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魔王になりたくない魔王子の心の内
しおりを挟む──私はその文字に恋をしたのだと思う。
名前もわからない存在から、いつの間にか文が届くようになった。
言葉遣いは丁寧で気品がある。文字も繊細で美しかった。
私はその文に触れながら紙の記憶を読み取る。
紙は教えてくれる。
この文字の主の想いを。
インクで綴るこの情報は全て事実なのだと痛い程伝わってきた。
信じて貰えなくても構わないという諦めと共に、信じて欲しいという切なる願いも流れてくる。
人間を滅ぼして欲しいと願う人間は初めてだ。本当に興味深い存在だった。
どんな人物なのかもっと知りたくて、紙に更に問いかけてみるが性別も顔もわからなかった。目が無いのだから仕方ない。インクに尋ねてみても同じだ。
監視を強化してみたが存在を捉えることは叶わなかった。余程の手練れらしい。
そんな実力者が人間の中にいた事に驚いたが、文の情報には当人の戦力は含まれていなかった。
戦で会える事を期待していたが、きっとこの者は来ないのだろう。
私は顔も名前もわからない人間の願いを叶えたかった。
この戦で、必ず魔族が勝利しよう。
そして一目この文の主に会って礼を言おう。
どんな相手かもわからないのに、私は文を受け取る度に胸が高鳴っていた。
◆◆◆
人間との最終決戦の時。
私は森に逃げる異様な気配に気付き、追い掛けて先回りした。それが文の主だと確信していたからだ。
いざ、本人を前にすると緊張して上手く話せなくて困った。表情もぎこちなくなってしまう。
心と記憶を読むとやはり目の前の男が文の主だ。
聖騎士ラグロ。
魔族と同等に戦える存在なのに、人間の破滅を望む男。
平民の簡素な服装をしているが、大柄な鍛えられた逞しい肉体では逆に浮いているように思う。
顔も腕も、見えている所に大きな傷が沢山あった。傷跡すらも男前で渋い容姿によく似合っていると思うが、本人には絶対に言えないな。
記憶によれば、適切な治療を施せば治るはずだったのに、なんの治療もなく放り出された事で大きく残ってしまったようだ。
ラグロには悲しい記憶しか無かった。
彼が口を開けば、文からの印象とは真逆の粗雑な言葉ばかりが私の耳に届く。
強がっている子供みたいで可愛らしい。
私はラグロの全てがわかるのに、ラグロは私の事が何もわからない。
彼の嘘を私は見破れるのに、彼は私の嘘を見破ることができない。
その部分については申し訳なさがあるものの、どうしようもない差があるのは人間間であっても魔族間であっても同じだろう。
魔王候補なんて言ったが、嘘だ。
候補ではなく既に次の魔王に決定している。
この戦が終われば様々な引継ぎが行われ、一年後に私が正式に魔王となる。
だが私が『魔王になりたくない幼体の王子』であるのは事実だ。
魔王になる際、私は周囲の優秀な者達を眷属にしなければならない。選ばれるのは大体二十名ほどになる。その全員との契約が済むと、魔王として完成するのだ。
共に魔王候補であった兄弟。私の世話をしてくれていた側近達。どんな相手であっても選出されれば全て眷属にする。
眷属を得るのは良いとしても、その方法に問題があると私は思う。
契約方法は『種付けをして主であると肉体的にも精神的にも教え込む』というものだ。
そう。シンプルにセックスが儀式となる。
私と立場が入れ替わる現魔王も当然優秀なので選出されている。つまり、父すらも抱く必要があるのだ。
普通に嫌だ。
更に言えば、将来的には私が退位する時に自らの子供に抱かれる可能性がとても高い。
絶対に嫌だ。
そう思っているのは私だけらしく、周囲は皆儀式を今か今かと楽しみにしている。
魔王になるなんて羨ましいと言う色狂いの兄弟に立場を譲ってやりたい。
権力争い上等だったのに。すぐに負けてしまう予定だったのに。私の能力が優秀過ぎたばかりに、他の王子と争う事なく次代の魔王に決定した時の絶望がわかるだろうか。
────そこで私は考えた。
能力の優秀さだけではなく、処女である事も魔王になる条件なのだ。
種付けされて支配されてしまった者は王の器ではない。
と、いう事らしい。
そういう事ならば、私が手っ取り早く処女を捨てればこの地獄から逃げられるのだ。
しかし、魔族が私に手を出す事は絶対にあり得ない。
本能的に認めた相手を抱く気が起きないようになっているらしい。魔王に内定している段階ではもう遅過ぎた。
皆私を尊敬し、羨望の眼差しで見つめる。私を絶対的な支配者として扱う。
将来自分を抱く未来の旦那様だとでも言うように……。
もう自国では私の願いが叶う事は無いのだ。
そんな悩みを抱えている時に、毎日のように手紙が届くようになった。
その文が私の癒やしだった。
せっかくなら処女を捧げる相手は選びたい。
文の相手と結ばれたいと夢見る日々だった。
つまりだ。
私はラグロに抱かれたかった。ラグロは知らないが、私は会う前から彼を求めていた。
そして願いはあっさりと叶えられた。
身も心もラグロだけのお姫様になれたのだ。完全な合意である。
しかし、時間が経てば経つほどラグロは気に病んでいった。
どうやらラグロは私を粗雑に扱っているつもりらしい。
私には何の事を示しているのかわからないくらい、ラグロは本当に優しかった。
絶倫ではあるが、痛い事もしなければ苦しい事もしない。
女扱いするといっても、服は男物しか与えられた事がない。ラグロが望むなら女装でもエロい衣装でも下着でもドンと来いなのだが、お前はメスだと言葉で責めるだけだ。
プレイの範疇でしかないメス扱いなのである。
ラグロは幼少期から姫の話し相手をしていた影響からなのか、聖騎士だからなのかわからないが、セックス以外ではとことん紳士的だった。
割った芋の大きい方をくれたり、重い物をサッと持ってくれたり、扉を開けて待っていてくれたり、馬が横を通る時に私を守るように壁になってくれたりする。
周囲に魔族だとバレないように心を砕いて、迫害されぬよう対策をしっかり練ってくれる。これまでの旅で一度も危険な状況になった事がない。野宿の見張りを私にさせた事もない。
定期的なプレゼントも欠かさず渡してくれるし、私の好物を優先して食事のメニューに選んでくれる。
防寒着も毛布も、一つしか無かった物は絶対に私に使わせていた。
仮に、都合の良い時だけ女扱いされるなら不満も出るかもしれない。
しかしラグロは常に私をお姫様扱いしてくれた。
守られる事に慣れていない私には、想像以上に嬉しいものだった。
かれこれ逃亡生活も半年になるが、今のところ魔族の襲撃は無い。
あまりにも平和で不安になる。
もしかしたら人間相手に処女を散らしても問題無い、なんて可能性も出てきた。
次期魔王が人間に抱かれるなど前代未聞なため、判断に迷っている可能性もある。
他の者にどう判断されるかは賭けだ。
次代魔王が幼体のうちに儀式が行われる理由に、やる気が無い場合でも逆レイプでどうにかできるというのもある。
いざとなったら、私を拉致ってヤってしまえば問題ないと思われているのかもしれない。
だが、そこもラグロのお陰で解決した気がする。
もう半年もラグロによって徹底的にお姫様にされたのだ。
ラグロ専用のオンナにされてしまった私の男性器は完全に使い物にならなくなった。
調教って凄い。
後ろからの刺激で精子が漏れる事はあっても、ペニスへの刺激で勃起と射精は不可能だ。
それにラグロは私を全力で守ってくれる。
ラグロは騎士様で、私は守るべき姫君なのだから。
ほら、完璧だろう?
ラグロは可哀想だ。
私がこんなにもラグロの行いを喜んでいると知らない。
いつかはちゃんと教えるつもりだけど、まだその時じゃない。
たかだか四十年しか生きていない子供が私には可愛くて仕方がないのだ。
つい、私のために苦悩しているラグロを見ていたくなる。我ながら悪趣味だとはわかっているが、人間とは違う存在なのだから諦めて欲しい。
それでも、あまりからかって嫌われては元も子もない。
一年の約束の日にちゃんと伝えようと思う。
手紙の文字から恋をしていたと。
ラグロだけのお姫様になれて私は心から幸せなのだと……。
────これが、ラグロの知りたがっている私の心の内だ。
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ありがとうございました。
感想ありがとうございます!
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読んでくださり本当にありがとうございました!