王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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「よっし! 今日で講習は最後だ。初日におまえらの今時点の力の程ってのを見させて貰ったし、おまえらも自身がどんなもんかわかったと思う。
 それぞれが使いやすいと思う武器を持ってくれ。基本的な動きをならしてもらった後、また実戦形式で教えていく」
レッドの言葉に真剣な表情で訓練用の武器を選んでいく新人冒険者達。
初日は自分が持っている武器で戦い、自惚れを砕かれていて、生活のために最低限知っておいたほうがよいことを同じ冒険者から実体験として聞かされた今となっては、初めの頃のような遊び気分は無くなっている。

「教官、すみません。冒険者の武器と言えば剣と思ってきたのですが、何がいいのでしょうか?」
そうレッドに質問を投げてきたのはファニスといい、初日に血気盛んにレッドに向かってきた女性であった。
「どれがいいとは一概に言えないんだよ。そいつに合うものってのがやっぱりあるんでな。
 剣が重宝されるのは、取り回す長さがちょうどいいってことにある。たいていの場所で使いやすい」
そういってレッドは自身の剣を抜いて、二度三度剣を振る。
「短剣は剣に比べれば軽く、振り回しやすいからもっと場所を選ばない。使いやすいってのは利点だが、その分、武器が短いということでもある。相手との距離を詰めないと斬れないから、相手をよく見て動けるようにならないと手も足も出せなくなるな」
今度はリベルテから短剣を借りて素早く振る。

「何かと戦うってことは怖いもんだ。だから最初は距離をとって戦えたほうが気持ちは楽ってのがある。距離を詰められたら危険になるし、訓練も必要になるだが、弓や槍もいいと思うぞ。使い手によっちゃ弓と槍使いは、近寄ることもできない。相手にしたくないな」
説明中にリベルテが取ってきてくれた槍をもって振り回す。
いつの間にかファニス以外の面々もレッドの説明を見に来ている。

「なんで悪いが俺は、これにしろ! ってのは言えねぇ。まずは自分がどんな戦い方をしたいかってのから選ぶのがいいだろう。日々の稼ぎは自分で掴まないといけないんだからな。こんなもんで勘弁してくれ」
鍛冶屋でよく取り扱われているのは剣であるが、しっかりとしたものを選ぶとなると安くはない。鉄の部分が少ないものにすれば幾分か安くなるもので、短剣や作りによっては槍の方が剣より安上がりになる。
いずれにせよ、自身の命を預ける物だ。
誰かに言われて選んだ物が自分に合うかはわからないし、その人のせいにできるものではないし、合わない武器で思うように働けず、日々の生活に困るのは自分になるのだ。

もっともレッドが自分の好きにするのが一番という考えだからの教えである。
教官役によっては、ある鍛冶工房と懇意なためにその工房主の得意武器を薦めることもあるし、自身が使い慣れている武器が最高でありそれ以外は使えないとこき下ろすこともあったりするのだ。

思い思いに訓練用の武器を取っては、構えと基本的な攻撃と受け方を教えてもらい、実際に振ってみては首をひねって違う武器にしたりと、改めて武器の扱いを体験する新人冒険者達。
冒険者の道を選んだ者が必ずしも武器の心得があるわけではないため、このような基礎から教えているのである。
初日の血気盛んな者達も棒切れを振り回す延長で剣を持っていた者が多く、他の仕事にあぶれたから冒険者を選び、剣など持ったことは無いが必要だから買っただけということも多い。
そのため、講習では自分に合う武器を選ぶこと、その武器の扱い方として基礎的な振りと防御の仕方という入り口だけを教える。
なお、しっかりと訓練したいとあれば、冒険者ギルドでお金はかかるが、最短一ヶ月からの訓練が受けられるようになっている。
ギルドの収入になるため、講習の最終日には訓練場の出入り口で待ち構える人がいたりする。

レッドとリベルテは自分の経験を基に、それぞれに簡単な指導をしていく。
そして、なんとなく全員が自分の武器を決めたところで、集合させる。
「んじゃ、最後にまた俺達と戦って貰う。1対1でな。複数で戦うってのはギルドで訓練を受けてくれ。あそこで待ち構えてる人がいるから」
苦笑しながらレッドが入り口方面を指差すと、ギルドマスターであるギルザークが二カッと笑顔を見せていた。なんともフットワークが軽いギルマスである。

一人ひとりの個人戦が行われていく。
ただ振り回していた頃と比べればレッドの攻撃に注意を払えるようで、指摘を受けながら転がされていく新人冒険者たち。
だが、どこが悪かったかわかるため、すぐ立ち上がり、また向かっていく。
そして終わって壁側でへたり込むのだが、初日のようなただ圧倒的な力量差を押し付けられるのではなく、自分が強くなれるように指導を受けたというのがわかるため、充実した表情を見せていた。

「よし、次! レリックだな。こい」
「お願いします!」
レリックは剣を構え、レッドに斬りかかる。
相手の動きを見て動くというのは理想であるが、じっと待っていても始まらないものである。
まして、相手の力量が上とわかっている状況では、待っていても反応できずに打ち込まれるだけになるのだ。
ならば自分から仕掛けた方が、まだ自分の流れを作れるというもの。
上段から勢いをつけ振り下ろし、当然避けられる剣を半ばで止めて横なぎに払う。
力が足りない者や剣の扱い方を分かっていない者はよく地面まで振り下ろしてしまう。
相手を一刀両断できない限り、そんな振り方は隙を作るだけである。
レリックは剣をちゃんと振るなんて経験は無かったはずであるが、剣を止めるタイミングを理解し、攻撃を仕掛けてきたわけである。
新人と侮っていれば受けてしまうだろう攻撃であるが、レッドは余裕を持って避ける。
しかし、そこから打ち込まなかった。
決して悪い、指導してやらなきゃいけない攻撃ではなく、その後の隙もなかったからだ。

レッドが距離をとり、お互い仕切りなおしとなる。
呼吸を整え、またレリックから斬りかかる。
無闇に斬りかかるでもなく、相応の剣の心得があるものの攻撃にレッドは避けるのではなく、剣で受け始める。
それにより見ているだけだった他の冒険者達のレリックを見る目が変わる。
カンと木同士がぶつかり合う音が何度か繰り返され、今度はレリックの方から距離をとった。
レッドに比べればまだ子どもであるレリックの体力が続かないのは当然で、荒い呼吸を繰り返していた。
指導するような打ち合いではなく、実戦と言ってよい打ち合い。
他の冒険者は固唾を呑んで見ている。

そして、三度レリックから斬りかかり、レッドが剣を弾こうとする。
レリックはその剣筋をかわそうとして体勢を崩すが、レリックはその体勢に逆らわずに転がるように倒れる。
砂埃が舞う。
訓練場の砂埃が収まったとき、見えた光景はレッドの胸元で止まるレリックの剣と、レリックの頭の上で止まっているレッドの剣だった。
新人の冒険者が教官と引き分けたのである。
レリックとレッドはお互いに剣を戻して礼をする。
その後、他の冒険者たちが一斉に駆け寄り、もみくちゃにされるレリック。

「新人に負けるだなんて……。レッド、訓練じゃなきゃ死んでますよ?」
リベルテはあきれるような顔をしながらレッドの側に寄る。
「あれは華を持たせてやっただけだ……」
レッドは頭をかきながらそう言い放つが、どこか分が悪そうだった。

凄腕と言われる冒険者はいるし、長く冒険者を続け、腕が確かな冒険者も多くいる。
しかし、そう言われる者たちであっても、あっさりと命を落とすこともまた多いのである。
油断と言える場合もあるだろうし、予期していなかった事態になってしまったためという場合もあるだろう。
どんな理由であるにせよ、怪我をしない冒険者は居なく、命を失う要素はどこにでも存在するのだ。

訓練だったとは言え、格上と言える冒険者に剣を届かせたということに沸き返る新人冒険者たち。
「まったく、調子に乗らなきゃいいけどな」
「そう思うなら、こんなことが起きないようにしなきゃだめですよ」
渋い顔のレッドであったが、レリックたちを見る顔は明るい。
王都で新たに冒険者となった者達の未来に思いを馳せていた。
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