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約束の再会

逃げた先には

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それをある程度予想していたくせにいざ現実がそうなってみると、思っていたよりショックを受けている自分がいてびっくりした。



『今回はずいぶん時間がかかったじゃねぇーーーか、イザベル!!』


『・・・・仕方がないでしょう!若い女性が外からあの森に来るのは珍しいんだから!』


『お前もよくやるよな?これで何人目だ?』


『・・・・・それより、約束よ!!これで私は自由の身になるのよね?』


『あぁ、お前は今から自由だぜ。どこへでも好きなところへ行きな!!』



男の声の後に、すぐさま走り去っていく彼女のヒールの音がする。

こんな男達からは一刻も早く逃げて、ヨハンのいる村へとすぐに行けたらいいと思った。



『・・・・・おい、リーダー。あの女逃していいのかよ?』


『まぁ、一応約束だからな』


『なるほど!! 確かに、約束だ』




多分、約束など彼らは守らない。




「・・・・・・」


彼らに捕まってすぐに魔法で燃やして逃げることもできたけど、すぐに殺されることはないだろうと判断しとりあえず今はおとなしくしている。

地下にあるという牢屋にまで袋詰めのまま運ばれ、顔が外に出せた時には明かりが一切ささない本当に真っ暗な場所にいた。

すぐに手足を縛られ舌を噛みきらないよう口も布で縛られたまま、鉄格子のある牢の1つに入れられる。



「お前の買い手が決まるまでは、ここでおとなしくしてるんだなっ!!!」

「・・・・・・・」


漫画やアニメで散々主人公が敵に捕まりピンチに陥る場面を見てたけど、まさか自分にも似たような状況がやってくるとは思わなかった。

男の荒々しい足音が遠くになって聞こえなくなったのを確認してから、息を吐き暗闇にようやく少し慣れた目で辺りを見渡す。


どうやら不用心なことに、見張りはいない。


牢に入れて鍵をしめていれば出られないと、安心しているようだ。

脱獄系はわりと前世で流行ってたけど、こっちの世界ではあまりないらしい。

見張りがいないなら、とすぐさま手足の縛ってある鉄の鎖を炎で溶かす。

普通の炎なら難しかったかもしれないが、こっちはあのブラックドラゴンの鱗ですら燃やす尽くす天下の最強神炎だ。

燃やせないものなど、ほぼありはしない。



「よしっと!」



口元の布は自分でほどき、手足に異常がないことをあちこち動かしながら確認する。


うん!

どこも問題はないようだ。



「ーーーーーすごいな」

「!!??」



突然耳に聞こえてきた男性の声にハッとすると、自分の隣の牢屋に人がいたことに初めて気がつく。

まだ暗さに慣れてない為に、顔まではハッキリ見えない。



「す、すいません、いるのに気がつかな・・・・・っ!?」



そして、その男の人の手首には見覚えのある銀色のブレスレットが。



「あ、あのっっ!!」



すぐさま、格子越しにいる相手の方へと詰め寄る。

どうやら流れに任せた私の判断は間違ってはいなかったらしい。



「そのブレスレットのことで、聞きたいことがあるんですけど!」

「!!??」


私がここに来る意味がちゃんとあったことに少しほっとし、目の前の男性に意を決して話しかけた。













その頃ーーーーーイザベルは一度店に戻り、今まで客から貢がれた物の中で高額なお金になり、さして荷物にならない小物だけを袋にまとめて持つと街の入り口へと向かった。

ここから『ソフィーナ村』へは距離があるが、途中馬を手に入れてしまえばだいぶ縮められる。

とにかく、この街から出てしまえばあとは何をしても自由だ。


彼女のおかげで『奴隷の焼印』も消えた。


今の自分なら他の町に行こうとも、何の遠慮も後ろめたい気持ちもなしに堂々と歩ける。


そう、彼女のおかげでーーーーーーー。



「・・・・・・クローディア」


彼女の最後の顔は、すぐ後ろにいた私には見れなかった。

いつか私と一緒にケーキを食べに行くことをあんなにも楽しみにしてくれていた彼女は、騙され裏切られたと知った時どんな表情をしていたのか。

もしかしたら、無理やり包まれた袋の中で泣いていたかもしれない。

いや、私への怒りで震えていたかもしれない。


これまで取引として彼らに引き渡した女達は、自殺を考えて森に逃げ込んできた女がほとんどだった。

それでも自分のしたことは、決して許されることではない。

それでもヨハンにもう一度会う為に、その為ならば何でもすると覚悟を決めてここまで来たのだ。


絶対に後戻りはできない。


そして大通りのレストラン街に終わりが見えて、石でできた街を覆う壁と大きな入り口が見えてくる。



「・・・・・ヨハン!!」



ごめんなさい!!

あなたに新しい家族がいることは知ってるけれど、遠くから一目でもいいの。

あなたの優しい笑顔がもう一度見たい!!



「!!??」



だが、その入り口が突然何かに塞がれる。

それが自分よりもはるかに大きな体の人間だと認識したとともに、その正体にも気づく。



「どうして、どうしてあんたがここにいるのっ!?」

「あぁーーーーーやっときただな、イザベル。おめぇ、どこにいくつもりだぁ?」



イザベルの目の前には、背はイザベルの2倍・横幅に至っては普通の人の3倍から4倍ほどはあろうかという、大男のギガンが立っていた。

その手も足も太く硬い筋肉で覆われていて、鎧を来ていないのも身体そのものが鎧のように硬いからだと聞いている。

手に持っているのは打ち払ったり、上から叩き潰すというシンプルな攻撃方法が多い石の斧。

だが、この大男がその武器を持てば大岩すらも一振りで打ち壊す凶器となる。

彼の役目は店から逃げた女の捕獲・あるいは口封じ、店に害をなすもの全ての殲滅。

暴力を振るうことに対して何の良心の呵責もなく、どこまでも相手を追い詰めその力で潰すことに喜びと快感を感じるギガンに狙われたらまず命はない。

店から逃げようとして、ギガンに容赦なく殺されていく娘を何人もこの目で見ている。

足が震えてしまうのは、その光景と彼女達の最後の断末魔が昨日のことのように蘇ってくるからだ。


「ギガン、あいつらから聞いてるでしょう?私は約束を果たしたの」



そう、私は果たしたのだ。

ギガンに追われる理由は何1つない。



「あぁーーーーーーきいてるどぉ!おめぇはじゆうになったと」

「そ、そうよ!もうあんた達とは、何にも関係ないわ!!」

「あぁーーーーーーそんだ、そんでじゆうになったおめぇのくちをふうじろとよっ!!」

「!!??」




ドガンッッ!!




自分がさっきまでいたところにギガンの振り下ろした石斧が地面にめり込み、そこら一帯が粉々に粉砕されて、大きな穴ができていた。



「・・・・・ぁ、・・・・・ぁっ」



とっさに避けたとはいえ、すでに座り込んだ足が震えている。



嘘よ、嘘でしょ?

どうして?

全てが無駄だったというの?

それなら、私がこれまでしてきたことは・・・・。



「おで、おめぇがなきさけぶすがたが、ずぅーーーーっとみたかったんだぁ!」



よだれを垂らしながら、恍惚とした表情でギガンが私を見る。


「・・・・・い、いやっ!!」


そしてあまりの恐怖で足の動けない私に向かって、ギガンが舌舐めずりをしながら石斧を空に向かって振り上げた。



ヨハン、ヨハンっ!!

お願い、誰でもいい!!

助けてっ!!



「いっくどぉぉぉっ!!!」

「いやぁぁぁーーーーーーー!!!」




ドガァァァーーーン!!!!




その瞬間、大きな衝突音と爆炎が巻き起こりイザベルの視界が何も見えなくなる。


「・・・・・?」


なぜ?

体のどこも痛くない?


ギガンの石斧で自分のおそらく足の骨を砕かれるか、下半身が血まみれになっているかと思った体は五体満足だ。



「どうして・・・・・・あっ!」


イザベルの目の前には、風にたなびく黒いマント。

そしてギガンの石斧を受け止めている、炎の剣を持つ騎士ーーーージークフリートの背中がそこにあった。



「き、騎士さん・・・・・あなた!?」

「お、おでの、おでのじまんのおのをとめただとおぅっ!?」

「イザベル殿、クローディアはどうした?」

「!?」



ジークフリートは決して振り向かない。

だからどんな顔をしているのかは見えないが、いつもよりさらに低く力のこもった声とその背中から感じるピリピリした肌が痛いぐらいの空気は彼の怒りに満ちている。

そしてイザベルの後ろからは、眉間のシワを深くして顔を真っ赤にして怒っているアレフレドまでもが現れた。


「おい、女!あの庶民の女はどこだっ!!」

「・・・・・・ッ!!」


分からない。

なぜかは分からないけれど、涙が溢れてきて止まらない。



「クソ女!!泣いてないで、答えろ!!庶民の女はどこだっ!!」

「く、クローディアは・・・・・」

「お、おめぇ、おでのだいじなおのをっ!!」

「!!??」


そうよ!!

ギガン!!


泣きながら声のする方に振り返ると、そこには自慢の石斧を粉々に砕かれて怒り心頭で頭を真っ赤にして歯を食いしばっているギガンがいた。


「おめぇは、いますぐごろしでやるーーーーーー!!」


そして、力任せにジークフリートへとその拳を押しつぶそうと振り下ろすが怒りで理性を失っているギガンの拳はジークフリートにかすり傷すらあてられない。


「ぐそっ!!ぐそっ!!ぐそぉぉぉっ!!」



ガンッ!!

ガンッ!!

ガンッ!!!



「そんな荒い動きでは、俺は捉えられない」


ギガンの拳を避けるか受け止めるだけで攻撃を仕掛けることをしていなかったジークフリートだが、ギガンの背後へとすんなり回り込むとその大きな足下に向かって炎に燃え上がった剣を横に振り払う。



「うガァァァーーーーーーー!!!!!」


足の腱を斬られたギガンは大絶叫とともにその場に倒れていき、起き上がることもできないまま気を失った。



「う、嘘。あのギガンが、たった一撃で?」

「フン!!ジークフリートは、我がアルカンダル王国随一の騎士だ!あんな力だけの筋肉ダルマに負けるわけがないだろうっ!!」

「!!??」



確かに森の中での戦いの中でも強いとは感じたが、どちらかといえば見た目には派手な魔法を扱うクローディアの方に目がいっていた気がする。


「イザベル殿、ケガは?」


息1つ乱さずにジークフリートがアルフレドとイザベルがいる場所まで戻ってくると、その黒い瞳がイザベルの目をまっすぐ射抜いた。


「!!??」


この人は、気づいている。

私が彼女を裏切ってここにいることを、全部わかってここにいるのだ。



「あ・・・・わ、わたし」

「おい、クソ女!!いいかげんにしろっ!!庶民の女はどこだっ」




ドゴォォォォォーーーーーーーンっっ!!!




その瞬間、先ほどまでイザベルがいた店の方角から大きな爆撃音とともに、大きく燃え盛る炎と煙が姿を表す。


「あ・・・・・・く、クローディア!!」


その炎の姿に、イザベルが地面に泣き崩れてその名を叫んだ。


「ま、まさか、あそこに庶民の女がいるのかっ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・許して、許してクローディアっ!!」

「く、くそっっ!!」


全身を抑えきれない怒りに震わせたアルフレドがその場所に向かって走り出そうと、今まさに地を蹴るのと同時にジークフリートがその腕をしっかりとつかむ。



「ジークフリート、なぜ止めるっ!?あの女はあそこに」

「・・・・・大丈夫です」

「何っ!?」

「彼女なら、大丈夫」



吹き荒れる風に舞う黒きマントと髪の毛に反して瞬きすらせず、微動だにしないジークフリートがアルフレドを短い言葉とまっすぐな目で制する。



そして彼の先ほどよりも厳しさが和らいだ瞳が、爆音と爆炎が未だに鳴り響き燃え上がるその場所に向けられるがそこには迷いも不安も一切なかった。

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