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9章
諦観
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「涼さんは…東京で事故で亡くなったんですか?」オレは気になってた死因を聞いてみた。
「事故といえば事故ですね。交通事故じゃないですけど。」
死因は練炭による一酸化炭素中毒だと、無知による事故死だったと教えてくれた。
「母だけじゃない。俺にも受け入れられなかった。元気に嬉しそうに夢に輝いて出て行った弟が1年もしないうちに遠い場所で一人で誰にも気づかれることなく逝ってしまったなんて」
苦渋に満ちた顔がこみ上げるものを隠すように俯く。何か言葉をかけたいと思うが何と言っていいかわからない。
身近な人を亡くしたことがないオレにはその悲しみの深さが実感できなかった。
沈黙に耐え切れなくなり、話を変えるかのように質問した。
「オレは…涼さんに似てますか?」
前前世の自分だなんて思えなかったけど御婆さんが息子だと思い込んでるくらいに似てるのか。やっぱりオレが涼さんだから御婆さんは…?
「いや、似てないな」
キッパリと言われてホッとした。
「高校生くらいの男の子を見かけると涼が帰ってきたと騒ぐんだ。家まで連れてきたのは今回が初めてだったがね」
そうなんだ。オレだからじゃないのか。
お兄さんが懐かしそうに部屋を見回す。
「7つも離れてるせいか可愛くてねぇ。やることなすこと危なっかしくて過保護ぎみに育ててしまったかもしれん。夕方になっても帰ってこないアイツを探しに何度走り回ったことか。元気な可愛い子だったんだよ。でも はしかに罹った時、症状が重くて本土で入院したんだ。あの時は肝を冷やしたもんだ。
足が遅くて運動会じゃいつもビリだったけど友達思いの優しい子だった。都会に憧れて反対したのに勉強頑張ってこんな辺鄙な島からはじめて東京の大学に受かって両親も俺も自慢だったんだ。母さんは…最後まで反対してたけどね。そんな遠くへ行くなんて寂しかったんだろう。
ショックで遺体に対面できなかった母には涼が亡くなったという実感はわかなかったんだろう。今でも東京で元気にやってると思ってるんだ。母の中で涼は嫁ももらって子供も二人もいて東京に一戸建ても建てて立派な企業に勤めているらしい。」
困ったように笑うお兄さんに胸が締め付けられる。この人たちの悲しみはすべてシルヴァリオンが選んだ結果だ。
「俺もそう思うようにした。そのほうが楽だからな。俺は結婚もできなかったし孫も見せてやれなかった。涼が生きてたらなと思ってしまう。だから東京で生きてるんだと、正月や盆には帰ってきてるんだって…話を母さんに合わせてるんだ」
巻き込んでしまって申し訳ないと頭を下げるお兄さん。髪の半分ほどが白くなったその様は苦しかった長い年月を表しているようだった。
頭を上げたお兄さんがオレらの顔を真剣な顔で見る。
「親より先に死ぬのは親不孝者だ。…順番通りならまだ乗り越えようもあるが、先に逝かれるのはツラすぎる。余計なお世話だろうが、君らは決して親より先に逝かないでやってくれ。」
頷くしかできなかった。いつどんな事故があるかわからないから必ずとは言えない。けど頷くしかオレにはできなかった。ご両親のお兄さんの悲しみの深さが心臓をえぐるかのようにオレに突き刺さった。
「事故といえば事故ですね。交通事故じゃないですけど。」
死因は練炭による一酸化炭素中毒だと、無知による事故死だったと教えてくれた。
「母だけじゃない。俺にも受け入れられなかった。元気に嬉しそうに夢に輝いて出て行った弟が1年もしないうちに遠い場所で一人で誰にも気づかれることなく逝ってしまったなんて」
苦渋に満ちた顔がこみ上げるものを隠すように俯く。何か言葉をかけたいと思うが何と言っていいかわからない。
身近な人を亡くしたことがないオレにはその悲しみの深さが実感できなかった。
沈黙に耐え切れなくなり、話を変えるかのように質問した。
「オレは…涼さんに似てますか?」
前前世の自分だなんて思えなかったけど御婆さんが息子だと思い込んでるくらいに似てるのか。やっぱりオレが涼さんだから御婆さんは…?
「いや、似てないな」
キッパリと言われてホッとした。
「高校生くらいの男の子を見かけると涼が帰ってきたと騒ぐんだ。家まで連れてきたのは今回が初めてだったがね」
そうなんだ。オレだからじゃないのか。
お兄さんが懐かしそうに部屋を見回す。
「7つも離れてるせいか可愛くてねぇ。やることなすこと危なっかしくて過保護ぎみに育ててしまったかもしれん。夕方になっても帰ってこないアイツを探しに何度走り回ったことか。元気な可愛い子だったんだよ。でも はしかに罹った時、症状が重くて本土で入院したんだ。あの時は肝を冷やしたもんだ。
足が遅くて運動会じゃいつもビリだったけど友達思いの優しい子だった。都会に憧れて反対したのに勉強頑張ってこんな辺鄙な島からはじめて東京の大学に受かって両親も俺も自慢だったんだ。母さんは…最後まで反対してたけどね。そんな遠くへ行くなんて寂しかったんだろう。
ショックで遺体に対面できなかった母には涼が亡くなったという実感はわかなかったんだろう。今でも東京で元気にやってると思ってるんだ。母の中で涼は嫁ももらって子供も二人もいて東京に一戸建ても建てて立派な企業に勤めているらしい。」
困ったように笑うお兄さんに胸が締め付けられる。この人たちの悲しみはすべてシルヴァリオンが選んだ結果だ。
「俺もそう思うようにした。そのほうが楽だからな。俺は結婚もできなかったし孫も見せてやれなかった。涼が生きてたらなと思ってしまう。だから東京で生きてるんだと、正月や盆には帰ってきてるんだって…話を母さんに合わせてるんだ」
巻き込んでしまって申し訳ないと頭を下げるお兄さん。髪の半分ほどが白くなったその様は苦しかった長い年月を表しているようだった。
頭を上げたお兄さんがオレらの顔を真剣な顔で見る。
「親より先に死ぬのは親不孝者だ。…順番通りならまだ乗り越えようもあるが、先に逝かれるのはツラすぎる。余計なお世話だろうが、君らは決して親より先に逝かないでやってくれ。」
頷くしかできなかった。いつどんな事故があるかわからないから必ずとは言えない。けど頷くしかオレにはできなかった。ご両親のお兄さんの悲しみの深さが心臓をえぐるかのようにオレに突き刺さった。
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