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不思議な友達編
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この様子を見ると千野さんはかなりマリアになついている様子だ。その背景にはいったいどんな理由があるのかはさておき、誰かを守ろうとする勇気ある行動すらも愛らしく見えた。
「大丈夫ですよ夕ちゃん、これはいつものことなんですツンデレなんです」
マリアの言葉に千野さんはゆっくりと頷き、私に向かって頭を下げてきた。この素直な態度にマリアの言葉などに耳を貸すことなく私は千野さんに見とれた。
「それでさ、どうして私はここに呼ばれたの?」
「あ、それはここにいる夕ちゃんが直々に零さんとお会いしたいって言うから連れてきたんですよ」
「え、私に、なんで?」
「理由は分かりませんが・・・・・・どうなんでしょう」
千野さんはペンをとりいそいそと紙に文字を書き始めた。その様子があまりにも新鮮で私は思わず質問したくなった。
「マリア、千野さんは絶対に喋らないの?」
「いえ、喋れないことはないんですけどちょっと深い理由があって」
喋れない理由か、まぁ人それぞれ多種多様に悩みがあると思うけど喋れないっていうのも中々辛いだろう。そんな事を考えていると千野さんはどうやら書き終えたようで私達に紙を見せてきた。
『私と一緒にDVDを見ませんか、お茶もお菓子も用意します』
「「DVD?」」
珍しく息のあった私とマリアは互いに見つめ合い、そして私の方から顔を逸らした
「あっ、そういえば夕ちゃんは132の部員さんでしたね」
マリアは思い出したかのように、手のひらを拳でポンと叩いてそう言った。
「132?」
聞きなれない数字に疑問を抱いているとマリアがどや顔で説明し始めた。
「132というのは知る人ぞ知る隠れたサークルの事ですね、先生ですら知らない人もいるみたいです」
「よくそんなクラブに入れたね」
私がそう聞くと千野さんは俯いて文字を書くことすらしてくれなかった。あれ、私マリアいじめすぎて嫌われちゃった?
「確かいとこのお兄さんが132の会長さんなんですよね」
「あのさ、マリアはなんでそんなに詳しいの?」
「だってここ最近は夕ちゃんとご飯食べたり、一緒に動画を見て楽しんでますから、そしたらいつの間にか仲良くなってたんですよ」
「へ、へぇ」
何ら不思議なことではないけど、マリアがそんな普通の高校生みたいなことをしていることにおどろいた私は少しだけ自分の高校生活を思い返して、妙な気分になった。
「何がですか零さん?」
「べつに、なんでもない」
そんななか再び千野さんが新たな紙を見せてきた。そこには『行きますか?行きませんか?』と二択で書かれており両端にある手の人差し指がピコピコ動いていた。
「そんなの行くに決まってるじゃないですかー」
そう言ってマリアは『行きます』と書かれた方の人差し指を握った、私も千野さんの愛らしい指を握りたいのだが、それだと行かないことになってしまう、どうするべきか・・・・・・
「もちろん零さんも行きますよね」
そういってマリアは私の手を無理やり引っ張ってきた。
「いや、まだ行くとは言ってない」
そう言うと千野さんはまるで「来てくれないんですか?」と言わんばかりの目をしてきて私は行くという選択肢に絞った。
「いかせてもらうよ千野さん」
「もう何ですか、八宝菜にも程がありますよ零さん」
「・・・・・・」
また訳のわからないことを、そう思っていると千野さんがマリアに耳打ちしている。あれ、耳打ちは出来るってことは一応まともに喋ることは出来るんだ。
「は、八方美人ですよっ、零さん」
顔を真赤にしながら私に指を差してくるマリアに、いつの日かの同様に指を掴んで軽くねじ曲げると、教室内にはマリアの断末魔が響き渡った。そして私達は学校の第一棟にあるという132の部屋へと向かう事になった。
私が通う三鷹高校は歴史ある高校だ。
開学当初は、私達一年生のクラスがある第一棟しかなく、年を重ねるごとに2棟3棟と新築し、最近新しく4棟目が出来たらしい。
そこには数多くの部活動を行える教室や、食堂、職員室となっていて、私達一年生は第一棟の教室で日々の学生生活を送っている。
一年生はこの学校の歴史を学ぶために一番古い校舎で学生生活を行う事を校風として定めているらしい、いわゆる伝統というやつらしい。
だけど基本的に生徒たちは古臭く陰気な1棟よりも最新である4棟に行くことが多い。ちなみに私のお気に入りの屋上階段があるのは一棟の端ある。
それにしても、普段一人で歩いている私にとって、廊下を三人で歩いているのがとても気まずくて仕方がない。
しかも、周りの生徒から異様に視線を集めているのがたまらなく耐え難い、だからついつい姿勢を正して遠い目をしながら歩く事しか出来なかった。というより、どうして二人は私を中心にして歩くのだろう?
目的の場所に近づいていっているのか、徐々に人も少なくなっていき、ついに目的地に到着した。周りを見渡すと薄暗く気味の悪い絵画や肌寒さを感じる場所であり、私はなんとなく嫌な予感がした。すると私のカバンの中で何やらごそごそとユダが動き始めていた。
まさか「ナンカオルデ」とか言いださないだろうか?
『着きました』
千野さんは扉の前で振り返りスケッチブックを見せてきた。扉の近くにかけられた木札には「旧書庫」と書かれていた。
「なんか薄暗いし寒い」
「そーですね、今すぐにでも何か出てきそうな気がするんですけど、出てこないのが残念なところなんですよ」
マリア、その言葉が真実であることを私は願うから、絶対に幽霊が出てきませんように、絶対に幽霊が出てきませんように、出てきませんように。
そうして千野さんが旧理科準備室の鉄扉を開けると中は薄暗く少しだけ薬品の匂いが漂ってきた。そして電気をつけるとそこには、たくさんの薬品とホルマリン漬けにされた生き物、そして大量の本棚と本がおかれており、あちこちには段ボールが積み重なっていた。
そして、一番特徴的なのは私の顔を真っ直ぐに見つめる人体模型が二体、男性と女性二種類が揃っていた。書庫だという札のはずなのにほとんど物置になっている様子だった。
「うーん、やっぱりいつ来てもこの匂いは好きになりませんね」
マリアがそう言いながら消臭スプレーを散布させ、千野さんはそのスプレーのせいか、くしゃみをしていた。もちろん、そのくしゃみはかわいいのはもちろん、今すぐ抱きしめたくなるようなものだった。
「ちょっとさ、この部屋汚くない?」
「そうですよね、私としてはもう少しいらないものを捨てて、もっとこうフワーッとした感じでいい匂いとかして、華やかな感じにしたいんですけど、会長さんの許可を得ないといけないんですよね」
「その会長さんとやらは?」
「それが私も会ったことがないんです、夕ちゃん知ってますか?」
『知りません』
首振ったらいいだけなのに、すっかり筆談に慣れちゃってるんじゃないかな千野さん?
「夕ちゃんも知らないとなると、どうしようもないですね」
「それならそれで、気兼ねなくここにいられるから個人的には嬉しいけど」
正直な所、先輩がいると気を使わなきゃいけない性分だから、いないのは助かる。
「それもそうですね、じゃあ早速ホラー動画でも見ましょうか」
千野さんは、何やらいそいそいそとダンボールの中を漁っている。どうやら中に沢山のDVDが入っているようだ。そうして、私は近くにおいてあるパイプ椅子に腰掛けようとした時、カバンの中からヘビが飛び出してきて、私の首元からシャツの中に侵入してきた。
「わぁっ」
この野郎、こいつは一体何がしたいんだ?そんなことを思っていると私の奇声に驚いたであろう二人が私をじっと見つめてきていた。
「零さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとストレッチでもしようかと」
私はごまかすかのように、わずかに声を上げながら体を伸ばすふりをした。
「大声上げながらするストレッチなんて初めてみましたよ、変な人ですねぇ」
くそ、変な奴に変って言われた。そうして、私の姿を見て呆れるマリアとは対照的に、千野さんはとてもキラキラとした目で私を見つめてきていた。
そんな視線に思わず顔をそらし、たまたま目に入った人体模型(女)を見ていると、その影に隠れ切れていない細目の大柄な男がいるのに気づいた。
そいつは、私の姿を見ながらクスクスと口元に手を当てながら笑っていた。
「ひぃぁっ」
「こ、今度は何ですか零さん、大きな声を出さないでくださいっ」
私はすぐに後ずさり、一度目をこすった後、そしてもう一度人体模型(女)の方を見るとやっぱり細目の大男がクスクスと笑っていた。
「何も見えない何も見えない・・・・・・」
「零さん、どうしたんですか、しっかりして下さい」
マリアが私の肩を掴みゆさゆさと身体を揺らしてくる。
「マリア、あの人体模型、あれどう思う」
「人体模型?そうですね人体模型です男性と女性でまるでカップルみたいですね」
「だ、だよね」
マリアも千野さんも、双子のようにきょろきょろと辺りを見渡すだけであの大男について触れようともしていない。間違いない絶対幽霊だ、相手に気づかれないように無視しないとまた面倒事に巻き込まれてしまう。
「あ、ほら動画見るんでしょ?」
「はいそれは勿論見ますけど、なんだか今日の零さんはハイテンションですね」
そして、私達は教室の電気を消し、真っ暗の部屋でホラー動画を見ることにした。私はテレビの真ん前に座り、左にはマリア、右側には千野さんという正直気まずい座席配置となり、私は居心地が悪く感じた。
そういえば部屋を真っ暗にしたら千野さんは筆談出来ないけど、ずっと静かに見てるのかな?
そんなことを思っていると、画面にはでかでかと「心霊百八連発・煩悩に呼び起こされた死霊達の姿」という奇妙なタイトルが現れた。
「きゃー、始まりますよ、絶対怖いですよー」
「マリアうるさい」
「何言ってるんですか、今から始まる動画には夢と希望が詰まっているんですよ」
「希望は詰まってないから」
「あっ、始まりましたー」
本編が始まると、どうやら1番から始まり108番に終わる方式で、最期まで見るとなにか不吉なことが起こるかもしれいないという、注意書きの元動画は始まった。
私も少しだけ興味をそそられ見ていると、お約束のような心霊映像から、よくわからない地球外生命体のようなものが出てくるものまで多くの動画が流された。
その間マリアは常に「ひゃ~」とか「きゃ~」とか言いながら叫び周り、千野さんは私の腕の裾を少しつまみ、時折くいっくいっと引っ張りながら動画を鑑賞していた。
あぁ、千野さんかわいい、飼いたい・・・・・・
そうして、適当に流し見しているとちょうど44番目に差し掛かった辺りで、突然私の目の前に先ほどの細目の大男であろう影が私の目の前に座り込んできた。
私はしばらくその大きすぎる背中を眺めていると今度は急に立ち上がり、私の方を向いて歩いて来る、そして私のことなどお構いなしに大男はどんどん私に近づいてくる、ちょっとこのままだとぶつかるっ
「ひぇーーー」
「わわっ、どうしたんですか零さん、まだ叫ぶようなところじゃないですよ」
といったところで、細めの男は立ち止まり、まるで私を気遣ったかのようにどこかへ行ってしまった。
「い、いや、なんでもない」
「零さん、なんだか変ですよ」
また、変って言われた、そりゃ幽霊の見えないマリアに比べたら今この部屋でとんでもないものが見えている私は変なのかもしれない。
「ごめんごめん、私ちょっとトイレに行ってくるね」
「はい分かりました・・・・・・あっ、トイレに言っトイレー」
思い出して言うくらいならはじめから言わないで欲しい。私は部屋を出る前に、マリアの椅子に軽く蹴りを入れると、見事に驚きの声を上げ、その声を聞いた後に私はすかさず部屋を出た。
「大丈夫ですよ夕ちゃん、これはいつものことなんですツンデレなんです」
マリアの言葉に千野さんはゆっくりと頷き、私に向かって頭を下げてきた。この素直な態度にマリアの言葉などに耳を貸すことなく私は千野さんに見とれた。
「それでさ、どうして私はここに呼ばれたの?」
「あ、それはここにいる夕ちゃんが直々に零さんとお会いしたいって言うから連れてきたんですよ」
「え、私に、なんで?」
「理由は分かりませんが・・・・・・どうなんでしょう」
千野さんはペンをとりいそいそと紙に文字を書き始めた。その様子があまりにも新鮮で私は思わず質問したくなった。
「マリア、千野さんは絶対に喋らないの?」
「いえ、喋れないことはないんですけどちょっと深い理由があって」
喋れない理由か、まぁ人それぞれ多種多様に悩みがあると思うけど喋れないっていうのも中々辛いだろう。そんな事を考えていると千野さんはどうやら書き終えたようで私達に紙を見せてきた。
『私と一緒にDVDを見ませんか、お茶もお菓子も用意します』
「「DVD?」」
珍しく息のあった私とマリアは互いに見つめ合い、そして私の方から顔を逸らした
「あっ、そういえば夕ちゃんは132の部員さんでしたね」
マリアは思い出したかのように、手のひらを拳でポンと叩いてそう言った。
「132?」
聞きなれない数字に疑問を抱いているとマリアがどや顔で説明し始めた。
「132というのは知る人ぞ知る隠れたサークルの事ですね、先生ですら知らない人もいるみたいです」
「よくそんなクラブに入れたね」
私がそう聞くと千野さんは俯いて文字を書くことすらしてくれなかった。あれ、私マリアいじめすぎて嫌われちゃった?
「確かいとこのお兄さんが132の会長さんなんですよね」
「あのさ、マリアはなんでそんなに詳しいの?」
「だってここ最近は夕ちゃんとご飯食べたり、一緒に動画を見て楽しんでますから、そしたらいつの間にか仲良くなってたんですよ」
「へ、へぇ」
何ら不思議なことではないけど、マリアがそんな普通の高校生みたいなことをしていることにおどろいた私は少しだけ自分の高校生活を思い返して、妙な気分になった。
「何がですか零さん?」
「べつに、なんでもない」
そんななか再び千野さんが新たな紙を見せてきた。そこには『行きますか?行きませんか?』と二択で書かれており両端にある手の人差し指がピコピコ動いていた。
「そんなの行くに決まってるじゃないですかー」
そう言ってマリアは『行きます』と書かれた方の人差し指を握った、私も千野さんの愛らしい指を握りたいのだが、それだと行かないことになってしまう、どうするべきか・・・・・・
「もちろん零さんも行きますよね」
そういってマリアは私の手を無理やり引っ張ってきた。
「いや、まだ行くとは言ってない」
そう言うと千野さんはまるで「来てくれないんですか?」と言わんばかりの目をしてきて私は行くという選択肢に絞った。
「いかせてもらうよ千野さん」
「もう何ですか、八宝菜にも程がありますよ零さん」
「・・・・・・」
また訳のわからないことを、そう思っていると千野さんがマリアに耳打ちしている。あれ、耳打ちは出来るってことは一応まともに喋ることは出来るんだ。
「は、八方美人ですよっ、零さん」
顔を真赤にしながら私に指を差してくるマリアに、いつの日かの同様に指を掴んで軽くねじ曲げると、教室内にはマリアの断末魔が響き渡った。そして私達は学校の第一棟にあるという132の部屋へと向かう事になった。
私が通う三鷹高校は歴史ある高校だ。
開学当初は、私達一年生のクラスがある第一棟しかなく、年を重ねるごとに2棟3棟と新築し、最近新しく4棟目が出来たらしい。
そこには数多くの部活動を行える教室や、食堂、職員室となっていて、私達一年生は第一棟の教室で日々の学生生活を送っている。
一年生はこの学校の歴史を学ぶために一番古い校舎で学生生活を行う事を校風として定めているらしい、いわゆる伝統というやつらしい。
だけど基本的に生徒たちは古臭く陰気な1棟よりも最新である4棟に行くことが多い。ちなみに私のお気に入りの屋上階段があるのは一棟の端ある。
それにしても、普段一人で歩いている私にとって、廊下を三人で歩いているのがとても気まずくて仕方がない。
しかも、周りの生徒から異様に視線を集めているのがたまらなく耐え難い、だからついつい姿勢を正して遠い目をしながら歩く事しか出来なかった。というより、どうして二人は私を中心にして歩くのだろう?
目的の場所に近づいていっているのか、徐々に人も少なくなっていき、ついに目的地に到着した。周りを見渡すと薄暗く気味の悪い絵画や肌寒さを感じる場所であり、私はなんとなく嫌な予感がした。すると私のカバンの中で何やらごそごそとユダが動き始めていた。
まさか「ナンカオルデ」とか言いださないだろうか?
『着きました』
千野さんは扉の前で振り返りスケッチブックを見せてきた。扉の近くにかけられた木札には「旧書庫」と書かれていた。
「なんか薄暗いし寒い」
「そーですね、今すぐにでも何か出てきそうな気がするんですけど、出てこないのが残念なところなんですよ」
マリア、その言葉が真実であることを私は願うから、絶対に幽霊が出てきませんように、絶対に幽霊が出てきませんように、出てきませんように。
そうして千野さんが旧理科準備室の鉄扉を開けると中は薄暗く少しだけ薬品の匂いが漂ってきた。そして電気をつけるとそこには、たくさんの薬品とホルマリン漬けにされた生き物、そして大量の本棚と本がおかれており、あちこちには段ボールが積み重なっていた。
そして、一番特徴的なのは私の顔を真っ直ぐに見つめる人体模型が二体、男性と女性二種類が揃っていた。書庫だという札のはずなのにほとんど物置になっている様子だった。
「うーん、やっぱりいつ来てもこの匂いは好きになりませんね」
マリアがそう言いながら消臭スプレーを散布させ、千野さんはそのスプレーのせいか、くしゃみをしていた。もちろん、そのくしゃみはかわいいのはもちろん、今すぐ抱きしめたくなるようなものだった。
「ちょっとさ、この部屋汚くない?」
「そうですよね、私としてはもう少しいらないものを捨てて、もっとこうフワーッとした感じでいい匂いとかして、華やかな感じにしたいんですけど、会長さんの許可を得ないといけないんですよね」
「その会長さんとやらは?」
「それが私も会ったことがないんです、夕ちゃん知ってますか?」
『知りません』
首振ったらいいだけなのに、すっかり筆談に慣れちゃってるんじゃないかな千野さん?
「夕ちゃんも知らないとなると、どうしようもないですね」
「それならそれで、気兼ねなくここにいられるから個人的には嬉しいけど」
正直な所、先輩がいると気を使わなきゃいけない性分だから、いないのは助かる。
「それもそうですね、じゃあ早速ホラー動画でも見ましょうか」
千野さんは、何やらいそいそいそとダンボールの中を漁っている。どうやら中に沢山のDVDが入っているようだ。そうして、私は近くにおいてあるパイプ椅子に腰掛けようとした時、カバンの中からヘビが飛び出してきて、私の首元からシャツの中に侵入してきた。
「わぁっ」
この野郎、こいつは一体何がしたいんだ?そんなことを思っていると私の奇声に驚いたであろう二人が私をじっと見つめてきていた。
「零さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとストレッチでもしようかと」
私はごまかすかのように、わずかに声を上げながら体を伸ばすふりをした。
「大声上げながらするストレッチなんて初めてみましたよ、変な人ですねぇ」
くそ、変な奴に変って言われた。そうして、私の姿を見て呆れるマリアとは対照的に、千野さんはとてもキラキラとした目で私を見つめてきていた。
そんな視線に思わず顔をそらし、たまたま目に入った人体模型(女)を見ていると、その影に隠れ切れていない細目の大柄な男がいるのに気づいた。
そいつは、私の姿を見ながらクスクスと口元に手を当てながら笑っていた。
「ひぃぁっ」
「こ、今度は何ですか零さん、大きな声を出さないでくださいっ」
私はすぐに後ずさり、一度目をこすった後、そしてもう一度人体模型(女)の方を見るとやっぱり細目の大男がクスクスと笑っていた。
「何も見えない何も見えない・・・・・・」
「零さん、どうしたんですか、しっかりして下さい」
マリアが私の肩を掴みゆさゆさと身体を揺らしてくる。
「マリア、あの人体模型、あれどう思う」
「人体模型?そうですね人体模型です男性と女性でまるでカップルみたいですね」
「だ、だよね」
マリアも千野さんも、双子のようにきょろきょろと辺りを見渡すだけであの大男について触れようともしていない。間違いない絶対幽霊だ、相手に気づかれないように無視しないとまた面倒事に巻き込まれてしまう。
「あ、ほら動画見るんでしょ?」
「はいそれは勿論見ますけど、なんだか今日の零さんはハイテンションですね」
そして、私達は教室の電気を消し、真っ暗の部屋でホラー動画を見ることにした。私はテレビの真ん前に座り、左にはマリア、右側には千野さんという正直気まずい座席配置となり、私は居心地が悪く感じた。
そういえば部屋を真っ暗にしたら千野さんは筆談出来ないけど、ずっと静かに見てるのかな?
そんなことを思っていると、画面にはでかでかと「心霊百八連発・煩悩に呼び起こされた死霊達の姿」という奇妙なタイトルが現れた。
「きゃー、始まりますよ、絶対怖いですよー」
「マリアうるさい」
「何言ってるんですか、今から始まる動画には夢と希望が詰まっているんですよ」
「希望は詰まってないから」
「あっ、始まりましたー」
本編が始まると、どうやら1番から始まり108番に終わる方式で、最期まで見るとなにか不吉なことが起こるかもしれいないという、注意書きの元動画は始まった。
私も少しだけ興味をそそられ見ていると、お約束のような心霊映像から、よくわからない地球外生命体のようなものが出てくるものまで多くの動画が流された。
その間マリアは常に「ひゃ~」とか「きゃ~」とか言いながら叫び周り、千野さんは私の腕の裾を少しつまみ、時折くいっくいっと引っ張りながら動画を鑑賞していた。
あぁ、千野さんかわいい、飼いたい・・・・・・
そうして、適当に流し見しているとちょうど44番目に差し掛かった辺りで、突然私の目の前に先ほどの細目の大男であろう影が私の目の前に座り込んできた。
私はしばらくその大きすぎる背中を眺めていると今度は急に立ち上がり、私の方を向いて歩いて来る、そして私のことなどお構いなしに大男はどんどん私に近づいてくる、ちょっとこのままだとぶつかるっ
「ひぇーーー」
「わわっ、どうしたんですか零さん、まだ叫ぶようなところじゃないですよ」
といったところで、細めの男は立ち止まり、まるで私を気遣ったかのようにどこかへ行ってしまった。
「い、いや、なんでもない」
「零さん、なんだか変ですよ」
また、変って言われた、そりゃ幽霊の見えないマリアに比べたら今この部屋でとんでもないものが見えている私は変なのかもしれない。
「ごめんごめん、私ちょっとトイレに行ってくるね」
「はい分かりました・・・・・・あっ、トイレに言っトイレー」
思い出して言うくらいならはじめから言わないで欲しい。私は部屋を出る前に、マリアの椅子に軽く蹴りを入れると、見事に驚きの声を上げ、その声を聞いた後に私はすかさず部屋を出た。
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