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崖から落ちるという大怪我と依頼の顛末もあり、レッドが宿の部屋に篭ってから1ヶ月が過ぎた。
「おっし。なんとか体が動くな」
ゆっくりと身体を動かし、怪我の具合を確認するレッド。
そもそも、普通の人であれば1ヶ月で満足に動けるようになる怪我ではなかったはずであり、これはレッドの体が強靭で自己回復力も他の人より強いと言えるのかもしれない。
先の依頼の結末で気が沈んでいたものだが、またここから依頼を受けていく気になっていたのである。
ずっと療養のため身体を休めていて、身体が鈍ってしまう感覚が今までの自分を無駄にしてしまいそうで怖かったのもあるが、療養の期間ずっと、リベルテ一人に稼ぎを頼ってしまったことが心苦しかったというのも理由にあった。
「おっし、じゃないです。まだ本調子にはほど遠いでしょう。無理しないでください」
満足に動ける体でありながら、衣食住をリベルテの稼ぎに集るのであれば文句は言うものであるが、あの依頼の結末と怪我で動けないレッドにリベルテは何の文句も言うつもりはなかった。
「いや、さすがにおまえ一人に頼りっきりと言うのは落ち着かなくてな。動いたほうが身体にも、気持ち的にもいいと思うんだよ、たぶん」
無理に明るくしようとしている節も見られるが、ずっと考え込むより動いていた方が気分はすっきりしそうだというのは、わかるものでもあった。
「万全じゃないんですから、討伐依頼なんてダメですよ。せめて配達とか採取の依頼ですよ。それも前回のようなことがないものに限りますけどね……」
「さすがに今の体で討伐依頼なんて命を捨てるようなもんだ。そいつで頼むよ」
冒険者ギルドに向かう二人であったが、ギルドに入るなり、レッドは他の冒険者達に囲まれる。
突然の状況に困惑するレッドとリベルテ。
「おいおい、もう大丈夫なのか。無茶すんなよ」
「話は聞いてる。しばらくゆっくり休んでもいいんじゃないか。いくらかはカンパしてやるからよ」
「大きな怪我をしてまで依頼をこなしたということは広まりましたから、冒険者の評判も良くなってますよ。レッドさんたちがいるこの冒険者ギルドの名も上がってます。ありがとうございます。でも無茶な行動は慎んでくださいよ」
「ちょ、待て。なんだ!? なんだってんだ!?」
レッドが大怪我をしたとなり、どんな凶悪なモンスターが出たのかと騒然となったが、リベルテから報告を聞いたギルドの職員が話を広めたのだ。
病気の子どものために崖を登り、怪我をしてまでキンセリ花を取ったが、依頼者とその子どもはすでに亡くなってしまったということに、皆レッドたちのことを心配していた。
こういった後味の悪い結果となることが無いわけではなく、心を病んで冒険者を辞めたり、酒に逃げたりしてしまう者も出ることがあるのだ。
そんなレッドが怪我の療養だとしても宿から出てこない日々が続いたため、久々に姿を現したレッドを取り囲んで寄ってくるのは、冒険者の横のつながりの良さを窺わせる。
「ちょっと、落ち着いてくれ。怪我が悪化しそうだ!」
力ずくでどけたいレッドであるが、万全では無い身体では折角よくなってきた怪我に響きかねず、なんとか声を張って周囲を止める。
レッドから離れていたリベルテにそっとギルドの従業員が寄ってくる。
「元気になってよかったですね。レッドさん」
「ええ。本当です、エレーナさん。もうあんな無茶はしてほしくないですし、あんなことがあってもレッドには明るくいて欲しいです」
「ふふ。毎日心配してましたもんね。ここまでリベルテさんに想われるレッドさんに教えたくなります」
「ちょっ!?」
レッドが皆に寄って集っては心配されることに困り気味な顔を微笑ましげに見ていたリベルテに声をかけてきたエレーナとうギルドの従業員。
軽い挨拶と思っていたところに、思いっきりストレートな言葉を当てられ、慌てふためくリベルテ。
今日はこの二人がギルドの主役である日らしい。
「お前ら! ギルド内で騒ぎすぎるなよ」
騒ぎを聞きつけたギルマスのギルザークが一喝する。
が、レッドの姿を見るなり事情を察し、レッドの側に寄ってくる。
「レッド、元気になったのか。無茶はするなよ」
「ギルマス……ご心配をおかけしてすいません。」
ギルマスだけでなく周囲に向かってお辞儀をするレッド。
「よおしっ! 今日はこれから宴会だ。金は俺が出してやる。冒険者の評判を高めてくれたレッドの復帰祝いだ。飲むぞ!」
「なんでそこで宴会になるんですか。っていうか、これから依頼受けて稼がないと……」
ギルマスの号令に集まっていた冒険者達が、とても素晴らしい行動力を発揮し、分担して準備に動いていく。
ギルドの従業員も止めることはなく、人数と広さを考えながら席を作っていく。
「こんなことして大丈夫なんですか? ギルマスを止めてください。エレーナさん」
「いえいえ。レッドさんのご活躍に私達職員も感謝しているのです。今日くらいは良いでしょう」
「えぇぇ……」
普段、ギルマスがあちらこちらと動くことを諌めているエレーナなのだが、締めるところは締め、乗るところは乗ってくれる人だった。
「お前はこっちだ」
ギルマスに捕獲され。満足に動けないレッドはあっさりと席に座らせられる。
もっともギルマス相手では満足であっても逃げられないものであるが。
しばらくして、酒と食べ物が職員が用意した机に並ぶ。
「それではレッドの活躍と回復を祝って。かんぱーい!」
「「カンパーイ!」」
もう今は何を言っても無駄と達観したレッドは、ゆっくりと酒に口を付ける。
依頼の取り合いなどあったりする冒険者であるが、時には依頼で協力し合う必要が出てくる仲間でもあるため、冒険者同士の仲は悪くない。
反目しあったり、相手と揉め続けるなんてことは、害になっても利にならないのだ。
いつの間にか主役を放って陽気に飲む連中を見て、レッドの顔に小さく笑いが込み上げる。
「いいところですよね、ここは」
「ああ、ありがたいことだ」
レッドとリベルテはそう言葉を交わし、今日の予定を諦めて、今の宴会を楽しむことにする。
人のつながりが温かいと感じる一日となった。
「おっし。なんとか体が動くな」
ゆっくりと身体を動かし、怪我の具合を確認するレッド。
そもそも、普通の人であれば1ヶ月で満足に動けるようになる怪我ではなかったはずであり、これはレッドの体が強靭で自己回復力も他の人より強いと言えるのかもしれない。
先の依頼の結末で気が沈んでいたものだが、またここから依頼を受けていく気になっていたのである。
ずっと療養のため身体を休めていて、身体が鈍ってしまう感覚が今までの自分を無駄にしてしまいそうで怖かったのもあるが、療養の期間ずっと、リベルテ一人に稼ぎを頼ってしまったことが心苦しかったというのも理由にあった。
「おっし、じゃないです。まだ本調子にはほど遠いでしょう。無理しないでください」
満足に動ける体でありながら、衣食住をリベルテの稼ぎに集るのであれば文句は言うものであるが、あの依頼の結末と怪我で動けないレッドにリベルテは何の文句も言うつもりはなかった。
「いや、さすがにおまえ一人に頼りっきりと言うのは落ち着かなくてな。動いたほうが身体にも、気持ち的にもいいと思うんだよ、たぶん」
無理に明るくしようとしている節も見られるが、ずっと考え込むより動いていた方が気分はすっきりしそうだというのは、わかるものでもあった。
「万全じゃないんですから、討伐依頼なんてダメですよ。せめて配達とか採取の依頼ですよ。それも前回のようなことがないものに限りますけどね……」
「さすがに今の体で討伐依頼なんて命を捨てるようなもんだ。そいつで頼むよ」
冒険者ギルドに向かう二人であったが、ギルドに入るなり、レッドは他の冒険者達に囲まれる。
突然の状況に困惑するレッドとリベルテ。
「おいおい、もう大丈夫なのか。無茶すんなよ」
「話は聞いてる。しばらくゆっくり休んでもいいんじゃないか。いくらかはカンパしてやるからよ」
「大きな怪我をしてまで依頼をこなしたということは広まりましたから、冒険者の評判も良くなってますよ。レッドさんたちがいるこの冒険者ギルドの名も上がってます。ありがとうございます。でも無茶な行動は慎んでくださいよ」
「ちょ、待て。なんだ!? なんだってんだ!?」
レッドが大怪我をしたとなり、どんな凶悪なモンスターが出たのかと騒然となったが、リベルテから報告を聞いたギルドの職員が話を広めたのだ。
病気の子どものために崖を登り、怪我をしてまでキンセリ花を取ったが、依頼者とその子どもはすでに亡くなってしまったということに、皆レッドたちのことを心配していた。
こういった後味の悪い結果となることが無いわけではなく、心を病んで冒険者を辞めたり、酒に逃げたりしてしまう者も出ることがあるのだ。
そんなレッドが怪我の療養だとしても宿から出てこない日々が続いたため、久々に姿を現したレッドを取り囲んで寄ってくるのは、冒険者の横のつながりの良さを窺わせる。
「ちょっと、落ち着いてくれ。怪我が悪化しそうだ!」
力ずくでどけたいレッドであるが、万全では無い身体では折角よくなってきた怪我に響きかねず、なんとか声を張って周囲を止める。
レッドから離れていたリベルテにそっとギルドの従業員が寄ってくる。
「元気になってよかったですね。レッドさん」
「ええ。本当です、エレーナさん。もうあんな無茶はしてほしくないですし、あんなことがあってもレッドには明るくいて欲しいです」
「ふふ。毎日心配してましたもんね。ここまでリベルテさんに想われるレッドさんに教えたくなります」
「ちょっ!?」
レッドが皆に寄って集っては心配されることに困り気味な顔を微笑ましげに見ていたリベルテに声をかけてきたエレーナとうギルドの従業員。
軽い挨拶と思っていたところに、思いっきりストレートな言葉を当てられ、慌てふためくリベルテ。
今日はこの二人がギルドの主役である日らしい。
「お前ら! ギルド内で騒ぎすぎるなよ」
騒ぎを聞きつけたギルマスのギルザークが一喝する。
が、レッドの姿を見るなり事情を察し、レッドの側に寄ってくる。
「レッド、元気になったのか。無茶はするなよ」
「ギルマス……ご心配をおかけしてすいません。」
ギルマスだけでなく周囲に向かってお辞儀をするレッド。
「よおしっ! 今日はこれから宴会だ。金は俺が出してやる。冒険者の評判を高めてくれたレッドの復帰祝いだ。飲むぞ!」
「なんでそこで宴会になるんですか。っていうか、これから依頼受けて稼がないと……」
ギルマスの号令に集まっていた冒険者達が、とても素晴らしい行動力を発揮し、分担して準備に動いていく。
ギルドの従業員も止めることはなく、人数と広さを考えながら席を作っていく。
「こんなことして大丈夫なんですか? ギルマスを止めてください。エレーナさん」
「いえいえ。レッドさんのご活躍に私達職員も感謝しているのです。今日くらいは良いでしょう」
「えぇぇ……」
普段、ギルマスがあちらこちらと動くことを諌めているエレーナなのだが、締めるところは締め、乗るところは乗ってくれる人だった。
「お前はこっちだ」
ギルマスに捕獲され。満足に動けないレッドはあっさりと席に座らせられる。
もっともギルマス相手では満足であっても逃げられないものであるが。
しばらくして、酒と食べ物が職員が用意した机に並ぶ。
「それではレッドの活躍と回復を祝って。かんぱーい!」
「「カンパーイ!」」
もう今は何を言っても無駄と達観したレッドは、ゆっくりと酒に口を付ける。
依頼の取り合いなどあったりする冒険者であるが、時には依頼で協力し合う必要が出てくる仲間でもあるため、冒険者同士の仲は悪くない。
反目しあったり、相手と揉め続けるなんてことは、害になっても利にならないのだ。
いつの間にか主役を放って陽気に飲む連中を見て、レッドの顔に小さく笑いが込み上げる。
「いいところですよね、ここは」
「ああ、ありがたいことだ」
レッドとリベルテはそう言葉を交わし、今日の予定を諦めて、今の宴会を楽しむことにする。
人のつながりが温かいと感じる一日となった。
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