王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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本格的に寒くなり始め、往来を歩く人は身体をさすりながら足早に歩いているのが見受けられる。
厚手の服を着ていても寒さを感じるもので、これまでの日々に比べると人の量はだいぶ落ちていて、露天の類はほとんどなくなっていた。冬になったのだ。

冬だからこその依頼も多くあり、冬にだけ出てくるモンスターの討伐もあるが、一番多いのは配送である。
大きな商談や取引になるものはさすがに商人自身が赴くが、定期的な搬送であったりするものは、冒険者に依頼してくる。やはり寒い中で、途切れさせるわけには行かない仕事であるが、大きな利益にならないものに動きたくないのだ。
オルグラント王国は雪に深く埋まるような気候の場所ではないため、余程な薄着だとかしていない限りは凍死の心配は薄いのだが、それでも寒いというのは億劫になるのである。
配送の依頼が多く、仕事に困りはしないとは言え、寒くて動くのが億劫になるのは冒険者も同じこと。
早い時間から酒場で飲んでいる冒険者が多くいるのだ。
もちろんそこにレッドとリベルテの姿もあった。

「うう~、寒くて外歩きたくないです」
ホットワインに口をつけながら、身体を縮めて少しでも寒さを凌ごうとしているリベルテ。
レッドも寒さは感じているが、リベルテほどではなかった。
「寒いのはわかるが、仕事は仕事だ。商人たちが行きたくない代わりに配送を依頼してきてる。報酬は配送にしては高めになってるからやらんと損だ」
「レッドだけで行ってくれません……?」
「おまえな……。その場合、稼ぎはお前に1銅貨も回さんぞ」
「うう……」
これはレッドとリベルテに限らず、他の冒険者の中でも見られるやりとりだった。

「あ~、そういえば、アクネシアの噂聞きました?」
少しでも温かい場所に長く居ようと雑談で引き伸ばすリベルテ。
「ん? あそこの噂なんてこっちで聞けたのか? どんな話なんだ?」
「あ~、いつ戦争が始まってもおかしくないですし、ちょっと前にあそこからちょっかいだされていますけど、商魂たくましい方などが細くとも商売してますから。
 で、それで聞いた話ですが、アクネシアのどこだかで、突然地形が変わったところがあるそうなんですよ」
「地形が変わる?」
何がしかのアクネシアの動きについての噂かと思っていれば、また毛色が違う話で首を傾げるレッド。

「ある日突然、林があった場所から木が消えて岩が隆起し、代わりに大きな湖ができていたんだそうです。その近辺に村とか無い場所だったので被害とかは無い代わりに、だれもどうしてそうなったかわからないそうです。そのため、神の怒りだとか、ものすごいモンスターがでた、とかあちらの国はちょっとした騒ぎだったとか」
少し温くなり始めているがホットワインのコップに両手をつけて、ゆっくりと飲みつつ話すリベルテ。
「モンスターだったらヤバイな。こっちに流れてこないとも限らん。1日かどうかはしらんが、地形を変えるようなことをやってのけるモンスターなんて聞いたことないな……」
モンスターであったなら食料が多いオルグラント王国側に移動してくる可能性があり、それと戦わなくてはならないときの事を考え、手の打ち様に思案するレッドであったが、リベルテが声を潜めて呟く。
「『神の玩具』だったりしませんかね?」
その言葉にハッとするレッド。

「人に過ぎた力か。地形そのものを変えてしまうような力ってか? そんなもん神は与えて何がしたいんだ……」
人に過ぎた力がどのようなものかはその『玩具』によって違うらしいことは、調べて予想をつけていた。
しかし、地形を変える程とは考えていなかったのだ。

そんなレッドに、リベルテは顎に指を当てて考えながら、自分の思ったことを口にする。
「ん~、私も使えないので想像だけですが、魔法ではないでしょうか? 例えば、風魔法で木々をなぎ払い、土魔法で地面を隆起させ、火魔法でしょうかね? それで地面を大きく溶かして削り、水魔法で満たした、とか」
この世界に魔法を使える人、使ってくる魔物が存在するが、レッドたちのように使えない人もまた多い。
これは本人たちの魔法適性によるものであるが、適性があってもそこから魔法を使いこなせるようになるには、大変な自己研鑽が必要になるのだ。
ちょっとした魔法、例えば指先に火を点すとか、コップ一杯に満ちるかどうかの水を生み出すというものであればそれほどではないと言われている。
しかし、攻撃魔法を使うようになりたいのであれば、相応の威力とするために魔力の制御が必要となるうえに、攻撃魔法は威力によっては、一人で軍を壊滅させることも不可能ではないことが挙げられるため、国が教育機関を設け、国が管理しているのである。
少なくとも、このオルグラント王国では、独自に魔法を使いこなす人間は存在していない。

ともかく、魔法の存在は知っていても使える人間は多くなく、魔法を使えない人にすればどんなものかもわかっていないのだ。

「いろんな属性の魔法で強力なものであればありえるのか? だとしたら、強力すぎるぞ!? そんな魔法が仮に使えるとしても、全てを独りで出来るわけが……だから『神の玩具』か」
「人に過ぎた魔法の力を持っていれば出来なくは無いと思います。地形を変える力というのもありえますが、そんな曖昧なものではないと思いますし、神にしてもこの世界の地形を変えさせても楽しいとは思えませんから」
「地形を変えるほどに魔法を使った……か。なんというか、自身の力が分かっていないのかとりあえず試したら地形を変えてしまった感じがするな」
「そうですねぇ。そこで満足して終わってくれるなり、力に溺れては危険だと落ち着いてくれればいいのですが、その力に驕るようなら……」
「アクネシアが滅ぼされるか、アクネシアに取り込まれるなりして、こっちに攻めてくるな」
噂一つで国が大きく傾いたり、被害を受けてしまうことを想像できてしまい、頭が痛くなってくるレッドであった。
ただ、少し気になることを思い出す。
「今の噂だが、何時ごろ起きた話かわかるか? もしだいぶ経ってからこっちに流れてきた話なら、俺達はそれを引き起こした『神の玩具』に会ってるかも知れない」
「あっ! メレーナ村で見たあの女性ですね。ん~、でも商人からのお話ですからねぇ。商人にとって噂などでも情報は鮮度が命になりますから、最近のことだと思います」
「じゃあ、あの女性以外に居るってことか。過去にもそんなに居たのか? 多く居て欲しくはないんだがな」
過ぎた力を持ち、今の世界よりずっと発展した世界から来た者達が、この世界でどう生きようとするのかわからないのだ。
聖女といわれるような生き方でも多くの国に影響を及ぼすし、魔王と呼ばれるような生き方をされてしまえば、多くの災禍に巻き込まれる人が増えてしまう。
彼らが自らこの世界に来たとは思えないが、こちらで暮らしている者としてはあまり望みたくないと思ってしまっても仕方ないだろう。
過ぎたるものは歓迎されないものである。

「その噂を聞いたからって、今俺達が何かするものでもない。心積もりだけしておくしかない。というわけで、そろそろ配送行くぞ」
「やっぱり行かないとですか……」
「十分、暖は取ったろ。さっさと行かないと余計に寒い思いすることになるんだ。さっさと終わらせて戻ってこようぜ」
「は~い。言ってても仕方ないですし、早く終わらせるというのはまさしくその通りですよね」
二人は酒場を出て、配送の荷物を受け取りに行く。
どんな災禍が起きるかわからないが、それまでは人々の暮らしは変わらない。
白い息を吐きながら、仕事や買い物に向かう人。
冬は始まったばかりだった。
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