【R18】兄と2人で公爵様に嫁いでみました【完結】

県田 星

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第31話 口止め依頼

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「そりゃまた随分と無茶をするのだな」

クリスパ伯爵家に出入りするガッサン医師は唇をゆがめる。

伯爵家の出入りと言えば聞こえが良いものの、単にクリスパ領にいる町医者の1人だ。
ただし腕前は折り紙付きで、伯爵家となじみなのもそのため。

今日は偶然立ち寄ったとの体でクリスパ家を訪れていた。
それでも念のためアラーナを診察するが、声が出ないこと以外には問題ない。

「ワーレンバーグ公爵様とご結婚か。まずはめでたい」
「はい」
【ありがとうございます】
「しかし2人で1人になるとは…本当に無茶をするなあ」
「すみません」
【ごめんなさい】

事故以来、アラーナが話せないことを知っている数少ない1人であるガッサン。
結婚にあたってタルバンがアラーナに成り代わることを明かすために呼んでいる。
その上でアラーナが話せないことの口止めを頼むためだ。

「まあ、タルバン様やアラーナ様が謝ることではないが…」
「本当にすみません」
「いやいや、本来私がアラーナ様を完治できていれば問題にはならなかったのだからな」

ガッサン医師は自分の力量不足を語る。
しかしアラーナの声がかすかながらも、戻ってきているのは彼の見立て通りだ。

「もう何年かして、心が落ち着いてくれば元通りになるはずだがなあ…」
「ええ」
【頑張ります】
「だが、そこまで結婚は待ってくれんか。ああ、そう言えば…」

ガッサン医師は何かを思い出したように手を叩く。

「もしかすると、あれは公爵家の手の者だったのかもしれんな」
「ワーレンバーグ公爵家?手の者?」

ガッサン医師はあごに手を当てる。

「確か2カ月ほど前だったか。男の旅人が『調子を崩した』と来たのさ」
「はい」
「いろいろと男と話をした中で、アラーナ様についても尋ねてきた覚えがある」
「それって…!」
「いや、思い過ごしかもしれん。単なる話し好きな旅人かもな」
「それでもアラーナのことは話していないんですよね」

ガッサン医師は「当然だ」と力強くうなずいた。

「医師たるもの、患者のことを軽々と他人に話したりはせんよ」
「ありがとうございます」
「ただなあ…」
「何か?」
【気がかりでもありますか?】
「ワーレンバーグ公爵家なら、国中から、いや外国からでも名医を探してアラーナ様を診てもらうことができるかもしれんぞ」
「そうですが…」

浮かない顔のタルバンとアラーナを見て、ガッサン医師は大声で笑う。

「まあ、良いさ。やりたいようにやってみろ。思わぬ形で上手く行くかもしれんしな。成り代わりが露見して公爵様に知られても、厳しく罰を受けるようなことはなかろう」
「それじゃあ…」
「ああ、先にも言った通り、患者のこと、アラーナ様のことは誰にも話さんよ」

ガッサン医師はドンと胸を叩いた。
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