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忘れたい愛ほど、深い愛 第二話
scene2 二件目の調査開始
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「二件目の事件の発生は、一件目の十日後、十月十二月に発生。被害者は南海美奈、スーパー北沢でバイトとして働いていた女子大生。殺害方法は刺殺、死因は出血性ショック死。見現場は被害者が働いてたスーパーの近くの路上。第一発見者にして通報者は被害者の友人。通報時間は八時二十一分頃」
というのが、菜々穂さんからの情報だった。二件目の調査に行くにあたり、その情報を一件目より得ていなかった僕にとって、その情報は大切なものだった。
僕たちは中村家から一番近いバス停からバスに乗り、麻ノ葉駅に向かった。そして、被害者が働いていた『スーパー北沢』に向かった。そこは、楓が丘で最も大きいと言われているスーパーマーケットで、安いうえに品ぞろえがいいと主婦に人気だ。
僕たちはスーパー北沢までやってきて、入り口で立ち止まっていた。
「ねえ、入らないの? 早く行こうよ」
「ここで待ち合わせしてるんだ」
「待ち合わせ? 誰と?」
「斉藤警部補。はるねちゃんは会ったことないよね」
「警察の人と、なんで待ち合わせなの?」
「防犯カメラの映像を見たいんだ。僕らだけじゃ、見せてくれないと思うんだ。だから、公的機関である警察に来てもらおうってことだ」
「なるほど。その通りね」
そんな会話をしていると、約束通り斉藤警部補が歩いてくるのが見えた。昨日と同じスーツで、少し疲れた様子だった。
「お忙しいところ呼び出してすみません。もしかして、昨日から寝てないんですか」
「察しが良いな。忙しくてな」
「それはすみません。早めに終わらせますから」
「そうしてくれるとありがたいぜ」
こうして、斉藤警部補と合流した僕たちはようやく店内に足を運んだ。
中に入るや否や、近くを歩いていた店員を呼び止めて調査の旨を伝え、スタッフルームに通してもらった。呼び止めた店員は休憩中と思われる店長を呼んで、僕たちの用件を伝えてくれた。店長は女性で、これは僕の主観的な印象だが、若いとは言えない見た目だが、優しそうな人だ。
店長さんはスタッフルームのさらに奥にある監視ルームのようなところに連れて行ってくれた。
「お忙しいところすみません」
斉藤警部補が慣れた風にそう言うと、店長さんは「忙しくはないですよ、私、休憩中だったし」と応えながら、数台あるパソコンのうちの一つを動かした。
「それに、警察の方に協力するのは善良な市民として当然なことですよ」
「感謝します」
「さあ、準備ができました。ご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
斉藤警部補はパソコンの前に座り、キーボードを操作し始めた。だが、キーボードを叩く指はどうもぎこちない感じがした。そのせいか、なかなか映像が動かない。
「なにしてるんですか、警部補。早く動かして下さいよ」
「俺、こういう機械系、どうも苦手でさ……」
「じゃあなんで座っちゃったんですか。もう……僕がやりますよ」
僕は警部補と交代して、椅子に座った。
さて、もう動画は立ち上がっているのだから、あとはマウスを右クリックするだけだ。
カチッと。
撮影時刻は八時十分。辺りは真っ暗で人が通っても顔までは分からないだろう。早送りして、一分、二分と過ぎていく。時間表示が八時十七分になったとき。
「ちょっと待った!」
後ろに立っていた店長さんが大きく声をあげた。びっくりはしたけれど、動画を止めた。
「どうかしましたか?」
「すみません……いや、美奈ちゃんが帰ったのがこの時間だったんです」
「こんな中途半端な時間、よく覚えてますね」
疑い深げに警部補は聞いた。これは職業上の癖というやつなのか。
「一緒にこの部屋を出たんです。玲奈ちゃんも一緒に」
「玲奈ちゃん、って?」これは僕。
「橋本玲奈ちゃんっていう、うちのバイトです。それも、特に美奈ちゃんと仲の良かった子で、確か同じ大学に通ってるらしいんですけど……」
「ですけど……、なんですか?」
はるねちゃんが話の先を促す。
「……彼女が第一発見者です」
「そうだったんですか……」
手帳に、『二件目の第一発見者は橋本玲奈、被害者と仲の良かった大学の友人』と書く。
「この日、三人で部屋を出たときに時計を見て『みんなで食事でも行かない?』って誘ったんです」
「じゃあ一緒に帰ったんですね」
「いえ、その日は断られちゃいました。美奈ちゃんは用事で、玲奈ちゃんが宿題だったかな」
『八時十七分、被害者、橋本玲奈、店長は三人でいた。店長が食事に誘う。断られる』とメモに記す。
ここまで書くと動画を再生する。
「来たわよ、南海さん」
画面をかじりつくように見ていたはるねちゃんが肩を叩いた。
映像の中の南海さんは一人だ。あとから誰かがやってくる様子もない。画面からいなくなろうとしたとき、彼女が唐突に立ち止まった。
「……、………………」
何か言っているようだった。しかし、内容は読み取れない。何か言い終わると、静かに遠ざかるように後退り始めた。
「………………、……、……――――」
――――殺された。犯人らしき人は映っていないが、何かが彼女の身体に刺さるのがはっきりと分かった。
これが十月十二日の八時十八分の出来事。
やがて南海さんが来た方向から玲奈さんが来た。倒れた南海さんを前に悲鳴が響いた――――。
「この後、私が駆けつけて通報したんです。すぐに警察が来たんですけど、美奈ちゃんはもう……」
「もう大丈夫です。辛いことを思い出させてしまい、ごめんなさい」
店長さんは涙を拭っていた。
「いいんです。私なんかより美奈ちゃんの方が辛い思いをしたんですから」
「強いですね」
「悲しんでばかりじゃ前に進めませんから。私は美奈ちゃんのためにも頑張って生きなきゃいけないんです」
店長さんは優しく微笑んだ。仲間を失ってもそんな顔ができるなんて、本当に強い人だ。
彼女みたいになれたら、僕も大人になれたかもしれない。
「刑事さん、絶対犯人を捕まえて下さい! 私にはこうやってお願いすることしかできないから」
笑っていても号泣しているように見えたのは、果たして僕だけだっただろうか。
というのが、菜々穂さんからの情報だった。二件目の調査に行くにあたり、その情報を一件目より得ていなかった僕にとって、その情報は大切なものだった。
僕たちは中村家から一番近いバス停からバスに乗り、麻ノ葉駅に向かった。そして、被害者が働いていた『スーパー北沢』に向かった。そこは、楓が丘で最も大きいと言われているスーパーマーケットで、安いうえに品ぞろえがいいと主婦に人気だ。
僕たちはスーパー北沢までやってきて、入り口で立ち止まっていた。
「ねえ、入らないの? 早く行こうよ」
「ここで待ち合わせしてるんだ」
「待ち合わせ? 誰と?」
「斉藤警部補。はるねちゃんは会ったことないよね」
「警察の人と、なんで待ち合わせなの?」
「防犯カメラの映像を見たいんだ。僕らだけじゃ、見せてくれないと思うんだ。だから、公的機関である警察に来てもらおうってことだ」
「なるほど。その通りね」
そんな会話をしていると、約束通り斉藤警部補が歩いてくるのが見えた。昨日と同じスーツで、少し疲れた様子だった。
「お忙しいところ呼び出してすみません。もしかして、昨日から寝てないんですか」
「察しが良いな。忙しくてな」
「それはすみません。早めに終わらせますから」
「そうしてくれるとありがたいぜ」
こうして、斉藤警部補と合流した僕たちはようやく店内に足を運んだ。
中に入るや否や、近くを歩いていた店員を呼び止めて調査の旨を伝え、スタッフルームに通してもらった。呼び止めた店員は休憩中と思われる店長を呼んで、僕たちの用件を伝えてくれた。店長は女性で、これは僕の主観的な印象だが、若いとは言えない見た目だが、優しそうな人だ。
店長さんはスタッフルームのさらに奥にある監視ルームのようなところに連れて行ってくれた。
「お忙しいところすみません」
斉藤警部補が慣れた風にそう言うと、店長さんは「忙しくはないですよ、私、休憩中だったし」と応えながら、数台あるパソコンのうちの一つを動かした。
「それに、警察の方に協力するのは善良な市民として当然なことですよ」
「感謝します」
「さあ、準備ができました。ご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
斉藤警部補はパソコンの前に座り、キーボードを操作し始めた。だが、キーボードを叩く指はどうもぎこちない感じがした。そのせいか、なかなか映像が動かない。
「なにしてるんですか、警部補。早く動かして下さいよ」
「俺、こういう機械系、どうも苦手でさ……」
「じゃあなんで座っちゃったんですか。もう……僕がやりますよ」
僕は警部補と交代して、椅子に座った。
さて、もう動画は立ち上がっているのだから、あとはマウスを右クリックするだけだ。
カチッと。
撮影時刻は八時十分。辺りは真っ暗で人が通っても顔までは分からないだろう。早送りして、一分、二分と過ぎていく。時間表示が八時十七分になったとき。
「ちょっと待った!」
後ろに立っていた店長さんが大きく声をあげた。びっくりはしたけれど、動画を止めた。
「どうかしましたか?」
「すみません……いや、美奈ちゃんが帰ったのがこの時間だったんです」
「こんな中途半端な時間、よく覚えてますね」
疑い深げに警部補は聞いた。これは職業上の癖というやつなのか。
「一緒にこの部屋を出たんです。玲奈ちゃんも一緒に」
「玲奈ちゃん、って?」これは僕。
「橋本玲奈ちゃんっていう、うちのバイトです。それも、特に美奈ちゃんと仲の良かった子で、確か同じ大学に通ってるらしいんですけど……」
「ですけど……、なんですか?」
はるねちゃんが話の先を促す。
「……彼女が第一発見者です」
「そうだったんですか……」
手帳に、『二件目の第一発見者は橋本玲奈、被害者と仲の良かった大学の友人』と書く。
「この日、三人で部屋を出たときに時計を見て『みんなで食事でも行かない?』って誘ったんです」
「じゃあ一緒に帰ったんですね」
「いえ、その日は断られちゃいました。美奈ちゃんは用事で、玲奈ちゃんが宿題だったかな」
『八時十七分、被害者、橋本玲奈、店長は三人でいた。店長が食事に誘う。断られる』とメモに記す。
ここまで書くと動画を再生する。
「来たわよ、南海さん」
画面をかじりつくように見ていたはるねちゃんが肩を叩いた。
映像の中の南海さんは一人だ。あとから誰かがやってくる様子もない。画面からいなくなろうとしたとき、彼女が唐突に立ち止まった。
「……、………………」
何か言っているようだった。しかし、内容は読み取れない。何か言い終わると、静かに遠ざかるように後退り始めた。
「………………、……、……――――」
――――殺された。犯人らしき人は映っていないが、何かが彼女の身体に刺さるのがはっきりと分かった。
これが十月十二日の八時十八分の出来事。
やがて南海さんが来た方向から玲奈さんが来た。倒れた南海さんを前に悲鳴が響いた――――。
「この後、私が駆けつけて通報したんです。すぐに警察が来たんですけど、美奈ちゃんはもう……」
「もう大丈夫です。辛いことを思い出させてしまい、ごめんなさい」
店長さんは涙を拭っていた。
「いいんです。私なんかより美奈ちゃんの方が辛い思いをしたんですから」
「強いですね」
「悲しんでばかりじゃ前に進めませんから。私は美奈ちゃんのためにも頑張って生きなきゃいけないんです」
店長さんは優しく微笑んだ。仲間を失ってもそんな顔ができるなんて、本当に強い人だ。
彼女みたいになれたら、僕も大人になれたかもしれない。
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