引きこもり魔王が拾った人間の子供のパパになったけど嘘の常識を教えられて毎日息子に抱かれてる

くろなが

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五話 魔王の息子

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 眼鏡君は言葉の意味を全く理解できていない様子で挙動不審になった。


「……も、もう一度聞いても?」
「父と子供がセックスするのは人間の常識なのかと。ちなみにトレンドでは子供が父親を抱くそうだ」


 吾輩の発言に眼鏡君はすんごい皺くちゃ顔になった。ドン引きってレベルじゃない顔色して、外道を見るような目でリゲルを凝視してる。もうその反応が答えなのはわかったよ。リゲルは真っ青になりながら視線を逸らす。すると眼鏡君はギギッと機械人形みたいに首をこちらに戻し、引きつった笑顔と掠れた声で言った。


「騙される方も騙される方では……?」
「ふふ、まあそう言ってくれるな。我が子を疑うなんて考えがなかっただけだ」
「……パパ……」


 吾輩の言葉にリゲルの方が傷付いた顔をした。引き結んだ唇が震えている。


「リゲル。吾輩は怒っても傷付いてもいないよ。だからそんな顔をしないでくれ」
「でもっ……パパは……人間に騙されて……それで、ずっと人間が怖いって、外、出たくないって……僕が、いちばんッ……知ってたのに……」


 出来る限り優しく伝えたつもりだったが、とうとうリゲルが泣き出してしまう。幼い頃から泣いた所なんて一度も見た事がなかったのに泣かせてしまった。吾輩はリゲルを抱き締めた。一瞬だけリゲルは逃げようとしたが、吾輩はそれを許さない。何があっても離れないと伝えたくて腕に力を籠めた。


「昔の吾輩は……行いに見返りを求め、勝手に期待して傷付いた。浅ましい気持ちは利用しやすいから人間に騙されてしまったが、原因は吾輩の愚かさだ」
「そんな……騙す方が悪いよ、パパは何も悪くない!」


 リゲルは優しいね。でも学院で作っていたキャラが完全に崩れたけど大丈夫なのかな。眼鏡君が気の毒なくらいショックを受けた顔をしている。リゲルを王子として活躍させたいくらいには信奉していたのだろうと予想がつく。なんかごめんね。これが本当のリゲルだよ。
 グスグスと鼻をすするリゲルの様子に、好き好んで吾輩に嘘をついた訳ではないと十分に伝わってくる。だがね、吾輩にとってはリゲルに悪意があってもなくてもどちらでも良いんだ。


「吾輩は仮初めでもリゲルの親となり、その時に初めて無償の愛を知った。見返りなど必要ない。可愛くて目に入れても痛くないという言葉の意味が理解できた。リゲルが正しいと思った事は全て肯定したいし、リゲルの望みは吾輩の望みでもある。吾輩はリゲルになら騙されたって裏切られたって構わない。そう思えるくらいリゲルを愛しているよ」


 無償の愛。それがリゲルの求める愛の形かはわからないが、セックスを嫌だと思った事は一度もない。リゲルが嘘をついてでも吾輩とセックスがしたかったなんて嬉しい限りだ。
 腕の中のリゲルは身じろぎして吾輩と目を合わせた。瞳は涙でコーティングされ、キラキラと輝いて綺麗だ。それがセックス中の興奮しているリゲルの目に近くてムラムラしてきた。吾輩は見事に調教されてしまったなぁ。


「パパ……あのね……人間の世界だと、パパを本気で好きになっちゃ駄目なんだ」
「ははは、ほとんどの種族でもそうだよ」
「……だからね、僕とパパに血の繋がりがない事に感謝した時もあるんだよ」


 吾輩は頷いてリゲルの髪を指で梳いた。柔らかくて良い香りがする。吾輩たちが親子であるというのは当人同士の気持ちでしかない。この関係はいつでも解消できてしまう。たとえリゲルが親子関係を望まなくなっても、吾輩はリゲルを大切に想い続けるからそれでいいと思っているが。


「でもね、この世界は同性を好きになっても駄目なんだよ……」


 人間は同性同士だと繁殖できないから風当たりが強いのだろうという想像はできる。好きになるくらい自由だと思うが、人間の世界を詳しく知らない吾輩にかけられる言葉はなかった。


「僕はただ、パパを愛しても許される世界が欲しかっただけなんだ。嘘の世界でもいいから、誰にも否定されず、ただパパを愛したかった……本当に、それだけなんだ……」


 吾輩に教えた嘘の常識は、リゲルが望んだ世界そのものだった。ただ好きな相手と結ばれたいという願いだけだ。
 リゲルを人間の世界へ送り出すのが正しいという吾輩の勝手な思い込みで、こんなにもリゲルを傷付けてしまった。


「リゲルはずっと悩んでいたのに……気付いてやれなくてすまなかった」
「パパ……ごめんなさい、好きになってごめんなさい……パパの事、愛してしまって……本当にごめんなさい」


 そう言ってリゲルは静かに涙を流す。優しい子だ。吾輩を騙している事にもずっと罪悪感を抱いていたのだろう。それでも吾輩を求めてくれた。


「何故謝る。ただ普通に他者を愛す事が難しい世界が嫌なら、吾輩と城の中だけで暮らしても良いんだ。いくらでも方法はある」
「……本当?」


 望むならそれも可能だ。吾輩の引きこもり歴千年は伊達じゃない。だが、引きこもることはいつでもできる。吾輩にはまだリゲルに提案できる事があった。


「もちろんだ。だが、リゲルは人間の世界で自分が望む世界をつくれる位置にいるのだろう。それを使わないのは勿体ないと思うがね」
「え……?」
「さっき眼鏡君との話を聞いていた。リゲルは王子になろうと思えばなれるのだろう。いずれ正式に王となれば、リゲルにとって都合の良い世界を構築する事も夢ではない。リゲルには人を統べる力があると吾輩は思う。何せリゲルは魔王の息子なのだから」


 吾輩の言葉にギョッとした眼鏡君とは対照的に、リゲルの表情は明るく輝いた。


「あぁ……本当だ……さすがパパだ、凄いよ!! そっか、まるごと僕の世界にしてしまえばいいんだ。誰もが性別も種族も超えて愛し合える世界を目指して……うん、僕、王子になるよ!!」
「ま、魔王!! 貴様、なんてことを吹き込んでくれたんだ!!」


 ん~リゲルから『凄いよ』頂きました~。やっぱりリゲルには笑っていて欲しい。
 眼鏡君は、リゲルを通して見ていた理想の王子様像がガラガラと崩れてしまったのに、残ったファザコンの甘えん坊がやる気を出してしまい、焦っている。とても愉快だ。


「眼鏡君はリゲルを取り込みたかったのだろう? 吾輩はリゲルをやる気にさせたのだ。罵られるいわれはないし、むしろ感謝してもらいたいものだがなぁ」
「わ、私が必要としていたのは人々の模範である、知性的なアルデバラン様だ! こんな……こんな、義父を犯すような変態だなんて認めないからな!!」


 うん、まあ、そうだね。眼鏡君は正論しか言ってないと思う。でもごめんね、吾輩はいつだってリゲルの味方なんだ。


「別にリゲルの望む世界も悪いものではないと思うが……。表面だけを見てリゲルを知った気になっていた眼鏡君も、吾輩とそう変わらない愚者ではないかね?」
「うるさい! それは私が一番理解している! ああもう! 混乱していて冷静になれそうにないのでここで失礼する!!」


 悪態をついている割に、しっかりとお辞儀をしてから眼鏡君は走り去った。真面目で素直だし悪い子ではなさそうだなぁ。


「パパ……♡ カッコイイ♡」


 親が子供の付き合いに介入するのは良くないと思いつつも、リゲルにカッコイイと言われたからオールオッケー。頑張って外に出て本当に良かった。


「リゲル、帰ろうか」
「うん」


 手を握り、二人で歩く。何で学院に吾輩がいるのかなど、聞きたい事はあるだろうがリゲルは何も言わなかった。


「なあリゲル。帰ったらセックスしよう」
「え、あ……でも……」


 歯切れの悪い返答は予想していた。嘘がバレたらリゲルはもう二度と吾輩には触れないつもりだったかもしれない。だが、もう吾輩の肉体は男に抱かれる事を覚えてしまった。正直今更やめられては困るよ。マジでそこは責任取って。


「二年も続けられた事だ。世の中の常識は知らないが、吾輩とリゲルの間ではこれが普通なんだ。それでいいじゃないか」
「パパ……いいの?」


 不安げなリゲルを安心させたくて、必死に言葉を選んだ。そうだ、結婚しよう。我ながら名案だ。


「いいも何も、吾輩が抱いて欲しいんだよ。なんだったら結婚だって今すぐしても良いぞ。もう人間の常識にこだわる事なく、やりたい事をしようじゃないか。確か、リゲルの世界では親より身長が伸びたら結婚できるんだったな。吾輩は見た目を変えるくらいすぐにできるから、背を低くする事も簡単だぞ?」
「ちょ、っと……それは、ズルみたいで嫌だよ!」
「ははは。じゃあ、リゲルの成長をゆっくり待つとしよう」
「すぐだよ、すぐ! 成長期だし!」


 そう言ったリゲルは、もうほとんど背伸びの必要もなく吾輩に口付けた。本当にその時が訪れるのがすぐなのだと実感する。子供の成長は早いものだな。リゲルは憑き物が落ちたようなスッキリとした顔で笑った。


「パパ、大好き」
「ああ、吾輩も大好きだよ」


 転移陣まであと少し。その少しの時間も惜しくなり、吾輩もリゲルも全力で駆け出していた。


 ◇◇◇


 後日、眼鏡君からは吾輩への非礼を詫びる言葉と、リゲルのサポートをこれからも続けたいという旨を綴った手紙が届いて微笑ましくなった。きっとリゲルの良き理解者となってくれるだろう。今度城に遊びにおいでと返事を書いた。

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