王子に婚約破棄された令嬢の正体はイケメン魔王だったけど本当の姿を見た王子が求婚し直しててウケる

くろなが

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二話 【魔王】魔王の真相

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 懺悔したい。

 我は魔王カレリアン。魔王は簡単に言えば種族の長だ。
 種族の数だけ魔王が存在しているのでそこまで珍しい存在ではないが、下界にわざわざ姿を現す者が少ないため人間は魔王が希少で最強の存在だと勘違いしている。
 我は淫魔種族の長。長になる条件は種族によって違うが、淫魔は30年清い身体を貫いた者がなる。何故ってそれが一番難しいからだ。処女童貞を馬鹿にされる事もないし『普通の淫魔ではできない事をやってのけた』と尊敬される。それほど淫魔種族にとって性行為は抗えない欲求という事だ。

 十年くらい前の事だっただろうか。上質な魔力を持った王子エアデールを我慢できずに襲ってしまったサキュバスが数人いた。
 抗えない欲求とはそういうものなのだ。我に部下を責めることはできない。
 そういう問題が起きないようにするのが魔王なのに、完全に監督不行き届きといえる事件だった。エアデールが言っていた『ゴテゴテした女』というのは人間に紛れ込んだ部下のサキュバスの事なのだ。
 人間に化けたサキュバスがまだ幼いエアデールを複数人で襲っているのを、我はすんでのところで止めることができた。しかし、少年に壮絶なトラウマを植え付けてしまった。

 ただの平民ならいざ知らず、国の未来を背負う王子を女性不信にしてしまう訳にはいかない。我は慌ててエアデールの記憶を消したのだが、それくらいではエアデールに深く刻まれた嫌悪や恐怖は完全に取り除く事ができなかった。
 数年エアデールの様子を見ていたが、女性への態度が悪くなるばかり。我は罪悪感で胃がキリキリした。

 人間には大きな迷惑をかけない程度に、そこそこの糧を得る。それが魔族全体の方針だ。たまに平民内で行方不明者が出たり、突発死が起きる程度では世界は変わらない。しかし、王族のような地位のある存在に影響が出ると、人間の魔族に対する警戒が強くなり、糧を得るのが面倒になる。最終的には勇者がもてはやされ、魔族は人間に敵視されて滅ぼされてしまうのだ。繰り返した歴史で魔族はそう学んだ。

 その背景を踏まえ、魔王は人間を警戒させないために種族の秩序を守る監督役として存在している。淫魔が原因で世界に影響が出ると、当然淫魔全体に重い罰が待っている。だから大きな問題が起きる前に、我は魔王としてどうにか償わなければならないのだ。苦肉の策として、我が自ら理想的な女性を演じてエアデールのトラウマを克服させようとした。
 それが『カレン』という存在だった。サキュバスのようなスタイルの良さで近付いて、良い思い出によって女性の印象を上書きできればと奮闘したのだ。どうにか婚約者という立場にまでこぎつけたものの、結果としては惨敗だ。女性に対する態度は変わらなかった。

 それどころか我の正体までエアデールにバレてしまっていた。我も勇者も、互いの正体に気付いていなかった……と言えば、どれだけエアデールの観察眼が鋭いかがわかると思う。

 正体がバレたのならばいっそ断罪してもらうつもりだった。勇者がいるならひと思いに殺してくれ。我の命でエアデールの気が晴れ、魔族間での責任も取れ、淫魔達を守れるなら安いものだ。倒しやすいだろうと魔王ムーブを頑張ってみたが、エアデールの反応はなんか想定と違った。
 エアデールは何故か完全に男に戻った我に求婚してきた、ウケる。
 いや、全然笑いごとではないんだけど。
 女性不信にした責任は取るが、男型の我との結婚は本末転倒だ。だが、あんなに必死に好意を伝えられては我も心が揺れてしまう。
 これも一種の責任の取り方なのか? という考えが首をもたげていた。


「ふっ、私が好きになったのは男女関係なくリアンだけだ!! 他の誰でもない、リアンだから好きになったのだ!! こ、光栄に思うが良い。さあリアン、この場に勇者がいる限り、リアンに拒否権はないのだから観念して私のものになるんだなぁ!!」


 男女関係なくと言うが『カレン』の内面と『リアン』の外見が揃ったから好きになったのではないか。女の姿では駄目だったのだからそう結論付けるしかない。


「一つ聞きたい。エアデール……お前は女を抱けるか?」


 女性を好きか嫌いかは置いておいて、完全に不能となってしまったのかは知りたい。それで我は尋ねてみたのだが。


「好きになったのはリアンだけだと言っただろう。私がそんな事をする訳がない」
「そうではなくて! 好きでなくとも行為として可能なのかどうかと聞いているんだ!」
「ふふん……なんとも可愛い嫉妬だな……心配しなくても良いと言っている」


 会話が通じない。助けて。


「おい、エアデール。魔王はお前が『女体で勃起“する”か“しない”か』だけを答えて欲しいんだと思うぞ。両方いけんのか、片方だけなのか気にしてんじゃねーの?」


 救世主! 勇者! ありがとう!!
 このウェルシュという給仕が勇者だったのは驚きだが、普段からカレンに茶の好みとか温度とかを聞いてくれたりお菓子も我の好みに合わせて出してくれるから普通に好きだ。
 今は平和な時代で活躍の場はないかもしれないが、時代によっては英雄なんだ。もっと待遇を良くしてやって欲しいものだ。

 エアデールは勇者の言葉にため息をついた。


「はぁ……リアン、何故そんな事を聞く必要があるんだ?」
「そ、それは……エアデールは王太子なんだから気にするのは当たり前だろう!? カレンにも挨拶以外で触れる事がなかったのだから、そういう疑惑が浮かんでもおかしくない、から……」


 これでも婚約者として共に過ごしたのだ。後継者の重要さは理解している。
 ならば、まわりくどい方法で頑張るのでなく、エアデールが女性不信になった償いのために我がいるのだとハッキリ言うべきだった。本人と一緒に考えた方が解決に近いのに、我は言えなかった。側に居過ぎたせいかもしれない。嫌われるのが怖いと思ってしまったんだ。
 エアデールは直接会っている時は冷たく見えても、贈り物は定期的に届くし、手紙も週に一度はやり取りがあった。愛を囁く事はなくても、一個人として大切に扱われているのは伝わっていた。
 他の令嬢に対してもそうだ。冷たく接してしまったと思った相手にはちゃんと後日、手紙を書いていた。そういう所を見てきたから、心が冷たい訳ではないと知っているのだ。
 我が心温まるエピソードを思い浮かべているのに対し、エアデールは場にそぐわない邪悪さを感じる笑みを浮かべた。


「ではハッキリ言おう、勃起しないね。どうせ女と結婚した所で子はできない。ならば男と結婚しても問題ないし、王太子なんて他の兄弟にくれてやる。まだ何か不安かな、リアン?」


 えっ、こわ。顔が完全に悪人なんだけど。さっきまでの初恋に動揺していたエアデールはいない。かなり普段に近い状態な気がする。


「なんなら今から確認するか?」
「へ……?」
「直接見せてやると言っている。証拠がなければ信じられないだろう? カレンの姿にでもなって迫ったらいい」


 エアデールは我の手首を掴んだ。


「寝室へ行くぞ」
「……え……?」


 言葉は断定的なのに、無理に引っ張る事なくその場で止まった。我の反応を待っているのがわかる。


「拒否権はない……と、言いたい所だが、さすがに私だってリアンに嫌われたくない……。嫌なら言ってくれ」


 小さく告げたエアデールの顔は今まで以上に赤かった。我の手首を掴む手のひらが熱い。でも、我も同じようなものだった。全身が熱くて変な気分だ。嫌ではないけど恥ずかしい。なんと言えば良いのか言葉が出ずに、エアデールと二人でモジモジする事になってしまった。
 そんな私達を見かねたように勇者は言った。


「オッケーしにくいなら『勇者が怖いから行きます』って言い訳に使ってもいいぜ? 断りにくいんなら俺がエアデールの手を斬り落として助けてやるよ」
「ウェルシュお前……」


 勇者のとんでもない発言にエアデールがちょっとだけビクリとした。仲が良いのだな。信頼関係が微笑ましい。だが、勇者の優しさにそこまで甘える訳にもいかないので、我は決心した。
 エアデールの手を我は両手で包み込み、しっかりと目を見てこう言った。


「では遠慮なく……全身、くまなく調べさせてもらうとしよう。覚悟するんだな、エアデール」


 もう照れなんか無くなって、本性である淫魔の部分が湧きあがるのを感じる。だがこれは合意なのだからいいよな?


「もちろん。大歓迎だ」


 まるで我の心を読んだかのようなエアデールの返事に思わず笑ってしまった。

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