ルーン・マスター~地味な女が美女になって世界を育成しちゃいます!(モテてはいるがこんなの望んでるのと違う)

桐一葉

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「……あんたを野放しにしていたら、ろくなことにならなさそうね?!」
「そんな、野放しなんて。……僕の心は、常に愛するあなたの側にあるというのに……」
「クサイ台詞を平然と吐くなーーーっっ!!!」



 賢者に思いきり叫ぶが、手を出すことはしない。なぜなら、アレスを後ろに庇いながら戦うのは不利だからだ。アレスを見捨てれば、勝てる自信はあるだろうが……それが出来るはずもなく。



「魔法でさっさと仕留めたいのだけれど……せめてあたしの精神世界なら良かったのに!」
「それを見越しての登場さ。あなたは優しいから、ここではそうそう暴れられないと思ってね」



 ここはアレスの精神世界だから、魔法は使えない。何かあっては、アレスの精神にダメージを負ってしまうからだ。ゆえに、武術で攻撃をしようかディーヴァは本気で悩んでいた。ディーヴァの武術の腕前は、時間を相当にかけている分、最強の強さを誇っている。だから、何かしら賢者に出来ると思うのだが……いかんせん、後ろに守らなければならない存在がいる限り、それも出来ない。ディーヴァは嵐でも起こせそうな、何度目になるかわからない深い深いため息を吐きだした。



「あたしに一発だけ殴られて、さっさと消えてくれない?」
「痛いのは嫌なんだ、体が傷つくのも嫌いだよ」
「それはあたしも同意見だけど、あんたに一発入れなきゃどうしても気が済まない!!」
「それは嫌だなぁ」



 賢者は指で口元を押さえ、笑いをこらえるフリをする。元々、本気で笑ってなどいないくせに笑っているように見せていることが腹立たしいと、ディーヴァのイライラは増す一方だった。だから余計に、やけに刺々しい言い方になってしまう。



「なら、さっさとあたしの目の前から消えて」
「つれないなぁ、どうしてそんなに冷たいんだい?」
「――――マーレを目覚めさせたの、あんたでしょう?」



 冷めた瞳を賢者に向け、軽蔑の眼差しは身震いを起こさせる。そんなディーヴァに、いやに優しい微笑みを賢者は向けた。



「知ってたんだ?」
「マーレにあの封印が解けるはずがない。あんたが解いたんでしょう?」
「まぁね。時間はかかったけど、僕でもなんとか解けたよ」
「姑息な真似をっ……!」
「戦略の一つさ、堂々とした……ね。何一つ、姑息な真似なんてしていないよ」



 今回の事件の発端は、目の前のこの男。こいつがマーレを目覚めさせた。あの悲劇が生まれた原因なのだ。



「よくもぬけぬけと、あたしを前にして言えたものね!?」
「そんなに怒ることをしたかな?……僕はただ、封印を解いただけなのに……」



 感情がこもっていない抑揚のない声で、賢者はそう言った。マーレが死んだことは、怒ることではない。賢者は、そう言ったのだ。思わず歯ぎしりしながら、ジリジリ賢者との間合いを詰めていく。



「あたしが言えた義理じゃないけれど、もっと穏便に事を運ぶつもりでいたのよね。……あんたが封印を解かなければ、事件は起きなかった」
「僕が解かずとも、いずれは勝手に解けていたんだし……」
「事件が起きなければ、あたしはマーレを殺さずに済んだ。死なせたくなかった、本当に」



 しみじみと呟き、やはりまだ悔やまれてならないのだと、ディーヴァの言葉の端々で感じとる。死なせたくなくて、生きていてほしくて……幸せになってほしかった。手にかけた者が言える立場ではないだろうが、それでも。あんな結果は悲しすぎた。



「あなたが殺さなければ、他の奴が殺していたよ。……それとも、下卑た奴らの手にかかって死んだ方が良かったのかな?むごい殺され方をして、まるで汚いゴミのようにそこらの道に打ち捨てられて――――」
「口を開くな」



 それは、目にも止まらぬ出来事だった。一瞬の内に賢者の懐に移動して、全ての力を込めて腹に渾身の一撃を食らわした。賢者は遠くまでぶっ飛び、地面に派手に体を打ち付ける。大きく咳き込み口から大量の血を吐いてしまう。それを手で拭いながら、苦笑いでディーヴァに言った。



「ゴホッ……ひどいな。これだと、肋骨が何本か折れたよ?」
「全身くまなく粉砕してあげるわよ」



 型を構え、アレスがいることも忘れ攻撃に移ろうとする。しかし、鈍い音のする咳を吐きながら賢者は起き上がり、ひどく悲しげな目を見せた。



「……僕にはあなたしかいないのに」
「……?何を、」
『僕には、あなただけなのに』
「っつ!!?」



 賢者の体はまだ動けない。だから唯一、自由に動かせる髪の毛を伸ばしそれがディーヴァに襲いかかる。キラキラ光る銀が織り込まれたような水色の髪が、賢者が動くと同時にディーヴァの手に絡みついた。両手の自由を奪われ、なんとか髪をほどこうとするもサラサラ過ぎて上手くほどけない。ひきちぎろうとしても、強くしなやかな髪はそうそう切れずにディーヴァを縛る。



「このっ……!!」
「あのままで良かったとは思わないよ。だって、あの女はたった一つの想いに縛られてがんじがらめだった。いくら時を費やそうとも、忘れられるはずがない」



 ディーヴァに絡みついた髪の毛は、賢者から切り離され太くて頑丈な鎖に変化する。その隙に起き上がり、口の端から流れる血を拭いながらまたゆっくりと、ディーヴァの元まで歩いて向かう。



「哀れな娘だ。一途に一人の男に恋焦がれ、それは実らず、暴走した。海で作られる渦潮のように、周りを巻き込み自らも巻き込んで。やがて深く暗い海の底に引きずられるとも知らず、それをわからず。呪いを成就させる為にその身全てを賭け……そして死んだ。あっけなく、何を思うでも思われるでもなく……」



 血の付いた指を、ディーヴァの頬に伸ばす。肌の表面の、目の下から顎下にかけて自分の血をなすりつけるように、白魚の指を動かした。



「簡単に死んだ。犬死にだよね」



 顔を覗きこむ賢者の空色の瞳は、綺麗にディーヴァの顔を映す。先程まで見せていた怒りの表情を通り越して、もう、無表情になっていた。その間、アレスはというと。ディーヴァたちの遥か後ろにある岩影に、ずっと避難していた。どうにか出来ないのであれば、せめて邪魔にならない場所にいようと思ったのだ。……だが、近くにいても離れていても同じなのだと気づいてしまう。離れた場所からでもわかる、ディーヴァの立ち上る超越ちょうえつされた『気』が目に見えるほどだった。声が出せない、体が動かない。ディーヴァが身震いするほど美しい、恐ろしい顔を見せたからだ。



「――――言いたいことは、それだけかしら……?」
「ハハ!いいね、いいねぇ!!強い者は好きだよ、美しい者も好きだ。なかでも、怒った顔が何にも増して美しい者が何よりも愛とおしい……。あなたぐらいのものだよ、これだけ兼ね備えている存在は!」



 今度は両腕を首に絡め、顔をさらに寄せる。唇と唇が触れる瞬間――――――



「ふんっっ!!!!」
「いっ!!?」



 ゴッ!!!……という鈍い音が、まるで鐘を鳴らしたかのように辺りに響いた。突然のことで驚く暇もなかったが……ディーヴァが、賢者に頭突きしたのだ。それはもう盛大に、力強く、容赦なく。体が思うように動けないから、動ける場所で攻撃したのだ。よろめきながら額を押さえて、ディーヴァから距離を取る為に後退する。その間に、力を加えて巻きつけられていた鎖をようやくひきちぎった。



「~~~っ!!酷いなぁ、いきなり頭突きはないんじゃないか!?」
「黙りなさい。あんたの話はもう聞きたくないわ、耳が腐る」
「酷っ!……僕は本当のことしか言っていないのに」
「忘れられなくても、昇華出来るはずだったのよ!!あの壺の中で百年過ごせば、黒く染まった心を浄化出来るはずだった!マーレはそんなことを望んでいなかったのは知っていた、わかってる!だけど!!……っ、あの娘を愛している家族のことを考えれば……そうするしか、ないでしょう?」



 マルガレーテは、マーレが死んで良かったと言った。これで良かったのだと。だがそれは嘘だ、本当のはずがない。愛していたのだ、最愛の娘だったから。



「赤の他人がかき回していいはずがない。ましてや、あんたのような下劣な奴が手を加えていいはずがないでしょうがっ!!」
「だけど、あの女は僕の手を取った」
「取る以外の選択肢がなかったからよ!」
「でも結局、決めたのは本人の意思だ。個人の意思は最も大切なもので、尊重されるべきものだと僕は思うけど?」
「歪められ、捻められた意思など意思ではない」



 そこへ、ずっと隠れていたアレスがいきなりディーヴァの隣に並んだ。するりと会話に入ってきたことにも多少なりとも驚いたが、なにより恐い存在二人を前にして堂々とした態度を取っていることが一番の驚きだった。



「おやおや、せっかくの彼女との語らいに不粋な男が割り込んできたものだ」



 賢者はやれやれといった風に、アレスのことを邪険にし相手にしたくない態度を取った。だが、ここで後には引けない。アレスは話を続けた。



「俺の父がやったことは、人として以前に同じ男として、許せないことだ」
「わかっているじゃないか。女二人を天秤にかけて、玩んで片方を捨てた。酷い男だよね」



 言い方は悪いが、事実は事実なので言い返すことは出来ない。ディーヴァは大人しく見守っているし、アレスもそのことでは言い返せない。それでも、話を途切れさせることはせずアレスは口を開いた。



「……マーレを、憐れに思う。事情を知った今なら、あれほどのことをしたのにも納得が出来るんだ。だが!その憐れな女を救う機会を奪った、お前は誰よりも上を行く悪党だ!!!」



 一つの命が、懸命に生きていく権利を奪った。それは、赦しがたい罪。赦されざる悪行。アレスがそれを高らかに宣言したのを見届ければ、ディーヴァはこらえきれずに大声で笑いだした。



「あくっ、悪党!ククッ、単純過ぎて逆に言えなかった言葉だわ!!アハハッ!おかしい~!!」











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