87 / 214
87
しおりを挟む
「……ねぇ」
忙しなく準備をしている人たちの気配を背にしながら声をかける。
「……ねぇ、レッドさん」
「ん? なんだ? おっし! 準備できたか? 持ち場に着くぞ!」
レッドに呼びかけていたのはタカヒロで、その顔から表情は抜けているようであり、目も半目で遠くを見ている。
たいしてレッドはリベルテたちとともに荷物を馬車から降ろし、ほかの冒険者たちに渡したり、場所の指示を出していた。
「帝国に負けたって話聞いてましたよね?」
「……あぁ、そうだな」
タカヒロはだレッドの方も見ずに話し、レッドは少し顔を暗くさせたもののすぐ顔を上げてタカヒロと同じ方角に目を向ける。
「結構、大騒ぎになる話だと思うんですよ」
「そうだな。酒場とか女性の集う場所とか大騒ぎだな。たぶん、今じゃ城の方もそうなってると思うがな」
レッドたちがギルドで聞いた敗戦の話は、その後、王都内に広まり大騒ぎとなっている。
だが、グーリンデ、アクネシアそれぞれに箇所に建てられている砦からその後の情報は来ていなく、連合として出陣していった兵がどうなっているのかわかっていない。
敗戦したのであれば敗走してくる兵があっていいはずなのであるが、来ていないし、その陰もないらしい。
「それとレッドさんたちが捕まえるのに手伝ったっていう、またヤバイ薬作ってる人、逃げたんですよね?」
「あの警ら隊の隊長、本当に使えないやつだよな……。また被害者が増えちまう」
また王都で少しずつ出回り始めている人をおかしくする薬に関わっているだろう相手を捕まえたはずであったが、その当日に逃げられてしまったらしい。
どのようにして逃げたのかなどレッドたちに聞かされてはいなく、不審な点しかないものだった。
あの警ら隊の隊長と働きたくは無いのだが、かといって個人で探したりすると掛かる費用は全て実費であり、収入や蓄えが潤沢といえないレッドたちには厳しいものになる。
また、何か問題が起きたとき、警ら隊とともに動いていないため、レッドたちが牢に送られてしまうことになるので、今すぐには動けずにいる。
「それでなんでここにいるんですかねぇ……」
「いや、まぁ、時期だからとしかな……。兵も減ってるし、着いていった冒険者もいるから人手が心配されてるんだよ。ギルマス権限を使われるかと思ったんだが、参加する奴らが多くて助かったな。まぁ稼ぎ時だしな!」
ここまでリベルテとマイが参加してこないのは、感情を殺しているためだろう。
二人の表情もだいぶなくなってきており、ただ事務的に処理しようという心構えが見える。
そう、あの時期なのである。
多くの虫が地面より這い出して向かってくる光景。
ディグアーマイゼ、センテピードの繁殖、移動時期である。
稼ぎ時と剣や槍を奮う者たちと、及び腰で槍で突く者たちの姿が見える。
タカヒロはやりたくなかったと思うが、もう目の前に迫っている虫たちに、口を閉じて槍で突き続けるのだった。
それは春の日差しが感じられる様になってきた朝。
起きて来たタカヒロは外の天気のよさに背伸びをする。
「おはようございます。タカヒロさん。」
リビングにはすでにリベルテが居たが、レッドの姿は見えなかった。
「レッドさんは? もうすぐ起きて来るのかな?」
いつもであれば、リベルテ、タカヒロ、レッドの順で起きて来る。
そこからしばらく経ってから起きてくるマイを待って、朝食を取るのである。
「あ~、レッドなら冒険者ギルドに行ってますよ。なので、朝ごはんはもう少し遅くなりますね。ごめんなさい」
レッドたちの依頼を手伝ったり、タカヒロたちで稼いだものから食費や家賃としていくらか払い、まれにタカヒロが朝ごはんを作ったりすることはあるものの、ほとんどリベルテの世話になっている身としては、いえいえ、としか返す言葉は無い。
それからしばらく経って、マイが起きて来るのだが、レッドはまだ戻ってきていない。
「あれぇ~? レッドさんは? 私より寝坊だなんて……私が勝ったってすごくない!?」
いつも皆より遅く起きて来ていることを気にしていたのか、ここに姿の見えないレッドに自分の方が早く起きられたと喜ぶ。
もちろん、リベルテとタカヒロは生暖かい目でマイの姿を見ていた。
「朝からうるさいぞ」
そんなマイの頭に後ろからペシッと叩くのは、ギルドから戻ってきたレッドである。
「あ、レッドさん! いくら私より起きるのが遅れて悔しいからって叩いくのは酷いですよ!」
マイはむくれているのだが、だれも取り合わない。
レッドは席に着き、リベルテは朝ごはんの配膳に動き出す。
チラッとタカヒロに目を向けるが、タカヒロは何も言わず、可哀そうな子を見る目を返すだけだった。
そこでレッドが起きてこなかったのではなく、早くに起きて出かけていたらしいことを察し、恥ずかしさのあまりタカヒロを数回叩いてから椅子に座る。
「ですよねぇ……。やっぱりこういう扱い……」
こちらもまた誰も取り合わない、哀愁を感じさせるものだった。
「それで、レッドさん。どこに行ってたんですか?」
マイが固いパンをスープに浸しては口に放り込んでいく。
柔らかいパンも買うことはできるのだが、慣れすぎると遠出に差し障るし、食費も上がってしまうと固いパンの日の方が多い。
「冒険者ギルドだよ。あ~、メシ食ったら依頼こなしに行くぞ。悪いが今回は全員で参加だ。もうその手続きもさせてきてもらった」
「は~い」
マイたちにも差し支えはない。
自分たちでやりたい依頼というのも持っていないし、レッドたちと一緒に受けることも多いので、普段どおりとも言うものだ。
「それで、どんな依頼内容なんですか? 畑仕事とか採取のですか?」
タカヒロが面倒なのじゃなきゃいいなぁと思いながら、依頼について確認する。
「いや? 喜べ、討伐依頼だ。まぁ、ほかの冒険者もいるから、そこは覚えといてくれ」
冒険者の依頼は個人であったり、チームだけで受けるものが多い。
しかし、強力なモンスターが出ただとか、数が多く間引く必要がある被害が出ているだとかそういった場合には、複数の冒険者が受けるものとなる。
「へぇ~、そういうの滅多にないですよね。兵士さんも減ってる時だから頑張らないとですよね」
「そうだな」
マイとレッドが朗らかに食べつつ話を続ける。
「でもなんかこういうのあったような……。なんだっけなぁ」
なんとなく引っかかるものを覚えて思い出そうとするが、タカヒロは思い出せずにいた。
そして、リベルテの目から徐々に光りが消えていっていることに気づかなかった。
「うわぁぁぁぁ!」
「ふぇぇぇぇぇ」
あちらこちらから悲鳴が聞こえてきて、そうだよな~という同意の感情に、懐かしいなともよっし、とも思ってしまうものがあった。
やはり、自分が以前にした、感じた体験は他の人にも味合わせたくなることがある。
言ってしまえば、同じ犠牲者を、仲間を増やしたいという思いである。
そういうタカヒロたちは叫びたくはなるものの、叫ぶことは無くただ淡々と突いて処理していく。
マイでさえ、叫ぶことなく槍で突い……たり叩いたりしている。
リベルテが正確に淡々と処理している見本であり、マイは暴れまわっている見本である。
どちらも近くに大量の死骸を積んでいるが、マイの方は凄惨である。
それでもなおほかの死骸を乗り越えて向かってくるカサカサ音にタカヒロも槍を奮うしかない。
だがこれらは守勢の形。
カサカサと動き回るやつらを相手に動き回りたくない人、確実に距離をとって戦いたい人たちがこのように戦っている。
だが、そうではない人たちというのはどこにでもいるものだ。
この虫相手に切り込み暴れまわる人たちもいるということ。
この虫の大群の中を動き回って蹴散らしている冒険者たちというのは腕に自信があり、この虫相手に遅れや不覚を取ることがない人たちである。
もちろん、レッドはここに入っている。
数人で固まって武器を奮いながら近くにいた虫を蹴散らし、止まることなく葬っていく。
止まったらそこで終了とも言える突撃であり、それは彼らもわかっているため、周囲への目が広い人がリーダーとして進撃方向を指示している。
「あそこだけ違うゲームだなぁ……」
縦横無尽とも言える暴れっぷりは憧れ、そこに自分も居てみたいと思ってしまうところはあるが、相手が相手だけにタカヒロは絶対に参加したくないとも思った。
暴れまわるというのは動き続けるということ。
さすがに疲労してきたのか、疲労しきる前にこちらへ戻ってくる一団。
それを追うように動いてくる虫にまだ控えていた冒険者が弓を射掛け始める。
それでも近くにいるものは、守勢にいる人たちがやりで突き殺す。
「あ~、暴れた暴れた」
「だがまだ居やがるし、向かってくる気だな。少し休んだらまた行って減らさないとだな」
レッドたち突撃組が腰を下ろして休む間、タカヒロたちは先ほど以上に向かってくる虫を相手にし続けなければいけない。
最初に悲鳴をあげたり泣き言を言っていた人たちもただひたすらに槍を突き動かしていく。
もう腕が上がらなくなってきている人たちも出てき始め、少しずつ怪我人が増えていく。
「おっし! 行くぞ!!」
また突撃組が切り込んでいく。
肩で息をし、腕も震えてきて当てれなくなってきたり、深く突けなくなり始め、焦りがでてきて、余計に手間取り始める。
「ヤバイ!」
早く終われと念じるがそれで事態が変わるなら、皆が願い続ける。
センテピードの口がガチッと脛当に当たる音がして、タカヒロは怖気が走る。
「このっ!」
ほとん反射だった。
冒険者になってから怪我をすることは少なくない。治して貰えるという考えもあるが、怪我をするにも、何より虫にやられるのが嫌だった。
ほかのモンスターよりも、賊にやられるよりも恐怖だった。
だから奮った力はそこまで抑えようと考えていないものだった。
だが、近くにいたセンテピードを切り刻み、後ろにいたアーマイゼを切ったところでほかに影響はでていなかった。
「え?」
思わず呆けてしまうタカヒロ。
だが、突撃組が暴れまわった成果がでたのか、虫たちがタカヒロたちとは逆側に進み始める。
撃退できたのだ。
槍を奮っていた人たちは皆、疲れ果てたように座り込む。
これだけ見れば、負けたのはこちらのようである。
「おわったぁ~……」
マイが困憊して横になる。
リベルテも明らかにホッとしていて、レッドは突撃組の面々と感想を言い合っている。
タカヒロも寝転がっているが、その目はずっと上を向いていた。
帰りの馬車は乗っている面子によって違っている。
疲れ果てて誰も話たりもせず静かな馬車と終わったことやりきったことに興奮している声が聞こえる馬車。
タカヒロたちは静かな馬車の方にいて、マイとリベルテはお互いに肩を寄せ合って寝ていた。
「はぁ……疲れたぁ……」
タカヒロが幌に背を預けながらぼやく。
「お疲れさん。だが本当に前より強くなってきたんじゃないか? 今年のは多かったが、最後まで奮ってたじゃないか」
レッドが褒めてくれるのだが、タカヒロの顔は晴れない。
「僕は強くなってるって言えるんだろうか……」
こぼした言葉は誰にも聞こえないものだった。
ギルドに完了の報告をしにきた面々に、ギルド内で騒いでいる声が響く。
連合軍が帝国の兵を追い散らしたというものだった。
忙しなく準備をしている人たちの気配を背にしながら声をかける。
「……ねぇ、レッドさん」
「ん? なんだ? おっし! 準備できたか? 持ち場に着くぞ!」
レッドに呼びかけていたのはタカヒロで、その顔から表情は抜けているようであり、目も半目で遠くを見ている。
たいしてレッドはリベルテたちとともに荷物を馬車から降ろし、ほかの冒険者たちに渡したり、場所の指示を出していた。
「帝国に負けたって話聞いてましたよね?」
「……あぁ、そうだな」
タカヒロはだレッドの方も見ずに話し、レッドは少し顔を暗くさせたもののすぐ顔を上げてタカヒロと同じ方角に目を向ける。
「結構、大騒ぎになる話だと思うんですよ」
「そうだな。酒場とか女性の集う場所とか大騒ぎだな。たぶん、今じゃ城の方もそうなってると思うがな」
レッドたちがギルドで聞いた敗戦の話は、その後、王都内に広まり大騒ぎとなっている。
だが、グーリンデ、アクネシアそれぞれに箇所に建てられている砦からその後の情報は来ていなく、連合として出陣していった兵がどうなっているのかわかっていない。
敗戦したのであれば敗走してくる兵があっていいはずなのであるが、来ていないし、その陰もないらしい。
「それとレッドさんたちが捕まえるのに手伝ったっていう、またヤバイ薬作ってる人、逃げたんですよね?」
「あの警ら隊の隊長、本当に使えないやつだよな……。また被害者が増えちまう」
また王都で少しずつ出回り始めている人をおかしくする薬に関わっているだろう相手を捕まえたはずであったが、その当日に逃げられてしまったらしい。
どのようにして逃げたのかなどレッドたちに聞かされてはいなく、不審な点しかないものだった。
あの警ら隊の隊長と働きたくは無いのだが、かといって個人で探したりすると掛かる費用は全て実費であり、収入や蓄えが潤沢といえないレッドたちには厳しいものになる。
また、何か問題が起きたとき、警ら隊とともに動いていないため、レッドたちが牢に送られてしまうことになるので、今すぐには動けずにいる。
「それでなんでここにいるんですかねぇ……」
「いや、まぁ、時期だからとしかな……。兵も減ってるし、着いていった冒険者もいるから人手が心配されてるんだよ。ギルマス権限を使われるかと思ったんだが、参加する奴らが多くて助かったな。まぁ稼ぎ時だしな!」
ここまでリベルテとマイが参加してこないのは、感情を殺しているためだろう。
二人の表情もだいぶなくなってきており、ただ事務的に処理しようという心構えが見える。
そう、あの時期なのである。
多くの虫が地面より這い出して向かってくる光景。
ディグアーマイゼ、センテピードの繁殖、移動時期である。
稼ぎ時と剣や槍を奮う者たちと、及び腰で槍で突く者たちの姿が見える。
タカヒロはやりたくなかったと思うが、もう目の前に迫っている虫たちに、口を閉じて槍で突き続けるのだった。
それは春の日差しが感じられる様になってきた朝。
起きて来たタカヒロは外の天気のよさに背伸びをする。
「おはようございます。タカヒロさん。」
リビングにはすでにリベルテが居たが、レッドの姿は見えなかった。
「レッドさんは? もうすぐ起きて来るのかな?」
いつもであれば、リベルテ、タカヒロ、レッドの順で起きて来る。
そこからしばらく経ってから起きてくるマイを待って、朝食を取るのである。
「あ~、レッドなら冒険者ギルドに行ってますよ。なので、朝ごはんはもう少し遅くなりますね。ごめんなさい」
レッドたちの依頼を手伝ったり、タカヒロたちで稼いだものから食費や家賃としていくらか払い、まれにタカヒロが朝ごはんを作ったりすることはあるものの、ほとんどリベルテの世話になっている身としては、いえいえ、としか返す言葉は無い。
それからしばらく経って、マイが起きて来るのだが、レッドはまだ戻ってきていない。
「あれぇ~? レッドさんは? 私より寝坊だなんて……私が勝ったってすごくない!?」
いつも皆より遅く起きて来ていることを気にしていたのか、ここに姿の見えないレッドに自分の方が早く起きられたと喜ぶ。
もちろん、リベルテとタカヒロは生暖かい目でマイの姿を見ていた。
「朝からうるさいぞ」
そんなマイの頭に後ろからペシッと叩くのは、ギルドから戻ってきたレッドである。
「あ、レッドさん! いくら私より起きるのが遅れて悔しいからって叩いくのは酷いですよ!」
マイはむくれているのだが、だれも取り合わない。
レッドは席に着き、リベルテは朝ごはんの配膳に動き出す。
チラッとタカヒロに目を向けるが、タカヒロは何も言わず、可哀そうな子を見る目を返すだけだった。
そこでレッドが起きてこなかったのではなく、早くに起きて出かけていたらしいことを察し、恥ずかしさのあまりタカヒロを数回叩いてから椅子に座る。
「ですよねぇ……。やっぱりこういう扱い……」
こちらもまた誰も取り合わない、哀愁を感じさせるものだった。
「それで、レッドさん。どこに行ってたんですか?」
マイが固いパンをスープに浸しては口に放り込んでいく。
柔らかいパンも買うことはできるのだが、慣れすぎると遠出に差し障るし、食費も上がってしまうと固いパンの日の方が多い。
「冒険者ギルドだよ。あ~、メシ食ったら依頼こなしに行くぞ。悪いが今回は全員で参加だ。もうその手続きもさせてきてもらった」
「は~い」
マイたちにも差し支えはない。
自分たちでやりたい依頼というのも持っていないし、レッドたちと一緒に受けることも多いので、普段どおりとも言うものだ。
「それで、どんな依頼内容なんですか? 畑仕事とか採取のですか?」
タカヒロが面倒なのじゃなきゃいいなぁと思いながら、依頼について確認する。
「いや? 喜べ、討伐依頼だ。まぁ、ほかの冒険者もいるから、そこは覚えといてくれ」
冒険者の依頼は個人であったり、チームだけで受けるものが多い。
しかし、強力なモンスターが出ただとか、数が多く間引く必要がある被害が出ているだとかそういった場合には、複数の冒険者が受けるものとなる。
「へぇ~、そういうの滅多にないですよね。兵士さんも減ってる時だから頑張らないとですよね」
「そうだな」
マイとレッドが朗らかに食べつつ話を続ける。
「でもなんかこういうのあったような……。なんだっけなぁ」
なんとなく引っかかるものを覚えて思い出そうとするが、タカヒロは思い出せずにいた。
そして、リベルテの目から徐々に光りが消えていっていることに気づかなかった。
「うわぁぁぁぁ!」
「ふぇぇぇぇぇ」
あちらこちらから悲鳴が聞こえてきて、そうだよな~という同意の感情に、懐かしいなともよっし、とも思ってしまうものがあった。
やはり、自分が以前にした、感じた体験は他の人にも味合わせたくなることがある。
言ってしまえば、同じ犠牲者を、仲間を増やしたいという思いである。
そういうタカヒロたちは叫びたくはなるものの、叫ぶことは無くただ淡々と突いて処理していく。
マイでさえ、叫ぶことなく槍で突い……たり叩いたりしている。
リベルテが正確に淡々と処理している見本であり、マイは暴れまわっている見本である。
どちらも近くに大量の死骸を積んでいるが、マイの方は凄惨である。
それでもなおほかの死骸を乗り越えて向かってくるカサカサ音にタカヒロも槍を奮うしかない。
だがこれらは守勢の形。
カサカサと動き回るやつらを相手に動き回りたくない人、確実に距離をとって戦いたい人たちがこのように戦っている。
だが、そうではない人たちというのはどこにでもいるものだ。
この虫相手に切り込み暴れまわる人たちもいるということ。
この虫の大群の中を動き回って蹴散らしている冒険者たちというのは腕に自信があり、この虫相手に遅れや不覚を取ることがない人たちである。
もちろん、レッドはここに入っている。
数人で固まって武器を奮いながら近くにいた虫を蹴散らし、止まることなく葬っていく。
止まったらそこで終了とも言える突撃であり、それは彼らもわかっているため、周囲への目が広い人がリーダーとして進撃方向を指示している。
「あそこだけ違うゲームだなぁ……」
縦横無尽とも言える暴れっぷりは憧れ、そこに自分も居てみたいと思ってしまうところはあるが、相手が相手だけにタカヒロは絶対に参加したくないとも思った。
暴れまわるというのは動き続けるということ。
さすがに疲労してきたのか、疲労しきる前にこちらへ戻ってくる一団。
それを追うように動いてくる虫にまだ控えていた冒険者が弓を射掛け始める。
それでも近くにいるものは、守勢にいる人たちがやりで突き殺す。
「あ~、暴れた暴れた」
「だがまだ居やがるし、向かってくる気だな。少し休んだらまた行って減らさないとだな」
レッドたち突撃組が腰を下ろして休む間、タカヒロたちは先ほど以上に向かってくる虫を相手にし続けなければいけない。
最初に悲鳴をあげたり泣き言を言っていた人たちもただひたすらに槍を突き動かしていく。
もう腕が上がらなくなってきている人たちも出てき始め、少しずつ怪我人が増えていく。
「おっし! 行くぞ!!」
また突撃組が切り込んでいく。
肩で息をし、腕も震えてきて当てれなくなってきたり、深く突けなくなり始め、焦りがでてきて、余計に手間取り始める。
「ヤバイ!」
早く終われと念じるがそれで事態が変わるなら、皆が願い続ける。
センテピードの口がガチッと脛当に当たる音がして、タカヒロは怖気が走る。
「このっ!」
ほとん反射だった。
冒険者になってから怪我をすることは少なくない。治して貰えるという考えもあるが、怪我をするにも、何より虫にやられるのが嫌だった。
ほかのモンスターよりも、賊にやられるよりも恐怖だった。
だから奮った力はそこまで抑えようと考えていないものだった。
だが、近くにいたセンテピードを切り刻み、後ろにいたアーマイゼを切ったところでほかに影響はでていなかった。
「え?」
思わず呆けてしまうタカヒロ。
だが、突撃組が暴れまわった成果がでたのか、虫たちがタカヒロたちとは逆側に進み始める。
撃退できたのだ。
槍を奮っていた人たちは皆、疲れ果てたように座り込む。
これだけ見れば、負けたのはこちらのようである。
「おわったぁ~……」
マイが困憊して横になる。
リベルテも明らかにホッとしていて、レッドは突撃組の面々と感想を言い合っている。
タカヒロも寝転がっているが、その目はずっと上を向いていた。
帰りの馬車は乗っている面子によって違っている。
疲れ果てて誰も話たりもせず静かな馬車と終わったことやりきったことに興奮している声が聞こえる馬車。
タカヒロたちは静かな馬車の方にいて、マイとリベルテはお互いに肩を寄せ合って寝ていた。
「はぁ……疲れたぁ……」
タカヒロが幌に背を預けながらぼやく。
「お疲れさん。だが本当に前より強くなってきたんじゃないか? 今年のは多かったが、最後まで奮ってたじゃないか」
レッドが褒めてくれるのだが、タカヒロの顔は晴れない。
「僕は強くなってるって言えるんだろうか……」
こぼした言葉は誰にも聞こえないものだった。
ギルドに完了の報告をしにきた面々に、ギルド内で騒いでいる声が響く。
連合軍が帝国の兵を追い散らしたというものだった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる