5 / 212
モブ女子、いざ騎士院へ!
まさかの自分の死亡フラグが立ちそうです
しおりを挟む「ルンルン~♪ル、ルンルン~~♪」
騎士院へと向かう道のりでご機嫌な私は、鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで歩き続けていた。
背中には30人以上分もの巨大バーガーである、ビッグ・ララが積まれているが今はその重さも全く気にならない。
だって、これからあの愛しの団長・ジークフリート様に会えるんだから!!
「あぁ~~生きてるって、なんて素晴らしいんだろう!!神様、女神ナーサディア様!本当に感謝です!!」
澄み渡るどこまでも続く青空に向かって、キラッキラの目と顔をさせた私が突然太陽に向かっていい笑顔で祈り出す。
周りに歩いていた町の人達がかわいそうなものを見る目で見ていたが、そんなことは知るもんか!!
「君・・・・ずいぶん、面白い魂を持ってるね」
「んぎゃーーーーー!!!」
突然背後から耳元に囁かれて、思わず変な声で叫びその場を飛び退く。
慌てて振り返ると、目の前には紺の全身を覆う大きなマント?ローブのようなものを着たこの国の魔導師と言われる姿の人が立っていた。
背は私よりも少し大きく、ローブについているフードからかいま見える顔はけっこう若い。
「フフ。驚かしてしまってすみません。ずいぶん不思議な色の魂が見えたもので」
「た、魂?魂の色って、普通に見えるんですか?」
「あれ?・・・・これは面白い!」
「え?」
何かを見つけたのか、子どものように嬉しそうな笑顔になった様子の魔導師様が、クローディアに向かってずんずんと近づいてくるとローブから出た手がすっとクローディアの顔に触れる。
こ、これは?
まさかの顎くい!!
は、初めてされましたーーーーーー!!
でも、なんで?
トキメキ場面なのにも関わらず、全身が悪寒で震えています。
「これは、魔力かな?こんなに周囲に垂れ流しにしてるのに、君の魔力の源はほとんど減っていく形跡が見られないなんて」
「あ、あの?」
「こんな不思議な魔力、初めて見たよ。君、名前は?」
「ク、クローディア=シャーロットです」
多分、このいつ発動してるんだか分からない自動回復機能のことを言ってるんだろう。
突然の顎くいに心臓をドキドキさせながら、ってこれはあくまで緊張だからね!
団長、緊張のドキドキですからね!!
恋愛じゃないですよ?
だってなんだか、悪寒が止まらないですからね!!
何かに脅えるように震えながらも、目の前の魔導師様の方にちらっと目を向けてみると、そこにはこの世のものとは思えないほどの美しい顔がそこにあった。
「こんなに面白い存在が、こんな近くにいたなんて。おかしいな?この僕が見逃すはずがないんだけど」
「・・・・・あぁっ!あなたは!!」
たった今、思い出した!
透き通るような真っ白な肌に光が当たると反射してキラキラ輝く銀色の髪を持ち、基本は穏やかな笑顔で目がないんじゃって感じのビューティースマイル。
そして今は、目が開眼して深い紫の目が私の目をまっすぐ見ている。
そう、この美しい姿と顔と声には見覚えと聞き覚えがある!
画面の中ではいつだってニコニコしているのに全く癒されずにいたどころか、この笑顔に油断するとたまに殺されかけてバットエンドに向かいそうになったのだ。
でもそんなところがむしろとても人気で、熱狂的なファンがついていた腹黒魔導師!!
そうだ。
この顎くいイベントは、彼とヒロインの出会いのスチルで見たことがある。
最初の不思議な魂うんぬんも、聖女としていきなり顕現したローズに向かっていったあの言葉じゃないか!!
そう!彼の名はーーーーーーー!!
「ル、ルーク=サクリファイス!!」
「あれ?僕のこと知っててくれたんだ。普通の平民にまで広がってるなんて、嬉しいな♪」
「な、なんでこんな昼間から外に?!」
「へぇ~~僕が滅多に外に出ないことまで知ってるなんて君、すごいね」
『ルーク=サクリファイス』
ゲーム攻略者の1人で、この国一番の知識も実力もピカイチの天才魔導師。
普段は自分の魔法院から滅多に外には出ず、攻略中も自分から会いに行かなければ遭遇すらせずにゲームを終えてしまうこともあるぐらい、自分からは動かない。
ヒロインとのデートだって自分からはテコでも動かず、気に入らないとデート中ですらも帰ってしまう気分屋。
しかも何を考えているのか全くその笑顔からは分からず、自分の目的の為には笑顔で自分以外のものを平気で利用できる腹黒魔導師だ!
彼のせいで、何度団長の死亡フラグがたってしまったことか!!!
「あの、わ、私は本当に普通の平民ですので、どうかお気になさらず!!」
どうか神様、女神様!!
こんなところで、私の死亡フラグを立てないでください。
私はただのモブ、町民Aでございます!!
「普通の平民?フフ。面白いなぁ~~♪こんな変な魔力を持った平民なんて、僕が見逃すわけないじゃないか」
でーすーよーねーーーー!!!
あぁ~~~なんていい笑顔!!!
こんな美しい人の笑顔なら、普通ならキャーーー!!とか、そうは言っても顔がいい!とかトキメキに身悶えるんでしょうが。
私には団長の死亡フラグを密かにおり続ける!という大事な使命があるんです。
こんなところで、自分の死亡フラグを一本でも立てている場合じゃない!!
「君の体の中はどうなってるんだろう?魔力の流れも興味深いし、ぜひ魔法院でいろいろ実験して調べてみたいな~~~♪」
「ひぃぃぃーーーー!!け、けっこうです!!」
「!?」
自分にまっすぐ向かってくる死亡フラグのあまりの怖さに、勢いよくルークの手を掴んで自分の顔から外させると、その瞬間全身に何か熱いものが走り特にルークの手首を掴んでいた手の平が一気に熱を持つ。
「あ、あつっ!!」
「・・・これはっ」
熱い鉄板をうっかり間違えて触ってしまったかのような衝撃が一瞬手の平に走り、すぐにルークの手首からも手を離すとルーク自身も笑顔が消えて彼にしてはとても珍しい、ショックを受けたような顔をしていた。
そういえば、ゲームでも彼のこんな顔は見たことがない。
ゲームと現実の違いだろうか?
「る、ルーク様、ごめんなさい!腕は大丈夫ですか?そんなに強く握った覚えはないんですが」
「・・・・・・」
自分の手の平を見ても、あんなに熱い衝撃が走ったのにも関わらずケガやヤケドなどは特に見られなかった。
ルークの方も大丈夫だったかと声をかけてみたが、ルークは先ほどと同じようにショックを受けた顔で自分の手のひらを見つめている。
「る、ルーク様?だ、大丈夫ですか?」
「フフ。君、本当に面白いね」
「え?いや、あの、すみませんでした!先を急ぎますので私はこれで失礼します!!」
とりあえずルークの手をみても大丈夫そうだったので、早くこの場を立ち去る為に頭を軽く下げてから、重たい荷物を持っていることなど忘れて全力で逃げるように騎士院へと向かう。
いや、実際に逃げてるんですけどね。
そんな私の後ろ姿を見つめながら、ルークはいつものように微笑みを浮かべた。
「クローディア=シャーロット、か」
その微笑みが先ほどクローディアに掴まれた手に向かう。
「うまく逃げたつもりなんだろうけど。
この僕が、一度見つけたものを見逃すわけないじゃないか」
紺のローブに隠れていた腕には何かの文様のような深い紫の痣が刻まれており、先ほどクローディアが触った部分の前でその痣が不自然な形で終わっていた。
「また君に会うのが今から楽しみだよ、クローディア」
もうクローディアの後ろ姿すらも見えなくなった道の先にそう呟くと、ルークは踵を返して自らが住む魔法院へと足を向けた。
その顔に太陽の光が射し、ただでさえ白く美しい肌が明るく映える。
その顔にはいつもと少し違う笑顔が浮かび上がり、彼の横を通り過ぎる者たちが皆あまりの美しさに動きを止めてしばし見入ってしまったという。
0
あなたにおすすめの小説
子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~
九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!
七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。
しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。
食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。
孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。
これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる