魔物になった四人の臣下を人間に戻すため王様は抱かれて魔王になる

くろなが

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【五章】仙人と魔物

十五話

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 紅茶代わりに師匠に酒瓶を渡すと、受け取る時にこう尋ねてきた。


「ここがお前の国なのか?」
「……今は違います。でも、昔は俺の国でした」


 俺は、ここがブルーミーという国であり、以前はユンセンという国だったこと説明し、俺の前世がユンセンの国王であったと告げた。
 そして、魔力が無かったルービン王は魔術師を集め、自国をどこにも負けない魔術大国にしたこと。その中で最も優秀な四人の魔術師がここにいる者達で、大切な臣下であると話した。


「臣下ねぇ~臣下か~」
「……なんですか」
「ふふふ。まあ後でいいや、続き続き」


 十中八九、師匠は俺達の関係に気付いているのだろうが、とりあえず俺は促されるまま話を続ける。
 突如、穢れというものが発生し、ユンセンを中心に人や獣が魔物になり大規模な混乱に陥ったこと。俺は魔力が無くて自らの力だけで対策を取るにも限界があり、犠牲を最小限にするために、四人を動力とした浄化装置を造ったこと。生まれ変わってでもいつか助けると誓い、四人を塔に閉じ込め、程なくしてルービンが死んだことを話した。
 俺はルーシャンとして生まれ変わったものの、ルービンの記憶が戻ったのは最近であると付け加えた。
 師匠はその説明だけでも色々と納得したようで、椅子の背もたれに体重を預けて天井を見た。


「それで記憶が戻った時に急に飛び出していったってわけか」
「はい。思い出したら居ても立っても居られなくて……」


 確かあの時は、薪割りの途中だった気がする。洗濯物も干しっぱなしで、ちょっと出てきますと大声で師匠に伝えて身一つで駆け出していた。
 そこから俺は帰って来ず、音沙汰もないだから師匠からすれば意味もわからない失踪事件だ。今更だが俺は随分と自分勝手な弟子だと申し訳ない気持ちになる。


「やるじゃん」


 え、と思った時には、師匠が身を乗り出して俺の頭を撫でていた。それはとても優しい手付きだった。


「よくやった。頑張ったな。そこでなりふり構わずに飛び出せるヤツだからこそ、四人もお前に全てを預けられたんだろう」


 師匠の温かい反応に、思わず目が潤んでしまう。
 作業をしながら俺と師匠の話を聞いていた四人の手の動きも止まっている。リヴァロの鼻をすする音が妙に目立っていた。
 当事者ではない客観的な視点の人に認められるのがこんなに嬉しいものだとは思わなかった。俺は震える声で、しかし、明るく言った。


「はい……すっごく、頑張ったんですよ!」
「お前が俺に子供の頃からずっと強くなりたい、強くなりたいって言ってたのも、この四人のためだったんだな。いや~、やっとお前の奇行の理由がわかってスッキリしたわ」


 そうハッキリ奇行だと言われると少しショックでもある。しかしどっからどう見ても俺の行動は奇行でしかないので何も言い返せなかった。
 師匠は俺から手を離し、席に着くと同時に少し大きな声で言った。


「そんで? わざわざ実家に結婚衣装を取りに来て、ルーシャンは誰と結婚するつもりだ?」
「んぐっ」


 師匠の言葉に俺の喉から変な声が出た。師匠は俺の顔を見てニヤニヤと唇を動かしている。あえてこんな聞き方をしたのだとわかった。
 俺が錆びて動きが鈍った機械のようにぎこちなく首を動かして四人の方を向けば、それはもう責めるような四人分の視線とぶつかって冷や汗が背中を伝った。

 
「ただの成人服ですから!! 師匠もわかってて言ってるでしょう!?」
「いいや、俺は間違ってねーぞ? 本来なら成人の儀の次に袖を通すのは結婚式の時だからなぁ」


 師匠は意地悪な笑みを浮かべてはいるが、実際、まったく嘘はついていない。
 ダーリアンでは成人する者へ国をあげ、特別な衣装を仕立てて贈る一大イベントがある。その衣装は品質がとにかく良く、デザインの豊富さからコレクターが各地にいる程で、売れば三月はひもじい思いをする事は無い。衣装自体が社会保障の一つと言える。国のこれからを担う若者を激励するダーリアンの風習なのだ。

 贈られた衣装を着て成人を迎え、次にその衣装が日の目を見るのは花嫁、花婿衣装としてだ。
 結婚式に向けてアレンジを加えるもよし、そのまま着てもよし。だが、基本的にはペアとして並んだ時に見栄えが良いようにアレンジする者がほとんどだ。結婚を控えた二人がデザインを話し合ったり、加工する工程を共に経て絆を深めるのにも一役買っている。
 結婚式で金粉やラメのような神から贈られた煌めく粉末を衣装の袖と裾に振りかけ、特殊な輝きが加わる事で夫婦の証となる。そこはラメなどで偽装すればどうにかなるはずだ。

 俺はこの説明を四人に向けてしたのだが、皆難しい顔をしていた。悪い事をしている訳ではないのにどんどん俺の居心地が悪くなる。


「た、確かに、風習としては師匠の言う通り結婚衣装でもあるが、ここはダーリアンではないし、結婚後は普通の正装として着るものだから別に問題ないだろう……?」


 結婚衣装になるという事実を意図的に黙っていたつもりはないのだが、こうしてみると浮気の言い訳でもしているみたいで滑稽だった。
 まさか四人がこんな事で怒るっているとは思えないが、しばしの沈黙が流れた。
 俺はまずい事をしたのだろうかと内心焦っていると、リヴァロが暗い表情のまま口を開いた。


「カースは馬鹿だけど、魔術師になれるくらいには頭が良い。若くして悪魔召喚なんてできたくらいだし、今も俺達が知らない情報を知っててもおかしくはない。ダーリアンの風習を知らないと決めつけるのはちょっと怖いな……」
「そうですね。カースの力の使い方は馬鹿だとしても、この数百年で培っているかもしれない知識量は侮れません。ただでさえ何でも都合よく取る相手なのです。もし風習を知っていて偽装までバレてしまえばルーシャンに何をするかわかりませんよ」


 クワルクもリヴァロと一緒に、褒めているのかけなしているのかわからないカースへの警戒を示した。

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