60 / 84
第7章 神の手のひらの上で
【60】 Deicida オーディンside
しおりを挟む
現実とは思えない、夢であれと願う。私を一人残して行くというのか?
寝台の上にはシルヴィが造った木彫人形が並んでいた。これは…シルヴィの大事な家族だ。
『ボクはこの世界に来る前の神との約束で前世に戻してもらえることになってるので、ちょっと行ってきますね』
シルヴィは………こんな嘘だらけのラブレターなんか書いて、私が騙されるとでも思っているのか?
私は知っていた。シルヴィがこの家族よりも私を選んでくれたことを。
神棚の神を見上げ問う。
「神よ…シルヴィは私と結ばれるために王にならないという選択肢を選んだのだ」
あの時シルヴィは言った。
『ボクにはずっと帰りたい場所があるんだけど、ソコに帰るには王にならないと帰れないんだ』と。
「それでも私を選んでくれた。家族も大事な人も全て諦め私のそばにいるという未来を。…なのにこの仕打なのか?」
立ち上がり神へと躙り寄る。
この神を初めて見た時シルヴィは『こんなところにいたんだ…』と確かにそういった。
あれから暇を見てはここに訪れ、神に祈りを捧げていたシルヴィ。アウレリア教でもない、どこのなにかもわからぬ神に熱心に祈っていた。
「なのに…シルヴィを連れて行くというのか?」
ならば―――
「私もスグに行こう、首を洗って待ってろ」 私は黒服が帯剣している剣を抜き放った。
「殿下!なりませんっ」 「妃殿下の意思をお汲みください」黒服たちが足元に跪く。
自死はならぬと…シルヴィはそういった。新しく愛を探し妃を娶れと…
そんなこと…できるはずもない
なぜならば私は知っている。この手紙よりもシルヴィの本心を知っているのだから。
祭壇に散らばる鳥の形に折られた紙。それを黒服に開くように指示する。
広げられた四角い紙、そこにはシルヴィの文字があった。
『オーディンとおじぃちゃんになるまで一緒にいさせてください』
『エーリス民がもっと豊かに幸せに暮らせますようお願いします』
次々と開いていく黒服、それを匠に読み上げさせる。
『エンディミオン叔父の治政が平穏でありますように』
『シアーズの人々が戦争に巻き込まれませんように』
複雑に折られた紙の鳥を黒服たちが手分けして開いてゆく。
『現世の家族の悲しみが早く癒えますように』
『両親が長生きしますように、兄が島で嫁をとり両親の面倒をみてくれてますように』
『大学の奨学金がチャラになってますようにお願いします』
『あのアパート事故物件になっちゃって賠償金とか…?それもチャラにお願いします!』
『現世のボクは最初から生まれてすらいなかったことにしてもらって構いません。そのほうが家族たちも…ボクも』
黒服たちが訝しむ。なんのことかわからぬのだろう。
『オーディンの悲しみが長引かないようにお願いします』
『みんながボクのことを忘れないでいてくれると嬉しいな』
『リュドミールが大きくなる姿が見たかったな』
『黒服さんたちにはスッゴクスッゴクお世話になったのに何も返せなかった。どうかみんながケガなどしませんように』
黒服たちの堪えきれない嘆き声が上がる。
『オーディン…また会えるよね?』
『やだな、一緒におじぃちゃんになりたかったな…』
『神様のケチ!ハゲ!王様になれなくったって…もっと寿命くれてもいいじゃんか』
残り数羽になった紙の鳥。
『オーディンがボク以外を愛するだなんてヤダ、ボクだけを愛してて』
『【タカハシさん】オーディンを見張っててね、ベッドに誰か連れ込みそうになったらそのジト目で殺しちゃってください』
何を心配することがある。そんなことするわけなかろうに。
『こんなに人を好きになれるって知らなかったよ。オーディンに出会わせてくれてありがとう神様』
そして
最後の1つ、これは私も読んだことがないな、今日書いたのだろう。歪んだ文字、シルヴィ自身で書いたと思われるそれを開いた私は…口を押さえ声にならぬ叫びをあげた。
シル…シルヴィ……シルヴァリオン。私の最愛の人。永遠の恋人。魂の片割れ。
『ボクはオーディンを探すよ。来世も来来世も。どこにいようとも見つけるからね。久遠の時を一緒に紡ごう。オーディン愛してる永遠に』
寝台の上にはシルヴィが造った木彫人形が並んでいた。これは…シルヴィの大事な家族だ。
『ボクはこの世界に来る前の神との約束で前世に戻してもらえることになってるので、ちょっと行ってきますね』
シルヴィは………こんな嘘だらけのラブレターなんか書いて、私が騙されるとでも思っているのか?
私は知っていた。シルヴィがこの家族よりも私を選んでくれたことを。
神棚の神を見上げ問う。
「神よ…シルヴィは私と結ばれるために王にならないという選択肢を選んだのだ」
あの時シルヴィは言った。
『ボクにはずっと帰りたい場所があるんだけど、ソコに帰るには王にならないと帰れないんだ』と。
「それでも私を選んでくれた。家族も大事な人も全て諦め私のそばにいるという未来を。…なのにこの仕打なのか?」
立ち上がり神へと躙り寄る。
この神を初めて見た時シルヴィは『こんなところにいたんだ…』と確かにそういった。
あれから暇を見てはここに訪れ、神に祈りを捧げていたシルヴィ。アウレリア教でもない、どこのなにかもわからぬ神に熱心に祈っていた。
「なのに…シルヴィを連れて行くというのか?」
ならば―――
「私もスグに行こう、首を洗って待ってろ」 私は黒服が帯剣している剣を抜き放った。
「殿下!なりませんっ」 「妃殿下の意思をお汲みください」黒服たちが足元に跪く。
自死はならぬと…シルヴィはそういった。新しく愛を探し妃を娶れと…
そんなこと…できるはずもない
なぜならば私は知っている。この手紙よりもシルヴィの本心を知っているのだから。
祭壇に散らばる鳥の形に折られた紙。それを黒服に開くように指示する。
広げられた四角い紙、そこにはシルヴィの文字があった。
『オーディンとおじぃちゃんになるまで一緒にいさせてください』
『エーリス民がもっと豊かに幸せに暮らせますようお願いします』
次々と開いていく黒服、それを匠に読み上げさせる。
『エンディミオン叔父の治政が平穏でありますように』
『シアーズの人々が戦争に巻き込まれませんように』
複雑に折られた紙の鳥を黒服たちが手分けして開いてゆく。
『現世の家族の悲しみが早く癒えますように』
『両親が長生きしますように、兄が島で嫁をとり両親の面倒をみてくれてますように』
『大学の奨学金がチャラになってますようにお願いします』
『あのアパート事故物件になっちゃって賠償金とか…?それもチャラにお願いします!』
『現世のボクは最初から生まれてすらいなかったことにしてもらって構いません。そのほうが家族たちも…ボクも』
黒服たちが訝しむ。なんのことかわからぬのだろう。
『オーディンの悲しみが長引かないようにお願いします』
『みんながボクのことを忘れないでいてくれると嬉しいな』
『リュドミールが大きくなる姿が見たかったな』
『黒服さんたちにはスッゴクスッゴクお世話になったのに何も返せなかった。どうかみんながケガなどしませんように』
黒服たちの堪えきれない嘆き声が上がる。
『オーディン…また会えるよね?』
『やだな、一緒におじぃちゃんになりたかったな…』
『神様のケチ!ハゲ!王様になれなくったって…もっと寿命くれてもいいじゃんか』
残り数羽になった紙の鳥。
『オーディンがボク以外を愛するだなんてヤダ、ボクだけを愛してて』
『【タカハシさん】オーディンを見張っててね、ベッドに誰か連れ込みそうになったらそのジト目で殺しちゃってください』
何を心配することがある。そんなことするわけなかろうに。
『こんなに人を好きになれるって知らなかったよ。オーディンに出会わせてくれてありがとう神様』
そして
最後の1つ、これは私も読んだことがないな、今日書いたのだろう。歪んだ文字、シルヴィ自身で書いたと思われるそれを開いた私は…口を押さえ声にならぬ叫びをあげた。
シル…シルヴィ……シルヴァリオン。私の最愛の人。永遠の恋人。魂の片割れ。
『ボクはオーディンを探すよ。来世も来来世も。どこにいようとも見つけるからね。久遠の時を一緒に紡ごう。オーディン愛してる永遠に』
42
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる