偉ぶり神様幼女伝

桐一葉

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幼女が突然やって来た!

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 ある日俺が学校から家に帰ると。


「おかえりお兄ちゃん♡」


 見知らぬ幼女が俺を玄関で出迎え、親しげにお兄ちゃんと呼んだ件について。
ご機嫌ニコニコ顔で同じく俺を出迎えた両親とじっくり話し合いたいと思う。





◆◆◆◆◆◆◆◆





「で、どこの子なんだよ」
「すっごく可愛かったから養女にした」
「パパだいちゅき!って言われて陥落した」
「大人として俺の親としてもう少し警戒心持って!?どこの誰かもわからん子供を簡単に養女にするな!!」


 いい歳して唇を尖らせて不機嫌な顔を見せる両親に、一人息子であるアキラはため息を吐きだしながらその場に力なく座りこんだ。

 今年高校に入学したばかりのアキラの家は、金持ちの名家である。
物心ついた頃からアキラは誘拐されたことが両手で数え切れないほどあったし、金目的で仲良くしようと近づいてきた人間もたくさんいた。

 中には家の前に捨て子する奴も現れて、迎えに来ないやつもいたが中にはアキラの両親が子供欲しさに誘拐したと騒ぎたてるやつもいて。
要は示談金欲しさの捨て子騒ぎを起こしたのだ。

  そういう場合は念には念を入れて設置していた防犯カメラが役に立つ。
我が子を捨てるところがバッチリ映っていたので、母親は諸々の余罪で警察に。
子供は養護施設行きになった。

  幼いながらにアキラは思ったものである。
こんなことで、警察に捕まる母親を持ったあの子供が可哀想だと。
まだ物心もつかない赤ん坊だったとしても。
くちさがない大人たちや、その大人たちから話を聞いた意地悪な同年代の子供たちから話を聞くだろう。
そのせいで人生が狂わされるかもしれない。

  そこまで考えて、アキラは自分の母親に呼ばれすぐに事件に関して忘れてしまった。
子供のアキラでは何も出来ることはないし、考えたって仕方ないことなのである。

 しかしそのアキラも十五になり、頼りにならない両親に代わり色々生臭い部分も見なければならなくなってしまった。

 今回、両親が養女にしたとのたまった少女は5歳くらいに見える。
自分の名前は言えるだろうし、賢ければ親の名前や住んでいた場所も言えるだろう。
騒ぎになる前に詳しく事情を聞いて警察に届けた方がいい。
そう判断して、両親から少女を預かろうと手を伸ばした時だった。


「明(アキラ)」


 名前を呼んだのは、あきらかに両親じゃなかった。
艶めいた大人の女性の声で、母親の明るく優しい声音では断じてない。
威圧感すら感じる高圧的な声は、もう一度アキラの名前を言った。


「お前は存外賢いやつだな。この父母のように、幼い子供に対して無条件に警戒心を持たないような阿呆ではない」
「・・・もしかしなくても今の全部君が喋ってる?」
「大人ぶって話していると思わないところも良いな。やはりこの家にして良かった」
「お前・・・『何』だ?」


 およそ小さな子供が決して見せはしない弧を描く歪んだ口元に、アキラは釘付けになった。
両親は何を招き入れた?昔から子供の自分以上に動物を拾ってきては飼っていたが、これはそんな生易しいものじゃない。
ついに手に負えない得体のしれないものを連れ帰ってきた。

 今はまだ春先で、運動さえしなければ肌寒いくらいなのに冷や汗がとめどなく流れ玄関の床にどんどん染みを作っていく。
それを目の当たりにした少女は、着ている黒い着物の裾で口元を隠したかと思えば目を細め明をジッと見つめた。


「そう怯えるな。何もお前たちをとって食おうという訳ではない」
「無茶言うなっ・・・!お前、なんなんだよ!?父さんと母さんに何をした?!」


 先ほどから虚ろな目をしてまったく動かない両親に、異常事態が起こっているんだと気づいたアキラは事情を知っているであろう少女に尋ねた。
だが、少女は眉一つ動かさず冷めた目でアキラを見つめ続けるばかりだ。
そして息を一つ吐き出すと、目線だけを動かし背後にいる両親に視線を向けた。


「この二人には暗示をかけ、今は意識を奪っている。直立不動のまま意識を奪ったのは、床に倒してしまえば打ちどころが悪かった場合怪我をするかもしくはそれが起因で病になると思ったからだ。・・・人間はひどく脆いものだろう?」
「なんの為にこんなことしてんだよ!?」
「協力者が欲しくてな」


 今度は小さな白い歯を覗かせ無邪気な笑顔を見せるが、アキラにしてみれば不気味で仕方がなかった。
いきなり両親の命を握った少女が、協力者が欲しいと言う。
自分が何者なのかも言わず、恐怖しか与えない。

 それを正直に言ってしまいたかったが、言ったが最後人質の両親がどうなるかわからない。
だからアキラは協力者、という点に的を絞って聞き返した。


「協力者って?」
「うむ、まずは我について教えてやろう。・・・その前に、この者たちは寝室にでも下がらせよう。人間はただ立っているだけで疲弊する生き物だからな」


 それから少女がアキラが聞き取れない言葉を呟けば、両親はゆっくりと寝室に向かってあるき出した。
まるでゲームに出てくるゾンビのような動きを見せるので、アキラはあからさまに心配したが少女は何度も『何も案ずることはない』というので今はその言葉を信じるしかない。

 リビングに向かう少女の後をついて行って、茶を淹れろと言われたので言われるがままに冷蔵庫の中からお茶のペットボトルを取り出した。


「貴様、我に捧げる飲み物がそれでいいと思っているのか?下手なりに茶葉から淹れるのがせめてもの礼儀であろうが」
「下手だからこそ初めから上手に作られてるお茶を出そうとしてるんだろ。それに熱いお茶だと舌火傷するぞ?」
「我は熱い茶が好みなのだ!急須で淹れよ、玉露が良い!!」
「ワガママ幼女か!いくら美少女だからってなぁ、俺の親を人質にしてるくせにっ・・・」


 秘技、ブリっ子ポーズ!!


「お兄ちゃん、私お菓子も欲しいな♡」
「あーーーー!!!!ちくしょう可愛い!!なんだよそのあざと可愛い顔は!!!目はぱっちり二重で色白で桃色ぷっくりな唇が最高のバランスで可愛い!!!!」


 アキラはそれこそ神がかり的な速さで湯を沸かし玉露の茶を淹れ、母親が買っておいた季節の和菓子も沿えて少女に出した。
すると無邪気な笑顔で『ありがとうお兄ちゃん!』と言うので、アキラはすっかり少女に完堕ちする。
両親が冒頭でメロメロになっていたわけだ、これは抗えない魅力天元突破だ。

 先ほどまでのことを考えると、苦悩による腹の底からの唸るうめき声が出てくるが。
我かんせずと和菓子を頬張る少女を見て、少し冷静さを取り戻した。


「親といい貴様といい、単純すぎるやつらよ。相手が我でなければ、今頃この屋敷中が血で染まっていたぞ」
「怖いこと言うな!」
「しかし、さすがに金を持て余しているだけのことはあるな。敷地の広さもさることながら、ここの警備システムでは下手な強盗などは敷地内に入ることすら出来ぬぞ」
「・・・警備に関しては、金を惜しんでないからな。両親が捨て犬拾いまくってきたおかげで、番犬は十分過ぎるほどいるし」
「離れの小さな屋敷は、猫専用の建物だと聞いたぞ?博愛主義な親を持つと、それだけしっかり者に成長するわけだ」
「俺たち家族のことはいいから!お前のことをいい加減話せよ」
「せっかちは女を遠ざけるぞ?」


 その言葉に心当たりがあったのか、アキラは胸を押さえ小さなうめき声を上げる。
意地悪くニヤニヤ笑う少女に居心地の悪さを感じていると、ようやく事情を話しはじめた。


「我は遥か昔より存在する八百万の神の一柱である、冴津那螢之比女さえつなほたるのひめだ。うやうやしく様を付け崇め奉ることを許す」
「なるほど確かに神様級に偉そうだ」
「実際に偉いのだ」


 まだ湯気の立つ茶を飲みながらどこか遠くを見つめる螢は、確かに神秘性が強い儚さや美しさを宿した雰囲気を持っている。
先ほど見せた能力も、無理やりこじつければ超能力と言えなくもないが纏う空気が人間ではないと告げていた。

   神様なんてものは朧気でしか考えたことがなかったアキラにとって、初めて見た神様が恐ろしい空気を纏った恐ろしく可愛い幼女だった・・・なんて。
ネタ話にもなりゃしないな、などと考えながら質問を続けた。


「神様がこんなところでどうしたんだよ。家?御社?とかがあるんじゃねーの」
「そんなものはない。我は一つ所に留まらずとも、信仰も尊敬も集められる。・・・が、不測の事態が起きたのだ」
「ママに怒られて家に帰れないのか?」


 必殺・この世の全ての闇を押しつける突き!!・・・という名の目潰しがアキラを襲った。
が、やはり幼女の腕ではギリギリ届かず螢は幼女らしからぬ顔で舌打ちする。
変な体勢で避けたからか、アキラは腰から鈍い音が聞こえたが螢の冷めた視線を感じて起き上がりながら叫んだ。


「何するんだよ!?」
「いちいち話の腰を折るたわけに制裁をくだしたまでよ」
「シリアスは苦手なんだよ。つーか嫌いなんだ」
「どう受けとめるかは貴様次第だ。不測の事態というのは、我の身体が有象無象共に喰われたのだ」
「グロイのも嫌いなんだよ!!」


 ギャーギャー騒ぐアキラを尻目に、螢は話を続ける。
いわく、考えるのも億劫なほど永く生きていた螢はある日うたた寝をしていたそうだ。
寝ることも食べることも必要ない身体だったが、あまりにも暇だったので『眠る』という行為をやってみようと思い立ったらしい。
すると驚くほど深い眠りに落ちたかと思えば、目が覚めた時にはもう今の身体だったのだという。


「・・・・・なにやってんの?」
「不可抗力だ」
「なんで身体喰われたのに生きてんだよ」


   何に喰われたかは知らないが、いくら神だろうと身体を失えばさすがに死ぬはずだ。
そこは神様パワーでどうにかしたのだとしても、普通の人間の価値観で生きてきたアキラには何もかもがわからないことだらけだった。


「我の身体の端々はなんとか喰えたようだが、内に近い臓器などは我の力が強く奴らにとっては猛毒になるので喰えなかったようだ」
「身体の端でも毒になるってことだろ?よく喰えたな」
「・・・我と同じ神が加担していたようなのだ、ゆえに我の一部でも食めたのよ。忌々しい」


 茶を啜りながら、怒りを滲ませた瞳を爛々と輝かせながら乱暴に和菓子を食べる。
そしてもう一度茶を飲んだところで、今度は射抜くようにアキラを見た。


「我は我の所有物を奪ったものを許さぬ。加担した者も許さぬ。ゆえに、奴らから奪われた物を奪い返す為にどちらにも属さぬ上に適度に金を持ち合わせお人好しだが頭の回転が早い人間が住まうこの家を滞在場所に決めたのだ」
「勝手すぎだろー」


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