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一日働いたことを労わり、また明日への力とする楽しい夕食の時間がやってくる。
四人揃っての夕食はいつもと変わらない賑やかなものになるはずだった。
しかし、テーブルの上にはまだ食事は並べらていなく、代わりにレッドが帰りにギルドに寄って受け取ってきた報酬の袋だけが置かれていた。
なかなか危険が伴う仕事であったため、そして幾分かの口止めを含んでいるのだろう。受け取ってきた報酬は通常の討伐依頼に比べても多い金額となっていた。
たいていの仲間内であったり家族であれば、その稼ぎに喜びの声を上げるものと尾も割れるのだが、ここリベルテの家では周囲にも分かるほど怒りを表している人物が居た。
だれもが納得するし、すぐに想像つくだろう人物。リベルテである。
普段であれば美味しそうな食事を作り、テーブルに並べてくれているのだが、そんな素振りは一向に無く、じっとレッドを見つめている。いや、はっきりと、睨んでいると言って良いほどの眼光だった。
ただ、レッドはその険しい視線を敢えて軽く受け流す。
詳しく話をすれば、確かに危険な仕事であったかもしれないが、冒険者として滅多に無い指名の依頼をこなしてきただけなのである。
悪事に手を染めてきたわけでもないのだから、レッドは毅然とした態度でいれば良かった。
だが、睨んできているリベルテの目にうっすらと涙が滲んできているのが見えて、レッドは黙って視線を逸らすのが精一杯であった。
「それで、その怪我はなんですか?」
「怪我は……、怪我でしかないだろ」
レッドはリベルテに問い詰められたら、すべてミルドレイのせいにしようと決めてきたはずだったのだが、リベルテの涙を前に口に出来ないでいた。
かと言って、詳しく説明すればかなり面倒……、いや、危険なことをしてきたと言うことを言わなければならないし、あまり広く話しても良い内容でもないため説明もしづらい。
レッドはなんとか有耶無耶で流して終わらせたい所なのだが、如何せん余計な人間が二人も存在していた。
「おやぁ? レッドさん、顔に怪我をしてくるとか珍しくないですか? それに、その怪我の治療の仕方って、殴られた時なんかの治療方法じゃないですかぁ?」
マイが嫌らしく治療の仕方から問い詰めてくる。
薬師になっているせいで、調合された薬の匂いでわかるらしく、マイが薬師であることがこの時だけは面倒くさいと思えた。
そして、タカヒロも以前に今のレッドのように問い詰められたことがあったため、レッドのことをニヤニヤと見ている。
あの時は、レッドもタカヒロを助けようとはしなかったし、さっさと話せと言ったりもしていただけに文句は言えないのだが、タカヒロのニヤニヤ顔にかなりイラッとしてくる。
少し離れた席で見てくるタカヒロを軽く殴ってやろうとレッドは立ち上がろうとするが、マイによって肩を押さえられた。
「ほら、レッドさん。なんでそんな怪我をしてきたのか、リベルテさんに説明してないですよ?」
「……なんで、一々言わないといけないんだよ」
マイの力は思っていたより強く、立とうとした所で抑えられたため上手く立ち上がれない。
「え? 何があったかはちゃんと共有しないと、同じことがあった時に対応出来ないじゃないですか? レッドさんは、情報を共有しない自分勝手な冒険者なんですか?」
「それとこれは別だろう……」
昔に冒険者のあり方を教え込んだのはレッドたちであるが、ここでマイにそれを言われてしまうと反論もしにくかった。
レッドはテーブルに肘を着いて、はぁ~っと長いため息をつく。
姿勢を動かした時に、テーブルの足に鞘が当たってしまう。それだけだったのだが、リベルテの眉が角度を上げた。
「タカヒロさん。レッドの剣を取ってもらえますか? あぁ、マイさんはそのままレッドを抑えててください」
リベルテの指示に、マイとタカヒロの二人は戸惑うことなくササッと動く。
リベルテに従順すぎる動きに、レッドは突っ込みを入れたくなるが、一人騒ぐだけになりそうでグッと堪える。
タカヒロがレッドの剣を奪い取ろうとするので、奪われないように手を伸ばそうとするが、マイに抑えられていて見送るしかなかった。
タカヒロがリベルテにレッドの剣を手渡し、リベルテがゆっくりと剣を引き抜いていく。
レッドは力いっぱい顔を背ける。それが今出来る限りの抵抗だった。
「レッド? どうして剣が短くなっているのでしょうか? 買い換えてからそんなに経っていないし、少し前まで問題なく使えていましたよね?」
声は普通なのだがその普通が怖く、ベルセイスと対峙した時より威圧を感じ、レッドはうっすらと汗が滲み出していた。
「あ……いや……。そうだ、うっかり! そう、うっかりやっちまってな。それでまぁ、こんな怪我もすることになったわけだ。それだけだぞ?」
レッドは思いついた言葉を口にしていく。それがなんとなく、上手い説明になった気がしてレッドは気を明るくしていく。
まぁそんな訳が無く、リベルテの目から険しさは一切消えていない。
「レッド? 今日はもう休んだ方が良いのでは? あぁ、折角作ったご飯が余ってしまうかもしれませんね」
「はいはい! 私が食べるから大丈夫!」
「それは助かります」
あまりにもな攻め手にレッドは眉をしかめる。明らかな食糧攻めで、それをわざわざイラッとしてくるような小芝居まで入れてくるのだから、事前に打ち合わせでもしていたのかと思えるほどである。
「あ~、じゃあ、僕がお酒もらっても良いですか? 今日、あるって話でしたよね? 今日はリベルテさんたち、買い物してきたって言ってましたし」
今日は酒がついてくると言う言葉にレッドはビクリと肩を動かす。
あまりにも汚い食糧攻めに、レッドはがっくりと首を落として項垂れるしかなかった。
そんなレッドを見て、リベルテがそっとレッドの肩に手を置き、そして笑顔を見せる。
レッドにはもう、抵抗する気力は無くなっていた。
「騎士団の一部が国の乗っ取りを考えているらしく、それを調べて欲しいと言う依頼をギルマスから受けた、と。そこで一人で城に潜り込んで、主格と言われている騎士団長のベルセイスと対峙してきた、ですか……」
ただの冒険者が受ける仕事ではありえない内容なだけでなく、主格とされる相手に真っ向からぶつかり合ってくるなど、聞かされた方は相手の頭を疑ってしまうような話である。
そのぶつかり合いの中で剣を折ることになり、そこから騎士団長と言う武官の上に立つ者と殴り合いとなり、結果、事態を収めてきたと言うのだから、タカヒロたちも何も言えないようで、レッドを見ていた。
レッドとしても、そんなことになるなど考えていたわけではなく、成り行きでそうなってしまっただけなのだが、それは言っても誰にも響かない。
「……本当に、無茶をしないでと言ってもしてくるのですね」
リベルテが、ここしばらくで一番重そうに吐き出す。
散々言われ続けてきているのだが、一向に改められていない状況になっては、さすがのレッドもばつが悪かった。
レッドとて無茶をしようとしているわけではないし、無茶をしたいなんて思ってもいない。
しかし、状況としてそうなってしまうだけなのだから不可抗力である。しかし、そう主張した所で収まる話なら、ここまでになっていない。
リベルテが長い長い息を吐く。
「レッドの剣を買ってこないといけませんね。レッドが稼いできた報酬がありますから、それなりに良い物を買えるでしょう」
「レッドさんに剣を持たせない方が良いんじゃないですか? 反省してないっぽいし」
折角、リベルテが折れてくれた流れだったのに、マイが余計な口を挟んでくる。
レッドはマイの口を押さえたくなるが、ここまでの流れでレッドから何かを出来る雰囲気ではなかった。
「レッドは剣を持っていないからと、大人しくする人じゃありませんから……。素手でいるよりまだマシです」
リベルテの言葉に、タカヒロとマイが揃って、あぁ~と納得の声を上げるのを聞き、レッドは自分の頬が引きつくのがわかる。嫌な理解のされ方だった。
「それに今回の一件には、ミルドレイ様が関わっていたのですよね? ギルザークさんにそのような話を通せる方なんて、今の状況では他に居ませんから」
「……あぁ、まぁ、そのようだな……」
リベルテの顔がまた沈む。
レッドの怪我の一因に自分が世話になっていた人が関わっていたと言うのは、なんとも言えないものである。
リベルテには関係ないのだが、責任みたいなものを感じているようだった。
ミルドレイのせいだと言い張ることで、リベルテから文句の一つでも言われれば良い気味だ、と思っていたレッドであったが、リベルテがここまで責任を感じてしまうものとは考えていなかった。
長く共にいたリベルテの性格であれば、それくらいは思い至ることだっただけに、レッドは自身の愚かさを悔いる。
「僕の仕事にそういう思惑が絡んでたんですねぇ~」
タカヒロがのんびりとした声を出す。敢えてそうしたのかもしれない。
タカヒロは面倒くさがりだが、こういう雰囲気の際、気遣うのは上手かった。
そう察せられるからこそ、気がつけば面倒そうな場から逃げ出せていたりするのかもしれない。
「結局、そっちの仕事はなんだったんだ?」
「あ、そっか。レッドさんだけ居なかったんだっけ。孤児院にいる子で、魔法使いの才能を持っている子が居ないか探す仕事だったんですよ。育てるって言うのは大変なんですけど、将来を考えたらやらなきゃって」
解明されていない力であるだけに、その力を持った人たちを育てると言うのは手探りながらであり、とても大変な苦労を伴うものとわかる。
しかし、持っている力は強力であるだけに、何も手を打たないままで良いものでもないのだ。
タカヒロの言葉は、まさしく国を想う人物でなければ口に出来ない言葉だった。
「それ、誰が言い出したんだ?」
「あ~、僕です……。だから、僕が行くことになったんですよね……」
国としてちゃんと力に出来れば、これほど望まれることはないが、成果がはっきりとわからないことに国費を出すことを良く上が許可したものだと感心させられる。
それに何より、そんな国の先を見据えたことを、タカヒロが口にしたと言う事に驚きが隠せなかった。
その具申が、この国に生きる者としての言葉であったのか、『神の玩具』としての言葉であったのかによって、意味が違ってきてしまいもするのだ。
レッドは自分から聞いたものの、タカヒロの回答に相槌もろくに返せないままだった。
「あ、そうだ。タカヒロ君。紐の結び方、ちゃんと教えてもらった方が良いんじゃない? また落としたりしたら大変だよ?」
「あ~、そうだねぇ。家だったから良かったけど、外だったら二度と戻ってこなかったかもしれないからねぇ」
マイの言葉にピクッとしたレッドとリベルテ。
「おそらくですけど、たぶん、もう大丈夫ですよ。ね? レッド」
リベルテがレッドに目線を向けて口にする。
明らかに犯人に気付いている言葉で、レッドは黙って頷くだけだった。
「さて、遅くなっちゃいましたけど、ご飯にしましょうか」
レッドが朝渡したお金もあったからか、夕食は少し豪勢なものになっていた。
皆が美味しそうに食べる中、レッドの肉と酒は他より少し減らされていた。
綺麗に収まったように感じていたが、リベルテの怒りは深かったらしい。
レッドは内心、やはりあの老人のせいだ、と思いながら、肉を噛み締めるのだった。
四人揃っての夕食はいつもと変わらない賑やかなものになるはずだった。
しかし、テーブルの上にはまだ食事は並べらていなく、代わりにレッドが帰りにギルドに寄って受け取ってきた報酬の袋だけが置かれていた。
なかなか危険が伴う仕事であったため、そして幾分かの口止めを含んでいるのだろう。受け取ってきた報酬は通常の討伐依頼に比べても多い金額となっていた。
たいていの仲間内であったり家族であれば、その稼ぎに喜びの声を上げるものと尾も割れるのだが、ここリベルテの家では周囲にも分かるほど怒りを表している人物が居た。
だれもが納得するし、すぐに想像つくだろう人物。リベルテである。
普段であれば美味しそうな食事を作り、テーブルに並べてくれているのだが、そんな素振りは一向に無く、じっとレッドを見つめている。いや、はっきりと、睨んでいると言って良いほどの眼光だった。
ただ、レッドはその険しい視線を敢えて軽く受け流す。
詳しく話をすれば、確かに危険な仕事であったかもしれないが、冒険者として滅多に無い指名の依頼をこなしてきただけなのである。
悪事に手を染めてきたわけでもないのだから、レッドは毅然とした態度でいれば良かった。
だが、睨んできているリベルテの目にうっすらと涙が滲んできているのが見えて、レッドは黙って視線を逸らすのが精一杯であった。
「それで、その怪我はなんですか?」
「怪我は……、怪我でしかないだろ」
レッドはリベルテに問い詰められたら、すべてミルドレイのせいにしようと決めてきたはずだったのだが、リベルテの涙を前に口に出来ないでいた。
かと言って、詳しく説明すればかなり面倒……、いや、危険なことをしてきたと言うことを言わなければならないし、あまり広く話しても良い内容でもないため説明もしづらい。
レッドはなんとか有耶無耶で流して終わらせたい所なのだが、如何せん余計な人間が二人も存在していた。
「おやぁ? レッドさん、顔に怪我をしてくるとか珍しくないですか? それに、その怪我の治療の仕方って、殴られた時なんかの治療方法じゃないですかぁ?」
マイが嫌らしく治療の仕方から問い詰めてくる。
薬師になっているせいで、調合された薬の匂いでわかるらしく、マイが薬師であることがこの時だけは面倒くさいと思えた。
そして、タカヒロも以前に今のレッドのように問い詰められたことがあったため、レッドのことをニヤニヤと見ている。
あの時は、レッドもタカヒロを助けようとはしなかったし、さっさと話せと言ったりもしていただけに文句は言えないのだが、タカヒロのニヤニヤ顔にかなりイラッとしてくる。
少し離れた席で見てくるタカヒロを軽く殴ってやろうとレッドは立ち上がろうとするが、マイによって肩を押さえられた。
「ほら、レッドさん。なんでそんな怪我をしてきたのか、リベルテさんに説明してないですよ?」
「……なんで、一々言わないといけないんだよ」
マイの力は思っていたより強く、立とうとした所で抑えられたため上手く立ち上がれない。
「え? 何があったかはちゃんと共有しないと、同じことがあった時に対応出来ないじゃないですか? レッドさんは、情報を共有しない自分勝手な冒険者なんですか?」
「それとこれは別だろう……」
昔に冒険者のあり方を教え込んだのはレッドたちであるが、ここでマイにそれを言われてしまうと反論もしにくかった。
レッドはテーブルに肘を着いて、はぁ~っと長いため息をつく。
姿勢を動かした時に、テーブルの足に鞘が当たってしまう。それだけだったのだが、リベルテの眉が角度を上げた。
「タカヒロさん。レッドの剣を取ってもらえますか? あぁ、マイさんはそのままレッドを抑えててください」
リベルテの指示に、マイとタカヒロの二人は戸惑うことなくササッと動く。
リベルテに従順すぎる動きに、レッドは突っ込みを入れたくなるが、一人騒ぐだけになりそうでグッと堪える。
タカヒロがレッドの剣を奪い取ろうとするので、奪われないように手を伸ばそうとするが、マイに抑えられていて見送るしかなかった。
タカヒロがリベルテにレッドの剣を手渡し、リベルテがゆっくりと剣を引き抜いていく。
レッドは力いっぱい顔を背ける。それが今出来る限りの抵抗だった。
「レッド? どうして剣が短くなっているのでしょうか? 買い換えてからそんなに経っていないし、少し前まで問題なく使えていましたよね?」
声は普通なのだがその普通が怖く、ベルセイスと対峙した時より威圧を感じ、レッドはうっすらと汗が滲み出していた。
「あ……いや……。そうだ、うっかり! そう、うっかりやっちまってな。それでまぁ、こんな怪我もすることになったわけだ。それだけだぞ?」
レッドは思いついた言葉を口にしていく。それがなんとなく、上手い説明になった気がしてレッドは気を明るくしていく。
まぁそんな訳が無く、リベルテの目から険しさは一切消えていない。
「レッド? 今日はもう休んだ方が良いのでは? あぁ、折角作ったご飯が余ってしまうかもしれませんね」
「はいはい! 私が食べるから大丈夫!」
「それは助かります」
あまりにもな攻め手にレッドは眉をしかめる。明らかな食糧攻めで、それをわざわざイラッとしてくるような小芝居まで入れてくるのだから、事前に打ち合わせでもしていたのかと思えるほどである。
「あ~、じゃあ、僕がお酒もらっても良いですか? 今日、あるって話でしたよね? 今日はリベルテさんたち、買い物してきたって言ってましたし」
今日は酒がついてくると言う言葉にレッドはビクリと肩を動かす。
あまりにも汚い食糧攻めに、レッドはがっくりと首を落として項垂れるしかなかった。
そんなレッドを見て、リベルテがそっとレッドの肩に手を置き、そして笑顔を見せる。
レッドにはもう、抵抗する気力は無くなっていた。
「騎士団の一部が国の乗っ取りを考えているらしく、それを調べて欲しいと言う依頼をギルマスから受けた、と。そこで一人で城に潜り込んで、主格と言われている騎士団長のベルセイスと対峙してきた、ですか……」
ただの冒険者が受ける仕事ではありえない内容なだけでなく、主格とされる相手に真っ向からぶつかり合ってくるなど、聞かされた方は相手の頭を疑ってしまうような話である。
そのぶつかり合いの中で剣を折ることになり、そこから騎士団長と言う武官の上に立つ者と殴り合いとなり、結果、事態を収めてきたと言うのだから、タカヒロたちも何も言えないようで、レッドを見ていた。
レッドとしても、そんなことになるなど考えていたわけではなく、成り行きでそうなってしまっただけなのだが、それは言っても誰にも響かない。
「……本当に、無茶をしないでと言ってもしてくるのですね」
リベルテが、ここしばらくで一番重そうに吐き出す。
散々言われ続けてきているのだが、一向に改められていない状況になっては、さすがのレッドもばつが悪かった。
レッドとて無茶をしようとしているわけではないし、無茶をしたいなんて思ってもいない。
しかし、状況としてそうなってしまうだけなのだから不可抗力である。しかし、そう主張した所で収まる話なら、ここまでになっていない。
リベルテが長い長い息を吐く。
「レッドの剣を買ってこないといけませんね。レッドが稼いできた報酬がありますから、それなりに良い物を買えるでしょう」
「レッドさんに剣を持たせない方が良いんじゃないですか? 反省してないっぽいし」
折角、リベルテが折れてくれた流れだったのに、マイが余計な口を挟んでくる。
レッドはマイの口を押さえたくなるが、ここまでの流れでレッドから何かを出来る雰囲気ではなかった。
「レッドは剣を持っていないからと、大人しくする人じゃありませんから……。素手でいるよりまだマシです」
リベルテの言葉に、タカヒロとマイが揃って、あぁ~と納得の声を上げるのを聞き、レッドは自分の頬が引きつくのがわかる。嫌な理解のされ方だった。
「それに今回の一件には、ミルドレイ様が関わっていたのですよね? ギルザークさんにそのような話を通せる方なんて、今の状況では他に居ませんから」
「……あぁ、まぁ、そのようだな……」
リベルテの顔がまた沈む。
レッドの怪我の一因に自分が世話になっていた人が関わっていたと言うのは、なんとも言えないものである。
リベルテには関係ないのだが、責任みたいなものを感じているようだった。
ミルドレイのせいだと言い張ることで、リベルテから文句の一つでも言われれば良い気味だ、と思っていたレッドであったが、リベルテがここまで責任を感じてしまうものとは考えていなかった。
長く共にいたリベルテの性格であれば、それくらいは思い至ることだっただけに、レッドは自身の愚かさを悔いる。
「僕の仕事にそういう思惑が絡んでたんですねぇ~」
タカヒロがのんびりとした声を出す。敢えてそうしたのかもしれない。
タカヒロは面倒くさがりだが、こういう雰囲気の際、気遣うのは上手かった。
そう察せられるからこそ、気がつけば面倒そうな場から逃げ出せていたりするのかもしれない。
「結局、そっちの仕事はなんだったんだ?」
「あ、そっか。レッドさんだけ居なかったんだっけ。孤児院にいる子で、魔法使いの才能を持っている子が居ないか探す仕事だったんですよ。育てるって言うのは大変なんですけど、将来を考えたらやらなきゃって」
解明されていない力であるだけに、その力を持った人たちを育てると言うのは手探りながらであり、とても大変な苦労を伴うものとわかる。
しかし、持っている力は強力であるだけに、何も手を打たないままで良いものでもないのだ。
タカヒロの言葉は、まさしく国を想う人物でなければ口に出来ない言葉だった。
「それ、誰が言い出したんだ?」
「あ~、僕です……。だから、僕が行くことになったんですよね……」
国としてちゃんと力に出来れば、これほど望まれることはないが、成果がはっきりとわからないことに国費を出すことを良く上が許可したものだと感心させられる。
それに何より、そんな国の先を見据えたことを、タカヒロが口にしたと言う事に驚きが隠せなかった。
その具申が、この国に生きる者としての言葉であったのか、『神の玩具』としての言葉であったのかによって、意味が違ってきてしまいもするのだ。
レッドは自分から聞いたものの、タカヒロの回答に相槌もろくに返せないままだった。
「あ、そうだ。タカヒロ君。紐の結び方、ちゃんと教えてもらった方が良いんじゃない? また落としたりしたら大変だよ?」
「あ~、そうだねぇ。家だったから良かったけど、外だったら二度と戻ってこなかったかもしれないからねぇ」
マイの言葉にピクッとしたレッドとリベルテ。
「おそらくですけど、たぶん、もう大丈夫ですよ。ね? レッド」
リベルテがレッドに目線を向けて口にする。
明らかに犯人に気付いている言葉で、レッドは黙って頷くだけだった。
「さて、遅くなっちゃいましたけど、ご飯にしましょうか」
レッドが朝渡したお金もあったからか、夕食は少し豪勢なものになっていた。
皆が美味しそうに食べる中、レッドの肉と酒は他より少し減らされていた。
綺麗に収まったように感じていたが、リベルテの怒りは深かったらしい。
レッドは内心、やはりあの老人のせいだ、と思いながら、肉を噛み締めるのだった。
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