悪役令息は攫われた土地で溺愛される

水無月 あざみ

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1話 出会い

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「ここは…」

 僕はエルヴィラに毒を飲ませられ死んだはずだった。エルヴィラの憎しみのこもった目は悪夢などではなかったはずなのに、今目の前にいる可愛い半身は不思議そうな目で僕を見てくる。まるで何も知らないように。

「どこって…あなたの部屋じゃない? どうしたの?」

 あたりを見渡すと、机には並べられた本の数々があり、壁には剣と弓がかかっている。間違えなくここは僕の部屋だった。おそらく16~17歳の頃の部屋だろう。

「どうしたの? 今日のライ変よ?」

「…なんでもない」

 エルヴィラは僕を心配してくれているのに、僕はぶっきらぼうに答えた。しかし、そんな事はどうでもいいようで、興奮した様子で話す。

「そう? それより、今日は私のデビュタントの日よ!! 早く準備しましょ!」

 そう言ってエルヴィラは僕を引っ張る。デビュタントと言えば僕達がまだ16歳だった頃だな、などを考えてノロノロと着替える僕が不満だったのかエルヴィラはちょっと不満そうだった。とりあえず着替え終え、朝食を食べに席に向かうと、両親はすでに座っていた。

「お父様、お母様、おはようございます!!」

「…おはようございます」

 エルヴィラの元気な挨拶のあとで両親の頬にキスをしにいったが、僕はそのまま席に座る。

「おはようエルヴィラ」

「おはよう、マイエンジェル。今日もうんと可愛いわ」

 そう言いながら両親はエルヴィラに微笑む。毎朝の光景だ。両親にとって女の子エルヴィラは目に入れても痛くない可愛い存在で、男の子ぼくはただの跡継ぎ。

 家紋のために産むことが強制された跡継ぎより、自分たちが欲しくてできた存在のが可愛いのは当然だろう。双子だから余計に。僕はエルヴィラのおまけ程度なのだ。

 両親とエルヴィラの仲良し家族はデビュタントに向かう馬車でも繰り広げられた。昔はその和に入りたかったが今となってはどうでもよく感じた。

 エルヴィラがデビュタントの日。今日は僕達が初めてアーレンツに会う日だった。そう、にまさしく僕は戻ってきたらしい。

 なんとしてでもエルヴィラを僕よりも先にアーレンツに会わせなければならない。もっと言えば僕はアーレンツと会わないのが望ましい。それは無理だろうけど。

 会場につくと見たことある顔が何人かいた。エルヴィラとライバル関係になり、僕が水をかけたり、罵った令嬢もいる。

 僕の悪評は今日以降に始まる予定なのに、誰も僕に近寄らず、遠巻きにチラチラと視線を感じる。無表情とよく言われたこの顔のせいなのだろうか。エルヴィラと似ているので怖い印象はないはずだけど…。

 そんな僕とは対象的に表情がコロコロと変わるエルヴィラの周りには人だかりができていた。可愛らしい彼女はどこにいても人気者だ。

 そんなこんなで、挨拶回りもそこそこに僕は過去と同じように退屈なこの社交界に疲れた。外の空気で肺を満たしたい。時間的にも大丈夫だが、念のためアーレンツとあったバルコニーとは別のバルコニーに出た。と言っても隣なのだが。

 多少リスクがあるが隣に来たのは理由があった。あの日、鳥が窓に向かって突進していたのを思い出したからだ。猛禽類ぽい見た目で堂々と硝子に突進するあの子を思い出して思わずクスリと笑ってしまう。

「ぶつかって驚いてたし、助けてあげなきゃな」

 僕がバルコニーに出ると案の定キリッとした表情の猛禽類ぽい鳥がこちらに向かって飛んできていた。このままだとまた窓にぶつかるだろう。

「風魔法は苦手なんだけど…」

 鳥がぶつかる直前に魔法を発動し自分の方へと引き寄せた。

「クェーー!!」

 鳥は嫌がるようにバタバタと羽を動かしていたが、僕は両手を広げてその子を迎えた。

「暴れるなって、僕がいなかったら君は窓へごっつんこだぞ?」

 その声を聞いたからだろうか、大人しく僕の両腕の中に収まる。しかし、首は横にふっていた。

「クェックェッ」

 まるで自分がぶつかるはずないだろうとでも言っているかのようで、笑ってしまう。

「自分が着地に失敗するわけ無いって?」

「クェッ」

 鳥は首を縦に動かした。凄い自信たっぷりに。

「僕があの日見たのはごっつんこして慌てる君だったけどね」

 あの日見た慌てる鳥を思い出して笑いながら頭を撫でてやると不思議そうにしながらも鳥は目を細めた。もう少し一緒に居たいと思ったとき、そろそろアーレンツが出てくる時間な事に気がつく。

「僕は強化も風も苦手なんだけどなぁ…」

 バルコニーから戻る時に出くわすのも、隣に出てこられるのも嫌なのでそのまま飛び降りた。

「クェーー」

 一緒に飛び降りたせいで抱えていた鳥は驚いたように鳴いたが、なんだか離れがたかったからそのまま噴水のある庭園まで一緒に連れて行くことにした。
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