぇ、どっちから・・・・・・って、マリアが話しかけたんだよね」
「いえ、夕ちゃんからですよ」
「えっ、なんていって声かけてきたの?」
「えへへ、私見ての通り怪我ばっかりしてますから、その姿に興味を持ってもらえたみたいで初めて声をかけられた時、すごい目をキラキラさせて、友だちになってくださいって言われました、勿論筆談で」
いや、それだと声をかけたことにならないから。
「そうなんだ」
「それで、私はいいですよって言って右手で握手しようとしたら骨のヒビが更に深くなっちゃって」
「おバカ」
そういうと千野さんはまたもマリアをかばうように抱きついた。その目は少しうるんでいるようだった。
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