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第6章 史上最強の棋士
第127話 カラスが最強の棋士と対局したら(その11)
「10分経過しました」
愛媛愛菜女流四段の読み上げに、辻井孝太六冠は小声で「はい」と答える。
9回の読み上げとそこまでは変わらなかったが、直後に辻井は右の拳で頭の横をコンコンと叩いた。
さらに「ふぅ」と大きく息を吐くと、駒台にある飛車をつまむ。
パシン!
ひと際通る駒音を立てて盤面に打ち付ける。
チョンチョンと指先で駒の位置を整えると、右手を太ももの上に戻した。
「先手、6一飛車」
ようやく辻井が指したことで、対局場にいるスタッフは胸をなでおろす。
まさか辻井六冠が30分も1時間も考え続けるとは思わないものの、万が一、万々が一があるかもしれない。
仮に、そんなことになっても、解説の壬生善元九段と聞き手の代々木市香女流七段が場を持たせてくれるだろうと思ってはいるが。
かつて、対局者の一人が対局する場所を間違えたことで、開始時間に間に合わなかったことがある。
それもインターネットで中継が行われる対局で、だ。
公式戦は主に東京にある将棋会館と大阪の関西将棋会館、そして名古屋の名古屋対局場に分けて行われており、通常は上位者に合わせて対局する場所が決められる。
例えば千葉に住むA八段と兵庫に住むB五段が対局する場合には、東京で対局が行われることが多い。
ただし“多い”であって、絶対ではない。
主催や協賛から要望があった。
上位者から希望があった。
対局数が多くて部屋が確保できない。
注目の対局で中継が入っている。
なんやかんやの理由で対局する場所が変更されることがある。
また順位戦では公平を期するため、対局者が遠征する数が同じになるよう決められている。
そうして決まった対局予定(日時と場所)は事前に知らされるのだが、見落としてしまったり思い込んでしまったりで対局日時を間違えることが“まれ”にある。
結果として、東京で対局が行われるのに大阪に…なんてことが起こってしまう。
対局開始に棋士が遅刻した場合には、かつて遅刻した時間の3倍の時間が持ち時間から引かれて対局が行われた(ただし交通機関の遅れなどによる遅刻は3倍とならない)。
つまり、持ち時間が2時間(120分)であれば、40分まで遅刻が許される…訳ではないが、遅刻しても対局することができた。
しかし現在では、さらに規則が厳しくなっている。
どんなに持ち時間が長くても、対局開始から1時間遅れると不戦敗が決まる。
先に挙げた中継の対局でも、1時間が経過したところで間に合わなかった棋士の不戦敗となった。
その時の中継では、聞き手の女流棋士と解説の棋士が、時間切れになるまで場をつなぎ、終局後に間に合った棋士が自戦の解説をするなどして、視聴する将棋ファンを飽きさせなかった。
「クワア」
辻井の指し手を見て、クロがひと鳴きした。
人間の言葉に翻訳することができれば、何と言っただろうか。
「長かったねぇ」
「その手でいいの?」
「考えてなかったなあ」
それとも「お腹が空いた」かもしれない。
愛媛愛菜女流四段の読み上げに、辻井孝太六冠は小声で「はい」と答える。
9回の読み上げとそこまでは変わらなかったが、直後に辻井は右の拳で頭の横をコンコンと叩いた。
さらに「ふぅ」と大きく息を吐くと、駒台にある飛車をつまむ。
パシン!
ひと際通る駒音を立てて盤面に打ち付ける。
チョンチョンと指先で駒の位置を整えると、右手を太ももの上に戻した。
「先手、6一飛車」
ようやく辻井が指したことで、対局場にいるスタッフは胸をなでおろす。
まさか辻井六冠が30分も1時間も考え続けるとは思わないものの、万が一、万々が一があるかもしれない。
仮に、そんなことになっても、解説の壬生善元九段と聞き手の代々木市香女流七段が場を持たせてくれるだろうと思ってはいるが。
かつて、対局者の一人が対局する場所を間違えたことで、開始時間に間に合わなかったことがある。
それもインターネットで中継が行われる対局で、だ。
公式戦は主に東京にある将棋会館と大阪の関西将棋会館、そして名古屋の名古屋対局場に分けて行われており、通常は上位者に合わせて対局する場所が決められる。
例えば千葉に住むA八段と兵庫に住むB五段が対局する場合には、東京で対局が行われることが多い。
ただし“多い”であって、絶対ではない。
主催や協賛から要望があった。
上位者から希望があった。
対局数が多くて部屋が確保できない。
注目の対局で中継が入っている。
なんやかんやの理由で対局する場所が変更されることがある。
また順位戦では公平を期するため、対局者が遠征する数が同じになるよう決められている。
そうして決まった対局予定(日時と場所)は事前に知らされるのだが、見落としてしまったり思い込んでしまったりで対局日時を間違えることが“まれ”にある。
結果として、東京で対局が行われるのに大阪に…なんてことが起こってしまう。
対局開始に棋士が遅刻した場合には、かつて遅刻した時間の3倍の時間が持ち時間から引かれて対局が行われた(ただし交通機関の遅れなどによる遅刻は3倍とならない)。
つまり、持ち時間が2時間(120分)であれば、40分まで遅刻が許される…訳ではないが、遅刻しても対局することができた。
しかし現在では、さらに規則が厳しくなっている。
どんなに持ち時間が長くても、対局開始から1時間遅れると不戦敗が決まる。
先に挙げた中継の対局でも、1時間が経過したところで間に合わなかった棋士の不戦敗となった。
その時の中継では、聞き手の女流棋士と解説の棋士が、時間切れになるまで場をつなぎ、終局後に間に合った棋士が自戦の解説をするなどして、視聴する将棋ファンを飽きさせなかった。
「クワア」
辻井の指し手を見て、クロがひと鳴きした。
人間の言葉に翻訳することができれば、何と言っただろうか。
「長かったねぇ」
「その手でいいの?」
「考えてなかったなあ」
それとも「お腹が空いた」かもしれない。
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