魔王チェンジ 〜魔王様に勝手に体を交換されたらイケメン執事から溺愛されました〜

水無月 あざみ

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勝手に魔王様にされました

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 アルリムが魔王になって4日目の朝。まだ夜が明けて間もないのか、少し薄暗くて外は肌寒いな。それがアルリムが外に出て初めて思った事だった。

「寒い…でも外の空気はおいし…いかな? ルシフェルが起きない前に行こう。えっと、どっちに進めばいいんだろう? 棒でも倒してみようかな…」

 魔王城のある土地は陽の光があまり入らない森のような場所にある。カラスでも鳴いていそうな、朝でも夜でも暗い森。ここに朝日など登らないとアルリムが気づいたのは歩きはじめて1時間後だった。

「なんでぇ…歩いても歩いても暗い…しかもここどこぉ…」

 何かがガサガサと横を通り、上からは羽音や何かの鳴き声がする。想像していた晴れ渡る散歩とはかけはなれた散歩に心が折れかけたところにお腹がくぅっとなった。

「あ…」

 アルリムは体が熱くなり、背中がムズムズとした。意識はぼーっとしはじめ、足が勝手に動く。体が空腹の限界を迎えたのである。自然と近くの美味しそうな人のもとへと無意識ではあるが歩き出した。

 まだ桜色の羽は出ていないがインキュバスとしての我慢の限界は近く、羽もそろそろでそうだった。数日のほぼ断食と言える少食さから羽が出てしまえばインキュバスとして満足するまで止まる事なく何人からでも絞り取るだろう。そうなれば他の人に初めてを渡したくないルシフェルは初めての相手を町ごと燃やしつくす勢いで許さないであろう。

 そう、無意識のアルリムが引き寄せられているのは魔王城でアルリムがいない事に気がついたルシフェル…ではなかったのだ。この森にいるはずのない人物。本来ならまだ到着は先であったはずの人物。今は出会わないはずだった彼。その証拠に彼のパーティメンバーは彼とはぐれており、彼は一人で森を歩いていた。

「うわぁ~魔王城近くの森マジヤバ。なんか知んないけど怪鳥の数多くね? 俺をどっかから遠ざけてるような…? つーかパーティメンバーどこいった~?」

 アルリムの近くでガサガサとしていたのも、上を飛んでいたのも魔物だった。普段とは違う魔王様を獣の直感で感じ、近づきはしなかったものの魂は同じだからなのか勇者から守ろうとしていた。しかし、アルリムは空腹から勇者を求め、勇者もまた魔物が隠しているものへの興味からお互いに近づいていく。止まらない二人に、鳥の魔物は決死の覚悟を決めた。足止めにもならないかもしれないが、勇者を攻撃する事にしたのだ。

 羽から風を起こし、鋭い斬撃を繰り出す。もちろんこんなところまで一人で来れる勇者には赤子の手をひねるより簡単にそれを避けれる。

「うわっ、かまいたちか!?」

 しかし、何故か頬をかすり皮膚がさける。因果律。すべての出来事はある原因よって起こる。この場合の原因は魔王アルリムが一人で外へ出たことか、それともお腹が空いたことか。または、勇者の頬が切れたことなのか。なんにせよ勇者の頬が切れて、血が頬に伝う瞬間、二人は出会った。

 道なき草むらからアルリムが急に出てきたのである。出るだけではなく、血の匂いに誘発されたのかピンク色の羽が背中から出る。もう、その姿は黒をまとった威厳ある魔王様ではなく、灰色の髪の毛を地面から引きずった、桜色に色づくインキュバスだった。

「綺麗な人……じゃない、魔物!!」

 アルリムが目の前に出たとき勇者は一瞬だが目を奪われた。インキュバスの誘惑テンプーテーションに当てられたのもあるが、灰色の髪に桜色の羽や角、尻尾などが映え、ぼーとしている雰囲気ふんいきもあいまって魅惑的みわくてきに見え、特別な何かを感じた。

 勇者と魔王、コインの表と裏のような存在を目にして勇者の本能が魔王を特別と思うのは当然のことだが、魔王らしくない見た目だったので、勇者は特別な何かをまるで異性にかれるときのような気持ちだと思った。同時に彼は自分にとって大切な人になる、そんな予感がした。

 しかし、気づいてしまったのは角と尻尾と羽。人間ではなく魔族という人類の敵、自分の復讐相手である魔王にたどり着くためにも、倒さなくてはならないと剣を身構える。

「頬…血…」

 敵対しようとしている様子など見えていないかのように、ぼーとているアルリムは勇者の頬に向かって手を伸ばすとそのまま歩き出す。その様子に勇者は振らなければいけない剣を躊躇ちゅうちょした。

「名前と種族を言え!」

 勇者は聞く意味などないが、名前と種族をきく。それは勇者にとっては苦しいながらも時間かせぎだった。殺すのを少しでものばしたかったのかもしれない。しかし、アルリムは答えることなく、歩き、もう少しで勇者と触れ合うというところでけた。とっさのことに勇者は大事な聖剣を落とし、代わりにアルリムをすっぽりと包むように支える。

 勇者が聖剣を落としたのはこれが初めてのことだった。魔族を支える為に聖剣を落とす。そんなありえない状況で勇者が思ったのは、腰が細いという事だった。勇者の腕に支えられたアルリムはぼーとしたまま上目遣いで勇者の頬に触れる。

「血…痛い? 大丈夫?」

 支えたときの感触から勇者はアルリムが男であるとわかったが、上目遣いで心配してくるアルリムを可愛いと感じ、思わず声がもれる。

「かっわよ」

 喋った拍子ひょうしにポタっと血が落ちた。それもアルリムの口元に。アルリムは口元を舌でぬぐうと、そのまま勇者の頬をペロペロと舐めた。時折ちゅっちゅっと吸いながら。そう、最初から心配していたのではなく血が欲しかっただけ。ルシフェル以外の初めての血は爽やかな味がした。まるでレモン水のようなスッキリとしているがほんのり甘い。そんな美味しさだった。

「わっ、急に、なにをっ」

 アルリムにとって血がご馳走だと知らない勇者は消毒か何かで舐められていると思った。魔族だけど優しいし彼を可愛いと感じる。連れて帰ろうと思ったとき、下半身に硬いものがあたるのを感じた。

「き、君! 興奮しているのかい!?」

 勇者の驚きや質問に答えずに、アムリルはトロンとした表情でペロペロと舐めるのをやめない。欲情しながら舐めてくる男。しかも魔族など嫌悪感しかないはずなのに何故か勇者は嫌悪感どころか喜びに似た熱を感じた。

「君の熱が僕にまで移ったようだ」

 アルリムが自分に気があると思った勇者はそのままくちゅくちゅと音がなる深いキスをする。

「ふ……っ…ん…くちゅ…ちゅ…んん…はぁ…んんっ……ん…っっ」

 ひと休憩として唇が離れたとき、アルリムはある男の名前を呼んだ。唾液で理性がちょっとだけ戻ったゆえの言葉だった。

「ん……ルシフェルぅ……もっ…とぉ……」

 勇者の体がピタッと止まり、唇も固く結ばれたのはアルリムの言葉のせいだけではなく、目の前に急に現れた魔族のせいでもあった。海よりも青く濃い瞳からは怒りや殺気を感じる。腕の中の可愛い魔族はそんな殺気など気がついてないのかお構いなしに閉じた唇を舌で舐めながら甘えるような声を出してくる。

「もっとぉ…いつもみたぃに…きもちよくして…」

 その様子を見たせいか、目の前の魔族の殺気はさらにひどくなった。聖剣は地面。勇者に冷や汗が流れる。どうしようか考えていると、低い声で威圧するように話しかけてきた。

「その方をはなしていただけますか? そうすればは見逃して差し上げましょう」

 言うとおりしないと殺られると思ったが、勇者は腕の中の魔族をより強く抱きしめた。腕の中の彼を見るとキョトンとしながらもどこかうつろな桜色の瞳と目があった。正直、離したくない。しかし、彼が呼んだルシフェルというのは目の前の魔族だろう思った。

「僕の名前はルラキ。次合うときは君の名前を教えておくれ」

 ぼーとした視線の先に自分など映っていないとわかりながら、額に軽いキスをし、目の前の執事服の魔族にアルリムを渡した。執事服の魔族はまるで愛しい姫を抱えるように彼を姫抱きしてどこかへ消えていった。勇者など眼中にない、そんな顔をして。

「また、会えるといいなぁ…」

 最後に残った勇者は仲間を探して深い森を歩き出した。仲間にはきっとすぐに会えるだろう出会いイベントはすんだのだから。勇者は彼とはまた会える気がすると思った。その時にあの瞳に今度は自分がはっきりと写るのを想像すると足取りは軽かった。
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