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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第3話
scene3 探偵、二度目の目覚め
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それから二時間、僕は眠った。その間、一度も起きることなく熟睡した。
そして、十二時半過ぎ、今度は空腹で目が覚めた。頭痛は和らいでいて、吐き気もなかった。眠って少し回復したようだ。体を起こすと、台所の方からいい匂いが漂ってきた。
「おはようございます、九条様。昼食の準備をしておりますので、少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
僕はソファに座って、大川さんを待った。しばらくして、彼女はお盆に二つのお椀を乗せてこっちにきた。
「お待たせしました。昼食のお粥でございます。体調が優れないとのことでしたので、胃に優しいものを作らせていただきました。冷蔵庫の中身を勝手に使ってしまって、申し訳ありません!」
「いえ、それはいいんですけど。足りました?」
「足りましたが、全部使ってしまいました。申し訳ございません」
「全然いいですよ。それより、作ってくれてありがとうございます」
「九条様のメイドですから、これくらい当然です。それに、九条様とご飯をいただけるなんて……」
大川さんは照れくさそうにし始めた。
「申し訳ございません! こんなときに不謹慎なことを……」
「僕も誰かと食事なんて滅多にないですから、嬉しいですよ」
「ありがたきお言葉です! さあ、早くしないと冷めてしまいます」
「そうですね、いただきます」
僕はスプーンを握って、食べ始めた。
梅干しだけトッピングされたシンプルなお粥だ。熱いからスプーンに半分だけすくって、冷ましてから口に入れた。うん、美味しい。小さい頃、寝込んだ僕に作ってくれた妹のお粥を思い出した。料理なんてしたことなかったのに、そこそこ美味しいものを作ってくれて、食べさせてくれた。
「九条様、お味の方はお口に合いましたでしょうか?」
「はい、すごく美味しいです」
「よかったあ。おかわりもありますので」
「ありがとうございます」
あっという間に完食した。しかし、おかわりはしなかった。やっぱり本調子ではないようだ。
「そういえば、大川さん。菜々穂さんが来るかもしれないってはるねちゃんが言っていたんですけど、いつ頃来るか分かりますか?」
「はっ! そうでした! 九条様がお目覚めになる数分前に電話が入りまして、一時頃にこちらにいらっしゃるそうです」
一時……、そろそろ来るのか。
僕は立ち上がって、お椀を片づけた。
しばらくして大川さんも食べ終わったとき、インターホンが鳴った。「はい、今参ります」と大川さんが出て、扉を開けた。扉の向こうにいたのは、惣菜屋の格好をして大きな鞄を持った菜々穂さんだった。とても青白い顔をしていて、背が丸まっていた。
「創くん……!」
菜々穂さんは入ってくるや否や、僕に抱きついてきた。大川さんと惣菜屋に会いに行ったときとは違い、強くぎゅっと抱きしめた。
「よかった、生きてて……」
「菜々穂さん、心配させてすみません」
「本当だよ……」
泣いているようだった。起きてからメールでもしておくべきだっただろうか。いや、そんなことどうでもいいのだ。僕は彼女に笑ってやらないといけない。
「少しだけ回復しましたから。もう大丈夫です」
「……そう? じゃあ本題行った方がいい?」
「そうですね、お願いします」
「逢坂家の防犯カメラをハッキングしたり、逢坂家に潜入して創くんの身に何があったのか調べてたの。犯人は分からないけど、手がかりはあった。これを見て」
菜々穂さんは涙を拭いながら、鞄からパソコンを取り出して机に置いた。そして、しばらくキーボードを叩いて画面をこっちに見せた。
カタカナと漢字の混ざった単語と小数がずらりと並んだ表だった。多分、成分表か何かだろう。
「これは創くんが飲んだ水に含まれていた成分をまとめたもの。水道水の成分の他に、マーメイド・ユートピアの成分があった」
「僕はマーメイド・ユートピアを服用させられたってことですか?」
「水に混ぜてね。キッチンとか廊下とか全部調べたけど、犯人が誰かは分からなかった」
「そっか、ありがとうございます」
「まだ調べてみるよ。あれから一日しか経ってないもの。もうちょっとやらないと」
「お願いします。僕、まだ本調子じゃないんで、もうちょっと働いてもらっていいですか?」
「気にしないで。創くんのためになら何でもしちゃうのが私だよ」
「全部終わったら、事務所臨時休業してデート行きましょう」
それくらいの謝礼は必要だ。この状況でとてもありがたい助太刀だ。
ところで、僕が正しいのならマーメイド・ユートピアを購入した人物が屋敷内にいるということだ。探せば出てくるものだろうか。僕を排除したくらいだから、相当の警戒心があるはずだ。購入した証拠を残しているはずがない。探すだけ探してみるが、望みは薄いだろう。もう一度『Ber Blue rose』に潜入するということはできない。また同じ目に遭うだけだ。
「ところで九条様、マーメイド・ユートピアの効果は頭痛や吐き気などの身体への影響だけなのですか? 猫田様は麻薬とおっしゃっておりましたが」
「普通なら強い依存性があるんですけど、人によっては軽い症状で済む場合があるんですよね。拒否反応っていうんですけど、体質的に合わなくて依存性が出にくいんですよ。僕がそれで、体調不良程度で済んだんです」
不幸中の幸い、ということだ。
さて、明日からのやることをここでしっかり決めておくべきだろう。やることは『マーメイド・ユートピアを購入した人物の特定』だ。その人は僕を行動不能にした人物であり、その人は桐原さん失踪に何らかの形で関与している。僕の情報網と探偵力を駆使して絶対に見つけ出さなければ、僕の負けだ。
ここで、僕は気付いた。今回、まだ重要なことを調べていなかったではないか。桐原さんが実際どんな人物だったのか、だ。全然知らないということではない、はるねちゃんが依頼に来たときに簡単なプロフィールを教えてもらった。だが、その程度しか知らない。明日は最初にそれを調べてみよう。
「九条様、ただいまお嬢様より準備が完了したとの連絡が入りました」
大川さんは携帯を片手に僕に言った。
「分かりました。ありがとうございます、と伝えて下さい。あと、聞いてほしいことがあります」
「何でしょうか?」
「桐原さんの部屋を失踪当時のままいじっていないか、です。明日は、桐原さんの部屋から調査開始です」
「承知いたしました」と大川さんは携帯電話を耳に当て、電話の向こう側に伝言をした。
「菜々穂さんは明日、一緒に逢坂家に行きましょう。パソコン関係ではないですけど、人手が必要なので」
「うん、何でもするよ。ところで、明日から開始ってことは今日は何かやることあるの? あるんだったら手伝うけど」
「やることはありますけど、手伝いはいりません」
僕は菜々穂さんににやりと笑って言った。
「今から朝まで爆睡します」
そして、十二時半過ぎ、今度は空腹で目が覚めた。頭痛は和らいでいて、吐き気もなかった。眠って少し回復したようだ。体を起こすと、台所の方からいい匂いが漂ってきた。
「おはようございます、九条様。昼食の準備をしておりますので、少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
僕はソファに座って、大川さんを待った。しばらくして、彼女はお盆に二つのお椀を乗せてこっちにきた。
「お待たせしました。昼食のお粥でございます。体調が優れないとのことでしたので、胃に優しいものを作らせていただきました。冷蔵庫の中身を勝手に使ってしまって、申し訳ありません!」
「いえ、それはいいんですけど。足りました?」
「足りましたが、全部使ってしまいました。申し訳ございません」
「全然いいですよ。それより、作ってくれてありがとうございます」
「九条様のメイドですから、これくらい当然です。それに、九条様とご飯をいただけるなんて……」
大川さんは照れくさそうにし始めた。
「申し訳ございません! こんなときに不謹慎なことを……」
「僕も誰かと食事なんて滅多にないですから、嬉しいですよ」
「ありがたきお言葉です! さあ、早くしないと冷めてしまいます」
「そうですね、いただきます」
僕はスプーンを握って、食べ始めた。
梅干しだけトッピングされたシンプルなお粥だ。熱いからスプーンに半分だけすくって、冷ましてから口に入れた。うん、美味しい。小さい頃、寝込んだ僕に作ってくれた妹のお粥を思い出した。料理なんてしたことなかったのに、そこそこ美味しいものを作ってくれて、食べさせてくれた。
「九条様、お味の方はお口に合いましたでしょうか?」
「はい、すごく美味しいです」
「よかったあ。おかわりもありますので」
「ありがとうございます」
あっという間に完食した。しかし、おかわりはしなかった。やっぱり本調子ではないようだ。
「そういえば、大川さん。菜々穂さんが来るかもしれないってはるねちゃんが言っていたんですけど、いつ頃来るか分かりますか?」
「はっ! そうでした! 九条様がお目覚めになる数分前に電話が入りまして、一時頃にこちらにいらっしゃるそうです」
一時……、そろそろ来るのか。
僕は立ち上がって、お椀を片づけた。
しばらくして大川さんも食べ終わったとき、インターホンが鳴った。「はい、今参ります」と大川さんが出て、扉を開けた。扉の向こうにいたのは、惣菜屋の格好をして大きな鞄を持った菜々穂さんだった。とても青白い顔をしていて、背が丸まっていた。
「創くん……!」
菜々穂さんは入ってくるや否や、僕に抱きついてきた。大川さんと惣菜屋に会いに行ったときとは違い、強くぎゅっと抱きしめた。
「よかった、生きてて……」
「菜々穂さん、心配させてすみません」
「本当だよ……」
泣いているようだった。起きてからメールでもしておくべきだっただろうか。いや、そんなことどうでもいいのだ。僕は彼女に笑ってやらないといけない。
「少しだけ回復しましたから。もう大丈夫です」
「……そう? じゃあ本題行った方がいい?」
「そうですね、お願いします」
「逢坂家の防犯カメラをハッキングしたり、逢坂家に潜入して創くんの身に何があったのか調べてたの。犯人は分からないけど、手がかりはあった。これを見て」
菜々穂さんは涙を拭いながら、鞄からパソコンを取り出して机に置いた。そして、しばらくキーボードを叩いて画面をこっちに見せた。
カタカナと漢字の混ざった単語と小数がずらりと並んだ表だった。多分、成分表か何かだろう。
「これは創くんが飲んだ水に含まれていた成分をまとめたもの。水道水の成分の他に、マーメイド・ユートピアの成分があった」
「僕はマーメイド・ユートピアを服用させられたってことですか?」
「水に混ぜてね。キッチンとか廊下とか全部調べたけど、犯人が誰かは分からなかった」
「そっか、ありがとうございます」
「まだ調べてみるよ。あれから一日しか経ってないもの。もうちょっとやらないと」
「お願いします。僕、まだ本調子じゃないんで、もうちょっと働いてもらっていいですか?」
「気にしないで。創くんのためになら何でもしちゃうのが私だよ」
「全部終わったら、事務所臨時休業してデート行きましょう」
それくらいの謝礼は必要だ。この状況でとてもありがたい助太刀だ。
ところで、僕が正しいのならマーメイド・ユートピアを購入した人物が屋敷内にいるということだ。探せば出てくるものだろうか。僕を排除したくらいだから、相当の警戒心があるはずだ。購入した証拠を残しているはずがない。探すだけ探してみるが、望みは薄いだろう。もう一度『Ber Blue rose』に潜入するということはできない。また同じ目に遭うだけだ。
「ところで九条様、マーメイド・ユートピアの効果は頭痛や吐き気などの身体への影響だけなのですか? 猫田様は麻薬とおっしゃっておりましたが」
「普通なら強い依存性があるんですけど、人によっては軽い症状で済む場合があるんですよね。拒否反応っていうんですけど、体質的に合わなくて依存性が出にくいんですよ。僕がそれで、体調不良程度で済んだんです」
不幸中の幸い、ということだ。
さて、明日からのやることをここでしっかり決めておくべきだろう。やることは『マーメイド・ユートピアを購入した人物の特定』だ。その人は僕を行動不能にした人物であり、その人は桐原さん失踪に何らかの形で関与している。僕の情報網と探偵力を駆使して絶対に見つけ出さなければ、僕の負けだ。
ここで、僕は気付いた。今回、まだ重要なことを調べていなかったではないか。桐原さんが実際どんな人物だったのか、だ。全然知らないということではない、はるねちゃんが依頼に来たときに簡単なプロフィールを教えてもらった。だが、その程度しか知らない。明日は最初にそれを調べてみよう。
「九条様、ただいまお嬢様より準備が完了したとの連絡が入りました」
大川さんは携帯を片手に僕に言った。
「分かりました。ありがとうございます、と伝えて下さい。あと、聞いてほしいことがあります」
「何でしょうか?」
「桐原さんの部屋を失踪当時のままいじっていないか、です。明日は、桐原さんの部屋から調査開始です」
「承知いたしました」と大川さんは携帯電話を耳に当て、電話の向こう側に伝言をした。
「菜々穂さんは明日、一緒に逢坂家に行きましょう。パソコン関係ではないですけど、人手が必要なので」
「うん、何でもするよ。ところで、明日から開始ってことは今日は何かやることあるの? あるんだったら手伝うけど」
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