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忘れたい愛ほど、深い愛 第二話
scene3 遅めのランチタイム
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スタッフルームを出たのは、二時過ぎだった。思えば、昼ごはんの時間というには少し遅い時間になっていた。
せっかくスーパーに来ていることだし、ここで昼食を買っていこうという話になった。幸い外は晴れているし、確か近くに公園があったはずだ。少し寒いけれど、外でご飯というのもありだ、という話で落ち着いたのである。
残念ながら、警部補はここでお別れになってしまった。やはり悪いことをしてしまったらしく、これから家に帰ってひと眠りすると言っていた。「また何かあった呼んでくれ」と言ってくれたが、しばらくは休ませてあげたい。僕に構って体調でも崩されたら本業に支障をきたしてしまう。
そんなわけで、僕たち二人はスーパーでの買い物をしていた。緑でプラスチックのかごを持って店内を練り歩く。
「あたし、スーパーとか来たことないのよね。買い物はいつも桐原(きりはら)とかが済ましてくれるから」
はるねちゃんはさらりとそんなことを言った。桐原というのは彼女の執事だ。詳しく話すと長いが、彼女と初めて会った仕事で一度だけ話したことがある。
「今日は弁当を買うだけなんだけどね」
「お弁当だけ?」
「他に欲しいものがあるっていうの?」
「お菓子欲しい!」
目をキラキラさせて言いやがった。小学生か、君は。まあ、彼女のおかげで宿泊代が浮いたわけだし、許してあげてもいいだろう。僕が「いいよ。好きなの一つだけ買ってあげる」というと、子供のようにはしゃいでお菓子売り場に駆けていった。
僕は適当に弁当を選んだあと、それを追った。はるねちゃんはまだ悩んでいて、陳列棚の前を行ったり来たりしていた。
「はるねちゃん、そろそろ決めてくれる? まだ午後の調査が残ってるんだから」
「だって、たくさんあるんだもん。もう少しだけ悩ませて」
はるねちゃんのお菓子に対するこだわりは異常だ。ただお菓子好きとは言えないほどの知識と技術がある。桜が丘中の菓子店を知り尽くしていて、和洋関係なく手作りすることができる。
当然、今こうして悩みに悩んでいるのはそのお菓子への愛情からなのだが、僕としてはさっさと決めてレジに行きたい。
「ねえ、創真」
「何? もう早くしてよ」
「分かってるって。ちょっと見てほしいんだけど」
はるねちゃんは棚に向かって指を差して言った。その指の先にあるのは、クッキーだった。袋に『キタザワノオカシ』と書かれているから、プライベートブランドか何かだろう。
「これ、紫織さんの家で出されたやつだわ」
「え、そうなの?」
「覚えてないの?」
クッキーが出されたことは覚えているが、はて、これだっただろうか。
「これにするわ」
「ようやく決まったね、早くかごに入れて」
はるねちゃんは上機嫌でレジへ連れて行った。
はるねのお菓子と弁当の会計を済ませて、外へ出た。朝よりは暖かいが、やっぱり寒い。鳥肌が立つのがよく分かる。
「ここで一旦、菜々穂さんに連絡した方がいいんじゃないかしら。とりあえずこっちはきりのいいところまで終わったんだし」
そうだ、一度ここで情報交換をしておいた方がよさそうだ。
僕は携帯電話を取り出して、登録してある菜々穂さんの電話番号を探して掛けた。十秒も経たずに声が聞こえた。
「もしもし、菜々穂さん」
「お、創くん。調査終わったの?」
「はい、とりあえず区切りがついたので一度情報交換でもと思いまして」
「了解。まずこっちで得た情報から。午前中は第一の被害者、中村汰月さんの周辺を探ってみたの。でも、犯行につながるような手がかりは何もなかった。会社、ご近所……全部聞いて回ったけど、何もなし。ごめんね」
「なるほど。じゃあ人間関係のもつれとかの犯行ではないってことか。はい、それだけ分かっただけでも十分です。じゃあ、次はこっちを」
と、僕はスーパーの入口で斉藤警部補と会ったところから、昼食を買ったところまで余すところなく話した。
「そっちは大収穫だったわけね」
「まあ、昼食も買えましたし」
「で、お腹を満たしたあとはどこに行くの?」
「第三の事件の現場に行きます」
「了解。じゃあそのニュースと基本情報を送っておくね」
「ありがとうございます。じゃあ、また」
「はーい、頑張ってね」
そんな風な会話をして、電話は切れた。
せっかくスーパーに来ていることだし、ここで昼食を買っていこうという話になった。幸い外は晴れているし、確か近くに公園があったはずだ。少し寒いけれど、外でご飯というのもありだ、という話で落ち着いたのである。
残念ながら、警部補はここでお別れになってしまった。やはり悪いことをしてしまったらしく、これから家に帰ってひと眠りすると言っていた。「また何かあった呼んでくれ」と言ってくれたが、しばらくは休ませてあげたい。僕に構って体調でも崩されたら本業に支障をきたしてしまう。
そんなわけで、僕たち二人はスーパーでの買い物をしていた。緑でプラスチックのかごを持って店内を練り歩く。
「あたし、スーパーとか来たことないのよね。買い物はいつも桐原(きりはら)とかが済ましてくれるから」
はるねちゃんはさらりとそんなことを言った。桐原というのは彼女の執事だ。詳しく話すと長いが、彼女と初めて会った仕事で一度だけ話したことがある。
「今日は弁当を買うだけなんだけどね」
「お弁当だけ?」
「他に欲しいものがあるっていうの?」
「お菓子欲しい!」
目をキラキラさせて言いやがった。小学生か、君は。まあ、彼女のおかげで宿泊代が浮いたわけだし、許してあげてもいいだろう。僕が「いいよ。好きなの一つだけ買ってあげる」というと、子供のようにはしゃいでお菓子売り場に駆けていった。
僕は適当に弁当を選んだあと、それを追った。はるねちゃんはまだ悩んでいて、陳列棚の前を行ったり来たりしていた。
「はるねちゃん、そろそろ決めてくれる? まだ午後の調査が残ってるんだから」
「だって、たくさんあるんだもん。もう少しだけ悩ませて」
はるねちゃんのお菓子に対するこだわりは異常だ。ただお菓子好きとは言えないほどの知識と技術がある。桜が丘中の菓子店を知り尽くしていて、和洋関係なく手作りすることができる。
当然、今こうして悩みに悩んでいるのはそのお菓子への愛情からなのだが、僕としてはさっさと決めてレジに行きたい。
「ねえ、創真」
「何? もう早くしてよ」
「分かってるって。ちょっと見てほしいんだけど」
はるねちゃんは棚に向かって指を差して言った。その指の先にあるのは、クッキーだった。袋に『キタザワノオカシ』と書かれているから、プライベートブランドか何かだろう。
「これ、紫織さんの家で出されたやつだわ」
「え、そうなの?」
「覚えてないの?」
クッキーが出されたことは覚えているが、はて、これだっただろうか。
「これにするわ」
「ようやく決まったね、早くかごに入れて」
はるねちゃんは上機嫌でレジへ連れて行った。
はるねのお菓子と弁当の会計を済ませて、外へ出た。朝よりは暖かいが、やっぱり寒い。鳥肌が立つのがよく分かる。
「ここで一旦、菜々穂さんに連絡した方がいいんじゃないかしら。とりあえずこっちはきりのいいところまで終わったんだし」
そうだ、一度ここで情報交換をしておいた方がよさそうだ。
僕は携帯電話を取り出して、登録してある菜々穂さんの電話番号を探して掛けた。十秒も経たずに声が聞こえた。
「もしもし、菜々穂さん」
「お、創くん。調査終わったの?」
「はい、とりあえず区切りがついたので一度情報交換でもと思いまして」
「了解。まずこっちで得た情報から。午前中は第一の被害者、中村汰月さんの周辺を探ってみたの。でも、犯行につながるような手がかりは何もなかった。会社、ご近所……全部聞いて回ったけど、何もなし。ごめんね」
「なるほど。じゃあ人間関係のもつれとかの犯行ではないってことか。はい、それだけ分かっただけでも十分です。じゃあ、次はこっちを」
と、僕はスーパーの入口で斉藤警部補と会ったところから、昼食を買ったところまで余すところなく話した。
「そっちは大収穫だったわけね」
「まあ、昼食も買えましたし」
「で、お腹を満たしたあとはどこに行くの?」
「第三の事件の現場に行きます」
「了解。じゃあそのニュースと基本情報を送っておくね」
「ありがとうございます。じゃあ、また」
「はーい、頑張ってね」
そんな風な会話をして、電話は切れた。
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