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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第3話
scene final 対象者、桐原透吾の依頼
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彼がいた部屋はシングルルームだった。トランクのような荷物はなく、他の誰かがいる様子もない。ここに泊まっているのは彼ひとりらしい。
「あなたが、桐原透吾さんですね」
僕は部屋の観察を終えると、部屋の主であったボロボロの服の男に言った。余計な話は一切せずに、単刀直入に。
「……どうして、私の名前を?」
男が僕を全力で警戒しているようだった。しかし、ああ返すということは彼が桐原さんで間違いない。
「僕はあなたの主、逢坂はるねさんに依頼されて、あなたを探していました」
「お嬢様が……、なんということを」
「すごく心配しています。今は諸事情で逢坂家の屋敷には帰れないけど、はるねちゃんに会える場所は用意できます」
桐原さんはゆっくりと首を横に振った。
まだそんなに元気じゃないか。
「じゃあ、ホテルの外の車に大川桜子さんがいます。会ってきますか?」
彼はまたしてもノーと言った。そして、「……まだ、会えません」と言った。
「私がお嬢様や仕事の仲間と会うのは、全てが片付いたときです。だから、今はまだ会えません」
彼は疲れきった身体をベッドに下ろして、続けた。
「探偵、とおっしゃいましたね。録音機などは持っていますか?」
「対象者との接触なので、一応は持っていますが」
「電源を切って下さい」
僕はわけも聞かず、言われるがままに部屋に入ったときにオンにしたレコーダーを停止した。
「カメラなどは持っていますか?」
「それは持っていません」
「部屋に盗聴器や隠しカメラは設置しましたか?」
「部屋に入ったのは、これが初めてです」
「携帯電話は持っていますか?」
「はい。連絡用に」
「電源を切って下さい」
今度は携帯電話を膝の上に出して、電源を切った。
「今日は何人でいらっしゃいましたか?」
「三人ですが、ここには僕一人で来ました」
「部屋の外で待っていたりしますか?」
「いいえ。二人はホテルの外に停めてある車の中で待たせてあります。ちなみにそのうちの一人が大川さんです」
「ここまでどうやって辿り着きましたか?」
「今日、逢坂家の屋敷のあなたの部屋を調べて、行き着いたのがここです」
桐原さんはここでようやく質問を止めた。
何をしたいのだろうか。情報の漏れを強く警戒しているように思える。
「私のパソコンをご覧になったのですね」
「はい」
彼は座ったまま深く頭を下げた。そしてその体勢のまま、続けた。
「どうか詳しい事情は聞かずに、お嬢様を守って下さいませんか。全てが終わったあと、全てをお話しいたします。図々しいお願いなのは分かっています。ですが、この件にお嬢様を、この世にたった一人の大切なお方を傷つけるわけにはいかないのです。どうかお願いいたします」
その声はひどくか細いものだった。今にも消えてしまいそうな、死んでしまいそうな、そんな声。
だが、強い意思はあった――――守りたいという強い意志。それは、初めてはるねちゃんに会ったときに感じたものと同じだった。家族だから、守りたい。
「僕は探偵です。約束は破るかもしれません。だけど、依頼なら絶対に完遂します。それは依頼ですか?」
「依頼です。契約書などはありませんが……」
僕は即答した。
「引き受けます。必ず、はるねちゃんを守ります――――」
対象者との接触の接触を終えた僕は、大川さんと菜々穂さんが待つ車内で警察が撤退したというメールを見た。桐原さんの部屋にいたときに届いたものだったから気付かなかった。
僕は運転手の大川さんに屋敷に戻るように告げ、その手元でとあるアドレスにメールを打った。
「あなたが、桐原透吾さんですね」
僕は部屋の観察を終えると、部屋の主であったボロボロの服の男に言った。余計な話は一切せずに、単刀直入に。
「……どうして、私の名前を?」
男が僕を全力で警戒しているようだった。しかし、ああ返すということは彼が桐原さんで間違いない。
「僕はあなたの主、逢坂はるねさんに依頼されて、あなたを探していました」
「お嬢様が……、なんということを」
「すごく心配しています。今は諸事情で逢坂家の屋敷には帰れないけど、はるねちゃんに会える場所は用意できます」
桐原さんはゆっくりと首を横に振った。
まだそんなに元気じゃないか。
「じゃあ、ホテルの外の車に大川桜子さんがいます。会ってきますか?」
彼はまたしてもノーと言った。そして、「……まだ、会えません」と言った。
「私がお嬢様や仕事の仲間と会うのは、全てが片付いたときです。だから、今はまだ会えません」
彼は疲れきった身体をベッドに下ろして、続けた。
「探偵、とおっしゃいましたね。録音機などは持っていますか?」
「対象者との接触なので、一応は持っていますが」
「電源を切って下さい」
僕はわけも聞かず、言われるがままに部屋に入ったときにオンにしたレコーダーを停止した。
「カメラなどは持っていますか?」
「それは持っていません」
「部屋に盗聴器や隠しカメラは設置しましたか?」
「部屋に入ったのは、これが初めてです」
「携帯電話は持っていますか?」
「はい。連絡用に」
「電源を切って下さい」
今度は携帯電話を膝の上に出して、電源を切った。
「今日は何人でいらっしゃいましたか?」
「三人ですが、ここには僕一人で来ました」
「部屋の外で待っていたりしますか?」
「いいえ。二人はホテルの外に停めてある車の中で待たせてあります。ちなみにそのうちの一人が大川さんです」
「ここまでどうやって辿り着きましたか?」
「今日、逢坂家の屋敷のあなたの部屋を調べて、行き着いたのがここです」
桐原さんはここでようやく質問を止めた。
何をしたいのだろうか。情報の漏れを強く警戒しているように思える。
「私のパソコンをご覧になったのですね」
「はい」
彼は座ったまま深く頭を下げた。そしてその体勢のまま、続けた。
「どうか詳しい事情は聞かずに、お嬢様を守って下さいませんか。全てが終わったあと、全てをお話しいたします。図々しいお願いなのは分かっています。ですが、この件にお嬢様を、この世にたった一人の大切なお方を傷つけるわけにはいかないのです。どうかお願いいたします」
その声はひどくか細いものだった。今にも消えてしまいそうな、死んでしまいそうな、そんな声。
だが、強い意思はあった――――守りたいという強い意志。それは、初めてはるねちゃんに会ったときに感じたものと同じだった。家族だから、守りたい。
「僕は探偵です。約束は破るかもしれません。だけど、依頼なら絶対に完遂します。それは依頼ですか?」
「依頼です。契約書などはありませんが……」
僕は即答した。
「引き受けます。必ず、はるねちゃんを守ります――――」
対象者との接触の接触を終えた僕は、大川さんと菜々穂さんが待つ車内で警察が撤退したというメールを見た。桐原さんの部屋にいたときに届いたものだったから気付かなかった。
僕は運転手の大川さんに屋敷に戻るように告げ、その手元でとあるアドレスにメールを打った。
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