愛情探偵の報告書

雪月 瑠璃

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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第2話

scene3 探偵の暴走

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 僕足りは目的であった中小の購入を止めて、リムジンに戻った。ちょうど『まんぷく』を出たあたりで菊野さんから『昼食のご用意ができておりますが、ぜひ一度お戻りになられたらいかがでしょうか』というメールがあったからだ。狼夜のときに大金を使ってしまったので、嬉しい誘いだった。
 僕は大川さんに屋敷に戻るように伝え、一旦昼休みをとることにした。

 屋敷ではたくさんのメイドさんが僕と大川さんを出迎えた。まるで韓流スターにでもなった気分だった。僕の帰還をどこから聞きつけたのか、手を振ったり、歓喜の声をあげたり、明らかにメイドの職務を超えた出迎えをされた。戸惑ったが、何もしてあげないのは可哀想だったから、軽く手を振って通り過ぎた。
 建物に入ると、燕尾服の使用人ばかりが仕事をしていた。メイドたちが外にいたせいで、中は男だらけらしい。
 さて、僕は昼食を食べるという用事で帰ってきたので、ダイニングルームに行った。そこでは菊野さんが待っていて、食卓にはカレーライスが置かれていた。
「おかえりなさいませ、九条様」
 菊野さんが体を綺麗に折った。
「ただいま。あの、菊野さん、外にいたメイドさんたちはどうしちゃったんですか? 僕、知らないうちに芸能人にでもなっちゃったんですか?」
「申し訳ございません。彼女らは九条様がいらしてからあんな様子なのでございます。九条様がとてもハンサムなお顔立ちをされていて、かっこいいと評判でして……、仕事も手につかない有様でございます。何か無礼なことをなさいませんでしたでしょうか?」
「いえ。ちょっと芸能人気分を味わえたので、むしろいい経験をしたと思ってるくらいです」
「そうおっしゃっていただけるなんて、ありがとうございます」
 僕はここでようやく菊野さんがはるねちゃんのそばにいないことに気が付いた。
「はるねちゃんは?」
「お部屋でお休みになっております」
「体調でも悪いんですか?」
「頭痛がするとおっしゃっておりました」
「看病しに行かなくていいんですか?」
「一人にしてほしいとおっしゃっておりましたので」
 疲れてしまったのだろう。ずっと桐原さんのことを気にかけていれば、身体を壊すことも不思議ではない。あとで中間報告に行こうと思ったのだが、休んでいるのならもうちょっと待った方がよさそうだ。
「ところで九条様、早くお食べにならないと冷めてしまいます」
「そうですね。いただきます」
 スプーンを手に取って、白いご飯と茶色いルーをすくい取って口に入れた。
 カレーは外れがない料理だ。どこで食べても美味しい。逢坂家のカレーも美味だった。コクのある味で、具は口に入れると溶けてしまうしまうほど柔らかい。口に入れた瞬間、深い香りが鼻を抜ける。美味しすぎて満腹すら忘れてしまいそうだ。
「お味の方はいかがでしょうか」
「すごく美味しいです。がほしいかな」
「承知いたしました」
 菊野さんは綺麗なお辞儀をして部屋を出て行った。
 すると、僕は部屋に一人になった。カレーを一皿平らげて、お口直しに水を飲む。あまりに美味しすぎて水を飲むことを忘れていたから、喉が渇いていた。コップ一杯がすぐに空になってしまった。
 ついを頼んでしまったが、ゆっくりしている時間はない。食事を終えたら、準備を整えてすぐに屋敷を発(た)たなければいけない。服装の調達や周辺住民からの情報収集、潜入場所周辺の地図を実際に歩いて覚えたり、コンピュータでは足りないところをアナログな方法で補わなければならない。本来は何日もかけて行う準備だが、今回は依頼人の要望で早く片付けなければいけない。全く、忙しいったらありゃしない。
 さて、どこからやろうか――――と考え始めた、そのときだった。
 急に頭がくらくらした。
 視界が歪む。揺れる。白黒になる。鮮やかになる。かすむ。ちかちかする。音がうるさい。響く。がんがんする。鋭く刺す。匂いがする。漂ってくる。鼻を刺す。鼻に残る。いい匂い。臭い。甘い。苦い。辛い。旨い。しょっぱい。まずい。暑い。寒い。熱い。冷たい。痛い。気持ち悪い。気持ちいい――――五感が壊れた。
 性欲。肉欲。情欲。束縛欲。監禁欲。独占欲。解放欲。暴力欲。略奪欲。苦痛欲。虐待欲。逃避欲。自傷欲。自害欲。自殺欲。殺人欲。虐殺欲。絞殺欲。刺殺欲。毒殺欲。僕殺欲。殺戮欲――――欲望に殺される。
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