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プロローグ
しおりを挟む「エルヴィラ! どうして…」
地下のボロボロ牢獄の鉄格子の中と外で2人の男女は向かい合った。その顔はほぼ同じで、今は鎖に繋がれた彼が立ち上がったらきっと背格好も同じなのだろうと容易に想像できる。
「貴方が憎くて仕方がなかったからよ…ライアン」
ライアンは驚いたように目を見開いた。普段は無表情で通っている彼の驚いた顔も悲しそうな顔も知っているのは彼女だけだろう。それほどまでにライアンはエルヴィラを信じていた。だからこそ衝撃が大きかった。
「エーラ…? 僕が憎いだって? 僕よりも両親に愛されている君が! 君の代わりに罪を背負って来た僕が憎いだって?」
女の子が欲しかった両親はエルヴィラを目に入れても痛くないと言うほど可愛がった。逆にライアンは跡取りなので、舐められないようにと鞭で叩かれ、外でも遊べず、剣や勉強ばかりさせられた。
ライアンの表情があまり動かないのもそんな教育にあった。笑ったりなどすれば表情から読まれると、鞭が増えるのだ。そして、エルヴィラが全ての両親はエルヴィラの言う事は全部叶えるようにとライアンにいつも言っていた。
そんな家で育った二人だったが、ライアンは仲が良いと思っていた。エルヴィラは私の前では泣いていいといつもライアンを抱きしめてくれたから。
辛い過去も思い出し、思わずだんだんと声が大きくなるが、エルヴィラはそんな彼をきつく睨みつけただけだった。
「そうね、確かに両親はライより私を愛してくれたわ。でもねライ、知らないでしょう? 双子なのに、ほぼ同じ顔なのに貴方の方が美しいと裏では言われていたのよ!! 私よりふさふさなまつげ、ふっくらした唇。髪の毛だってサラサラで、身長も同じくらい。両親以外の皆にいつも言われたわ、ライアンが髪を長くしたら美少女でどっちが女の子かわからなくなりそうねって」
エルヴィラは肩を震わせながら大声で叫ぶ。それは、ライアンにとっても初めて聞く言葉ではなかった。おかげで友達ができないから。気持ち悪い目で見られた事が多いから。
「でもね、別にそんな事はどうでも良かったの。彼がね。言ったの好きな人がいるから君とは婚約できないって」
エルヴィラは泣きそうな、悔しそうな顔をしながらライアンを睨んだ。
「彼って…」
「アーレンツよ」
アーレンツとはエルヴィラの婚約者でこの国の皇太子だ。数年前にエルヴィラが彼に一目惚れし、彼もまたエルヴィラを好きになったと聞いていたライアンはショックをうける。
「そんな…でも彼はエルヴィラと…」
婚約しているじゃないかと言う言葉はエルヴィラの次の発言で消された。
「代わりでもいいって言ったのよ。彼が誰を見ているかなんてすぐにわかったわ。だって私はそんな彼を見ていたんだもの。だから言ったの。代わりでも良いって。双子だから似ているし、何より貴方の近くにいられるわってね。彼の目を向けるにはそう言うしかないじゃない?」
アーレンツは時々ライアンの髪の毛に触れてきていた。本当にエルヴィラと似ているねと言いながら、自分を通してエーラを見ているとばかり思っていた。
「私と婚約している間にライアンがいなくなれば彼は私を見てくれると思ったわ」
続きは聞かなくてもわかった。だから僕にエルヴィラの代わりに他の候補者達を虐めたりさせたのだろう。彼が僕に幻滅するように。そして僕が罪に問われて消えるように。
「そうか、嬉しいだろう? 僕が君の思い通りに罪に問われて」
それに、エルヴィラの代わりにやったのは虐めだけではない、暗殺もある。全てはエルヴィラが彼を手に入れるために。きっと殿下も僕に幻滅し、エルヴィラとハッピーエンドなんだろう。
「でももう少し速く捕らえてくれたら、家のためとは言え婚約する事になった彼女も悲しまなくてすんだろうに…」
全てを知った僕が思ったのは憎いではなく、良かったなだった。エルヴィラが憎くないと言えば嘘になるし、復讐したいとも思わないでもないけど、僕はあの家から、エルヴィラから自由になりたかった。
死が自由への入り口とはなんだか嫌だが、やっと開放される。処刑台の上で笑っていってやろう。
「いいえ、ライアン。貴方勘違いしているわ」
「?」
逆に清々しい気持ちになった俺にエルヴィラは最後にとどめと言わんばかりの言葉をかける。
「アーレンツは貴方の罪を隠蔽していたのよ。でもね。貴方が婚約する事になった。それも隣国と。だから貴方を罪に問い。閉じ込めるつもりになったの。本当ならここではない別の場所だったのよ。綺麗だけど絶対出られない檻」
エルヴィラが牢屋を開けてこちらにくる。
「だから私が言ったの。どうせなら数日苦しませて、助けてあげたらって? そしたらライアンもアーレンツが好きになるはずよって」
鎖で繋がれた僕の目の前までくると、何かの小瓶を取りだす。
「でもね、貴方はここで死ぬの。罪の意識からこの毒を飲んで」
口を掴まれて飲まされたのが毒だと気づくのに数分もかからなかった。眠るようにまぶたを閉じた時、最後に聞こえたのはエルヴィラの声だった。
「アーレンツは貴方に一目惚れしたんですって。もし、私が先に合っていたら…。私達おんなじ顔なのにね」
あぁ…確かにデビュタントの日。疲れてバルコニーに行った僕の後に来たのがアーレンツだったなと思い出した。
あの日に戻れるならエルヴィラを先にアーレンツに会わせるのに…そしたら僕は…自由になって…罪をおかすこともないのに…。1度くらい…自分のために…いきたかっ………。
「ライアン! 今日はデビュタントの日よ! 早く起きて!!」
「え?」
目を開けると少し幼いエルヴィラが優しかったあの頃のように僕に笑いかけていた。
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