ルーン・マスター~地味な女が美女になって世界を育成しちゃいます!(モテてはいるがこんなの望んでるのと違う)

桐一葉

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56~ラウフ

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 美しい人は、性別を超える。そんな言葉が頭をよぎり、エミリエンヌは遠のきそうになった意識を無理やり引き留めた。そしてイチゴジャムをたっぷり塗った、パンにかぶりつく。

 本当なら、こんな食べ方は行儀が悪いことなのだが。時間が惜しいゆえに、食事に手間をかけてはいられない。喉に詰まらせないように、食事を口の中に入れていき最後に別に用意されていた、新鮮な牛乳をイッキ飲みする。

 ディーヴァが思わず、慌ててしまうほどの勢いだった。それでも残さず食べきったところは、素直にすごいと褒めた。食器を片付けそのまま洗おうとしたので、いつの間にか食事を終えていたディーヴァが、すぐ側までやってきてエミリエンヌから食器を奪うようにして洗いはじめた。



「朝食を作ってもらったんだから、これくらいはさせてよ」
「泊めてもらったお礼なんだから、これくらいはさせてよ」



 おうむ返しで答えるディーヴァに、腹が立つと思うわけでもなく……親しくなったような気がして、嬉しく思った。せめて食器をふこうと台を持ってきて、隣に並ぶ。エミリエンヌから何も言われなくても、意図を察し無言のまま食器を渡す。それを繰り返し、ようやく全部が片付いた。



「綺麗に片付いたわね。ところで……ディーヴァは明後日までどうするの?何か予定はある?」
「特にはないけれど、オークションや美術館巡りはしたいと思っていたの」
「今日一日で!?」
「無理かしら?」
「今はオークションのシーズンだから、それこそ数えきれないくらい開催されているわよ?」
「そんな上品なものじゃなくてもいいのよ。市ならどうかしら?美術館は、明後日まで待つことにするわ」



 市、と言われて考えてみた。この近くで開かれているところと言えば、ソレーユ広場の骨董市くらいだ。それ以外ではあまりにも距離が遠すぎるか、レベルの低いオモチャや落書き程度の物しか置いていない。欲を言うなら、ディーヴァがあっと驚くようなところがいい。そう考えたら、やはりソレーユ広場しかないと思った。



「すぐ近くの広場で開かれている、骨董市なんてどうかしら?あそこなら広場の敷地いっぱいに店があるし、品揃えもなかなかよ」
「なら、そこにしようかしら。案内してくれる?」
「いいわよ。仕方ないわね」



 そう言うわりには、顔が嬉しそうだった。誰かと朝食を食べた後に、こうして一緒に出かけることも初めてで。ディーヴァと出会ってから、初めて尽くしのフルコースで、忙しくも楽しさを感じていた。

 期待と、喜び。その二つが胸の中いっぱいに広がって、はち切れんばかりだ。それゆえに、レネットに置いていた外出着に素早く着替える。――――と言っても、適当な服を着ることはオシャレと言われたばかりのディーヴァが許さなかった。

 数少ない外出着の中から、ディーヴァが選んだエミリエンヌの洋服。首回りから袖にかけてが真っ白の布で、細い黒のリボンを首に結ぶ。そして胸元から下は、赤のタータンチェックのワンピースで、裾には黒のフリルが彩られていて、大きく広がっている仕様だ。脚には白のタイツを履き、足先が丸い艶のある黒い靴を履いた。

 最後に、エミリエンヌの綺麗な金の髪をブラシでとかし、ふわふわに仕上げる。そして、黒の太めのリボンが巻かれている、タータンチェックのベレー帽を被って完成だ。



「買ったはいいけれど、ずっと着ていなかった服だから……。正直、サイズ的に着れるかどうか不安だったの」



 子供はすぐに大きくなる。気に入って買っても、しばらく着なかったらもう着れなくなった、ということもザラだった。だが、エミリエンヌはまだ運に見放されていないらしい。だってこんなに似合うのだから!!



「可愛いわ~!やっぱり、女の子っていい!着飾り甲斐があるし、華やかで……素敵だわ~」



 うっとりと、エミリエンヌを見つめる。そのせいで、照れくさそうに下にうつむくが、それすらも可愛すぎて悶絶ものだった。



「あたしも、エミーと同じタータンチェックの服を着ようかしら……」
「今から出かけるんだから、買いに行ってたら市に間に合わないでしょう?……それに、疑問に思っていたのだけれど今着ている服もどこから――――」
「ならせめて、タータンチェックのショールを身につける!ちょっと待っててね?取ってくるから!!」
「あっ、ちょっと!」



 色々突っ込まれては面倒なので、スルースキルを生かし、ディーヴァは『逃げる』の選択肢を選んだ。ディーヴァに逃げられ、行き場の失った手を下ろして一緒に買っておいた、大きな黒のリボンが特徴的な手提げカバンに、必要な物を入れておく。

 そうこうしている内に、ディーヴァが言っていた通りのショールを身につけて帰ってきた。本当にどこから用意しているのかと、不思議に思いつつもあえてツッコミはしない。どうせ適当に、はぐらかされるに決まっているからだ。



「それじゃあ、出かけましょうか。……それと、お店は休みなの?」
「えぇ。オークションが終わるまでは、休むことにしたの。それに意外と近いから、早く着くわよ」
「楽しみね!何を買おうかしら~?」
「さすがに見るだけじゃないのね」
「当然。欲しい物があったら、お金を惜しまず手に入れるわ!あたしが満足する品物と、出会えたらいいのだけれど……」



 これを機に、新しいコレクションを増やしたいと思っていたので、ちょうどいい。そろそろコレクションの整理もしたいし、一度コレクションを所蔵している、城に行くのもいいだろう。……もし、叶うことなら。



「ディーヴァ?」



 エミリエンヌを、連れていきたい。世界の名だたる美しい名所や、自分の自慢のコレクションを見せてあげたい。たくさんの余りある愛情を注ぎ、磨きあげ、美しい大人の女性へと、成長させてやりたかった。



「ねぇ、ディーヴァったら!」
「叶わぬ恋、はよく聞くけれど……これはどういうものなのかしらね」
「え?」



 自分を好きに、愛した者には決して平穏は訪れない。それがわかっていながら、どうして自分という存在を無視出来ないのか。あえて近づきたがるのか、……ディーヴァは納得は出来たが、理解はしたくなかった。

 だからいつも『誰か』と出会う度に、こう言った。



『あたしは『異常』なの。好かれ過ぎたいとは思わない、あなたに嫌われていることがとても嬉しい。あたしはおかしいのよ……だから、“あたしを、嫌い続けてね”』



 実際、そう言って牽制しておけば深く関わってくる者は、少ないとは言えなかった。それでも、言わないよりはマシと何度も何回でも言い続ける。これから先、ずっと。

 永遠にも等しい時間の中で、ディーヴァは『他人』を拒み続ける。それは、エミリエンヌも例外ではない。しかし――――好き嫌いは別問題として。このまま放っておくのは、あまりにも無責任な気がしてならなかった。まだ小さな子供ゆえに、見離せない。



「ねぇ、エミー」
「何?」



 レネットから出て、広場に向かう途中。色とりどりの落ち葉が、たくさん舞い落ちる美しい景色の中で。口元だけが笑っているように見える、恐ろしげなディーヴァがそこにはいた。エミリエンヌは、まだそのことに気づいていない。



「今、幸せ?」
「え……?」
「それとも、自分は不幸だと思う?」



 家族に恵まれず、大切な人はその家族に奪われた。自分のお店を持てたが、それもバレれば父親に奪われかねない。こんなどん底の中で、本当に幸せなのか。



「幸せ、ではないわね……」
「なら――――」
「でも、不幸でもないわ。絵を落札出来るか、まだわからないからなんとも言い様がないけれど。それでも、まだ何も終わっていないわ」
「けど~俺との愛の歴史は、もう始まってるよな~?エミー」



 その声が聞こえた途端に、猫が全身の毛を全て逆立てたような、大げさ過ぎる驚き方をしたエミリエンヌ。すると、声の主は背後からガバッと抱きしめるように覆いかぶさり、エミリエンヌの小さな耳の穴に、息を吹きかけた。



「こんな朝早くから、こんなところで会えるなんて……やっぱり俺たちって、深~い結びつきがあるみ・た・い」
「気持ち悪いのよ!!この変態がーーーっっ!!!」



 勢いよく後ろを振り返り、自慢の小さな足で主に男にとっての、攻撃されてはたまらない急所を蹴りあげた。やはり、見所がある。ディーヴァは嬉しそうに微笑んだ。



「ラウフ!!いい加減、私に付きまとうのは止めてって言っているでしょう!?いつもいつも抱きついたり、人前で大声で名前を叫んだりっ……!!嫌がらせ以外の何物でもないわ!!!」
「エミーへの~愛ゆえに?」
「嫌がらせにしか思えないのよ!!」
「……誰?」



 ヘラヘラ笑う、遊び人風の男。エミリエンヌは嫌そうに顔を歪めているが、かなり親しい仲のようで。急所を攻撃されても、まだ抱きつこうとする辺りその親密さが伺えた。



「紹介したくない!この男と知り合いと思われるだけで、不愉快極まりないわ!!」
「初めまして~?俺はラウフ。エミーは俺の雇い主で、最高に俺好みの足の持ち主でもある」
「だから!気持ちが悪いことを言わないでと……!!」
「雇い主?」



 ディーヴァは首をかしげ、エミリエンヌは頭を抱えラウフと呼ばれた男は、ご機嫌の様子だ。驚くほどの美貌の持ち主というわけではないので、特別目を引くことはないが……。充分に顔は整っている方だと言えた。

 明るい茶色の髪を、後ろでちょこんと結び目は狐のように細い。白い長袖のシャツに、下は黒のレザーパンツを履いている。銀のアクセサリーをじゃらじゃら身につけて、完璧に見た目はチャラい。上から下まで、お嬢様の格好で統一されたエミリエンヌには、見た目も年齢でさえ不釣り合いに見えた。

 歳は、二十代半ばほどに見える。エミリエンヌとのあまりの身長差に、そこはかとない背徳感を生み出していた。



「俺は~エミーの店の品物を、配達する部署のまとめ役なんだ。もう、二年の付き合いになるよな~?」
「この男、ふらふらしてて頼りなさげな感じなのに!腕は立つし、なかなか頭は切れるしで、解雇したくても出来ない腹立たしい男なの!!」
「エミーは優しいからな~」
「最高の足の持ち主というのは?」
「そこには触れないで!!」



 嫌がるエミリエンヌの口を、後ろからふさぐ。笑った顔を崩さないどころか、さらに輝きが増した笑顔で、嬉しそうに告げた。



「俺ね~足フェチ、なんだよね」
「は?」
「んー!んー!!」
「エミーの、ちっちゃくてー形の良いこの足に、色々感じちゃってるんだ~!」



 エミリエンヌの足に、手を伸ばそうとするも手酷く叩かれてしまう。それすらも笑って、嬉しそうにしているのだからもはや手に終えない。だが、とても微笑ましかった。
















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