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【三章】人魔の王
二十二話
しおりを挟むこの世界に転生の事例はいくつもあったとはいえ、勝率の低い賭けのようなものだった。
そんな賭けに勝てたのも、俺が戻ると信じてくれた四人とカンタルの強い想いがあったからなのだろう。
俺が再びこの地に立った意味を考えなければならない。
想像もしていなかったカースというもう一つの強い想いもあったみたいだが、その因果はもういい加減断ち切りたいものだ。
様々な者達の想いの上で俺はまた王になったのだから、やるべき事が沢山ある。
次の行動を始めなければ……と思った瞬間、カンタルが俺の思考を遮るように声を掛けてきた。
「パパ。放っておいたら今からでも仕事しに飛んで行きそうな顔してたよ。まだ今日……というかさっき目覚めたばかりなんでしょ。とりあえず部屋を取るから今日は休んでくれる?」
「そ、そうだな……」
カンタルの言い方は優しいが、お願いというよりもこれは命令だというのが目で伝わってくる。
王になった事で、国民への挨拶、実務引継ぎ、他国への報告、カースへの対処などなどやるべき事が山積みだからすぐに動こうとしていたのだが、カンタルにはバレていた。
「民への説明も他国への報告もオレがしておくし、引継ぎもこれからゆっくりやれば良い。国の内情はオレが全て把握しているんだから、パパが一気に頑張る必要ないんだからね」
「あ、ああ」
「ふう……パパとも会えたし、これでいつでもオレは安心して死ねるって思ったけどなぁ。やっぱりパパを補佐するためにも簡単には死ねないや」
ヤレヤレといった様子を隠そうともしないが、カンタルはとても楽しそうだ。
今までで一番イキイキとしているのがわかる。
俺を王に据えても自由に行動させる気で、カンタルは最初から宰相として立ち振る舞うつもりだったのだろう。
現状は正直、カースと悪魔の対応だけで手一杯なので全てを任せられる相手がいるのはありがたい。
俺は本当に周りに恵まれている。お言葉に甘え、しばらくパニールの事はカンタルに任せよう。
「……助かる。カースと悪魔の件が片付くまで、全てカンタルに一任する」
「御意のままに」
「頼んだぞ。では、俺は進言通りすぐに休むとしよう。大きな部屋を一つと、個室を二つ頼みたい」
「すぐに用意しましょう」
ヒョイとカンタルの背中に乗せられ、そのまま宿に案内されることになった。
訳のわからない快楽地獄のせいで上手く脚に力が入らなかった。運んでくれるのは助かる。悪魔の所業で体液まみれだった下半身をカシュが綺麗にしてくれているからカンタルの背に遠慮なくしがみついた。
俺がしっかりと掴まった事を確認したカンタルはズルリズルリとなるべく揺れないように動き始めた。四人はカンタルを取り囲むような配置で静かについてきた。
「はい、ここだよ」
カンタルが俺達を連れてきたのは、ギラギラと光り輝く装飾が眩しい、町で最も大きな娼館だった。確かに宿ではあるかもしれないが、その異様な活気に怯んでしまう。
宿の付近で客引きしているのは男女問わず。女性は胸が丸出しだし、男性はもっと露骨で、勃起した性器のサイズを披露していたりする。ここは外だぞ。開放的にもほどがあるだろう。
なんと客引きへのお触りも良いらしい。何だったら宿まで待てなかったのか、曲がり角でおっぱじめている男女の姿すらある。確かにこれが日常茶飯事なのであれば、俺の喘ぎなど些事だ。
歓楽街は犯罪の温床になりがちだが、パニールの様子を見る限り過激なのに健全さがある。
人魔の特性もあり、皆この行為が好きでたまらないといった様子で全てが明るい。
リヴァロには過激な世界だったのか目を開けていられないようだ。顔を真っ赤にしてギュッと目を閉じている姿が愛らしい。エダムとウルダは興味津々といった感じでキョロキョロしているし、クワルクはめちゃくちゃ険しい顔をしている。
カンタルはその様子を面白そうに見つめて笑った。
「パパも驚いた? パニールで一番綺麗で防音も防犯もバッチリなのは娼館だからね。炭坑付近の普通の宿は安いけど本当に寝るだけで狭いし何もないんだ」
「そうなんだ……」
「パニールの歓楽街は、部屋代が恐ろしく高いんだけど、キャストにはお金がかからない。キャストは性欲を持て余した国民だからね。正式な娼婦は存在していないんだ。キャストを満足させられた分、お客様に部屋代が戻って来る仕組みになっていて……つまり、下手くそお断りって事。処女童貞申請とか被虐加虐申請があればそういうのが好きな相手とマッチングもできるし、とにかく性を楽しめる所だよ」
スラスラとカンタルから俗な言葉が出てくる。大人だ。
他所からは我こそはとテク自慢が集まり、人魔の性欲が解消される。本当のテクニシャンにとってはほとんど無料で沢山の人魔と発散できる天国であり、口だけの下手くそは大金を巻き上げられるわけだ。
それに憤慨するような奴はもう来ないし、それをバネにする奴はどんどん上手くなり常連になると。
そりゃ活気があるはずだ。誰も嫌がっていない行為ならば楽しく明るい空間なのも頷ける。
「パパも人魔だし、魔力供給するなら一応娼館の制度を活用できるけど……」
「えっ」
「あ、パパに聞くより四人に聞くべきだよね」
そのままカンタルは四人の方を向いてしまう。
人魔の事に一番詳しいのはカンタルなんだから、俺の現状も把握している訳で、魔力供給と浄化イコール四人と性交渉する事もわかっているのだ。
俺も大きい部屋と個室二つなんて言っちゃったし、二人は休ませて残りの二人を相手にしますって宣言したのも同じじゃねーか。穴があったら入りたい。俺の馬鹿野郎!
どんな判定になってるか知らないが、このままヤれば俺が満足したかどうかが丸わかりになるという訳か!?
さすがにそれは気まずくないか!?
普通に金は払うから勘弁して欲しい。俺が慌てて止めようとした時には既に遅く、クワルクとエダムが俺の腕を片方ずつ掴んだ。
「制度適応でお願いします。カンタル」
「僕達に相性良さそうなシステムだねぇ。ルーシャン?」
「うぇ!?」
「じゃあオレはまた明日迎えに来るから~ごゆっくり~」
カンタルは無邪気に手を振って帰ってしまう。
俺が反対する隙もなく、クワルクとエダムにズルズルと引きずられるように娼館の中に連行されるしかなかった。
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