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第108.1話 来客は少年
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「よう…こ…そ」
娼館「甘い口づけ」で受付を務めるヴァーチエイドは珍しく言葉が詰まる。
目の前に立っているのが10代中ほどの少年だったから。
いつもなら追い返すのが当り前ながら、少年の服装と物腰からそうした対応を留まる。
「いらっしゃいませ」
「ああ」
少年はヴァーチエイドを見据ええたまま、態度を変えない。
「恐れ入りますが、初めてのご来店とお見受け致しました。どなたかのご紹介はございますか?」
少年は「ない」と首を振った。
「紹介があった方が良かったな」
「それでは失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「カルトメリ・ワーレンバーグ」
ヴァーチエイドは鷹揚にうなずいた。
こうした職にあれば、名家の1つであるワーレンバーグ公爵家を知らない者はいない。
そしてヴァーチエイドは嫡男の名-カルトメリ-を知っていた。
ただし本人かどうかは分からない。
「かしこまりました。それでは席を用意いたしますので、そちらにおかけになってお待ちください」
「ああ」
ヴァーチエイドはソファを勧めた後、傍らの男に目で合図した。
わずかな時間の後、受付を見下ろす位置にある小窓が開く。
「あら、本当」
そこからカルトメリを覗き見たのは「甘い口づけ」の女主人であるミュルガリル。
「本物ですか?」
「5年後くらいに来て欲しいなと思ってたけど、意外に早かったのね」
「それでは案内します」
そう言った男をミュルガリルは止める。
「せっかくですもの、私が行くわ」
「はい」
ミュルガリルは豊かな髪を手櫛で軽くすいた。
「お待たせいたしました」
カルトメリが目を上げると、黒いロングドレスに身を包んだ女が立っていた。
「主人のミュルガリル・レンタニナと申します」
「カルトメリ・ワーレンバーグだ」
「先々月のクッカラバ侯爵のパーティーでお見かけしましたわ」
「そうか」
ミュルガリルが右手を出すと、カルトメリは立ち上がって軽く口づけする。
そのままカルトメリの手を取ったミュルガリルは奥の通路へと引っ張って行った。
ヴァーチエイドら、その場にいた従業員はカルトメリの顔をしっかり認識した。
「こちらにお越しになったのは、どなたかからお聞きになりましたの?」
「公爵家の家人や騎士らに聞いたら、王都では『甘い口づけ』が一番だと」
ミュルガリルは「あら」と微笑む。
「クランダルク王国で一番と思っていましたけど」
「では大陸一を目指したらどうだ?」
カルトメリも笑う。
「この次に公爵家の方がお越しになったら、念入りにおもてなし致しますね」
「どうかな。実際に来た者は何人いるか…」
「そうですわね。何かのご褒美代わりにカルトメリ様がお連れになってくださいな」
「…そんな使い方もあるのだな」
「ええ、ぜひ、どうぞ」
「一番」と呼ばれる店には似つかわしくないシンプルな通路の奥には重々しい扉があった。
前に立つ男がゆっくり扉を開ける。そこは見回したくなるくらいの広い部屋。
全体として薄暗いものの、人が座っている席には灯がある。そして女達がいる正面も。
あちこちから聞こえてきた男や女の声が途絶えた。
「珍しいな」
あまり客前に出ることのない女主人のミュルガリルが部屋に出る。
しかも10代半ばの少年を伴って。
「あれは誰だ?」
「子供だな」
「隠し子か?」
「ミュルガリルの?」
「まさかな」
ひそひそ声が聞こえる中で客の中にいた貴族の男が声を出す。
「ワーレンバーグ公爵家の嫡男じゃないか?」
わずかに静まりかえるが、またもひそひそ声が聞こえる。
「本当か?」
「いや、まさか」
「似ているだけだろ」
「私も見たことあるぞ」
「何しに来た?」
そんな声が聞こえる中で、ミュルガリルは上席の1つにカルトメリを座らせた。
「客の入りはこんなものなのか?」
ミュルガリルは「フフッ」と笑う。
「まだ日が高いですから」
「それもそうか」
「お酒でよろしいですか?」
カルトメリは少し眉をひそめる。
「飲みなれないのでな。軽いものを頼む」
ミュルガリルが指で合図すると、傍に立っていた男が足早に動く。
すぐに酒瓶とクラスを2つ、トレイに乗せて戻ってきた。
そのまま酒を注ごうとした男を止めて、ミュルガリル自らが酒を注ぐとカルトメリに渡す。
まずミュルガリルグラスを傾けて「どうぞ」と勧めた。
カルトメリも「ああ」とグラスに口を付けける。
ひと口飲んでグラスを置く。
わずかに口の中で液体を遊ばせた後、ゆっくり飲み込んだ。
「正直、美味くはないな」
ミュルガリルは微笑んでカルトメリの膝に手を添えた。
「それではご説明いたしますね」
ミュルガリルの視線を追ってカルトメリも正面を見る。
20人ほどの女達がカウンター前の丸椅子に腰かけていた。
娼館「甘い口づけ」で受付を務めるヴァーチエイドは珍しく言葉が詰まる。
目の前に立っているのが10代中ほどの少年だったから。
いつもなら追い返すのが当り前ながら、少年の服装と物腰からそうした対応を留まる。
「いらっしゃいませ」
「ああ」
少年はヴァーチエイドを見据ええたまま、態度を変えない。
「恐れ入りますが、初めてのご来店とお見受け致しました。どなたかのご紹介はございますか?」
少年は「ない」と首を振った。
「紹介があった方が良かったな」
「それでは失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「カルトメリ・ワーレンバーグ」
ヴァーチエイドは鷹揚にうなずいた。
こうした職にあれば、名家の1つであるワーレンバーグ公爵家を知らない者はいない。
そしてヴァーチエイドは嫡男の名-カルトメリ-を知っていた。
ただし本人かどうかは分からない。
「かしこまりました。それでは席を用意いたしますので、そちらにおかけになってお待ちください」
「ああ」
ヴァーチエイドはソファを勧めた後、傍らの男に目で合図した。
わずかな時間の後、受付を見下ろす位置にある小窓が開く。
「あら、本当」
そこからカルトメリを覗き見たのは「甘い口づけ」の女主人であるミュルガリル。
「本物ですか?」
「5年後くらいに来て欲しいなと思ってたけど、意外に早かったのね」
「それでは案内します」
そう言った男をミュルガリルは止める。
「せっかくですもの、私が行くわ」
「はい」
ミュルガリルは豊かな髪を手櫛で軽くすいた。
「お待たせいたしました」
カルトメリが目を上げると、黒いロングドレスに身を包んだ女が立っていた。
「主人のミュルガリル・レンタニナと申します」
「カルトメリ・ワーレンバーグだ」
「先々月のクッカラバ侯爵のパーティーでお見かけしましたわ」
「そうか」
ミュルガリルが右手を出すと、カルトメリは立ち上がって軽く口づけする。
そのままカルトメリの手を取ったミュルガリルは奥の通路へと引っ張って行った。
ヴァーチエイドら、その場にいた従業員はカルトメリの顔をしっかり認識した。
「こちらにお越しになったのは、どなたかからお聞きになりましたの?」
「公爵家の家人や騎士らに聞いたら、王都では『甘い口づけ』が一番だと」
ミュルガリルは「あら」と微笑む。
「クランダルク王国で一番と思っていましたけど」
「では大陸一を目指したらどうだ?」
カルトメリも笑う。
「この次に公爵家の方がお越しになったら、念入りにおもてなし致しますね」
「どうかな。実際に来た者は何人いるか…」
「そうですわね。何かのご褒美代わりにカルトメリ様がお連れになってくださいな」
「…そんな使い方もあるのだな」
「ええ、ぜひ、どうぞ」
「一番」と呼ばれる店には似つかわしくないシンプルな通路の奥には重々しい扉があった。
前に立つ男がゆっくり扉を開ける。そこは見回したくなるくらいの広い部屋。
全体として薄暗いものの、人が座っている席には灯がある。そして女達がいる正面も。
あちこちから聞こえてきた男や女の声が途絶えた。
「珍しいな」
あまり客前に出ることのない女主人のミュルガリルが部屋に出る。
しかも10代半ばの少年を伴って。
「あれは誰だ?」
「子供だな」
「隠し子か?」
「ミュルガリルの?」
「まさかな」
ひそひそ声が聞こえる中で客の中にいた貴族の男が声を出す。
「ワーレンバーグ公爵家の嫡男じゃないか?」
わずかに静まりかえるが、またもひそひそ声が聞こえる。
「本当か?」
「いや、まさか」
「似ているだけだろ」
「私も見たことあるぞ」
「何しに来た?」
そんな声が聞こえる中で、ミュルガリルは上席の1つにカルトメリを座らせた。
「客の入りはこんなものなのか?」
ミュルガリルは「フフッ」と笑う。
「まだ日が高いですから」
「それもそうか」
「お酒でよろしいですか?」
カルトメリは少し眉をひそめる。
「飲みなれないのでな。軽いものを頼む」
ミュルガリルが指で合図すると、傍に立っていた男が足早に動く。
すぐに酒瓶とクラスを2つ、トレイに乗せて戻ってきた。
そのまま酒を注ごうとした男を止めて、ミュルガリル自らが酒を注ぐとカルトメリに渡す。
まずミュルガリルグラスを傾けて「どうぞ」と勧めた。
カルトメリも「ああ」とグラスに口を付けける。
ひと口飲んでグラスを置く。
わずかに口の中で液体を遊ばせた後、ゆっくり飲み込んだ。
「正直、美味くはないな」
ミュルガリルは微笑んでカルトメリの膝に手を添えた。
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