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【一章】ルーシャン
十四話
しおりを挟む俺が言わずとも食堂の扉の前でクワルクは静かにおろしてくれた。
食堂は地下一階にある。バーカウンターもあるお洒落な酒場風デザインだ。皆で一緒に食べたい気分用に大きなテーブルが中央にあり、一人で落ち着いて食べたい時用の一人掛け席は壁側に人数分配置してある。
既に中央テーブルに食事が用意され、三人が食べ始めていた。肉虫、豆、野菜、果物、が大皿に盛られ、好きなものを自分で取る形式なのは食欲のない俺にとってはありがたい。
リヴァロが入って来た俺を見て真っ先に声をかけた。
「あれ、ルーシャン……角生えてるじゃん」
「塔に来て少し力を取り戻したんだ。これで少しは俺が味方だと信じてもらえたか?」
俺の言葉に三人は静かに頷いた。クワルクが椅子を引いて席を示してくれたので俺はそこに座った。全員が席につくと、まるで城で会議をしていた頃に戻ったようだ。こうして再び四人と卓を囲めるのをどれほど心待ちにしていたことか。
俺が来た事で、食堂の空気がピリッとして明らかに昨日までの雰囲気とは違う。王を忘れていて欲しいという俺の願いと反し、四人が無意識に俺に敬意を抱き始めているようだった。それでもようやくまともに会話ができるようになったのだ。今はこの変化も喜ぶべきだろう。早速俺は本題を切り出した。
「クワルクにも既に伝えたのだが、俺をこの塔で雇って欲しいと考えている。俺は塔内の設備に詳しいから、きっとお前達の助けになる。お前達の指示には必ず従うし、勝手な事はしないと誓おう。毎日塔のメンテナンスをさせて欲しい」
そう伝えると、三人は俺が塔について詳しいという点について、クワルクと同様に理解を示してくれた。
「まあ、願ってもない申し出……って感じだね」
「うん……助かる」
「実は前から気になってる箇所があって」
そのまま四人に魔力で騙し騙し動かしていた部分の修理の相談等をされた。意見を全てまとめ、後で確認しに行く事になった。思ったよりも頼りにされて嬉しい。俺がしっかり役立つという所を見せなければ。
想像よりも真面目に塔の管理の話が進み、落ち着いた所で俺は報酬の話をした。
「空いた時間はお前達のあらゆる発散に俺の体を使ってくれて構わない。セックスについては魔物となった俺に必要な行為だから、一日最低一人は俺の相手をして欲しいと思っている。それを俺に対する報酬ということでお願いしたいのだが、何か問題はあるだろうか」
俺がそう言うと、エダムが手を上げて発言した。
「ルーシャンを雇うというのは文句は無いし、報酬の支払いも不満はないけど、なーんか、僕達にあまりに都合が良過ぎるのが気になるかなぁ。ルーシャンを抱くって、本当に君自身の報酬になるの?」
エダムが俺とのセックスに何か裏があると常々考えるようだが、まあそれは正しい。だが、今は『穢れを奪うための接触』以外の理由ができたのだ。俺は堂々と答える事ができる。
「それが俺の食事だからだ。魔物となった俺は、お前達の精液を取り込まなければ生きられない体となっている。俺への食事の提供だと考えてくれれば、セックスの重要さがわかるのではないか?」
本当にセックスしないと生きられないのかは知らないけどな。俺にとっても肉体の変化は未知数なのだ。まあ、事実はどうあれ俺自身が嘘偽りを答えているつもりがない。エダムは俺の受け答えに不審な所を見付けられなかったようで、わかった、とだけ言って大人しく手をおろした。
すると今度はウルダが手を上げて発言した。
「ルーシャンの目的は……穢れた力を俺達から貰って魔王になることって言ってた。精液にそれが、含まれている?」
「そうだな、含まれている。だが、無理矢理奪っている訳でもなく垂れ流されるものなら俺が貰っても問題ないと思ったが、それすらも不服だろうか?」
「いえ、余計な事を言いました……申し訳ございません」
ウルダは俺の言葉にすぐに頭を下げて謝罪した。ヤバイ、普通に答えたつもりだったのになんか偉そうだったよな。今は王でもなんでもない関係でありたいのに、俺の馬鹿!!
でも初日だったら理由なんて関係なく穢れを奪われる事の全てを許さなかっただろう。この変化は大きい。だがこの空気をどうにかしなければ。塔での立場はウルダの方が上なのだから。
「いや、ごめん、えっと……責めたつもりはないんだけど……こちらこそ申し訳なかった。頼むからウルダが謝らないでくれ。俺が一番下っ端なんだから偉そうだったら叱りつけてくれよ。罰を与えてもいいんだぞ……?」
「ううん。別に、気にしてない……むしろ落ち着くからいい……」
ウルダは何故か頬を染めて嬉しそうにしていた。そのまま手をおろして静かに食事を始めた。ほ、本当に良いのだろうか。ウルダは落ち着くと言ったが俺は全く落ち着かない。どうしたものかと考えていると、リヴァロが立ち上がり、俺の両肩に触れて明るく言った。
「なんかよくわかんないけど、ルーシャンは魔王様なんだろ? もう俺達もそれを疑ってないしルーシャンのやりやすいようにやってよ」
「……だが……」
「そんな深く考えなくていいよ。上とか下とかじゃなくて、共同生活をする仲間ってことでいいじゃん。その中で自然体であればいいんだって」
確かにその通りだ。上下関係だけが全てではない。各々がやりやすいように、というのは大切な事だと思う。リヴァロの言葉や態度のお陰で気が楽になった。
四人の中で一番若いリヴァロは、真面目に偏りがちな魔術師の中で、重い空気を打ち砕いてくれるムードメーカーのような存在だった。それが戻りつつあるようで嬉しい。
「ありがとう、リヴァロ。仲間として、皆に迷惑を掛けないように気を付ける」
リヴァロは歯を見せて笑ってくれ、皆も微笑みながら頷いてくれた。
これで俺は安心して塔で過ごせるようになったのだ。塔のメンテナンスなんて言いながら、四人がこの塔にいる期間はあと少し。俺がお前達を人間に戻し、確実に外の世界へ逃がすのだ。その目的を達成できるように穢れをしっかり奪っていかなければ。そう心の中で決意を新たにしていると、リヴァロが俺の肩をポンと叩いた。
「おっしゃ、話し合いも終わったよな? ルーシャンも腹ごしらえしようぜ~?」
「ああ、そうだな」
空腹感はないが、食べてみれば腹に入るかもしれない。炒った豆に手を伸ばそうとしたら何故かリヴァロに掴まれた。
「そうじゃないでしょ」
有無を言わせぬ雰囲気のリヴァロに驚いてしまう。背後から俺を抱き締め、胸に手を這わせてきた事で、俺はようやく“腹ごしらえ”の意味を理解した。俺の食事って、そういう!? いや、確かにそう言ったのは俺なんだけど。いや今、どう考えても和やかな食事タイムになる空気じゃなかった!?
「……い、今から!?」
「さっきまであんなに堂々とセックスしたいって言ってたのに恥ずかしいんだ?」
リヴァロに意外そうに言われた。そういえば俺はさっきまで、特にセックスという行為に何も感じていなかった。なのにリヴァロに触れられてから急に羞恥が戻ってきた。
朝からのクワルクとの行為でもそうだ。触れ合ってリラックスすると、無くなりかけている理性が復活するようだった。俺が正気であり続けるためにはありがたい事なのだが、セックスに乗り気なクセにいざ行為で恥ずかしがるとか面倒くさくないか!?
俺が顔を赤くしたり青くしたりしていると、リヴァロが耳元で囁いた。
「ここで見られながらする? それとも部屋に行く?」
「へ……部屋で……」
今の俺にはそう言うのが精一杯だった。
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