黒い森で魔女は微睡む

稲村うお

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黒い森の魔女

魔女 と 町の住民

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「私たちが見ているから」という近所の人たちの申し出により少年の父親、ジョージさんは2日ぶりに眠りについた。
奥さんのエレナさんがああなってからずっと眠れていなかったらしい。
医者も長いこと気を張って疲れていたのだろう。せっかくだからお茶でもという奥様方に謝りながらよたよたと家へ帰っていった。
私をスケープゴートにして。

「まさかあんたが魔女だったとはね!」
「『雇われの売り子だ』なんて、どうりで接客そこまで上手くないなとは思ってたんだけど」
「あ、はは……」

「魔女さんのおかげです!」なんて言い残して家を去れば彼女達の興味は自然とこちらに向くわけで。
時々、ほんっとうに時々町に来て消耗品や食料を買うついでにちょっとだけ持ってきた薬や薬草を「魔女のお使い」として売っていたのが実は本人であったとバレてしまった。
ただでさえ森に引きこもってばかりの魔女が、こんな根暗の話し下手だとバレたらなんと言われるか分からない。
影で言われる分にはまだ構わないが、自分の耳に入ったらと思うと恐ろしい。とてもじゃないけど人の中で暮らそうなんて思えなかったから、こうして人里から少し離れたところで魔女なんてやっているのだ。
しかしまあ、私は人が苦手ながらも人の話を聞くのは嫌いじゃない。ご夫人たちの話題は山の天気のごとくコロコロと変わるものであるし、自分に矛先が向いていなければただの楽しいお喋りである。

「ねえ、魔女さん」
「ん?どうかしたの、えっと……」
「ジークだよ」
「うん、ジークと……妹さん?」

「うん分かってるけど」みたいな調子で言ったけど実の所名前なんて覚えてなかった。それどころじゃなかったし。用が済んだらすぐ帰ってしばらく引きこもろうと思ってたし。
聞きたかったのは君の後ろにいる妹の名前だよ、とでも言いたげに彼女を見る。
言い訳に使ってごめん。

「ほら、名前」
「ソニアです。妹」
「ソニアちゃん、か。えっと……」

兄に背中を文字通り押されて自己紹介してくれた少女に私はなんと言葉をかければいいのか。
私に何か?なんて怖い人が相手を威嚇する時の常套句みたいなところあるだろう。意訳すると「用がないなら失せろ」みたいな意味になるやつ。
駄目だ。何を言えばいいのか分からない。ご婦人2人はお茶を飲みながらお喋りしているし、ソニアちゃんは何も言わない。膠着状態だ。
ああもう、私の馬鹿!母親が危篤だったってのに子供に気の利いた言葉のひとつも掛けられないのか!

「おねえさん、魔女って本当?」
「うん、そうだよ」
「魔法とかって使えるんですか」
「うん、まあ。一応は」
「えっと、こんど見せてほしい、です」
「いいよ」

馬鹿みたいに同じ返事しかできなくて恥ずかしくなってきた。何度も言うが私は人と話すのが苦手だ。
帰って1人になったらさっさと寝たい。すぐさま寝たい。
穴があったら入りたいし。ベッドがあっても入りたい。
くそ、玄関先の妖精相手ならミルクなりなんなり与えておけばそれで済むというのに。
子供の相手はよく分からない。

「……今日、泊まっていってくれる?」
「うん…………ん?」
「やった!」 
「よしっ!」

その歳で誘導尋問か?お嬢さん。
うっかり返事をしてしまってめちゃくちゃ焦った。
これは嫌だというより遠慮のあれだ。いやある意味嫌がってるのか?

「い、いやいや!こんな時間からお世話になる訳には……!」
「今うんって言ったよね」
「いった!」
「言ってたよね」
「言ってたねぇ」

皆それぞれ顔を見合わせて、ぱらぱらとこちらに視線をやってくる。
う”、と一瞬唸ってから諦めたように両手を上げて降参の意を示した。
人の好意はあまり無下にしたくない、よね。

「お世話になります……」
「やったあ!」
「よかったねえ」

そう言って喜んでいた彼、彼女らの顔は勝者のそれにしては随分とまあ、優しくて晴れやかなものだった。
______たまには、こういうのも悪くないかな。

「おねえちゃん一緒に寝よう」
「いや私おねえちゃんって歳じゃ……いやまだいけるか……?」
「いけるいける」

ご婦人たちにもお墨付きを頂いてしまった。
私、お姉さん。お姉さん、私が。
なんてアホなこと考えていると、誘導上手なソニアちゃんは若干言葉を変えて服の裾をくい、と引っ張ってきた。

「おねえちゃん、ソニアと寝ようよ」
「う……じゃあお邪魔、します」
「お話いっぱい聞かせてね」
「あっずるい!俺も!」
「え、あ、うん……」

______話し下手の私は、果たして今夜無事に眠れるのだろうか。

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