王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

文字の大きさ
130 / 214

130

しおりを挟む
今年も豊穣祭が始まった。
戦争があって少なくは無い犠牲者が出たし、最近では人が凶暴になり暴れだす事件も起きている。
明るくはない話が絶えないが、それでもこの日は多くの人で賑わい、楽しそうに笑う声が聞こえてくる。

「さ~て、今日はどういったものに手を出すか」
レッドはあちらこちらで声を張り上げて、人を呼び込む出店や屋台を眺めつつ、惹かれる料理を探して回る。
一年に一度の宣伝の場であるため、店を長く続けているところは、自信のある定番料理か少しだけ変化をつけた料理を出しており、新規に店を持ちたいと動いているところは奇抜であったり、一風変わった料理を出している。
中には作りなれている料理であれば失敗することは無いため、無駄を出さないで稼ごうと言うので、家庭料理を出している店もあったりするが、年に一回の賑やかな祭りであれば並んでいる人も多い。
それだけ賑わいを見せるのが、豊穣祭なのである。
あちこちに掲げられているのぼりやメニューの札を眺めるが、やはり手間や準備を考えてか、焼くだけの料理や煮込んで置けるスープ類が多く見かけられた。
だがやはり、レッドはガツッと肉を食べたいと考えている。
まだまだ肉に惹かれる年齢なのだ。

「さすがに肉ばっかりだと、怒られそうなんだがな……」
ついぼやいてしまうが、そこはちゃんと考えるつもりではあるが、フォレストディアやボアなどが多く狩られてきたためか、肉を多く使っている店が多かった。
豪快に大きな肉を焼いている店や定番の料理で肉を多めにと謳っているのを聞きながら、レッドは少し大きめのソーセージを買うことにする。
ボアのいいところを使っているらしく、脂の焼ける良い匂いに惹かれたのだ。
おまけで、隣で薄く焼いた小麦粉の生地に、カボシェやカロタなどの野菜を薄切りにして刻んだものを巻いた料理も買っていく。
「さて、最初はこんなもんでいいか……。これなら文句も言われないだろ」
ついでに、ふと目に留まった料理も一つ買っていく。
両手で無理しないで持てる分を買ったレッドは、いつもの場所へと歩き出す。
この日だけは嫌なことを考えないようにしたい。
ただ祭りを楽しもうとするレッドの足取りは、軽くは無いがそれでも楽しもうとしていた。

「どんぐり亭」は普段以上の賑わいを見せているが、毎年のことである。
屋台や出店で、普段の王都では口に出来ない料理を食べると言うのはあるが、別段、酒場や飯処も豊穣祭で何もしていないわけではない。
この祭りの時だけ出す料理や酒があるのだ。
そして何より、外と違ってちゃんとテーブル席があると言うのが大きい理由の一つだろう。
店を見回すと、手際のよいリベルテがしっかりと席を確保していた。
「まずはこんなところで、どうだ?」
買ってきた戦果を自慢するように、レッドは買ってきた料理をテーブルに広げる。
リベルテは並べられた料理を一瞥して、評価を下す。
「大き目のソーセージに、カボシェなどを巻いたものですか……。手始めには良さそうですね」
「上から言われるのは、想像してたが気分はよくないな」
お互いわかっていて言っているものだから、口元には笑みがあり、険悪さなどはかけらもない。
「では、食べましょうか」
リベルテが先にと注文していたエールの入ったコップを軽くぶつけあってから、一口飲んで料理に手を伸ばす。
「ん~、これはまた脂がすごいですね。それにまだ熱い!」
はふはふと口を少しあけて、口中で冷ますように食べるリベルテに、レッドは口元が緩むのがわかる。
あまりにも平和らしく、そして可愛げのある仕草に釣られてしまったのだ。
リベルテの目が、微笑ましげにな視線に気づいてレッドに向けられる。
レッドはごまかすようにソーセージをカボシェなどを巻いた料理に突っ込んで、まとめてかぶりつく。
「ん。こうやってまとめて食うと美味いな。ちょうどいいかもしれん」
レッドの不調法な食べ方にリベルテは若干呆れてしまうのだが、レッドの食べ方はたしかに良さそうに思え、リベルテも真似をする。
「……まぁ、カボシェとソーセージを挟んだパンがありますからね。パンか薄めの生地かの違いだけです」
「でもまぁ、美味いだろ」
考えてみれば、丸っきり新しい食べ方と言うわけではないため、そこまで感動を覚えないリベルテに、美味い食い方であればそれでいいだろと笑うレッド。
直後にお互いから上がる笑い声は、周囲の賑やかさに混じっていく。

そこにまた例年のごとく陰が差した。
そして、テーブルの真ん中に置かれる鍋。
「……これは?」
いつものことであれば、備えは出来ている。
あまりにも量が多い料理を買ってこなかったのは、この店での料理を期待しているのもあったのだ。
「グーリンデの家庭料理だ」
大きな体に腕を組んで立つ姿は威圧感たっぷりだが、店主のことを知っていれば、流すことはできる。
「それで……、どうやって食べるものなんですか?」
リベルテが食べ方を問うのも仕方が無かった。
なにせ鍋に入っているのはチーズだけで、具も何もない鍋だったからだ。
店主は一度、厨房に戻り、別の皿を持ってくる。
そこには、小さめの四角に切られたパンと、それと同じ大きさに切ったパタタやカロタなどが盛られていた。
「これをそのチーズに絡めて食え」
言われるまま、串をパンに刺し、鍋に入っているチーズを絡めるように取り、そして口に運ぶ。
「お! 塩気の強いチーズがいいな!」
「あ、野菜は下湯でされてるんですね。塩気に野菜の甘さがわかりますね」
レッドたちの感想に満足そうな店主。
「まぁ、よくこれを出したな。チーズも安くはないだろ? と言うか、知ってるチーズとちょっと違うな」

オルグラント王国でもチーズはよく作られてはいる。
テイルクーというモンスターを飼育しているのだが、モンスターだけあって楽な仕事ではない。
取れる量も限られているし、最近はバターにしたり、ミルクとして飲む分にも流通されているから、チーズとして売り出される量は多く無く、少し値が張ってしまうのだ。
「……それに、このパンですが……。硬くなってませんか? 少しぱさついているような……」
リベルテの質問にももっともだと頷く店主。
「まずはチーズだがな。コルノシェーヴルと言うモンスターから採った乳を使っている。種類が違えば乳の味も変わるもんだ。そんで、あそこの国は土地が広く無いからな。チーズとか保存を効かせられるものを多く作る。それで、こういう祭りだとか新年だとか祝う時に、チーズを大量に使って食べるらしい」
そういった料理かと納得したように頷くレッド。
土地柄が違えば、取れる物、手に入れやすい物は変わる。
それに合わせて生活も変わっていくのだから、店主が言ったような生活はごく普通なことに思えたのだ。

「それからパンだが、乾燥したパンを美味く食べるためと言うのが、この料理が作られた理由だそうだ。まぁ、少しだけ乾燥気味してるパンの方が、チーズの味がよく分かって美味いだろ?」
やはり料理に関してはよく喋る店主が、細かに教えてくれてる。
王都でも安いパンだと固いものだし、数日経たせてしまうとやはりパサついてしまうものだ。
味をごまかす、と言うわけでもないが、このように溶けたチーズに絡めて食べるとあれば、そういったパンの方が向いているように思われた。
普段料理をしているリベルテも、使える手だと関心を寄せていく。
なるべく傷まないうちに使い切るのが普通であるが、日が経ってしまったり、使いきろうとすればどうしても、煮込んだスープ類になりがちになってしまうものだ。
それが一番手っ取り早く、そして、大量に消費できるからである。
硬くなったパンはスープに浸して食べることになるのだが、スープに浸して食べるのと、チーズに絡めて食べるのでは、全然変わってくる。
チーズの値は少し高いが、スープを作るより、チーズを溶かしただけでよいのなら、かなり手を抜けそうだとも考えられた。
もっとも、食べれるだけありがたいと言うことは、多くの平民は分かっているので、スープに浸して食べる日が続いても、この世界で生きている人は誰も文句は言わないのだが……。

一通り新作料理の説明をして、料理の感想も聞けた店主が満足そうに厨房に戻っていく。
おそらく他のテーブルにもこの料理が出される客がいるだろう。
「グーリンデか……。やっぱり他の国の料理が食えるってのは、面白いな」
「ええ。その場所で生きていくうえで考えられた料理ですからね」
去り際に、冷えてくるとチーズが絡まなくなってくると言われていたため、レッドたちは話をしながらも次々と鍋のチーズを絡め取って口に入れていく。
「ふぅ~。思いのほか量がありましたね」
リベルテが満足そうにエールを口にする。
「結構な量になったな……。あ、そうだ。まだ食えるか?」
レッドも満足そうにお腹を軽く撫でるが、まだ始まったばかりの豊穣祭である。
これで終わっては勿体無い。
まだ行けるかと、リベルテに確認する。

「ん~、少し休みを入れたいところではありますが、まだいけますよ? そのために、稼いで貯めてきた分があるんですから」
リベルテが、まだまだやる気と言う顔を見せて答える。
「まぁ、少し休むか。後であいつらのところにも、差し入れしに行かないとだしな」
「あ、そうですね。マッフル買って行かないと。今年も新作あるでしょうか」
レッドが後の予定を口にすると、リベルテも差し入れの話を思い出したようだったが、今しがたの食べ終わって満足そうだった顔は消えて、マッフルの新作に思いを馳せていく。
甘いものならすぐにでもいけそうに見えるものだった。

「まぁ、これでも食っとけ」
レッドは買っていた包みをリベルテの前に置く。
包みを取ると、そこには小さめに切った果実が、店に入る陽の光りで煌いていた。
「これは?」
「そのまま切った果実を溶かした砂糖に絡めて、固めたものだそうだ。いかにも甘そうなやつで、好きそうだったからな」
レッドが最後に買ったのはお菓子だった。
シュルバーンで作られている砂糖は、少しずつ増産されてきており、こうして大量に砂糖を使うお菓子も出始めるようになっていた。
果実は切ってあるとは言え、皮ごと砂糖で固めているお菓子は、メーラやオーラン、リモなど他種が混ざって串に刺されている。
リベルテが少し嬉しそうに先端をかじる。
「……ふふ。甘いですね」
砂糖を使ったものだけあって、ただくどい甘さと思われてしまうが、果実に絡めていることで、果実の持っている酸味と香りがあり、上品な味となっていた。
リベルテが微笑みを見せれば、レッドは買ってきたよかったと素直に思えた。
レッドも一つ手を出して大きく齧ると、しばらくして口をすぼめる。
「すっぱ~~」
レッドの串の先端はリモだった。
レッドの様子に笑い出すリベルテに、レッドもまた釣られて笑い出す。
「これ、マイさんたちにも買って行きましょうか」
「そうだな。あいつらも同じ目に合わせてやる」
マッフルだけでは祭りを楽しめないだろうと、このお菓子も持っていくことを提案するリベルテに、レッドは少し悪そうな目つきで応えて、リベルテに軽くたしなめられる。
それでも二人の表情は明るい。
今このときだけは、不安も何も脇に追いやって、楽しむことにしていたのだ。
「食いながら行くか」
レッドが席を立つ。
リベルテも立ち上がり、二人は揃って人波の中に入っていく。

人が増えたことで、昨年よりも賑わいを見せる豊穣祭であったが、先の戦争と身近に起き続けている事件に、王都で暮らす人々には不安が広がっている。
その不安は何も王都の人だけに限らず、村や町から来ている人たちも感じ始めていることでもあった。
どこかその不安が飛んでいくようにと大きく上げる声には、祭りの賑わいに少しだけ陰を含ませている。
祭りを楽しんでいる多くの人たちが、来年も変わらずに祭りが続くことを願っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

処理中です...