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黒い森の魔女
挨拶 と 情報
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「失礼、貴殿が村長殿でいらっしゃいますか」
「おお、騎士団の方々ですな!お待ちしておりました。いかにも、私がここの村長マルコス・フォルスターであります」
調査団一行が村に到着すると、事前に連絡を受けていた村長夫妻と思われる老夫婦が村の入口で待ち構えていた。
「この度は御協力、誠に感謝致します」
「いやいや、こちらこそ。騎士団の方々が居てくださるのならこれ以上に心強いことはありませんから」
外部の人間の出入りがそう多くはないこの小さな村に、寄せ集めとはいえそれなりの人数が居る調査団を収容できるほどの宿泊施設はない。
今回は村及び近辺の調査ということで、ここまで来てもらっておいて野営をさせるのも悪いと村長が取り急ぎ村の集会所を貸し切ったのだ。
日頃のちょっとした会議や催しはもちろんのこと、緊急時には避難場所としての昨日も果たしている場所であったので常に使える状態を保っていたのだという。
森林や海、洞窟での調査任務、及び合宿では野営をすることも少なくないため騎士団の面々は村長の気遣いに心の底から感謝した。
「出来うる限りの支援は惜しみません。と、言いたいところなのですが……如何せんあまり大きくはない村ですから、ご期待に添えるかどうか」
「いえ、急な訪問にも関わらず寝床をお貸しいただけるのですから。これ以上は我々自身で大丈夫です」
簡単な挨拶を交わした後、ヒューグベルトは調査本部の設営を団員に命じてオーグと共に村長に噂の真相と村民の現状について話を聞くことにした。
村の中心から少し外れたところにある村長の家。
簡素ながらも多少品のある客間へと通されたヒューグベルトとオーグの2人は、事前に得ていた情報の真偽の程をひとまず確かめることにした。
「それで、村人が魔物に襲われたという噂は本当なのですか」
「本人が床に伏せる前に残した言葉によれば、本当のようですな。しかし残念ながら当時エレナ________ああ、今言った村人の名前です。彼女は1人だったようで目撃者はおらんのです」
「ここらの人はあの森にはよく?」
「ええ、まあ。手前の辺りだけですがね。昔から基本的に2人以上で入るよう言われてはいるのですが……魔物自体は噂ばかりでほとんど誰も見たことがなかったもので、最近じゃ守ったり守られなかったりといった感じでしょうか」
「で、その魔物が実は存在していたと」
「あくまでも、噂ではありますがね。しかし実際に彼女はすっかり寝たきりになってしまっているので、今のところ根も葉もないとも言い難い」
「なるほど……」
村長の少し嗄れた声が悔しそうに節々で揺れた。
一通り話を聞いて考え込むヒューグベルトの傍ら、話を聞くに徹していたオーグがここにきて口を開いた。
「最近、村で気になることはありませんか」
「いや……特に思い当たる節はありませんな」
「そうですか」
「とにかく、森の調査を始めましょう。エレナさんの家には医療班を派遣します」
「ぞうぞ、よろしくお願いします」
と、今回の調査の筆頭となる2人と村長の話し合いにより、この後の大まかな方針を決まった直後。
コンコン、とノックをしてから客間に夫人が入ってきた。
どうやら来客用に茶を用意してくれていたらしい。
「失礼しますね。これ、よければどうぞ」
「ありがとうございます」
「おっ!いただきます」
「あのね、すみません。入る時に少しだけお話が聞こえてしまって……いえ、盗み聞きしたんじゃありませんよ?たまたま聞こえてしまって……お二人共、エレナの話をしていたのでしょう?」
「ええ、床に伏せっていると伺いました。それがどうかしましたか?」
その調子じゃ、昨日の話までは聞いていないのかしら。と言う彼女に男性3人は不思議そうな顔をした。
「何かあったのか」と村長が聞くと、夫人はとても嬉しそうに、笑顔を浮かべて言った。
「エレナ、回復してきているそうですよ」
「なんだって?本当か!」
「私もさっきお茶飲み友達から聞いたんですよ。いやあ良かった良かった」
「そりゃよかった!かなり悪いと聞いていたから心配していたんだがな」
「オーグさん……」
「まあ、まだそうと決まった訳じゃない」
喜んでいる夫婦の横で騎士2人は目配せをした。
もしかすると、魔物は勘違いかも。
言うな。まだ分からん。
これは調査も収穫なしか、と早々に諦めかけた2人の声なき会話を夫人の言葉が遮った。
「なんでも、息子が森の魔女を呼んできて治してもらったって話ですよ」
「あそこの息子っていや……ああ!ジークか!あいつめ!全くできた息子だよ!」
「え」
「そ、それは本当ですか!?」
魔女という単語が出てきた途端に「マジかよ」と驚いた様子のオーグとは対照的にヒューグベルトは目をきらりと輝かせた。
「間違いありませんよ。なんたってこの村の婦人会の連絡網で回ってきたんですから」
「なんと……」
歓喜、驚き、その他諸々の感情がその瞬間にヒューグベルトの今日中で混ざり合う。
________これはもしかすると、思っていたよりも早く再会できるのでは。
ちなみに、人嫌いだなんだと言われている彼女が村に来たことに関して彼はさして驚いていない。
「ごほん!で、その魔女とやらは今どこに?」
「帰ってなければエレナの家に居るんじゃないかしらねえ……ああ、村の外れの方ですよ。森の入口へ向かう途中にあります」
「ありがとうございます。では我々はこれで」
「準備が整い次第近辺の調査に向かいます」
「よろしくお願いします」
この後村長宅を出たヒューグベルトは、屈強な上官がついて行くのを嫌がるほどの速さで本部へと向かったのであった。
「おお、騎士団の方々ですな!お待ちしておりました。いかにも、私がここの村長マルコス・フォルスターであります」
調査団一行が村に到着すると、事前に連絡を受けていた村長夫妻と思われる老夫婦が村の入口で待ち構えていた。
「この度は御協力、誠に感謝致します」
「いやいや、こちらこそ。騎士団の方々が居てくださるのならこれ以上に心強いことはありませんから」
外部の人間の出入りがそう多くはないこの小さな村に、寄せ集めとはいえそれなりの人数が居る調査団を収容できるほどの宿泊施設はない。
今回は村及び近辺の調査ということで、ここまで来てもらっておいて野営をさせるのも悪いと村長が取り急ぎ村の集会所を貸し切ったのだ。
日頃のちょっとした会議や催しはもちろんのこと、緊急時には避難場所としての昨日も果たしている場所であったので常に使える状態を保っていたのだという。
森林や海、洞窟での調査任務、及び合宿では野営をすることも少なくないため騎士団の面々は村長の気遣いに心の底から感謝した。
「出来うる限りの支援は惜しみません。と、言いたいところなのですが……如何せんあまり大きくはない村ですから、ご期待に添えるかどうか」
「いえ、急な訪問にも関わらず寝床をお貸しいただけるのですから。これ以上は我々自身で大丈夫です」
簡単な挨拶を交わした後、ヒューグベルトは調査本部の設営を団員に命じてオーグと共に村長に噂の真相と村民の現状について話を聞くことにした。
村の中心から少し外れたところにある村長の家。
簡素ながらも多少品のある客間へと通されたヒューグベルトとオーグの2人は、事前に得ていた情報の真偽の程をひとまず確かめることにした。
「それで、村人が魔物に襲われたという噂は本当なのですか」
「本人が床に伏せる前に残した言葉によれば、本当のようですな。しかし残念ながら当時エレナ________ああ、今言った村人の名前です。彼女は1人だったようで目撃者はおらんのです」
「ここらの人はあの森にはよく?」
「ええ、まあ。手前の辺りだけですがね。昔から基本的に2人以上で入るよう言われてはいるのですが……魔物自体は噂ばかりでほとんど誰も見たことがなかったもので、最近じゃ守ったり守られなかったりといった感じでしょうか」
「で、その魔物が実は存在していたと」
「あくまでも、噂ではありますがね。しかし実際に彼女はすっかり寝たきりになってしまっているので、今のところ根も葉もないとも言い難い」
「なるほど……」
村長の少し嗄れた声が悔しそうに節々で揺れた。
一通り話を聞いて考え込むヒューグベルトの傍ら、話を聞くに徹していたオーグがここにきて口を開いた。
「最近、村で気になることはありませんか」
「いや……特に思い当たる節はありませんな」
「そうですか」
「とにかく、森の調査を始めましょう。エレナさんの家には医療班を派遣します」
「ぞうぞ、よろしくお願いします」
と、今回の調査の筆頭となる2人と村長の話し合いにより、この後の大まかな方針を決まった直後。
コンコン、とノックをしてから客間に夫人が入ってきた。
どうやら来客用に茶を用意してくれていたらしい。
「失礼しますね。これ、よければどうぞ」
「ありがとうございます」
「おっ!いただきます」
「あのね、すみません。入る時に少しだけお話が聞こえてしまって……いえ、盗み聞きしたんじゃありませんよ?たまたま聞こえてしまって……お二人共、エレナの話をしていたのでしょう?」
「ええ、床に伏せっていると伺いました。それがどうかしましたか?」
その調子じゃ、昨日の話までは聞いていないのかしら。と言う彼女に男性3人は不思議そうな顔をした。
「何かあったのか」と村長が聞くと、夫人はとても嬉しそうに、笑顔を浮かべて言った。
「エレナ、回復してきているそうですよ」
「なんだって?本当か!」
「私もさっきお茶飲み友達から聞いたんですよ。いやあ良かった良かった」
「そりゃよかった!かなり悪いと聞いていたから心配していたんだがな」
「オーグさん……」
「まあ、まだそうと決まった訳じゃない」
喜んでいる夫婦の横で騎士2人は目配せをした。
もしかすると、魔物は勘違いかも。
言うな。まだ分からん。
これは調査も収穫なしか、と早々に諦めかけた2人の声なき会話を夫人の言葉が遮った。
「なんでも、息子が森の魔女を呼んできて治してもらったって話ですよ」
「あそこの息子っていや……ああ!ジークか!あいつめ!全くできた息子だよ!」
「え」
「そ、それは本当ですか!?」
魔女という単語が出てきた途端に「マジかよ」と驚いた様子のオーグとは対照的にヒューグベルトは目をきらりと輝かせた。
「間違いありませんよ。なんたってこの村の婦人会の連絡網で回ってきたんですから」
「なんと……」
歓喜、驚き、その他諸々の感情がその瞬間にヒューグベルトの今日中で混ざり合う。
________これはもしかすると、思っていたよりも早く再会できるのでは。
ちなみに、人嫌いだなんだと言われている彼女が村に来たことに関して彼はさして驚いていない。
「ごほん!で、その魔女とやらは今どこに?」
「帰ってなければエレナの家に居るんじゃないかしらねえ……ああ、村の外れの方ですよ。森の入口へ向かう途中にあります」
「ありがとうございます。では我々はこれで」
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