14 / 21
14
しおりを挟む
「ねえ、僕の頼みを聞いてくれる?」
ルームメイトは驚いた顔で僕の話を聞き、そしてあっさりそれを引き受けた。
僕が拍子抜けするほど簡単に話を了承した彼は、次の日本当に僕の願いを叶えてくれた。僕は彼から、学生寮の屋上へ繋がる扉の鍵を受け取って部屋を出る。こんなところで彼の人望の厚さを思い知らされると思わなかった。貸出禁止のはずなのに、一体どうやって手に入れたのか。そんな彼の人望をこれから失わせてしまう僕にとって、それはどうでもいいことだ。
学生寮の屋上はうっすらと雪が積もっていて、コンクリートの地面が白く輝いて見えた。それは踏みしめるほどの量はなくて、踏んだところから魔法が解けたみたいに灰色に戻っていく。
たかだか三階建ての学生寮の屋上からでは、人は絶対に死ねるとは限らないらしい。無駄に頑丈で、迷惑な話だ。下手に落ちれば後遺症だけが残って、より苦しい姿で生きながらえることになる。それだけは絶対に嫌だ。やるなら確実に。そうでなければ意味がない。
僕が彼から屋上の鍵を借りたのは、ここに確実な場所があるからだ。この屋上には、屋上に鍵をかけなければならなくなった原因となる僕の先駆者がいる。
僕は扉に背を向けて、屋上を歩く。屋上の端ギリギリまで歩いて、フェンスを越えて、僕はゆっくりと地面を覗き込んだ。僕のくるぶしくらいまである背の高い芝に混じる金属が、陽の光を反射してきらりと光る。
学校の敷地内に建つこの学生寮はそんな広大な敷地を覆う高い壁のそばにあり、壁のそばには侵入者対策として鉄製の棘が背の高い芝に混じっている。そこをうっかり踏んだ学生が過去に何針も縫う大怪我をしてからは近づくなと看板もされるようになったその棘は、僕の先駆者にトドメを刺した凶器。つまり僕も棘に向かって飛び降りれば、あの世へ行けるというわけだ。
さようなら、人生。来世では、人の心を理解できるようになりたい…。
「ハル!」
鼓膜が弾け飛ぶかと思うほどの声量が僕の体を震わせた。瞬間、体が温もりに包まれる。僕は何が起こったか分からなかった。
「何やってんだこの大馬鹿野郎!」
気がつくと僕は、ガタイのいい坊主頭の男に抱えられて芝生の上に転がっていた。目と鼻の先には鋭い棘が生えている。
なんで生きてる。邪魔された?なんで?どうしてこいつはここにいる。確かに屋上には僕しかいなかったはずだ。鍵だって僕しか持ってない。普段から開いていない屋上にわざわざ足を運んだのか?どうして?分からない。分からない…。
「お前、なんでこんなことしたんだよ。危ないだろ。死ぬかもしれんかったんだぞ。」
僕を掴んで離さない大きな手が二の腕に食い込む。
怒ってる。坊主頭が。初めて見た。人が、誰かが本気で怒る姿を。
怖い。けどこの恐怖は、分からない恐怖じゃない。怒りの感情を露わにしているこいつが怖い。威圧感からくる単純な恐怖が、どうして怒っているのか分からない恐ろしさを上回る。
頬が熱い。
「どこか痛むんか?」
いつの間にか二の腕を掴んでいた手が優しくなって、坊主頭の顔が焦りに変わっている。
「泣いてないで教えてくれよ。それとも、言えんくらいしんどいんか?」
言われて僕はやっと気づいた。坊主頭が焦った理由を。頬が、体が熱い理由を。
ルームメイトは驚いた顔で僕の話を聞き、そしてあっさりそれを引き受けた。
僕が拍子抜けするほど簡単に話を了承した彼は、次の日本当に僕の願いを叶えてくれた。僕は彼から、学生寮の屋上へ繋がる扉の鍵を受け取って部屋を出る。こんなところで彼の人望の厚さを思い知らされると思わなかった。貸出禁止のはずなのに、一体どうやって手に入れたのか。そんな彼の人望をこれから失わせてしまう僕にとって、それはどうでもいいことだ。
学生寮の屋上はうっすらと雪が積もっていて、コンクリートの地面が白く輝いて見えた。それは踏みしめるほどの量はなくて、踏んだところから魔法が解けたみたいに灰色に戻っていく。
たかだか三階建ての学生寮の屋上からでは、人は絶対に死ねるとは限らないらしい。無駄に頑丈で、迷惑な話だ。下手に落ちれば後遺症だけが残って、より苦しい姿で生きながらえることになる。それだけは絶対に嫌だ。やるなら確実に。そうでなければ意味がない。
僕が彼から屋上の鍵を借りたのは、ここに確実な場所があるからだ。この屋上には、屋上に鍵をかけなければならなくなった原因となる僕の先駆者がいる。
僕は扉に背を向けて、屋上を歩く。屋上の端ギリギリまで歩いて、フェンスを越えて、僕はゆっくりと地面を覗き込んだ。僕のくるぶしくらいまである背の高い芝に混じる金属が、陽の光を反射してきらりと光る。
学校の敷地内に建つこの学生寮はそんな広大な敷地を覆う高い壁のそばにあり、壁のそばには侵入者対策として鉄製の棘が背の高い芝に混じっている。そこをうっかり踏んだ学生が過去に何針も縫う大怪我をしてからは近づくなと看板もされるようになったその棘は、僕の先駆者にトドメを刺した凶器。つまり僕も棘に向かって飛び降りれば、あの世へ行けるというわけだ。
さようなら、人生。来世では、人の心を理解できるようになりたい…。
「ハル!」
鼓膜が弾け飛ぶかと思うほどの声量が僕の体を震わせた。瞬間、体が温もりに包まれる。僕は何が起こったか分からなかった。
「何やってんだこの大馬鹿野郎!」
気がつくと僕は、ガタイのいい坊主頭の男に抱えられて芝生の上に転がっていた。目と鼻の先には鋭い棘が生えている。
なんで生きてる。邪魔された?なんで?どうしてこいつはここにいる。確かに屋上には僕しかいなかったはずだ。鍵だって僕しか持ってない。普段から開いていない屋上にわざわざ足を運んだのか?どうして?分からない。分からない…。
「お前、なんでこんなことしたんだよ。危ないだろ。死ぬかもしれんかったんだぞ。」
僕を掴んで離さない大きな手が二の腕に食い込む。
怒ってる。坊主頭が。初めて見た。人が、誰かが本気で怒る姿を。
怖い。けどこの恐怖は、分からない恐怖じゃない。怒りの感情を露わにしているこいつが怖い。威圧感からくる単純な恐怖が、どうして怒っているのか分からない恐ろしさを上回る。
頬が熱い。
「どこか痛むんか?」
いつの間にか二の腕を掴んでいた手が優しくなって、坊主頭の顔が焦りに変わっている。
「泣いてないで教えてくれよ。それとも、言えんくらいしんどいんか?」
言われて僕はやっと気づいた。坊主頭が焦った理由を。頬が、体が熱い理由を。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる