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オルグラント王国の兵士がグーリンデ、アクネシア王国と連合して帝国と戦うことになり、王都から進軍していって、季節は冬から春に変わったがどうなったのか、どうなっているかの情報は流れてきていない。
帝国がグーリンデに対して進軍の動きを見せていることから組まれた連合であるが、侵略する連合ではないということと、先に連合の兵が動いたことによって帝国とのにらみ合いになっているからだろうと話にあがっている。
帝国としては連合の兵を無視して、ナダ王国だった領地経由でグーリンデの王都に進軍できるが、グーリンデも防衛の兵は残しているし、そこで戦っているうちに連合の兵が上がって来てしまうと、帝国の領土が脅かされてしまう可能性が高いからである。
相手の国を落として、自分の国が無くなっていたらそれは意味がない。
であれば帝国は連合の兵と対陣しなければいけない。
変わって連合側は進軍するための兵ではないといったが、それはオルグラント王国の兵である。
グーリンデ、アクネシアはあわよくばで帝国の領土を狙っているのだろうが、土地柄的にオルグラント王国より人口の少ない両国に単独で帝国と当たって破れる兵はない。
いや、無いわけではないのが戦争ではあるのだが、単独でやれるのであれば連合を持ちかける必要はないのだ。
そもそもグーリンデはオルグラントに侵攻しては追い返されているが、帝国との小競り合いでは追い返している側であり、防戦に強い国と言え、アクネシアは兵が強いのであれば、絡めてばかり使わずに武力も使ってくるはずなのである。
そしてオルグラントは侵略をしかけたことが無い専守の国であれば、オルグラントが進軍させるはずもなく、他が先の通りであれば帝国を待つ形となるはずである。
「帝国との戦いはどうなっているんですかね?」
思い出したかのようにタカヒロが話題に振るが、酒場ではまだ対陣したままだろうという話が持ちきりである。
家で食事と酒を取ることが多い生活になっているが、酒場に行かないわけではない。
酒場と商会と女性の集まりは情報収集するのに欠かせない場所だからだ。
酒場は酔い始めればいろいろと知ってる話を自慢げに話したり、苦労話だとかも聞こえてくる。
商会は情報が命とも言うべきものだから、どこいらの畑の成育が良い悪いだとか、どこそこで襲われそうになっただとかそんな話が聞ける。
そして、女性の集まりだが、ここも情報収集の確度がすごく、商会でもまだつかめていない話をしていたり、どこそこの貴族の生活についても話していたりするくらいで、レッドは驚愕したことがあるくらいなのだ。
タカヒロもお酒は好きな方であるため酒場にレッドと連れ立って行く事だってあるので、酒場で話されている内容を聞いていないわけがないのに聞いているのである。
「どこら辺が戦場になってるとか地図ないとわからんが、兵が進軍して行ってからそんなに経ってねぇからな。着いてすぐ戦うとかはないと思うぞ? グーリンデと帝国の境あたりでやるのが大抵だからな。それに帝国を滅ぼすとかって戦いじゃないんだ、にらみ合ってるのは間違いないと思うぞ?」
酒が入った人たちの話ではなく、レッドたちの見解を聞きたいという事だと思ったレッドが口を開く。
「え? なんで国の境あたりでやるんですか?」
マイが純粋にわからないという顔で質問してくる。
「マイさん。だれだって自分の家の中を荒らされたくはないと思いますよ? そうせざるを得ないのは、相手の方が強いとか数が多いとか、はたまた必ず仕留めるつもりの時とか……。荒らされたのを片付けるのも直すのもこちらになってしまいますしね」
自分たちが把握している地形の方が有利に戦えるものであるが、自分の都市や畑などの近くになど入れたくは無い。となれば少しでもそこから遠くで戦う必要が出てくるのである。
そうなると相手の領内で戦いたいとなるが、そうなれば地形を把握している相手の方が有利となってしまうし、そもそも侵略して占領することを考えてはいても、侵略の意思で統一されていない連合では深く入り込めない。
そこで境あたりになるのである。
「自分が有利なところまで引き込めば良いのに。面倒だねぇ」
タカヒロが面倒くさいと両手を頭の後ろに回すが、レッドとリベルテはそれこそ何言ってるんだとばかりの目を向けていた。
「おまえなぁ……。実際、境つってもそこに関とか砦とか建てたりしないと、そこがどっちの領土だとかはっきりさせれないもんだ。地面に線とか引いてるわけじゃないし、そんな線なんて消えたり、消されたりしちまうからな。だからそこまで兵を出して、ここまではこっちの領土だからそれ以上来たら攻撃するぞってやるもんだ」
「そして、有利なところまで引き込むというのはわかりますが、そこまで相手が来てくれるかというのがあります。タカヒロさんが言うような場所は道が狭いとか起伏があるということなんでしょうけど、そこを避けて動かれてしまうと畑があるところですとか、村や町が襲われてしまうかもしれません。それに今回ですと……ほかの軍がいますから」
「あ、そっか! 連携とれないから折角そこにおびき寄せても抜けられたり、閉じ込められたりできないんですね!」
レッドとリベルテの説明にマイがわかったとばかりに身を乗り出してくる。
「それもあるが、そういう方法を取ってくるってことを、ほかの国に教えちまうことになるんだよ。今回は連合組んでるけど、帝国と戦った後どうなるかはわからないからな」
レッドがそういうとマイはすごく驚いたような、どん引きしたような声を出す。
一緒に戦っている相手を敵と考えながら戦わなければいけないというのだから、その面倒くささと誰も信用していない考え方に嫌な顔をするのはもっともである。
レッドもそれがわかっているだけに、そういうもんだと肩を竦めるだけで返す。
相手の国を信用するというのであれば、国を分けている必要はないのだ。
信頼できる相手だからこそ、一緒に暮らそうとしたり、家庭を持とうとするのだから。
国だって似たようなものである。相手の国が信用できるのであれば、その国に向かって兵を、武器を持つ必要などなく、問題を起こさないと信用できればいいのだから国境なども不要となる。
だが、決してそんなことにはならない。
人は同じ価値観など持つことは出来ても、すべてを同じに持つことなどで気はしない。
全員が全員心から賛成することなど人が増えるほどにありえなくなる。
まだ戦争がどうなったかも分からないのであるが暗くなってしまう面々のテーブルに、ドンッと大皿が置かれる。
そう、レッドたちは酒場に来ている。おなじみの「どんぐり亭」である。
この店の店主はこうして料理を勝手に出すことがあるのだが、店主が出す料理にはずれはないため、出された側は文句など言わず食べてお金を払っている。
もっとも美味しいのに不味いとか、手をつけて置きながら頼んでないから払わないとか問題を起こすと、店の外で朝日を迎えることとなるだろう。
亭主は元上級の冒険者という経歴の持ち主なのだから。
「人の店で不景気そうな顔してんじゃえぇよ。上手いもん食って飲んで、明日は明日の生活でも送れってんだ」
腕を汲んで仁王立ちの店主の気迫に、マイとタカヒロは黙り込んでしまう。
この店にも何度も連れてきてもらっているのであるが、いつもは料理作ってて出てこないので慣れていないのだ。
「わりぃ、おっちゃん。でも、こんな話ができるってのも平和ってもんだろ?」
「ま、そうだがな。ま、そいつ食って感想きかせろや」
「なんていう押し売り……」
レッドが店主と気楽に話しをしているが、頼んでない料理を出されるということに違和感しかないタカヒロはぼやきを隠せなかった。
「あ! タカヒロ君! これ美味しいよ!」
同じくこういったのに慣れていないと思われたマイは躊躇無く料理に手をつけていた。
出された料理はきのこと野菜の炒め物。
具材はカロタとケーパ、カボシェにきのこ。
「ん~、このきのこ食感がいいですし、ほどよく油がしみてて美味しいです」
「このキノコはシュネーピルツって名前でな、これくらいの時期に取れるやつなんだ。炒めちまうとそんなにわからなくなっちまうんだが、香りがいいキノコなんだ。まぁ、出回る量がまた少ないのが欠点だな。んで、嬢ちゃんが言った油だがだいぶ違うだろ? なんの油だと思う?」
一般的に使われる油とは脂身であり、ほかに最近取り始めた植物油である。
そのどちらとも違うとは気づいていたリベルテであるが、ほかの見当がつかなかった。
「バターですか?」
マイがそれしかないよねとばかりに店主を見て言う。
「だっはっは。知ってやがったか。テイルクーってモンスターの世話を5年掛けてできる様になったヤツがいてな。ミルク絞れるってんで喜んでたんだが、まぁ売るにも味がくどくて飲んでくれるのが少なかったらしく、試行錯誤の末、放置したら上に浮いてくる上澄みを取り除くと飲みやすくなったらしい。んで、取り除いたやつも何かに使ってくれるかもと馬車に積んで動き回ってたら、固まってたらしい」
「よくそんなもの使おうと思いましたよね……」
「そりゃ食えるもんからできたんだ。ちょいと試してみるのが料理人てもんだろ。試しもしないで美味いも不味いもわかるもんかよ」
違いないと笑いあうレッドと店主であるが、さすがに見た目で食べてみようと思わないものもあるでしょと口には出さないものの顔にははっきり出すタカヒロ。
マイはなんとか真似できないか味を覚えるように、マイはドサッと取り分けて食べていた。
「……ちなみになんで5年も掛かったかとか聞いても?」
「ん? おお。モンスターだからな。ってだけを聞きたいわけじゃないだろな。俺も聞いただけだが、近づき方、絞り方が悪いと長く太い尻尾で容赦なくぶったたかれるそうだ。それを怪我をしながら研究してったら5年らしい」
もはやタカヒロはどん引きであった。レッドも軽く引いている。
これはテイルクーに尻尾でぶったたかれ、怪我をして治ってはまた試してということ。
文字通り、身体を張って、いや、命を張っての乳搾り。
そこまでするんのか、そこまでするか? とそれぞれはっきりと顔に書かれていた。
「ま、ここまで美味そうに食ってくれたんなら、バンバン作ってもらうよう言っとくか。んじゃ、ゆっくりしてけ」
店主が奥さんだろう人の顔を見て足早に戻っていく。
店に居るのはレッドたちだけではないし、レッドたちが来ているのは夜。
いつもの王都らしく、賑やかに飲んでいる人たちが多いのだ。
「やっぱりたまには酒場で食うのはいいな」
「そうですね。いつもリベルテさんに作ってもらうのも悪いし」
「ふふ。マイさんはいつも美味しそうに食べてくれるのでうれしいですよ。でも、料理がうまい人のものを食べるとまだまだと感じます」
「料理人目指すわけじゃないでしょうに。まぁ、しばらく来れてなかったから、ゆっくり食べ飲みしましょうよ」
「フクフクが大人しく待っててくれるようになったからなぁ。ここに連れてくるわけにもいかないかったし」
「フクフク頭いいもんねぇ。でも、帰ったら構ってあげなきゃ」
「あれ? 本来、夜行性でしょ? フクフクこっちが寝てる時間が一番動きたいんじゃないの?」
「なんとかなんじゃね?」
「うわぁ、適当だぁ……」
「マイさんを親と思ってますから、親に合わせて日中の活動に変わるかもしれませんね」
楽しい時間の過ごし方、お酒の飲み方は人それぞれで好みは違う。
されど、お酒を楽しく飲めば、話す口も軽く、楽しいものになる。
家とも違った楽しく騒がしい夜が過ぎていく。
帝国がグーリンデに対して進軍の動きを見せていることから組まれた連合であるが、侵略する連合ではないということと、先に連合の兵が動いたことによって帝国とのにらみ合いになっているからだろうと話にあがっている。
帝国としては連合の兵を無視して、ナダ王国だった領地経由でグーリンデの王都に進軍できるが、グーリンデも防衛の兵は残しているし、そこで戦っているうちに連合の兵が上がって来てしまうと、帝国の領土が脅かされてしまう可能性が高いからである。
相手の国を落として、自分の国が無くなっていたらそれは意味がない。
であれば帝国は連合の兵と対陣しなければいけない。
変わって連合側は進軍するための兵ではないといったが、それはオルグラント王国の兵である。
グーリンデ、アクネシアはあわよくばで帝国の領土を狙っているのだろうが、土地柄的にオルグラント王国より人口の少ない両国に単独で帝国と当たって破れる兵はない。
いや、無いわけではないのが戦争ではあるのだが、単独でやれるのであれば連合を持ちかける必要はないのだ。
そもそもグーリンデはオルグラントに侵攻しては追い返されているが、帝国との小競り合いでは追い返している側であり、防戦に強い国と言え、アクネシアは兵が強いのであれば、絡めてばかり使わずに武力も使ってくるはずなのである。
そしてオルグラントは侵略をしかけたことが無い専守の国であれば、オルグラントが進軍させるはずもなく、他が先の通りであれば帝国を待つ形となるはずである。
「帝国との戦いはどうなっているんですかね?」
思い出したかのようにタカヒロが話題に振るが、酒場ではまだ対陣したままだろうという話が持ちきりである。
家で食事と酒を取ることが多い生活になっているが、酒場に行かないわけではない。
酒場と商会と女性の集まりは情報収集するのに欠かせない場所だからだ。
酒場は酔い始めればいろいろと知ってる話を自慢げに話したり、苦労話だとかも聞こえてくる。
商会は情報が命とも言うべきものだから、どこいらの畑の成育が良い悪いだとか、どこそこで襲われそうになっただとかそんな話が聞ける。
そして、女性の集まりだが、ここも情報収集の確度がすごく、商会でもまだつかめていない話をしていたり、どこそこの貴族の生活についても話していたりするくらいで、レッドは驚愕したことがあるくらいなのだ。
タカヒロもお酒は好きな方であるため酒場にレッドと連れ立って行く事だってあるので、酒場で話されている内容を聞いていないわけがないのに聞いているのである。
「どこら辺が戦場になってるとか地図ないとわからんが、兵が進軍して行ってからそんなに経ってねぇからな。着いてすぐ戦うとかはないと思うぞ? グーリンデと帝国の境あたりでやるのが大抵だからな。それに帝国を滅ぼすとかって戦いじゃないんだ、にらみ合ってるのは間違いないと思うぞ?」
酒が入った人たちの話ではなく、レッドたちの見解を聞きたいという事だと思ったレッドが口を開く。
「え? なんで国の境あたりでやるんですか?」
マイが純粋にわからないという顔で質問してくる。
「マイさん。だれだって自分の家の中を荒らされたくはないと思いますよ? そうせざるを得ないのは、相手の方が強いとか数が多いとか、はたまた必ず仕留めるつもりの時とか……。荒らされたのを片付けるのも直すのもこちらになってしまいますしね」
自分たちが把握している地形の方が有利に戦えるものであるが、自分の都市や畑などの近くになど入れたくは無い。となれば少しでもそこから遠くで戦う必要が出てくるのである。
そうなると相手の領内で戦いたいとなるが、そうなれば地形を把握している相手の方が有利となってしまうし、そもそも侵略して占領することを考えてはいても、侵略の意思で統一されていない連合では深く入り込めない。
そこで境あたりになるのである。
「自分が有利なところまで引き込めば良いのに。面倒だねぇ」
タカヒロが面倒くさいと両手を頭の後ろに回すが、レッドとリベルテはそれこそ何言ってるんだとばかりの目を向けていた。
「おまえなぁ……。実際、境つってもそこに関とか砦とか建てたりしないと、そこがどっちの領土だとかはっきりさせれないもんだ。地面に線とか引いてるわけじゃないし、そんな線なんて消えたり、消されたりしちまうからな。だからそこまで兵を出して、ここまではこっちの領土だからそれ以上来たら攻撃するぞってやるもんだ」
「そして、有利なところまで引き込むというのはわかりますが、そこまで相手が来てくれるかというのがあります。タカヒロさんが言うような場所は道が狭いとか起伏があるということなんでしょうけど、そこを避けて動かれてしまうと畑があるところですとか、村や町が襲われてしまうかもしれません。それに今回ですと……ほかの軍がいますから」
「あ、そっか! 連携とれないから折角そこにおびき寄せても抜けられたり、閉じ込められたりできないんですね!」
レッドとリベルテの説明にマイがわかったとばかりに身を乗り出してくる。
「それもあるが、そういう方法を取ってくるってことを、ほかの国に教えちまうことになるんだよ。今回は連合組んでるけど、帝国と戦った後どうなるかはわからないからな」
レッドがそういうとマイはすごく驚いたような、どん引きしたような声を出す。
一緒に戦っている相手を敵と考えながら戦わなければいけないというのだから、その面倒くささと誰も信用していない考え方に嫌な顔をするのはもっともである。
レッドもそれがわかっているだけに、そういうもんだと肩を竦めるだけで返す。
相手の国を信用するというのであれば、国を分けている必要はないのだ。
信頼できる相手だからこそ、一緒に暮らそうとしたり、家庭を持とうとするのだから。
国だって似たようなものである。相手の国が信用できるのであれば、その国に向かって兵を、武器を持つ必要などなく、問題を起こさないと信用できればいいのだから国境なども不要となる。
だが、決してそんなことにはならない。
人は同じ価値観など持つことは出来ても、すべてを同じに持つことなどで気はしない。
全員が全員心から賛成することなど人が増えるほどにありえなくなる。
まだ戦争がどうなったかも分からないのであるが暗くなってしまう面々のテーブルに、ドンッと大皿が置かれる。
そう、レッドたちは酒場に来ている。おなじみの「どんぐり亭」である。
この店の店主はこうして料理を勝手に出すことがあるのだが、店主が出す料理にはずれはないため、出された側は文句など言わず食べてお金を払っている。
もっとも美味しいのに不味いとか、手をつけて置きながら頼んでないから払わないとか問題を起こすと、店の外で朝日を迎えることとなるだろう。
亭主は元上級の冒険者という経歴の持ち主なのだから。
「人の店で不景気そうな顔してんじゃえぇよ。上手いもん食って飲んで、明日は明日の生活でも送れってんだ」
腕を汲んで仁王立ちの店主の気迫に、マイとタカヒロは黙り込んでしまう。
この店にも何度も連れてきてもらっているのであるが、いつもは料理作ってて出てこないので慣れていないのだ。
「わりぃ、おっちゃん。でも、こんな話ができるってのも平和ってもんだろ?」
「ま、そうだがな。ま、そいつ食って感想きかせろや」
「なんていう押し売り……」
レッドが店主と気楽に話しをしているが、頼んでない料理を出されるということに違和感しかないタカヒロはぼやきを隠せなかった。
「あ! タカヒロ君! これ美味しいよ!」
同じくこういったのに慣れていないと思われたマイは躊躇無く料理に手をつけていた。
出された料理はきのこと野菜の炒め物。
具材はカロタとケーパ、カボシェにきのこ。
「ん~、このきのこ食感がいいですし、ほどよく油がしみてて美味しいです」
「このキノコはシュネーピルツって名前でな、これくらいの時期に取れるやつなんだ。炒めちまうとそんなにわからなくなっちまうんだが、香りがいいキノコなんだ。まぁ、出回る量がまた少ないのが欠点だな。んで、嬢ちゃんが言った油だがだいぶ違うだろ? なんの油だと思う?」
一般的に使われる油とは脂身であり、ほかに最近取り始めた植物油である。
そのどちらとも違うとは気づいていたリベルテであるが、ほかの見当がつかなかった。
「バターですか?」
マイがそれしかないよねとばかりに店主を見て言う。
「だっはっは。知ってやがったか。テイルクーってモンスターの世話を5年掛けてできる様になったヤツがいてな。ミルク絞れるってんで喜んでたんだが、まぁ売るにも味がくどくて飲んでくれるのが少なかったらしく、試行錯誤の末、放置したら上に浮いてくる上澄みを取り除くと飲みやすくなったらしい。んで、取り除いたやつも何かに使ってくれるかもと馬車に積んで動き回ってたら、固まってたらしい」
「よくそんなもの使おうと思いましたよね……」
「そりゃ食えるもんからできたんだ。ちょいと試してみるのが料理人てもんだろ。試しもしないで美味いも不味いもわかるもんかよ」
違いないと笑いあうレッドと店主であるが、さすがに見た目で食べてみようと思わないものもあるでしょと口には出さないものの顔にははっきり出すタカヒロ。
マイはなんとか真似できないか味を覚えるように、マイはドサッと取り分けて食べていた。
「……ちなみになんで5年も掛かったかとか聞いても?」
「ん? おお。モンスターだからな。ってだけを聞きたいわけじゃないだろな。俺も聞いただけだが、近づき方、絞り方が悪いと長く太い尻尾で容赦なくぶったたかれるそうだ。それを怪我をしながら研究してったら5年らしい」
もはやタカヒロはどん引きであった。レッドも軽く引いている。
これはテイルクーに尻尾でぶったたかれ、怪我をして治ってはまた試してということ。
文字通り、身体を張って、いや、命を張っての乳搾り。
そこまでするんのか、そこまでするか? とそれぞれはっきりと顔に書かれていた。
「ま、ここまで美味そうに食ってくれたんなら、バンバン作ってもらうよう言っとくか。んじゃ、ゆっくりしてけ」
店主が奥さんだろう人の顔を見て足早に戻っていく。
店に居るのはレッドたちだけではないし、レッドたちが来ているのは夜。
いつもの王都らしく、賑やかに飲んでいる人たちが多いのだ。
「やっぱりたまには酒場で食うのはいいな」
「そうですね。いつもリベルテさんに作ってもらうのも悪いし」
「ふふ。マイさんはいつも美味しそうに食べてくれるのでうれしいですよ。でも、料理がうまい人のものを食べるとまだまだと感じます」
「料理人目指すわけじゃないでしょうに。まぁ、しばらく来れてなかったから、ゆっくり食べ飲みしましょうよ」
「フクフクが大人しく待っててくれるようになったからなぁ。ここに連れてくるわけにもいかないかったし」
「フクフク頭いいもんねぇ。でも、帰ったら構ってあげなきゃ」
「あれ? 本来、夜行性でしょ? フクフクこっちが寝てる時間が一番動きたいんじゃないの?」
「なんとかなんじゃね?」
「うわぁ、適当だぁ……」
「マイさんを親と思ってますから、親に合わせて日中の活動に変わるかもしれませんね」
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