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第145話 ヤギと豆と瓜
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「お会いできて光栄です」
クリスパ伯爵家の前に商会らしく頑健さが目立った馬車が止まる。
使用人が開けた扉から姿を現したハルト・ラント・ココットは頭を下げた。
その立ち居振る舞いは貴族令嬢と変わりない優雅さがある。
また衣装は派手さこそなかったものの、胸元は大胆さにあふれ、腰から下は曲線美に満ちていた。
ハルトが差し出した右手にタルバンは軽く唇を当てる。
「ようこそ、クリスパ領へ。大変でしたでしょう」
ハルトは「いいえ」と首を振る。
「先行き不透明な旅であればそうかもしれませんが、確実に楽しみが待っていると思えば…」
やや強引にハルトはタルバンの腕を取った。
アラーナほどではないものの、柔らかな盛り上がりを押し付ける。
戸惑うタルバンを引っ張るように荷馬車へ足を進めた。
「これが…」
「はい、パシュミーラ種のヤギです」
既にクリスパ領などにいるヤギと比較して大きさは変わらない。
ただし、角が大きく張っており、体毛が長め。
「どうぞ」
「あ、ああ」
ハルトに勧められるがままに、タルバンは一番近くにいるヤギに触れる。
「柔らかい…のかな」
「いえ、それほど手触りは変わらないかと」
「そうか」
「雄を3匹、雌を5匹連れて参りました」
「感謝する」
タルバンがヤギの群れを見回す。
白いヤギが4匹、残りは茶色っぽいものが2匹と黒が2匹。
タルバンの手が気になるのか、他の7匹も近寄ってきた。
「あら、好かれているようですね」
「うん、まあ、悪い気はしない」
「そうですか?」
空いたもう一方の手をハルトが握った。
「え、いや…」
「さぁ、参りましょう!」
改めて応接間で相対するタルバンとハルト。
デュランが用意したお茶を口にする。
「ソバと芋はいかがですか?」
「ああ、今のところ順調だ。数カ月後には収穫できるだろう」
「それはよろしゅうございました」
そう言いつつ、ハルトは持参した鞄から2つの小袋と冊子を取り出す。
「私どもの方でも色々調べまして、豆と瓜をお持ちしました」
「豆?瓜?」
「ええ、どちらもクランダルク王国を含めて、この大陸では未見のものですが、厳しい土地でも育つと聞いております」
小袋を開けると種が入っている。
冊子には育て方や収穫のコツがまとめられていた。
「重ね重ね感謝します」
「お気になさらず」
ハルトは思い切り笑みを浮かべる。
「これでクリスパ伯爵家とワーレンバーグ公爵家と縁ができれば何よりです」
「まあ、公爵家はともかく、貧乏伯爵家ではなあ」
「タルバン伯爵様、何か勘違いされておられませんか?」
「勘違い?」
「誰も目を向けないところにこそ、商機があると考えております」
力強いハルトの言葉に、言われたタルバンの方が苦笑してしまう。
「そこまで言ってくれるのはうれしいが、報いられるのは何年先になるか…」
言い淀むタルバンにハルトは姿勢を乗り出す。
「アラーナ公爵夫人から何か聞いておられませんか?」
「アラーナから?」
ハルトが会ったアラーナはタルバンが扮したもの。
タルバンはワーレンバーグ公爵家の別邸での会話を思い出す。
「ああ、いや、特に…」
何となくハルトの言いたいことを察せられたが、タルバンはあえて言葉を濁す。
ハルトは不満そうな顔を隠さない。
「実は私、カルトメリ公爵閣下の最終候補だったとか…」
「そんな話があるな」
「でも、閣下はアラーナ様とご結婚なさいました」
「うむ」
「行き場のなくなった私を、どなたかが拾ってくださらないかなと」
「……そうか」
「伯爵様、決まったお相手がいないのであれば、私などいかがでしょうか?」
露骨な物言いにタルバンは返答に窮する。
と同時に、タルバンの脳裏にテレシア・リフォリア子爵令嬢が浮かんだ。
しかしテレシアと何か約束した訳でもない。
「わ、わざわざ貧乏伯爵家に来ることもないだろうに」
ハルトはゆっくり首を振る。
「今はそうでも、先行きの期待は十分できると判断しております」
「…何だか商売の話をしているみたいだな」
「商いはお嫌いですか?」
「いや、領主としては必須だな」
「返事は急ぎません。伯爵様の心の片隅にでも留めておいていただければ」
散々、タルバンの心をゆすぶって、ハルトは帰って行った。
「強烈と言うか、猛烈と言うか、すごい令嬢ですね」
お茶のお代わりを入れたデュランが感想を口にする。
「ああ、領地を立て直すのであれば、あんな女が良いのかなあ」
「…はあ」
デュランは軽口を叩いたつもりの発言だったが、真面目な反応を示した主人を見直した。
クリスパ伯爵家の前に商会らしく頑健さが目立った馬車が止まる。
使用人が開けた扉から姿を現したハルト・ラント・ココットは頭を下げた。
その立ち居振る舞いは貴族令嬢と変わりない優雅さがある。
また衣装は派手さこそなかったものの、胸元は大胆さにあふれ、腰から下は曲線美に満ちていた。
ハルトが差し出した右手にタルバンは軽く唇を当てる。
「ようこそ、クリスパ領へ。大変でしたでしょう」
ハルトは「いいえ」と首を振る。
「先行き不透明な旅であればそうかもしれませんが、確実に楽しみが待っていると思えば…」
やや強引にハルトはタルバンの腕を取った。
アラーナほどではないものの、柔らかな盛り上がりを押し付ける。
戸惑うタルバンを引っ張るように荷馬車へ足を進めた。
「これが…」
「はい、パシュミーラ種のヤギです」
既にクリスパ領などにいるヤギと比較して大きさは変わらない。
ただし、角が大きく張っており、体毛が長め。
「どうぞ」
「あ、ああ」
ハルトに勧められるがままに、タルバンは一番近くにいるヤギに触れる。
「柔らかい…のかな」
「いえ、それほど手触りは変わらないかと」
「そうか」
「雄を3匹、雌を5匹連れて参りました」
「感謝する」
タルバンがヤギの群れを見回す。
白いヤギが4匹、残りは茶色っぽいものが2匹と黒が2匹。
タルバンの手が気になるのか、他の7匹も近寄ってきた。
「あら、好かれているようですね」
「うん、まあ、悪い気はしない」
「そうですか?」
空いたもう一方の手をハルトが握った。
「え、いや…」
「さぁ、参りましょう!」
改めて応接間で相対するタルバンとハルト。
デュランが用意したお茶を口にする。
「ソバと芋はいかがですか?」
「ああ、今のところ順調だ。数カ月後には収穫できるだろう」
「それはよろしゅうございました」
そう言いつつ、ハルトは持参した鞄から2つの小袋と冊子を取り出す。
「私どもの方でも色々調べまして、豆と瓜をお持ちしました」
「豆?瓜?」
「ええ、どちらもクランダルク王国を含めて、この大陸では未見のものですが、厳しい土地でも育つと聞いております」
小袋を開けると種が入っている。
冊子には育て方や収穫のコツがまとめられていた。
「重ね重ね感謝します」
「お気になさらず」
ハルトは思い切り笑みを浮かべる。
「これでクリスパ伯爵家とワーレンバーグ公爵家と縁ができれば何よりです」
「まあ、公爵家はともかく、貧乏伯爵家ではなあ」
「タルバン伯爵様、何か勘違いされておられませんか?」
「勘違い?」
「誰も目を向けないところにこそ、商機があると考えております」
力強いハルトの言葉に、言われたタルバンの方が苦笑してしまう。
「そこまで言ってくれるのはうれしいが、報いられるのは何年先になるか…」
言い淀むタルバンにハルトは姿勢を乗り出す。
「アラーナ公爵夫人から何か聞いておられませんか?」
「アラーナから?」
ハルトが会ったアラーナはタルバンが扮したもの。
タルバンはワーレンバーグ公爵家の別邸での会話を思い出す。
「ああ、いや、特に…」
何となくハルトの言いたいことを察せられたが、タルバンはあえて言葉を濁す。
ハルトは不満そうな顔を隠さない。
「実は私、カルトメリ公爵閣下の最終候補だったとか…」
「そんな話があるな」
「でも、閣下はアラーナ様とご結婚なさいました」
「うむ」
「行き場のなくなった私を、どなたかが拾ってくださらないかなと」
「……そうか」
「伯爵様、決まったお相手がいないのであれば、私などいかがでしょうか?」
露骨な物言いにタルバンは返答に窮する。
と同時に、タルバンの脳裏にテレシア・リフォリア子爵令嬢が浮かんだ。
しかしテレシアと何か約束した訳でもない。
「わ、わざわざ貧乏伯爵家に来ることもないだろうに」
ハルトはゆっくり首を振る。
「今はそうでも、先行きの期待は十分できると判断しております」
「…何だか商売の話をしているみたいだな」
「商いはお嫌いですか?」
「いや、領主としては必須だな」
「返事は急ぎません。伯爵様の心の片隅にでも留めておいていただければ」
散々、タルバンの心をゆすぶって、ハルトは帰って行った。
「強烈と言うか、猛烈と言うか、すごい令嬢ですね」
お茶のお代わりを入れたデュランが感想を口にする。
「ああ、領地を立て直すのであれば、あんな女が良いのかなあ」
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