愛情探偵の報告書

雪月 瑠璃

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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第3話

scene2 探偵、向日葵探偵事務所にて目覚める

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 割れるような頭痛で目を覚ました。見慣れた天井視界いっぱいに広がって、壁にかかっている時計に目がいった。十時三十三分。窓から日が入り込んでいるから、午前なのだろう。
 僕はゆっくりと体を起こし、ここでようやく今いる場所を理解した。ここは向日葵探偵事務所、つまり自宅だ。僕が寝ていたのがソファらしいことも、ここで分かった。改めて辺りを見渡すと、女性が二人、同じ空間にいた。一人はメイド服、一人はドレスを着ているが毛布をかぶっている――――大川さんとはるねちゃんだ。
 二人を見つけた僕が次に考えることは、今まで何があったか、だった。逢坂家の屋敷で昼食をとっていたことは覚えているが、それ以降の記憶が薄っすらとしかない。僕は手がかりを得るため、デスクの方へ向かった。痛む頭を押さえて、ふらつく足で歩いたが、身体が重くてうまく進めない。二、三歩歩いたところで机の上に倒れて込んだ。
「創真! 動いちゃダメよ!」
 はるねちゃんの声が聞こえた。倒れた音で起こしてしまったか。
 はるねちゃんが駆け寄ってきて、僕の肩を支えた。
「はるねちゃん、おはよう」
「おはようじゃないわよ、勝手に動いちゃダメじゃない」
「ごめん。でも、昨日何があったか覚えてなくて……何か知らないか?」
「昨日は……」
 はるねちゃんは僕から離れて、そのまま座り込んだ。その様子だけで、好ましくないことが起こったと分かった。
「……創真が暴走した。具体的に何があったのかは、あたしには分からない。あたしが行ったとき、すでに大川がいて創真を止めにかかってた。このままだといけないと思って、思いっきりお腹の辺りを蹴って止めたけど、あれから一日未満眠っちゃったわ」
「……迷惑かけちゃったね。ごめん」
「自分では何されたか、分からないの?」
「あんまり覚えてない。多分、お昼ご飯に何か入れられてたんだと思う。この感じは、覚えがあるんだ……」
 また頭痛がした。今度は吐き気もする。僕は頑張って立ち上がってトイレに入っていった。そして、便器に顔を突っ込んで胃の内容物を吐き出した。
「……大丈夫?」
「ちょっと楽になった。でも、まだ調子悪い」
「そう、まだ無理しないで。何かいる?」
「お茶もらえる? 温かいやつ」
「用意するわ」
 はるねちゃんの肩を借りて、椅子に座った。楽になったとはいえ、頭痛はひどいし、ふらふらするし、吐き気も少しだけある。調査は一時中断せざる得ない。
 すぐにはるねちゃんがお茶を持って来た。実をいえば何も口に入れる気はしないが、一日何も食べないというのは体が持たない。
「はい、お茶」
「ありがとう。悪いね、こき使っちゃって」
「気にしないで。今まであたしのために頑張ってくれてたんだから。これくらい『こき使う』うちに入らないわよ。ほら、温かいうちに飲んで」
「ありがとう」
 少し冷まして、一口飲んだ。美味いかどうか、分からない。味覚が麻痺しているのかもしれない。でも少しだけ落ち着いた。気持ち悪さも和らいだ気がする。
 さて、体調が優れないとはいえ、このままじっとしているわけにもいかない。今日はゆっくり休むとしても、明日は通常営業しなければいけない。それなら早速調査方針を決めなければいけない。
 まず考えるべきは僕をこんな状態にした犯人だ。僕を動けなくしたということは、僕が邪魔になったと考えるのが妥当だ。だとすると、犯人は今回の仕事を知っている人物――――依頼人の逢坂はるね、彼女に仕える執事代理の菊野広明きくのひろあき、僕に仕えるメイドの大川桜子、屋敷の使用人たち、情報屋の猫田狼夜ねこたろうや、ハッカーの七瀬菜々穂――――に限られるわけだが、もう少し的を絞りたい。僕が邪魔に感じたということは、ある程度調査の進度を理解していたということになる。全員にそれを知る手段はあるが、狼夜と菜々穂さんは除外していいだろう。もし犯人が狼夜なら、わざわざ売人の居場所を教えたりしないし、同様に菜々穂さんも協力したりしないはずだ。こうなると、逢坂家の人間が怪しいわけだが……。
 僕の思考はここで停止した。また頭痛がしてきてしまったのだ。頭を押さえても、今にも割れそうなくらい痛い。
「創真、大丈夫? すごく辛そうよ」
 はるねちゃんが声をかけてくれた。痛さが顔に出ていたらしい。
「大丈夫だよ」
「大丈夫そうじゃないから聞いてるんじゃない。今のうちに寝ておいたら? 少し楽になると思うわよ」
「今のうち? このあと何かあるの?」
「午後になったら、七瀬っていう人が来るのよ。どこで知ったのか知らないけど、創真の件を調べてくれてるの」
「……逢坂家に防犯カメラとかあったりする?」
「急に何よ。一応、屋敷の全部屋に防犯カメラがあるけど」
 ハッキングしたのか。
「とにかく、それまでに多少回復してもらわないと困るのよ。あたしも準備しに帰っちゃうし」
「準備?」
「どうせあなた、屋敷に戻るんでしょ。車の準備とか、現場保存の命令とか、いろいろあるのよ」
「起きなさい、大川」とここでようやく大川さんを起こすと、はるねちゃんは携帯電話を取り出して電話を掛けた。
 大川さんは目を擦りながら起きて、立ち上がった。僕の姿を見つけると「おはようございます、九条様」と挨拶した。
「じゃあそろそろ行くわ」
 はるねちゃんは自分の荷物を持って行った。帰る支度ができたようだ。
「絶対無理しちゃダメよ。大川はここにおいていくから、何かあるんだったら頼りなさい」
「うん、ありがとう」
「とりあえず寝なさい。まずは体力回復よ」
「うん、そうするよ。おやすみ」
「ええ、おやすみ」
 はるねちゃんは出て行った。
 僕はもう一度ソファに横たわって、目をつむった。やっぱり本調子じゃないらしい。羊を数える間もなく、深い眠りに落ちた。
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