黒い森で魔女は微睡む

稲村うお

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黒い森の魔女

騎士 と お仕事

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騎士道は一日にしてならず。  

その言葉を掲げるヒューグベルトは今日もまた鍛錬に励む。
事務仕事にはあまり向いていない自覚があったのもあって、彼は暇さえあれば己を鍛えている。

その甲斐あってか、弱小貴族とさえ呼ばれた彼の家は彼の目覚しい出世によりその地位を着々と高めつつあった。
彼の両親はそのことを大層喜んでいたし、 無論ヒューグベルトにとっても己の昇進は誇らしいことではあったのだけれども。

「喜べ、ヒューグベルト。先の団長会議でお前の一階級昇進が決まった」
「……なんと。ありがとう、ございます」
「んだよつまらねえ顔しやがって。昇進が決まった奴のする顔じゃあないぞ」
「はぁ、」
 
出世街道を現在進行形で突き進んでいる彼にも、一つだけ悩みがあった。
出世に伴って魔女の所へ行く頻度が格段に下がったことだ。
と、いうのも昇進によって勤務時間や仕事量がここのところ大きく変化しているのだ。
騎士階級第一では決まった時間に訓練、巡回、その他雑務などを日常的にこなすのが通常の仕事である。
ヒューグベルトが騎士階級第二に昇進したのは約半年前。雑務からは多少開放されたものの、やれ会議だ他の支部との交流だのと何かと時間を食われる仕事が多くなったように思う。
当直でもなければ夕方のまだ日がそれなりに高いうちに魔女の元へと向かうことができた。それなのに、昇進するなり引き継ぎや諸々の手続きなんかのせいで数週間拘束されっぱなしになったうえ、あちこち連れ回されてこの半年間恐らくこちらにいる時間の方が短かった。
更に昇進となると、再びあの状態に戻ってしまうのではないかとヒューグベルトは比較的仲のいい上官を前に思わず眉を寄せる。1部では叔父貴と呼ばれているらしい彼は、その渾名に似つかわしく面倒見のいい男であった。ついでに、自他ともに認めるいい男でもある。

「なに、この半年で粗方第二の仕事は覚えたろ。第三に関しちゃほぼ飾り……っちゃあ何だが、まあ大差ねえってことだ。地位だけあがってラッキーくらいに思っておきな」
「はあ……」
「と、いうわけでそんな新生第三騎士に祝いの任務を持ってきた」
「それが本題ですね」

また遠出か、と露骨にゲンナリしたヒューグベルトを気にもとめずに彼の上司は話を続けた。

「黒い森での調査任務だ」
「……!」
「ここのところ、何やら不穏な噂が流れていてな。ただの噂なら俺たちが出るまでもないんだが、とうとう実害が出たらしい」

黒い森__________魔物、瘴気、魔女、といった根も葉もあるようでない噂が耐えないその場所の名前を聞いて悪いものを想像しない人間はまず居ない。そもそも見た目が不気味すぎて街の人間はおろか、騎士ですら近寄りたがらない森なのだ。

そう、ただ一人。この男を除いては。

「それは、いつのことでしょう!」
「早い方がいいだろうな。既に人間が1人襲われたと聞いている。急なうえに少し遠いが、準備を整え次第明日にでも頼む」
「いえ、急ぎであれば今日にでも」
「まあ早いに超したことはないが……なんだ、随分と乗り気じゃないか」
「……そう見えますか」
「誰が見ても乗り気だろうよ」

魔女に会える。それも、仕事中に。
調査任務だとのことなので軽装備でいいだろう。
有事の際には己の剣が光る。近くに小さいながらも村があるので、正直なところ金と獲物さえあれば問題はない。
嬉々として必要なものを脳内でリスト化していくヒューグベルトを変なものを見るような目で見ていた。

「お前が筆頭で調査を進めてくれ。村があるとは聞いているが、物資があるに越したことはない。辺鄙なところで詳細を知っている人間もそういないんだが、あんな所にある村に金で何とかなるほどの蓄えがあるとも思えん」
「そうでしょうか……店もある程度ありますし、小さいとはいえそれなりに活気のある場所ですよ」
「何だ、詳しいなヒューグベルト。なら金だけ持っていけ。装備と馬は声をかければすぐに揃うだろうが、他に必要なものはあるか」

ふむ、と少し考え込んでヒューグベルトは頭を搔いた。
必要なものは、ある。しかし何を持っていけば良いのかが思いつかなかった。

「手土産は、何がいいでしょう」
「…………………………何だって?」


 



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