転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel

文字の大きさ
58 / 84
第7章 神の手のひらの上で

【58】開かない瞳 オーディンside

しおりを挟む
細くなっていく体、常に何かに怯える瞳、震える愛しい人をどうしていいかわからず、ただ抱きしめるだけの日々。
最先端医療が揃っているシアーズの宮廷医師ですら原因がわからぬ病に侵されたシルヴァリオン。
初めて会った日から1日も欠かさず愛を注いできた。
私だけの妃となり、これから何十年も変わらぬ愛を捧げるのだ。負担にならぬように柔らかく抱きしめ私のパワーを注ぐイメージをする。(早く良くなってくれ―――)
何を食べても吐いてしまう。ほんの少しでもいいから食べて体力をつけてほしいのに、吐くせいで逆に疲弊させてしまう。
子供の頃ハチに刺されてから注射が死ぬ程嫌いなシルヴィ。嫌がるのを宥めながら鎮静剤の注射をし、眠っている間に点滴をする。
細くなった手首に青黒いあざができている。
こんなにも美しい体にアザをつける罪悪感に苛まれるが、なんとしても助けたい一身で今日も泣くシルヴィを抱きしめ注射を受けさせる。
そんな日々なのに、エーリスに隣接する国が不穏な動きを見せていると報告が入る。
エーリスはこの世の民の95%の人々が信仰しているアウレリア教の聖地があり、軍事的にも政治的にも重要な国だ。シルヴァリオンの大事な生国でもあるここを奪われるわけにはいかない。

幸い今日のシルヴァリオンは朝から顔色もよく、ベッドで少し体を起こし座っていることができていた。
『あとで久しぶりに湯に浸かりたいな』と言うシルヴィに帰ったら必ずと約束し軍議へと出かけた。

しかし軍議が終わり急いで皇子宮に戻るとシルヴィの姿はなかった。
黒服に問いただすと、シルヴィ付きの黒服数人がどこかに連れて行ったと…

ありえない。まさかあの者たちがシルヴィを攫った?何のために?
あのような状態のシルヴィをどこへ―――


ここしか思いつかなかった。



廃神殿にたどり着くと柔らかな夕陽が差し込む祭壇近くに愛する人が眠っていた。
あれはシルファか?エーリス王族の衣装に身を包み横たわるシルヴィに違和感を感じる。周りで跪いている黒服がくずおれすすり泣く。

「そんなバカな―――」

地面に足が縫い付けられたかのように動かない。


あの時ここで

「死ぬまで…いや生まれ変わってもずっと一緒だ、愛してるシルヴァリオン」そう言った私に愛しい人はこう言った。

「来世も来来世も、ずーっとずーっと一緒だよ?ボクが神様に頼んであげるからだいじょうぶ」
子供のような純粋な笑顔でそういうシルヴィは廃神殿の神に祈りのポーズをした。

この神が何をしてくれるというのだ………。


開かない瞳、透き通るように白い肌。

「いつ…?」

「1時間ほど前に…眠るように穏やかに」地面に伏したまま黒服が答える。

苦しまなかったのか…少しの安堵とともに『何故』という気持ちが沸き起こる。
何故こんな時に私は軍議などに出ていたのか。何故シルヴィは最期をこんな場所で迎えたのか。最期の言葉は何だったのか…。

「シルヴィ…起きろ。帰ってきたぞ?」 一歩近づく。

「湯に入れる約束だろう?宮殿に戻ろう、何故こんな場所に来てるんだ」もう一歩近づく。

「拗ねてるのか?私がいなかったから…いつもの寝たフリだろう?」 

クスクスといつものように笑ってくれと祈りながら、シルヴィの元へとようやく辿り着く。
閉じられた瞳は開かない、薄く開いた唇からあの美しい声も聞かれない。
そっと頬に手を伸ばす。まだ温かい…

「ほらやっぱり、温かいじゃないか。やめてくれ……死んだフリだなんて悪ふざけが過ぎるぞ」

周りの黒服から嗚咽が漏れる。やめろシルヴィは死んでなんかない、死んでなんか…。
目の前がぼやける、なんだ?やめろシルヴィの顔が見えにくいじゃないか。
気づけば人前だと言うのに私の両目から熱いものが溢れ出す。それらが私の頬を伝いシルヴィの頬に落ちる。

「あ…すまない」
拭おうとしたが次々と熱いものが私の頬を滑り落ちシルヴィの顔に落ちてゆく。

(まるでシルヴィが泣いてるみたいだ)




今にも起き出して『どこ行ってたのさ』って唇を尖らせ怒り出しそうに見える。
艷やかなプラチナブロンドが夕陽を受け黄金色に煌めく。こんなに美しいのに…。
いつもはピンクに色づく柔らかな頬が透き通るように白い。こんなにもみずみずしいのに…。
私の落としたもののせいで濡れる睫毛が今にも動き出しそうなのに。何故…?



「何故一人で逝った………?ずっとずっと一緒だと言ったではないか」


胸元に組まれたシルヴィの手を握ると手首に点滴の痕が見えた。

「あんなに怖がって嫌がってたのに、がんばって注射もしたのに…」
こんな事になるなら注射なんてさせなければよかったと後悔が押し寄せる。
食べられないというのを励まし無理に食べさせては吐き戻し苦しませた。あんなこともしなければよかった。

「すまない…」細くなったシルヴィの指を撫で擦る。

どうやってもその瞳は開かない。呼んでも答えてはくれない。
私はようやく結ばれた最愛の人を失ったことに絶望した。


シルヴィを温めていた夕陽が隠れ、廃神殿に灯りがともる。
何故だ…シルヴィが私の元から去ったというのに、何故 時は普通に流れていくのだ。

「シルヴィがいないこの世界で私はこの先どうやって生きていけばいいのだ…?」




私のその言葉に黒服が1枚の紙を差し出してきた。



そこにはたおやかで美しい愛する人の文字が綴られていた。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...