グッバイ、親愛なる愚か者。

鳴尾

文字の大きさ
2 / 21

しおりを挟む
 僕は人と関わることが嫌いだ。大嫌いだ。
 僕は、僕の全てを僕以外の誰にも知られたくない。よく分からない赤の他人に、どうして自分の内側をさらけ出さなければならないのか。知られなければならないのか。知られなければならないのか。理解不能だ。
 だから僕は誰とも関わらない。彼だって、知られたくないのなら僕のように誰とも関わらなければいいのに。

 ひとりでいることは、辛いことだろうか。
 みんなで一緒にいることは、正しいことなのだろうか。
 ひとりで学校へ行き、休み時間には本を読んで、教室の隅でひとり昼食を広げ、また本を読む。そして授業が全て終われば、ひとりで学生寮の自室へ戻る。誰とも行動を共にせず、常にひとりきり。決して悪いことをしているわけではない。そのほうが色々と楽だし、疲れないだけだ。
 だというのに、どうして彼は常に誰かと関わろうとするのだろう。どうして彼は、ひとりを恐れているんだろう。彼が見せる笑顔は、僕にはいつも苦しそうに見えた。
 僕には彼が分からない。

 僕は人と関わるのは好きじゃない。けれど、人そのものを嫌悪しているわけではない。むしろ、僕と必要以上に関わろうとしない人のことは好きだとさえ思う。そういう人たちは、僕のことを苦しめない。
 初めこそ寮の部屋が同じよしみだからと色々話しかけてきていた彼は、僕があれからなんの反応も返さなかったおかげか二週間もする頃には話しかけてくるのをやめた。それから彼が命を絶ったあの日まで、僕と彼だけの寮室には一切の会話がなかった。
 僕は寮室にいる間、ずっと二段ベッドの上段で過ごしていた。彼が大声で話しかけようが何をしようが、布団をかぶって耳を塞いでいれば聞こえない。彼がこの大して広くない室内で叫ぼうが笑おうが咳き込もうが嘔吐えずこうが泣こうが苦しもうが全部無視。たとえ同室であっても、何か困っていそうでも、僕は誰かと馴れ合う気なんてさらさらなかった。
 けど僕にも矛盾があった。そんな、なんの興味もない赤の他人のはずだった彼に、僕は手を貸した。

 彼の人気は凄まじく、あっという間に教室を飛び出した交友関係は瞬く間に学校中へと広がっていった。彼はその広がった友人関係に、僕を混ぜようとはしなかった。だから僕が彼を巻き込んだ気まぐれをやり始めたその瞬間まで、学生寮で部屋の近かった数人を除いて誰も彼と同室が誰か知らなかった。その点において、僕は彼をそんなに悪いやつじゃないのかもしれないと思った。
 その事実が、僕をほんの少しだけ狂わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...