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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第2話
scene2 ハッカー、七瀬菜々穂の協力
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惣菜屋『まんぷく』は菜々穂さんのお姉さんが経営するお店である。二階建ての一階部分がお店で、二階は菜々穂さんとお姉さんの居住スペースとなっている。
僕たちは二階に連れて行かれ、真っ暗な部屋に通された。僕にぴったりとくっついている大川さんが「ここは……」とか細い声で言っている。
「怖がらなくていいですよ、ここは菜々穂さんの部屋です」
「暗いよね、今点けるから」
菜々穂さんの「点ける」というのは照明のことではない。菜々穂さんは慣れた感じで奥に入っていくと、急に部屋が明るくなった。目が慣れて来ると、照明ではない灯りの正体を見ることができた。
「ここが菜々穂様のお部屋ですか……、パソコンが十台も……」
「パソコンじゃなくてディスプレイだよ、メイドさん。私の部屋の照明代わり」
彼女の言うように、この部屋は十枚のディスプレイによって明るくなっている。
これを見て怯えない人なんていないだろう。後ろにいる大川さんは震え上がっている。僕も最初に来たときには逃げ出してしまった。
「これくらいないと、お仕事できないの」
「お仕事、でございますか?」
惣菜屋ではないのか、と言う顔をしている大川さんを見て、菜々穂さんは言った。
「惣菜屋さんは副業、本業はね――ハッカーなの」
大川さんは声を出さなかった。正確には息を吞んでいた。驚くのも無理はない。ハッカーはドラマや小説だけの生き物ではなく、本当に存在するのだ。
ハッカーというと、他人のコンピュータに侵入して悪さをするイメージが強いだろうが、菜々穂さんの場合、むやみにそいういうことはしない。依頼を受けて、必要だと思ったときにしか動かない。会うなり僕に抱きついてくる非常識なやつだが、好意に着いての危険と影響をしっかりと理解している人ではある。それゆえ協力者として彼女を頼っている。
「今夜、麻薬の売人ところに行くんですが、下調べとその手助けをしてほしいんです」
「いいよ。場所は?」
「『Ber Blue rose』です」
「ああ、あそこね」
菜々穂さんはディスプレイの壁の前に座り、キーボードを叩き出した。すると、十枚の画面に写真やらサイトやらがたくさん映し出された。写真には店の外観や店内の様子を写したものがあった。オシャレなバーといった雰囲気だ。
「オシャレなだなあ、なんて思ってるなら怪我するよ。ここに来るのはヤクザとか、詐欺師とか、逃亡中の殺人犯とか、そういう裏の人たちばかりだもの」
「警察は手を出してこないんですか?」
「目はつけてるけど、店自体が悪いわけじゃないから手が出せないの。とは言っても、こうも危ない人たちが集まるってことは店に何かあるってことなんだけどね。マスターは麻薬売買組織の一人だし」
「麻薬売買! もしかして、九条様!」
「そうですね、今回の件に関係してるのかも」
「関係してるよ、っていうか、そいつは売買組織の上の方の人。週一で来る売人を審査してるの」
「どういう意味ですか?」
「あの店に来る売人は、研修生なの。その人たちは売買組織に入るために売り捌く練習をしてて、それをマスターが審査してるってこと。調べたところによると、マーメイド・ユートピアを売ってる組織の一つで、何人か新しい人を入れたみたいなの」
ただのお店ではないことは確実、ということか。
「何か気を付けた方がいいことはありますか?」
「危ないやつばかりだから警戒するのは当然だけど、そもそも会員制だから普通に入るのは無理」
「会員証が必要ってことですか」
「この店は合言葉が会員証になってるみたいね。そして厄介なことにその言葉は毎日変わるの。実際にはいくつかの言葉をランダムに使ってるんだけど、今日がどれなのかは分からない」
「じゃあ、潜入調査は……」大川さんが情けなく呟いた。
「大丈夫。入り口の監視カメラをハッキングして、入店者の口元も分析するから」
「さすが、菜々穂さん」
「赤子の手を捻るようなものだよ。任せて」
ここでようやくキーボードから手が離れた。
「今分かるのはこのくらいかな」
「アポイントもなしに来たのに、ありがとうございます」
「愛しの創くんのためなら何でもしちゃうのが私だよ。はい、これイヤホン」
菜々穂さんは片耳に着けるタイプのイアホンを二つ渡した。
「二つもいりません、行くのは僕だけですよ」
「誰かもう一人連れて行った方がいい。あそこは犯罪者の溜まり場だもの。一人で行くなんて、RPGで魔王にパーティなしで挑むようなものだよ」
「その例えは理解しがたいですけど、分かりました」
僕はイアホンをズボンのポケットに仕舞い、部屋を出た。菜々穂さんは画面を向いたまま手を振って僕らを見送った。
僕たちは二階に連れて行かれ、真っ暗な部屋に通された。僕にぴったりとくっついている大川さんが「ここは……」とか細い声で言っている。
「怖がらなくていいですよ、ここは菜々穂さんの部屋です」
「暗いよね、今点けるから」
菜々穂さんの「点ける」というのは照明のことではない。菜々穂さんは慣れた感じで奥に入っていくと、急に部屋が明るくなった。目が慣れて来ると、照明ではない灯りの正体を見ることができた。
「ここが菜々穂様のお部屋ですか……、パソコンが十台も……」
「パソコンじゃなくてディスプレイだよ、メイドさん。私の部屋の照明代わり」
彼女の言うように、この部屋は十枚のディスプレイによって明るくなっている。
これを見て怯えない人なんていないだろう。後ろにいる大川さんは震え上がっている。僕も最初に来たときには逃げ出してしまった。
「これくらいないと、お仕事できないの」
「お仕事、でございますか?」
惣菜屋ではないのか、と言う顔をしている大川さんを見て、菜々穂さんは言った。
「惣菜屋さんは副業、本業はね――ハッカーなの」
大川さんは声を出さなかった。正確には息を吞んでいた。驚くのも無理はない。ハッカーはドラマや小説だけの生き物ではなく、本当に存在するのだ。
ハッカーというと、他人のコンピュータに侵入して悪さをするイメージが強いだろうが、菜々穂さんの場合、むやみにそいういうことはしない。依頼を受けて、必要だと思ったときにしか動かない。会うなり僕に抱きついてくる非常識なやつだが、好意に着いての危険と影響をしっかりと理解している人ではある。それゆえ協力者として彼女を頼っている。
「今夜、麻薬の売人ところに行くんですが、下調べとその手助けをしてほしいんです」
「いいよ。場所は?」
「『Ber Blue rose』です」
「ああ、あそこね」
菜々穂さんはディスプレイの壁の前に座り、キーボードを叩き出した。すると、十枚の画面に写真やらサイトやらがたくさん映し出された。写真には店の外観や店内の様子を写したものがあった。オシャレなバーといった雰囲気だ。
「オシャレなだなあ、なんて思ってるなら怪我するよ。ここに来るのはヤクザとか、詐欺師とか、逃亡中の殺人犯とか、そういう裏の人たちばかりだもの」
「警察は手を出してこないんですか?」
「目はつけてるけど、店自体が悪いわけじゃないから手が出せないの。とは言っても、こうも危ない人たちが集まるってことは店に何かあるってことなんだけどね。マスターは麻薬売買組織の一人だし」
「麻薬売買! もしかして、九条様!」
「そうですね、今回の件に関係してるのかも」
「関係してるよ、っていうか、そいつは売買組織の上の方の人。週一で来る売人を審査してるの」
「どういう意味ですか?」
「あの店に来る売人は、研修生なの。その人たちは売買組織に入るために売り捌く練習をしてて、それをマスターが審査してるってこと。調べたところによると、マーメイド・ユートピアを売ってる組織の一つで、何人か新しい人を入れたみたいなの」
ただのお店ではないことは確実、ということか。
「何か気を付けた方がいいことはありますか?」
「危ないやつばかりだから警戒するのは当然だけど、そもそも会員制だから普通に入るのは無理」
「会員証が必要ってことですか」
「この店は合言葉が会員証になってるみたいね。そして厄介なことにその言葉は毎日変わるの。実際にはいくつかの言葉をランダムに使ってるんだけど、今日がどれなのかは分からない」
「じゃあ、潜入調査は……」大川さんが情けなく呟いた。
「大丈夫。入り口の監視カメラをハッキングして、入店者の口元も分析するから」
「さすが、菜々穂さん」
「赤子の手を捻るようなものだよ。任せて」
ここでようやくキーボードから手が離れた。
「今分かるのはこのくらいかな」
「アポイントもなしに来たのに、ありがとうございます」
「愛しの創くんのためなら何でもしちゃうのが私だよ。はい、これイヤホン」
菜々穂さんは片耳に着けるタイプのイアホンを二つ渡した。
「二つもいりません、行くのは僕だけですよ」
「誰かもう一人連れて行った方がいい。あそこは犯罪者の溜まり場だもの。一人で行くなんて、RPGで魔王にパーティなしで挑むようなものだよ」
「その例えは理解しがたいですけど、分かりました」
僕はイアホンをズボンのポケットに仕舞い、部屋を出た。菜々穂さんは画面を向いたまま手を振って僕らを見送った。
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