上 下
3 / 6

2 婚約するということ

しおりを挟む
「そんなことより、あんたはその婚約を喜んでるの?」


それはリリアンナにとって意表をつくものだった。

リリアンナ達のような高位の貴族になるとたいてい相手を選ぶことが出来ない。
それは権力を分散させることを嫌う貴族ならではの考え方だ。

王族や公爵家、侯爵家の間ならお互いが繋がりを持つことに繋がるが、それ以下の身分だと他家に権力を与えかねない。
政略を優先した結果、愛し合っていない夫婦が高位の貴族になればなるほど多く存在し、王族は流石にないとしてもその他の貴族は愛人を持っていることが普通にあるのだ。


「…………喜ぶ?父と母は喜んでいたけれど。私自身は会ったことのない第二王子様なんて……どうとも思っていなかったわ?」

「えー、うそぉ。まさかのアレンルートなの?!私の推しの騎士様を攻略出来ないじゃない!」


(騎士様?推し?一体何の話をしているのでしょうか……。)


リリアンナは少し戸惑いながらシャーリーのことを見つめていた。


「ああ、何のことか分からないって顔してるわね?いいわ、説明してあげる。まず、この世界は乙女ゲームっていう物語みたいな話にそっくりな世界で私はこれから起こる可能性のある未来を知って……」

「ええっ?!シャーリーは未来を知っているですか?!凄いです!流石天使さまです。」


リリアンナは尊敬の眼差しでシャーリーを見つめる。


「はぁ?私は天使じゃなくてヒロインで……、まあいいわ、説明を続けるわね。私はその話の中でヒロイン。つまり最後にはだれかしらのイケメン…………美しい男性と結ばれる役どころなのよ。そして貴女は悪役。婚約者に執着して私に犯罪紛いの嫌がらせをして最後には牢屋行きになるのよ。」


(ええっと、シャーリーがカッコいい殿方に好かれてそれで私が嫉妬して牢屋行きで………………ええ?嘘でしょう?)


たった今聞いた内容はリリアンナにとって衝撃的なものだった。恐らく今日聞いた話の中で一番。
それはそうだ。何しろ自分が将来犯罪者になると言われたのだから。


(ど、どうしましょう!牢屋なんて絶対嫌です。虫とか居そうだし腐ったものとか食べさせられそうだし。)


「まあまあ、落ち着いて。貴女は……あっ、リリーって呼んでいい?リリーは私に嫌がらせをしなければ酷い目に合わないから。それに今のリリーはとても嫌がらせを出来そうに見えないもの。なんかトロそうだし。」

(トロそう?私が?結構運動は得意なんですけどね……。)


「確かに今の私ならシャーリーに嫌がらせをしたりしないわ。だって、嫉妬するほどアレン殿下のことが好きじゃないんだもの。でも会ってしまったら好きになってしまうのかも……。」

「大丈夫よ………………………………………多分。人の気持ちはそう簡単に左右されないし。それに私はアレン殿下はタイプじゃないの。だってあいつドSなんだもん。」

「どえす………?何ですかそれは。」

「リリーには教えてあげるわ。貴女の婚約者は人のことをいたぶって喜ぶ趣味があるのよ。それも好きな人ほどね。物語のルートは私があげる好感度の度合いによって違うの。まあ、そういう私もハッピーエンドは見てないんだけど。まず私の好感度が一番低いときね、これはノーマルエンドと言ってそこまで私に対して愛情がない時の話なんだけど。もっと後になると、実は私が隣国の姫だと判明するの。それを知って使えそうだと思ったアレン王子が結婚しようとするんだけどその時に邪魔だったリリーに適当な罪状を付けて婚約破棄するの。その場合が牢屋行きね。次に好感度が高いのがハッピーエンドでこれが意外と難しくてクリア出来ていないの。そして一番好感度が高いのがバッドエンド。なんでって思うかも知れないけど、好感度が高すぎるとアレンが超ヤンデレになるの。そして主人公は何故かリリーの嫌がらせが間接的な理由となって死んでしまう。それに怒り狂ったアレン王子がリリーを処刑してしまうの。でも現実ではバッドエンドにするのが一番難しいと思うけどね。だってほとんどすべての行動で王子の好感度を上げなきゃいけないんだもの。」


(私が下手したら処刑……。なんてこと……………)



それを聞いたリリアンナが気絶したのは言うまでもない。


しおりを挟む

処理中です...