王子に婚約破棄された令嬢の正体はイケメン魔王だったけど本当の姿を見た王子が求婚し直しててウケる

くろなが

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一話 【勇者】婚約破棄なんてなかった

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「カレン・ガド・フィラン! 貴様との婚約は破棄とする!」


 そう高らかに告げたのはエアデール・ギリス・サドルクシア。この国の王子である。和やかとは言えない茶会での出来事だった。


「あらあらあらあら、エアデール殿下。わたくしには婚約破棄される理由がありませんわ。まさか、誰ぞに心変わりなどなさいましたか? んふふ、殿下はずっとわたくしに興味がなかったようですし、変わる心など最初から無いとでもおっしゃいますか?」
「ふん……そなたに限らずゴテゴテとした女は好かん。それが態度に出ていた事だけは私の落ち度だ、謝罪しよう」


 カレンの言葉を鼻で笑ったエアデールはその歪んだ口の形すらも美しい。誰もが羨む美貌を備えていて頭脳までも優秀ときている。そんな王子が婚約破棄を言い出すのだ。ただ事ではないと誰もがわかる。
 その場の空気は凍てついているというのに、カレンだけが余裕の笑みを崩していない。

 エアデールの言うように、カレンは煌びやかという表現が似合う女だ。小柄だが、体の凹凸がしっかりしていてその色香に誰もが振り向く。輝く金髪を靡かせ、豪華な装飾品を身に着けているが、全てがカレンの妖艶な美貌を引き立てる用途をしっかりと担っている。
 その傾国の美女はガド・フィラン公爵家の令嬢──というだ。


「だが、私は既に貴様の正体を見破っている。もう下手な茶番はよせ。この場には勇者も紛れ込ませている。観念するんだな、


 その紛れ込ませている勇者というのが俺、ウェルシュ・ラクリーズだ。給仕の恰好をしているがこれが本職でもある。今の世界はとても平和なので仕事がなく、俺は勇者なのに城で雇われている“護衛ができるただの使用人”でしかなかった。
 ようやく本来の使命である魔王退治の機会が訪れたのがこの状況という訳だ。


「くふっ……うふふふふふ……アハハハハ!!!」


 カレンは邪悪に笑った。いや、もう“カレンだったもの”と言える。甲高かった声が完全に男のものになり、ドレスを纏った美しい女性はみるみるうちに変貌を遂げた。黒の衣装、黒の長い髪、黒の瞳、黒の翼、黒の角。小柄なカレンとは正反対の高身長で美しく鍛え上げられた肉体を持つ美丈夫が現れた。


「バレたのならば仕方ない……我が名は魔王カレリアン。見破った上でまさか勇者まで用意しているとはな。恐れ入ったよ、エアデール?」


 魔王となってもカレンにあった妖艶な笑みは変わらない。エアデールは驚愕に目を見開き、時が止まったかのように魔王を凝視している。


「どうしたエアデール。我の本来の姿に恐怖で声も出ないか」


 魔王はテーブルから身を乗り出し、人差し指でエアデールの顎を上げて顔を覗き込んだ。だが、魔王の予想に反してエアデールの目には恐怖なんて欠片も存在していなかった。エアデールの頬は桃色に染まり、キラキラと瞳が煌めいている。え、キモい。お前いつも死んだ目してるじゃん。


「──やっぱり婚約破棄は無しで」
「は?」
「さっきの発言はなかった事にしよう。改めて私と結婚してくれ」
「あ?」


 エアデールの言葉が理解できず、俺まで魔王と一緒に変な声が出た。そんな空気もお構いなしにエアデールは熱に浮かされたような声で言った。


「胸が苦しい……なるほど、これが一目惚れというものか……。まさかこの私が初恋を知る事になるとはな。美しいカレリアン……リアンと呼んでも良いだろうか……?」
「良くない」


 魔王即答。だがエアデールは全く気にせず立ち上がり、テーブル越しに凄い勢いで魔王の両手を握った。


「照れているのかい? ああ、魔王、君はなんて可憐なんだ……名は体を表すと言うものな。だからカレンと……」
「偽名にそんなダジャレみたいな理由を勝手に付けるな!!」


 可憐? 可愛いとか守ってやりたいみたいな意味の言葉だったと思うけど?
 魔王もドン引きじゃん。エアデールは目が腐ってしまったのだろうか。魔王の顔は確かに綺麗だが、あくまで男性的な魅力でしかない。それにエアデールより背も高いしどっからどう見ても守る必要のない強そうな男だよ。
 誰だよこの王子を“頭脳も優秀”とか言ったの。俺だわ。頭脳がミジンコになった瞬間を見てしまった。完全に恋は盲目状態じゃねーか。
 魔王は握られていた手を勢いよく振り払った。カレンの時ですらそんなに触れてなかったもんな。突然気持ち悪いよな。


「ええい、呼び方なんてどうでもいい! お前は我が魔王だから断罪したかったんだろう! 正気に戻れ!!」


 魔王に正気に戻れとか言われてるよ。ウケる。


「リアンは目的があって婚約者として私に近付いてきたのだろう? ならば私もリアンもこのまま何事もなく結婚するのが最適解ではないか」
「いやいやいやいや、魔王で、しかも男とわかった上で求婚とかおかしいだろう! 罠だな!?」


 まあ普通そう思うよね。俺も怖いと思うわ。しかし、エアデールは魔王を上回る剣幕で叫んだ。


「罠はこっちの台詞だ! 断罪しようとした魔王が好みドンピシャの美人で性癖が狂わされたんだぞ!? 魅力を振りまいたリアンが悪い! 私がこうなった責任を取るのが筋だろう!?」
「お、お前がただ男好きだっただけじゃないか!? 我は関係ないと思うぞ!?」


 俺も魔王は悪くないと思うな。魅力的過ぎるのが悪いとか凄い責任転嫁を見たよ。でもエアデールは本気でそう思ってる気がする。誰かに心を揺さぶられた経験がないからショックでもあるはずだ。本当、今までは冷静沈着でクールな王子様だったんだけどな……喋れば喋る程見る影も無くなっていく。


「ふっ、私が好きになったのは男女関係なくリアンだけだ!! 他の誰でもない、リアンだから好きになったのだ!! こ、光栄に思うが良い。さあリアン、この場に勇者がいる限り、リアンに拒否権はないのだから観念して私のものになるんだなぁ!!」


 お前は口説いてんのか嫌われにいってんのか。あとあんまり勇者を過信しすぎないで頂けると助かります。初恋に動揺して頭がおかしくなったエアデールの発言は滅茶苦茶だ。もうどっちが悪役かわからんな。俺ってば勇者なのに魔王の味方をしたくなってきたよ。

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